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第46話 キエティの絶体絶命 その1

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 キエティは鉄格子に入れられたまま、グリフォンに運ばれていた。

 てっきりグリフォンの本拠地カルサーンまで、すぐに移送されるのかと思ったが、何故かグリフォン達はキウェーン街から少し移動した後、そこで一夜を明かし、翌早朝になってから、カルサーンまで移送された。
 グリフォンの様子を見ていると、何かに対して警戒しているようにも見える。

 カルサーンにまで運ばれて、グリフォンの本拠地を初めて見たが、人族の建物に比べれば建造物がとても大きい。グリフォンの背丈は人より遥かに巨躯だから当然ではあるのだが。 

 それに自分の立場を考えれば、不謹慎・場違いになるのだろうが、グリフォン達が飛んでいる壮観があまりにも見事に思えた。
 数百万年という時を経て造り上げられた白い大理石の都市は、とても綺麗にして雄大だ。
 警戒態勢のグリフォンの兵士百体以上がその都市の上空付近を飛んでいる。優雅なグリフォンがこれだけ上空にたむろしているだけで、名画の一風景であるように見える。
 そして、都市周辺部を見下ろすと、様々な中位種・下位種の獣族も街付近に配置されているのが見えた。キエティもエルフの古書でしかみたことないような種族がゴロゴロしている。

 キエティは驚いた。
 グリフォンの都市とはこれほどまでに警護が厳しいものなのだろうか?

 グリフォンに敵うような種族は、両手の指の本数よりは少ない。
 しかも龍種の調停で大半の種は戦いを禁止されている。
 何故これほどに警護をしているのか不思議だ。

 グリフォンは何から身を護ろうとしているのだろう?

 そんなことを考えていると、グリフォンの都市の入口辺りが見えてきた。
 そこには、グリフォンの中でもとりわけ屈強な戦士だろうと思われる兵士が五十体ほど立っていた。
 キエティを入れた鉄格子ごと、キエティを運んできた部隊はそこへ降りていく。

 そしてキエティを運んできた部隊が着地すると、グリフォンの都市入口にいたグリフォン軍の一番大きいグリフォンがしゃべり始めた。

「おい、シェルドミル。どういうことだ? 話が違うぞ。貴様の考えでは移送隊がここまで来る間に、グリフォンの都市が敵襲を受けるというはずではなかったのか? 何故、敵は仕掛けてこない?」

 シェルドミルと呼ばれたグリフォンが答える。

「おかしいですね。敵が仕掛けてくるとしたら、このタイミングで仕掛けるのが最も効果的なはずだったのですが。あれほどの挑発行為を行っておいて、かつ魔族が人族街に住み着いて婚姻をしたという情報まで流す。人の国の方へ我々グリフォンの意識を向け、戦力の分断を狙っていると思ったので、あえてカルサーンの上空に飛ぶ兵士の数を数を減らして、警戒を緩めたフリまでして敵を誘ってみたのですが、ここで敵が動かない理由が分かりません」

 キエティはびっくりした。
 キエティからすると、運ばれてくる途中、上空でみたグリフォンの都市は異様に警戒しているように見えたが、グリフォンにとっては軽い警護等のレベルだというのだ。
 それに敵とは誰の事だろう?

 都市部入口にいた一番大きいグリフォンがキエティの入った鉄格子に近づいて、キエティを鉄格子から解放した。
 キエティとそのグリフォンが対峙する。

「おい、貴様。何を隠している正直に答えろ」

 キエティは何も隠しているわけではない、何かグリフォンが誤解しているのは分かるが。
 正直に答える。

「グリフォン様、私たち人族は、何一つ嘘は申し上げておりません。事実についてだけご説明申し上げております。私が魔族と婚姻関係にあり、魔族と人族が結託してグリフォン様達に反旗を翻したというのは間違いであります。たしかに人の都市部に魔族が住み着いているのは事実ですが、それは脅されてそうなっているのに過ぎないのです。どうか、人族に対して寛大なご処置をお願い致します」

「寛大な処置だと? では貴様はどうして欲しいのか答えろ」

「人族は今後もグリフォン国に対して、永世隷属することを再確認いたします。また、今後できる範囲で金銭的賠償にも応じるつもりでもあります。加えて、私があの魔族の妻であるというのは誤解ですが、ただ、そのような誤解からグリフォン様の怒りを買ったのは事実でありますから、私の命をもって今回の人族への嫌疑を払っていただけないでしょうか?」

 次の瞬間、目の前で質問してきたグリフォンが大声で叫び返してきた。

「ふざけるなよ! グリフォンが今回何体死んでいると思っている!! たかが人如きのカス種が隷属だと? おまえらなど龍種に命じられているから生かしているだけで、お前らの存在価値など我らグリフォンにあるわけないだろう!! しかも貴様一人の命でグリフォン八体の命と釣り合うと思っているのか!! お前ら全種全員の命など、グリフォンの羽一枚の価値も無いわ!!」

 物凄い怒号だった。
 大気が揺れている。
 あまりの凄みにキエティはその場にへたり込んでしまった。
 それに、キエティは今まで生きてきて、これほどに他人から強い憎しみをぶつけられたことは無かった。
 自分より遥かに大きい者から、憤りを持って罵倒されるのが、これほどにも怖いものだとは思わなかった。
 座り込んでしまって、体の震えが止まらなくなっていた。

「おい、シェルドミル。どうするつもりだ?」

 ガルマハザードから質問されたが、返答せずにシェルドミルは目を瞑って考え続けている。
 シェルドミルはさっきからずっと信号を使って、すべての下位・中位種にまで何か敵の気配があるかどうか探索させ続けている。
 しかし反応はない。

――これは、少し警戒しすぎたか?――

 その考えが脳裏をよぎる。
 敵はグリフォンがもっと弱いものと思っていたのかもしれない。
 八体殺した後、都市部の警備が強化されたことで、敵は思ったよりグリフォンは強敵だと認識した。
 グリフォンが八体殺されて、その後も人の街に魔族が滞在しつづけ、かつ、婚姻したという情報を流す。これは、人族の街を餌にしてグリフォン軍を向かわせたいことを意味している。これ以外には考えられない。

 そう考えると、今この目の前で喋っていた人族の発言もやはり敵の誘導が見て取れる。
 ガルマハザードはこのエルフの発言で激怒した。おそらく他のグリフォンも同じように怒るだろう。
 このエルフは人族の存命を願っているようだが、それをグリフォンの裁判所で喋らせてグリフォンへの挑発材料としてさらに人族へ怒りを向ける――。
 怒りを向けたグリフォンは大軍で人の街を侵攻しようとする――。
 すると、グリフォン都市の警備は手薄になる……。

 シェルドミルは考え続ける。

 やはり〝王〟としか思えない。

 グリフォンの歴史上、他種族への蹂躙は多い。
 その恨みを晴らそうとする連中と、何かしらの魔族の利害が一致したとみるべきか。

 獣族の上位種でもグリフォンを相手に魔力を使わず勝てることはない。
 とすると、人の街に滞在している魔族と相まって特殊な魔族個体達が関わっているとみるべきか。
 グリフォン軍にもかなり被害がでるかもしれない。

 しかし、支配地域の獣の下位種・中位種まで総動員している現在、他種族に対する体裁もある。
 ここで何もせずに引くということは対外的にできないし、まして、国民感情を考えれば何かしらの軍事的な行動は起こさざるを得ないか……。

 シェルドミルは結論付ける。

 ――人族を滅ぼすしかない――
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