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(どうしてこうなった?)

 アシェリーは心の中で叫んだ。もう、緊張しっぱなしで頭が真っ白になってしまったのだ。

 殿下と何を話したかは、緊張のあまり何も覚えていない。とりあえず『月刊・魔術書』のバックナンバーの国王陛下やご家族の似顔絵は覚えていたので、魔術に興味がありますとか、わたしは平凡ですが、努力は惜しみませんとか話したような……。

 よくあの場でボロを出さなかったものだと自分でも感心しているぐらいだ。

 そして本日、正式に王太子妃候補に決定したアシェリーが宮殿に訪れると、宰相からお言葉があった。

「近い将来、フィリップ殿下の妃になることは王族の一員になるためでもある。それは承知しているな?」

「はい!」

 元気しか取り柄がないと思って、アシェリーは背筋を伸ばして、大きな声で返事をした。

「よろしい。では、待っていなさい」

「かしこまりました!」

と返事をしたものの……え? もう来てらっしゃるの!? 

 そして入れ替わるようにフェリクス・デーニッツ王太子殿下が入室してきたのである。

(ううっ)

 アシェリーは再び緊張で頭が真っ白になった。こんな間近でお顔を拝見することなんてないので、心臓に悪い! 

 部屋に残ったアシェリーとフィリップ殿下はしばらく無言で見つめ合っていたが……やがて、殿下の方から声をかけられる。

「君がヘーボンハス公爵家の娘だね?」

「は、はい!」

 アシェリーは慌てて返事をした。

「君のお父上とは面識がある。子供の頃から色々とお世話になった」

 フィリップ殿下は少し砕けた口調になったが、それでも上品さが漂っていてとても格好よく見えた。さすが次期国王と言われるだけのことはあるとアシェリーは思った。

(ああ! 近くで見るとますます素敵だわ!)

 フィリップ殿下は背が高く、体つきもがっしりしていた。しかし、太っているわけではなく、手足はスラッとして無駄な脂肪など一切ない。

 そして顔立ちは精悍で男らしく、その目は理知的な光を宿し、口元は自信に満ちているように見える。髪は輝くような金髪で短く刈り揃えられ、前髪を上げていていかにも清潔感がある。

(王太子妃候補になれてよかったわ!)

 アシェリーは思った。
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