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幕間 その1 コンボの練習と休憩

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 今日は、ダンジョン探索の休憩日だ。
 カルディさんは、羽翼種の島でそれなりの地位にいるらしく、羽翼種の国会に呼ばれて、意見を求められることもあるらしい。今日から二日間はその対応に行くということで、ダンジョン探索は中止となっていた。

 そこで、僕は一つ思いついたことがある。
 ダンジョンで〝コンボ〟を試したい。
 ゲームの中だと、大量の敵を剣でバッサ、バッサ斬っていくことができる。
 最近のダンジョン探索だと、カルディさん達と一緒にいるおかげで、攻略はできるが、ある種の爽快感が無くなっていた。

 が、コンボをできる場所があることに気づいた。
 これまでに行ったダンジョンの中で、あるダンジョンに〝モンスターハウス〟があった。
 しかも、そこに出てくるモンスターはあのアルマジロの上位版だった。かなり硬い外殻を持った個体が、部屋に入ると同時に襲ってくる。しかも、数十体だ。普段は、カルディさん達と一緒にいるので、それらの上空を飛んで行ってしまうので戦ったことがなかったが、今回は一人でそこへ行ってみようと思った。

 家で準備をして出かけようとしたところだった。リーシャが声を掛けてきた。

「あっ、どこかへ行かれるんですか?」

「うん。ダンジョンまで行こうかと」

「え? でも今日はダンジョン探索は中止じゃないのでしょうか?」

「そうなんだけど、ちょっと腕を磨きたくて」

「わぁ、凄い熱心なんですね!」

 リーシャにそう褒められると、なんだか恥ずかしくなってきた。

「じゃあ、行ってくるよ」

 そう言って、出ていこうとした時だった。

「私も一緒に来ましょうか? マサキさん一人だと、ダンジョンまでは遠いでしょう? 私が運んで差し上げます」

 うーん。確かにそうなんだよな。これからギルドへ行って、ダンジョンに探索願を出してから行くとすると、結構時間が掛かってしまう。
 リーシャに連れて行ってもらった方が早いことは早い。

「じゃあ、申し訳ないけど一緒に行ってくれるかな?」

「はい。こちらこそ宜しくお願いします」

**********

 二人でダンジョンにいる。
 この先にアルマジロの上位版がいる。

 ここで、無双だけでなくて、コンボの練習をしておきたいのもあった。
 今の僕の基本的な動きは、相手との距離を詰める〝ダッシュ〟相手の至近距離での〝薙ぎ払い〟相手を上空へ吹き飛ばす〝切り上げ〟そして、空中で相手の上空から膂力と風 魔法の合わせ技で相手を叩き落とす〝打ち下ろし〟の三つだ。
 単純だが、この三つの組み合わせだけでコンボは相当行ける。
 まぁ、最終的には何か必殺技を作りたいが、その辺は後回しにしよう。

 ダンジョン内部にはリーシャに連れて行ってもらった。

 リーシャは空を飛んでいる。アルマジロはリーシャの飛んでいる場所までは届かないので、彼女に危険はないだろう。
 アルマジロ達を見る。
 50匹はいるが、全部殺気立っているのが分かる。目が光り輝いているし、以前戦ったアルマジロに比べて、背中が鉄のような、見るからに硬そうな外殻をしている。その表面は光っており、結界魔法が掛かっているようだ。 カルディさんも言っていたが、あれは早々壊せるようなものではないらしい。

 が、コンボの練習には持ってこいだろう。そう思うと何となく面白く感じてきた。

 地面に降り立って相手を見る。
 まず、こちらから、相手の群れに向かって一気にダッシュで斬り込んだ。
 この時、刀は鞘に納めたままだった。
 抜刀する直前に、鞘内部で風魔法を使い、鞘走りも加えて一気に振り抜いた方が、初撃の一撃は大きくなることに僕は気づいていた。しかし、僕はこの時、あえてこの技を使わなかった。

 ダッシュに加えて、抜刀の一撃を群れに加えた。一気に十体ほどのアルマジロが後方へ吹っ飛んだ。
 が、アルマジロは丸まって僕の初撃を空中で受け、そのまま回転しながら、地面に着地し、地面でさらに回りながら加速度を加えてこちらへ飛び込んできた。

 向かってきたアルマジロの内、三体を切り上げた。同時に、地面を蹴って空中に移動する。
 空中で一体を薙ぎ払いで吹っ飛ばした。が、この時意外な事が起こった。

 僕が吹っ飛ばしたアルマジロに向かって、別のアルマジロがぶつかっていく。
 すると、アルマジロ同士がお互いにぶつかり合って、ジグザグに空中で動きを始めた。
 そして、そのうちの一体が、こちらへ弾き飛ばされて攻撃をしてきた。思わず、刀でそれを振り払ってしまった。

 なるほど、これは面白い。
 この部屋がモンスターハウスだと思ったが、アルマジロからすると、こうやって密集することで彼らの戦法を作り上げているのだろう。
 硬い外殻と丸まった状態での高速回転で味方同士を弾き飛ばし、相手に攻撃する。単に一体で相手に挑むよりは遥かに強い連携ができる。

――これは楽しめる――

 そう思って、僕も片足をトントン、と地面で鳴らしてから、一気にダッシュをする。
 アルマジロ達が、縦横無尽に動く空中に突入していった。

 アルマジロ達はビリヤードの球がお互いにぶつかり合うような動きを繰り返している。

 コンボを試していく。切り上げ、ダッシュ、打ち下ろし、ダッシュ、薙ぎ払い……。

 アルマジロはいずれの攻撃にも的確に対応してくる。仲間が吹っ飛ばされても別の個体がカバーに入ることで、すぐさまこちらへ攻撃をしてきた。
 正直、本気で刀を打ち下ろせば、一撃で一体を破壊できるとは思ったが、ただ、今日はコンボの練習に来ている。それに、ここでアルマジロ達は生態系を築いているのだろう。ここで、大量にアルマジロを殺しても意味が無い。

 適当にコンボを繰り返して、刀技の練習をしながら時間を潰していった。
 アルマジロは僕に対してだけでなく、時々、リーシャの方へ突っ込むときもあった。

 が、僕の速度も速い。
 リーシャに危険が及ぶ前に簡単にアルマジロを打ち払えた。

 二時間ほどアルマジロと戯れていたが、流石にリーシャはもう帰りたいだろう。
 悪いと思って、ここで切り上げることにした。

 その場で強めに魔力を発してから、地面に刀を突き刺した。
 それと同時にアルマジロに向かって、刀に風魔法を使いながら、周囲一帯の地面ごと吹っ飛ばした。地面が石礫になって、アルマジロに衝突していく。

 それを確認してから、すぐにジャンプして、リーシャを抱きかかえてその場から走り抜けることにした。リーシャを抱きかかえたのはこれで二回目か。
 モンスターハウスを抜けてから、リーシャを下ろしてやる。

「リーシャありがとう。今日はいい練習になったよ。わざわざ付き合ってくれてありがとう」

「あ、いえ、いいです。アルマジロは倒さなかったんですね」

「うん。まぁ、できれば、時々、彼らに相手をしてもらって、コンボの練習をしたいんだよね~。ビルドからすると、アルマジロの外殻が欲しい、って言うかもしれないけど」

 適当に二人で雑談していると、リーシャが少し恥ずかしそうにしてから、こう言ってきた。

「あの、今日は私がマサキさんに付き合ったので、明日は私に付き合ってもらえないでしょうか?」

「ああ、いいよ。僕で良ければ。どうせ明日もカルディさんはダンジョンへ潜れないからね。どこへ行くの?」

「その、街中を一緒に歩いてみたいな、と思ったので」

「そうか。分かった。僕で良ければ、明日は一緒に街を歩こう」

 この後、リーシャに手を掴んでもらって、僕達は家に帰宅したのだった。

******************

 翌日はリーシャと一緒に街に繰り出すことにした。
 適当に二人でアミューズメント施設に行った。

 僕は硬派だ。別に、リーシャと一緒にこういう施設を訪れたといったからと言って、決して心が躍ったわけではない。この程度で心が動くような奴は、この世界では生きていけないだろう。この世界は地球とは違う。過酷だ。軟派な奴は死ぬ。

 二人で一通り遊んだ後、一緒にご飯を食べることになった。
 施設内にあるフードコート店で食事を摂ることになった。

「え? リーシャはこういう施設に来たのは初めてだったの?」

「はい。私はこういうところにはあまり来たことがないですね」

「何で? リーシャには彼氏とかはいないの?」

 あっ、僕は何を聞いているんだ。これじゃ、まるで僕がリーシャに気があるみたいじゃないか。
 すると、リーシャは顔を赤らめながら答えた。

「その、私は誰とも付き合ったことが無くて……」

 この後、話を聞いていくとリーシャにとっては、僕が初めてアミューズメント施設で一緒に遊んだ相手ということだった。

 僕は呆れてしまった。

 羽翼種の男どもはバカだ。

 なんでこんな可愛い子に、すぐ声を掛けないのだろう?

 リーシャとはここ最近一緒に過ごしているが、リーシャはスタイルだけでなくて性格もいい。完璧だと思う。

 こんな可愛い子が地球上にいたら、僕なら即声を掛けている。
 羽翼種の男にはバカしかいないらしい。

 リーシャの飲み物が空になったようだ。僕はそれに気づいた。

「飲み物が無いね。何か僕が買ってきてあげるよ。何がいい?」

「あ、いえ、自分で行きます」

「いや、いいって、いいって」

 リーシャを宥めて、僕がジュースを買いに行くことにした。
 しかし、僕がジュースを買って、リーシャの席に近づいた時に、その異変に気付いた。
 リーシャに羽翼種の若い男二人が声を掛けている。
 リーシャは困ったような顔をして対応しているようだ。
 僕は何気ないような顔をして、リーシャのいるテーブルに向かって行った。
 すると、リーシャはこちらを見て、安堵したような表情でこう言った。

「私の彼氏です。すみませんが、あなた方と一緒に行くことは出来ません」

 それを聞くと二人の羽翼種はバツの悪そうな顔をして、その場から離れていった。
 僕はリーシャにオレンジジュースを渡した。

「どうしたの? 何なの、あの二人は?」

 リーシャは困惑したような表情をした。

「あの二人に一緒に遊びに行かないかと声を掛けられました。何とかしようと思って、彼氏がいると言ったのですが、マサキさんにご迷惑だったと思います。済みませんでした」

 リーシャは僕に頭を下げて謝った。

 謝るリーシャの姿を見て、僕は怒りに打ち震えていた。

 羽翼種の男どもはカスだ。

 間違いない。

 可愛い女の子がいたら、ヘラヘラしてすぐに声を掛けるような連中しかいないらしい。

 羽翼種の男というのは皆こうなんだろうか?

 リーシャみたいな幼気な女の子に何をしてくれたんだ。呆れ返って言葉も出ないとはこの事だ。

「いやいや、いいよ。僕は全然気にしていないよ。もしかして、リーシャに彼氏がいないのって、あんなのばっかりに声掛けられるから?」

「……そういうのもあります」

 リーシャは申し訳なさそうな顔をしている。嘘とはいえ、僕を彼氏と云ったことに罪悪感を覚えているのだろう。僕に対して気を使っているのが分かった。

 リーシャは僕が今お世話になっているお婆さんの孫だ。

 ――お婆さんのリーシャに手を出しやがって――

 〝この島にいる〟時は、僕が彼女を守らなければいけないだろう。

 そう誓った一日だった。
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