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昔は羽振りが良い時もあったのです

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 向かうなホテルは、T駅の向かいの北口方向にある。

 歩いて三、四十分はかかる距離だ。

 自転車もあったが、買い物で駅前に停車して、一時間して撤去されていた。

 それ以来、歩くことがほとんどである。

 線路の地下通路を抜けて、北口にはいでると、寂れたビルの横町に、ネオンの消えた看板が下げてある。

 その一体は日が落ちれば、ピンクのネオンがチカチカして、路地にはピンサロの客引きの男たちが、サラリーマンを誘惑する。

 さすがに昼の一時は、夜行性の動物のように、寝静まって静寂に包まれている。

 行く先は、向かいの側のビジネスホテルだが、まだ、二時まで一時間あまりある。

 圭吾はわざと遠回りして、その路地をぷらぷら歩き、かつての哀愁に浸ってみたい衝動にかられた。



 まだ真面目な勤め人だった頃、圭吾はいつもこの駅前の通称「H横町」に出入りしていた常連であった。

 そして、横町の一番端にある雑居ビルの三階にソープ店「ホールアンドボディ」があり、まだ新人だったマユミと出会った。

 客引きの男に引っ張られた三階入り口には人気ランキング別にソープ嬢の顔写真が張られていて、まだ、マユミは下から二番目だった。

 笑顔だが、どこか自信なげに寂しそうな瞳が印象的である。

 圭吾が指名すると、
「マユミなんかでいいんですか?」

 客引きさえも、あまり勧めたがらない。

 なぜなのと問うと、お客とまだまともにトークもプレイもできないのだという。

「もしお客さんが手懐けてくれるなら、半額でもいいですよ」
とまで言うので、圭吾はそれを承諾した。
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