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 ゆり子は耳元でささやいた。サエコは黒板から目をそらした。それを、先生は見のがさない。ホワイトボードに書いていた数式をとちゅうでやめた。

「にしぞのさん。ちょっと前に来なさい」
「は、はい」

 ゆり子は不安でいっぱいになりながら、立ち上がった。テキストを手にすると、
  
「なにもいらないよ」 

と、先生は言った。前に立たせると、ゆり子にペンを持たせる。

「よし。じゃ、ここから自分でといて見なさい」
「えっ。あっ。でも、その」

 しどろもどろになって、目を泳がせた。それでも、先生は腕を組んだままだ。

「心配することない。これは先週のことの応用だから」

 だけど、全然わからない。こくこくと時間ばかりが過ぎていく。男子たちがうんざりした顔で、こちらを見ている。

「いつも言っているが。ちゃんと復習はしてきたのか?」

 先生はまゆを寄せて言った。ゆり子は、下を向いた。

「にしぞのさん。このまま算数の点が上がらないと困る。授業も止まるから、みんなもめいわくするんだ」

 先生は、ゆり子からペンを抜き取った。肩を落として、ゆり子は席に戻った。

「みんなもいいかな。宿題をやるのは当たり前。だが復習はもっと大事だぞ。キソができてないと、どんどんわからなくなる。積み木がくずれるのとおなじだぞ」

 先生はゆり子を見た。

「学校で試験なんだろ。そこで満点でも取ってみなさい」

 ゆり子は、だまってうなづいた。
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