11 / 11
11
しおりを挟む
「パパをどこにも連れて行かないでよ」
たまらなくなって、ぎゅっと目を閉じ、パパの腕にすがりついた。
わたしは声をあげて、人目もはばからず、しゃくりあげていた。パパは何もこたえない。わたしは肩をふるわせながら、あまえるように、すがりつくように、波を背にしてパパの膝に顔を押し付け続けた。
どのくらい時間がたったのだろう。パパがそっと、背中をつついた。
顔を上げてふり返ると、水平線の向こうから燃えるような赤と黄金色があふれ出てきた。そして、ゆっくりと黒い空が真っ白に塗り替えられていく。温かいぬくもりが、そっとほおをなでてくる。
「あっ……」
思わず、吐息をもらした。なんていう美しさなのだろう。なんていう温かさなのだろう。
どこまでも遠く、途方にくれるほど果てしない空と海の水平線が続いている。今日もまた朝には太陽が天空をめぐり、やがて海の底に落ちて眠りにつき、また天高くのぼって、美しい明日がめぐってくる。
パパは向き直ると、食い入るように見た。どこまでも深くて、どこまでもやさしい瞳だった。
「明日を生きなさい。パパはずっとそばにいるよ」
パパは、いとおしそうにわたしの髪を撫で、顔をぎゅっと胸に引き寄せた。そして強く手をそえた。
温かい。揺れる波の向こうで、小さくなった一羽のカモメがまっすぐに水平線のかなたへ飛んでいった。
あれから半年がたって、パパは天国に召された。棺の中に、わたしはあの紫色の貝殻をそっと置いた。
今でもわたしはまぶたを閉じると、はっきりとあの水平線が浮かんでくる。くらやみの向こうから、燃えるような太陽が昇っていく。パパと二人きりで過ごしたあの日のこと。
あのパパの胸の温かさ。ずっと手のひらに残ってそばにいる。
たまらなくなって、ぎゅっと目を閉じ、パパの腕にすがりついた。
わたしは声をあげて、人目もはばからず、しゃくりあげていた。パパは何もこたえない。わたしは肩をふるわせながら、あまえるように、すがりつくように、波を背にしてパパの膝に顔を押し付け続けた。
どのくらい時間がたったのだろう。パパがそっと、背中をつついた。
顔を上げてふり返ると、水平線の向こうから燃えるような赤と黄金色があふれ出てきた。そして、ゆっくりと黒い空が真っ白に塗り替えられていく。温かいぬくもりが、そっとほおをなでてくる。
「あっ……」
思わず、吐息をもらした。なんていう美しさなのだろう。なんていう温かさなのだろう。
どこまでも遠く、途方にくれるほど果てしない空と海の水平線が続いている。今日もまた朝には太陽が天空をめぐり、やがて海の底に落ちて眠りにつき、また天高くのぼって、美しい明日がめぐってくる。
パパは向き直ると、食い入るように見た。どこまでも深くて、どこまでもやさしい瞳だった。
「明日を生きなさい。パパはずっとそばにいるよ」
パパは、いとおしそうにわたしの髪を撫で、顔をぎゅっと胸に引き寄せた。そして強く手をそえた。
温かい。揺れる波の向こうで、小さくなった一羽のカモメがまっすぐに水平線のかなたへ飛んでいった。
あれから半年がたって、パパは天国に召された。棺の中に、わたしはあの紫色の貝殻をそっと置いた。
今でもわたしはまぶたを閉じると、はっきりとあの水平線が浮かんでくる。くらやみの向こうから、燃えるような太陽が昇っていく。パパと二人きりで過ごしたあの日のこと。
あのパパの胸の温かさ。ずっと手のひらに残ってそばにいる。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ドケチ自衛官カップル駐屯地を満喫します
防人2曹
ライト文芸
基地通信隊員三等陸曹鳴無啓太(おとなしけいた)は同駐屯地の業務隊婦人陸上自衛官三等陸曹下川恵里菜(しもかわえりな)にPX裏で告白、恋人となった。が、二人が共通するのはドケチであること。デートは駐屯地内で別に構わない。駐屯地の中って意外とデートコースになるところはたくさんある。それに一緒に駐屯地外周をランニングすれば体力錬成にもなる。お互いに初級陸曹課程はすでに済ませているし、基地通信隊と業務隊は基本的にというかよほどのことがない限り山へは行かない。そりゃ命令が出りゃ別だが……。そんなこんなのドケチ自衛官カップルの駐屯地ラブコメ開幕。
※自衛隊を題材に使用していますがフィクションです。
※念のためR15指定しておきます。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる