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第54話 ラストダンス その3

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「星が綺麗ですね。あの星ってどうなっているんだろう? 行ってみたいな~」

「何もないぞ、この星のように生き物はいない。ただの真っ暗な岩山だった」

「えっ? 行ったことがあるのですか?」

 思わず振り返って、聞いてしまう。
 ゼムドは魔道板から顔を上げて話を始める。

「何百年か前だったか、ケリドが星に行けば強い奴がいるかもしれないとかどうとか言い出して、アザドムドが何故か妙に乗り気になって結果的に七人で一緒に行くことになった。
 二つほど星を回ってみたが何もない。加えて、宇宙も、その星達にも魔素は無かった。俺たちでも魔素が無ければやがて死ぬ。ある程度で帰るしかなかった。
 ただ、この人の地に来て学んだことからすると、熱量を所持してうまく光を出す星と別の星の距離がバランスした場合、俺たちのような生き物が存在した星があるかもしれない」

 ゼムドの表情が変わり始めた。

「今、人の知識を得たことで、他の星にいる生命体を探すことに価値が出てきたかもしれん。龍族の協力も得られれば何かしら面白い結果に繋がるかもしれない」

 ……。
 凄い話を聞くことができた。
 誰かに自慢したい。
 ゼムドは魔道板をテーブルに置いて、椅子に姿勢を正す。
 さらに、前かがみの体勢で顎に手を当てて真剣に考え始めている。
 これまでのゼムドのからすると、とんでもないことが出来てしまうかもしれない。
 ちょっと期待してしまう。
 
 しばらくゼムドは考え込んでいた。

********************

 ずいぶん時間が経った。

 ゼムドは再び魔道板に手を伸ばそうとする。
 すかさず質問する。

「龍族の土地へ行って、一段落したら、こちらへはいつ頃戻ってくるのですか?」

「そうだな。300~500年程度は龍族のところに住んでみてもいいか。あそこは人の地よりは長い歴史もあるだろう。世界全体の均衡を変えながら、そこにある知識でも読ませてもらおうか」

 キエティは〝えっ?〟と思った。
 キエティはエルフであり、人族の中では寿命が長い。
 ただ、それでも魔族に比べればはるかに命が短い。
 その期間では下手するとキエティはもう死んでいるかもしれない……。
 このままもう二度と会うことはないのだろうか?

 ゼムドがキエティの表情の変化に気づいたようだ。

「どうした? 何か問題でもあるのか?」

「あ、あの、私はエルフなのですが、エルフの寿命は長くても500年程度なんです。その期間こちらへゼムド様が帰って来ないならもう会うことが出来ないので、最期の別れになってしまうのですが……」

 ゼムドは顎に手を当てて返答してきた。

「――そうか。では小まめに此方と彼方を移動してみようか。」

 ゼムドはそう答えて少し笑った。
 そして、質問をしてきた。

「お前は生後どれくらいだ?」

「私はちょうど今年で85年目になります。ちょうど結婚適齢期ですね」

「そういえば、俺がお前と結婚しているとかどうとか何人も言っていたが、俺はお前とは結婚していないぞ」

「ええ、私も結婚したつもりはありません」

 お前には魅力がない、と言われたように思い、ムカッ!! と思って言い返す。

「ゼムド様は何歳なのですか?」

「分からない。俺たちは生まれてから、しばらくして急激に成長する。そして生きるために戦い続けるようになる。俺は自分の母の腹の中にいる時には既に意識があったが、ある時、目の前が急に明るくなった。生まれたのだ。
 その時に母親の顔は一度だけ見たが、俺にゼムドという名を囁いてから、すぐに母親はその場を離れた。これはお前たちからすれば理解しづらいのだろうが、俺たちからすれば当然だ。俺は母親の腹にいた時から何かに対して殺意があり、殺して食べたいと思っていた。
 その場に母がいたら襲っていただろう。そしておそらく十秒後には、体が成長し始めていた。俺の場合は、多分、一時間程度である程度戦える体には成長した。この時点で魔族の下位種の上位には位置していたと思う。
 すぐに近くにいる魔族の下位種を襲いに出かけていた。母はおそらく生後、俺が腹を空かせるのを、また、初めての戦闘でも勝てるような相手がいるだろう場所に、おれを産み落としたのだろう」

 キエティはその話を聞いていて、少し、怖くなってきた。
 自分たちとは全く違う種であり、全く合い入れない価値観だ。
 ゼムドも、またゼムドを追いかけてきた魔族達も他人には欠片も興味が無いようだったが、当然だ。
 あるはずがない。
 自分以外は全て餌なのだ。

 ただ、ここで、少し思い直す。
 考えてみれば、トカゲやカエルもケースによっては自分の同族を食べたりするものがいる。
 ネズミの一部にも、育児中にストレスを受けると、子を食い殺す親もいたりする。
 生き物は種全体が維持されるように機能するが、一つ一つの個体を見て、そしてある時点だけを切り取って、他種がそれを観測すれば、その個体の行為がとても残酷に見てしまうかもしれないが、当該個体にとっては生きるのに必死なだけだ。ゼムドは他の種の尊厳について守ろうとしているが、ここでゼムド達魔族を怖いと思って避けてしまうのは自分達が魔族たちの尊厳を認めていないことになってしまうのではないか、そんな考えがふと頭をよぎる。

 ゼムドが続ける。

「だから、俺たちは自分が何年生きているとかどうとかはほとんど気にしない。というか気にしている暇はない。くだらないことを考えていると死ぬ。
 アザドムドはグリフォンに対して、自分が何万年ぶりに話しかけたとかどうとか言っていたが、あいつがそもそも一万年生きているかどうかすら分からない。逆に何十万年も生きているかもしれない。それに、あいつは下位種に話しかけたことなど覚えているわけがない。あいつは、そういう点に関しては適当だ」

 ここで、ゼムドは少し考え込む。

「……だが、それにしても……あの時のアザドムドは、おかしかった。
 俺たちは魔力の放出量を上げると、若干だが知能が上昇する。戦う時に相手の思考や、戦術を読み切るのは重要になる。力だけでなく、思考速度も加速するように種としてそう進化したのだろう。
 それを加味すると、あいつがあの状況の把握をしようとしたとしても、あのグリフォンへの挑発の仕方は少しおかしい。
 何故、奴はあのような挑発の仕方をしたのだ? あいつはたかが獣に関心など持つはずがない。直後に龍からの言葉を受けて、一気にそれまでの魔力の限界値を急に超えたが、あれは何か理由があるのだろうか? 奴があの魔力の上昇した状態で、俺が大地を守りながら、龍も含めて戦っていればそれなりに大変になっていたかもしれん」
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