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その反応に侍女も不思議そうな顔で首を傾げる。
そんな反応が返ってくるとは思っていなかったのだろう。
「ですから、セーリーヌ様の背中の傷を隠すように、背中に大きなリボンをあしらったドレスが贈られてきたのですよ」
セーリーヌは呆然として侍女を見つめた。
「……アドニス様が?」
「ええ」
侍女は戸惑ったような顔をしている。
つまり、それはセーリーヌのためということだろう。
「着替えてみましょうか?」
「……ええ、お願い」
──そんなの、わたくしに着てみろと言っているようなものじゃない……!
父親の近衛騎士団長の後継者となったアドニス侯爵といえば、いつも殿下の近くにいる寡黙な印象しかない。
物心ついて、セーリーヌが殿下と付き合いをしている間は、彼は身分相応に遠くから見守っているという印象しかなかった。
だが、今はそれだけではないようだ。
「あなたは、アドニス様がどんな方か知ってらっしゃる?」
セーリーヌはベットの上で、破れたドレスを脱ぎながら、探るように訊いた。
侍女は脱がすのを手伝いながら答えた。
「はい。真面目で勤勉な方だと聞いております」
「そう……」
着替えが終わった。
セーリーヌは再び鏡に視線を戻した。
自分のドレスの背中の部分に、傷痕を隠すための大きなリボンがあしらわれているのがわかる。
アドニス侯爵が傷を隠そうと、急ぎお針子にリボンを縫いつけさせたに違いない。そんな彼の姿を想像し、セーリーヌは一気に顔を赤くした。思わず熱いため息が出る。
──本当に? 本当にこれをアドニス様は贈ってくださったの?
そんな反応が返ってくるとは思っていなかったのだろう。
「ですから、セーリーヌ様の背中の傷を隠すように、背中に大きなリボンをあしらったドレスが贈られてきたのですよ」
セーリーヌは呆然として侍女を見つめた。
「……アドニス様が?」
「ええ」
侍女は戸惑ったような顔をしている。
つまり、それはセーリーヌのためということだろう。
「着替えてみましょうか?」
「……ええ、お願い」
──そんなの、わたくしに着てみろと言っているようなものじゃない……!
父親の近衛騎士団長の後継者となったアドニス侯爵といえば、いつも殿下の近くにいる寡黙な印象しかない。
物心ついて、セーリーヌが殿下と付き合いをしている間は、彼は身分相応に遠くから見守っているという印象しかなかった。
だが、今はそれだけではないようだ。
「あなたは、アドニス様がどんな方か知ってらっしゃる?」
セーリーヌはベットの上で、破れたドレスを脱ぎながら、探るように訊いた。
侍女は脱がすのを手伝いながら答えた。
「はい。真面目で勤勉な方だと聞いております」
「そう……」
着替えが終わった。
セーリーヌは再び鏡に視線を戻した。
自分のドレスの背中の部分に、傷痕を隠すための大きなリボンがあしらわれているのがわかる。
アドニス侯爵が傷を隠そうと、急ぎお針子にリボンを縫いつけさせたに違いない。そんな彼の姿を想像し、セーリーヌは一気に顔を赤くした。思わず熱いため息が出る。
──本当に? 本当にこれをアドニス様は贈ってくださったの?
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