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だから、ぼくも最高の笑顔で返す。そして他のメンバーにも瞳や口で指示をする。ギターの弦を向けて、ぼくが何を弾きたいか、ちゃんと見せる。もう、独りよがりはやめよう。全ては観客とぼくらが最高の楽しい時を過ごすために。
いつの間にか、観客は三十人ほどにふくれあがっていた。皆が手拍子をしたり、キミと踊ったりしている。空き缶にはお札とコインでいっぱいになっていた。だれもがみんな笑顔だった。
真夜中の終電で観客が帰って、楽団は引きあげ、また路上は静かになった。だけどぼくの胸は温かくて、心臓はドキドキ踊っている。
「すごく楽しかったね」
キミはぼくの方に向き直って笑いかけると、空き缶をもってきた。
「これ、あげる」
「だめだよ。これはキミのお金さ」
「それは、空腹で死にそうな人のいうセリフじゃないぞ」
キミは、急にまじめな顔になった。
「三日間ずっと路上にいたのを見てたよ。つらいのに、毎回わたしたちの演奏を見てくれたよね。だから、キミのギターも聞いた。最高だったよ。だから、放っておけなかったの。キミ、死にそうだったし」
キミは、ごういんにぼくのズボンのポケットにお金を押しこんだ。そして、むりやりほおをあげて笑顔になった。
「人形にお金はいらないの。この時計塔で、決まった時間で過ごすだけ。だけど、キミは違う。自由に時間を選べばいいんだからね」
キミは手をふると、背を向けた。ぼくのくちびるはぶるぶる震えた。こみ上げる想いを抑えきれなくなって、遠ざかる背中に叫んだ。
「ぼくはジッポ。これからも、よろしく」
キミは立ち止まった。そして、向き直って笑顔で大きく手をふった。
いつの間にか、観客は三十人ほどにふくれあがっていた。皆が手拍子をしたり、キミと踊ったりしている。空き缶にはお札とコインでいっぱいになっていた。だれもがみんな笑顔だった。
真夜中の終電で観客が帰って、楽団は引きあげ、また路上は静かになった。だけどぼくの胸は温かくて、心臓はドキドキ踊っている。
「すごく楽しかったね」
キミはぼくの方に向き直って笑いかけると、空き缶をもってきた。
「これ、あげる」
「だめだよ。これはキミのお金さ」
「それは、空腹で死にそうな人のいうセリフじゃないぞ」
キミは、急にまじめな顔になった。
「三日間ずっと路上にいたのを見てたよ。つらいのに、毎回わたしたちの演奏を見てくれたよね。だから、キミのギターも聞いた。最高だったよ。だから、放っておけなかったの。キミ、死にそうだったし」
キミは、ごういんにぼくのズボンのポケットにお金を押しこんだ。そして、むりやりほおをあげて笑顔になった。
「人形にお金はいらないの。この時計塔で、決まった時間で過ごすだけ。だけど、キミは違う。自由に時間を選べばいいんだからね」
キミは手をふると、背を向けた。ぼくのくちびるはぶるぶる震えた。こみ上げる想いを抑えきれなくなって、遠ざかる背中に叫んだ。
「ぼくはジッポ。これからも、よろしく」
キミは立ち止まった。そして、向き直って笑顔で大きく手をふった。
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