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愛情と実験
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しかし、どう見ても男にしか見えない。
「可哀そうに、能力を悪用する人々のせいで性転換手術を施されて、郡山という男になったのです。妹のルイは、3年前の火災に巻き込まれて亡くなりました。ルイはそこで占いの仕事をしていたそうです。生き残ったカナは、悪い人間たちから逃れてここに身を寄せています。母親の足跡をたどってここに来てくれたのです…」
「郡山さん、あなたは人を殺すの?」
光子は尋ねた。
郡山は無表情のままうつむいた。
「それは、本人が決めることです」
神童はきっぱりと言った。
少し間があった。
「ところで、ゴミが結構あるようですが」
話題を変えて、登が言った。
「整理をしましょうか。お手伝いしますよ」
神童は微笑んだ。
「いいえ、結構です。夫がいないから仕事がはかどらないわね。あの人が分別をしてくれていたの」
二人は外に出た。蒸し暑かったが、光子は感覚がマヒして何も感じなかった。
彼がいなかったら、また幻想が現れたかもしれない。
「登、天国からの電話って…。神童さんの幻なのかしら」
「いや。本当だよ」
彼は別に気にも止めていないようだった。
「でも、普通だったらありえないですよね。旦那さんは自殺なさったんですもの」
「みつ。あの『トレーニングルーム』で何が行われているか、ご存知ですか?」
「麗子さんたちがいらしている場所でしょう?よく知らないわ」
「そこで、天国の声をやっていたらどう思います?もし、電話一本で人を癒すことができたら。そんなに効率的なことがありますか?」
光子ははっとした。
登は微笑んだ。
「あそこで、僕らの『出会いシート』を活用しているのです。そして大切な人の代わりをやっているのです。逢えない息子さんや娘さん、そして天国に行ったお父さんやお母さんの役をね」
光子は、道ばたの石ころを見ながら、安堵のため息をついた。
「可哀そうに、能力を悪用する人々のせいで性転換手術を施されて、郡山という男になったのです。妹のルイは、3年前の火災に巻き込まれて亡くなりました。ルイはそこで占いの仕事をしていたそうです。生き残ったカナは、悪い人間たちから逃れてここに身を寄せています。母親の足跡をたどってここに来てくれたのです…」
「郡山さん、あなたは人を殺すの?」
光子は尋ねた。
郡山は無表情のままうつむいた。
「それは、本人が決めることです」
神童はきっぱりと言った。
少し間があった。
「ところで、ゴミが結構あるようですが」
話題を変えて、登が言った。
「整理をしましょうか。お手伝いしますよ」
神童は微笑んだ。
「いいえ、結構です。夫がいないから仕事がはかどらないわね。あの人が分別をしてくれていたの」
二人は外に出た。蒸し暑かったが、光子は感覚がマヒして何も感じなかった。
彼がいなかったら、また幻想が現れたかもしれない。
「登、天国からの電話って…。神童さんの幻なのかしら」
「いや。本当だよ」
彼は別に気にも止めていないようだった。
「でも、普通だったらありえないですよね。旦那さんは自殺なさったんですもの」
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「あそこで、僕らの『出会いシート』を活用しているのです。そして大切な人の代わりをやっているのです。逢えない息子さんや娘さん、そして天国に行ったお父さんやお母さんの役をね」
光子は、道ばたの石ころを見ながら、安堵のため息をついた。
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