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第12話 魔石探し

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 女の子の魔族ミホは、活火山の頂上、マグマの海の中で一人の魔族の首を捕まえていた。

 相手の魔族は〝高位種〟の魔族だった。
 魔族の強さは、下位・中位・上位・高位種の順に、後ろになればなるほど強い。高位種というのはゼムド達一派が勝手につけた分類だ。一般的な種族には、魔族は下位・中位・上位の三種類だと思われている。

「ねぇ、このへんに珍しい魔石ない?」

 相手の魔族は自らを小さい女の子の魔族に首を捕まえられているが、必死にミホの手から逃げようとしている。しかし、ミホの握力が強く逃げられない。

「あれ? 聞こえてない? 聞こえてるよね?」

 捕まえられた魔族は思う。
〝なんだ、このガキは。生まれて間もないような姿をしているくせに何でこんなに強い。こんな強い魔族の噂など聞いたことないぞ〟

 ミホは腰をくねくねさせながら、嬉しそうに捕まえた魔族に話しかけた。
「言葉通じないなら殺しちゃおうかな?」

 この言葉で、捕まっている魔族は、すぐ我に返って返答した。
「ある。珍しい魔石はある。この活火山の原動力となっている魔素発生濃度が高い場所がこの活火山の噴出口にある。そこへ行けば珍しい魔石はあるはずだ。時々俺はそれを食べている」
 慌てて答えた。

「そっか、ありがと」
 ミホはパッっと手を離して無表情になり、言われた通りの噴出口に飛んで行った。

********************

 二人の侍が草原で対峙していた。

 ワダマルが立ったままで、顎に手を当てながら喋り出した。
「これはこれは、拙者と同種に会えるとは嬉しいでござる。是非、手合わせ願いたい。」

 ワダマルの目の前にいる魔族もワダマルと同じように刀を持っているが、ワダマルと違い、完全に戦闘態勢に入っている。姿勢を落として、抜刀する直前だ。

「これこれ、我らが種は士道を重んじる。まだ名乗り合ってもいないのに、切り掛かろうとするのはおかしいでござろう? 拙者はワダマルと申すものである。そなたの名を教えて頂きたい」

 ワダマルの前にいた魔族は戦闘態勢を解いて、ワダマルと同じように直立し、名を名乗る。

「私の名はミツルギです。貴方ほどの者にこんなところでお会いできるとは思えませんでした。こちらこそ是非手合わせ願いたい」

「おお、そうか。では早速始めよう」

 ワダマルは顎に手を当てたまま嬉しそうに話す。

 ただ、ミツルギはもうこの時点で自分がどうなるか分かっていた。
 おそらく肉片も残らないくらい細かく刻まれる、それも一瞬で。
 自分はかなりの上位種であることは自覚していたが、相手が悪すぎる。

 それでも〝せめて一太刀〟

 そう思って、もう一度姿勢を下げ、刀を鞘からは抜かず、抜刀直前の姿勢のまま呼吸を整え、魔力を集中し始める。

 目の前のワダマルは顎に手を当てたまま、まだニコニコしている。
 次の瞬間、一気に自分の魔力を高めてワダマルに切りかかった。
 が、ワダルマの首に刀が届く、と思った瞬間に刀が止まる。
 ワダルマも抜刀してミツルギの一撃を防いでいた。
 次の瞬間、ミツルギの腹に物凄い衝撃が走る。
 一気に体が後ろへ飛ぶ。
〝蹴られた〟
 後ろに吹っ飛ばされながら、すぐにその状況を理解し、慌てて態勢を立て直してワダマルの方を見る。
 
 いない。

 次の瞬間何かが首に当たる。ワダマルの刀だ。

「見事であった。拙者でもお主ほどの年齢でそれほどの一撃は放てなかったかもしれん。もっと精進いたせ」
 ワダマルは、ミツルギを吹っ飛ばして、一瞬で背後に回り、首に刀を当てる程の腕だ。
 ミツルギは驚く。
 これほどの魔族が、何故殺さない?

 ワダマルが刀を鞘に納め、続ける。

「ところで、拙者は珍しい魔石を探しておるのだが、そなたは何か珍しい魔石は持ってござらんか?」

「……持っています。何かあった場合にすぐ回復できるように、かなり珍しい魔石ですが、一つだけ手元にあります。」

「すまんが、それを譲ってくれないかのう?」

「……」

 ミツルギは懐を探って、魔石を取り出す。

「どうぞ。」

「おお!! これは、これは、かたじけない。それでは拙者は急ぎの用があるので、これにて失礼」

 そう言い残すと、ワダマルはやってきた方向へ飛んで行った。

********************

 エスカの手には魔族の頭が一つ。

 今殺したばかりの魔族の上位種の頭だ。
 エスカは〝またやってしまった〟と思う。
 魔石の場所を聞こうとしただけなのに、その瞬間にゼムドの顔が思い出されて、話しかける前に気づいたら魔族の頭を胴体から切り離していた。

 頭をその場に捨てて、両手で顔を軽くパンパンと二度叩いた。
「こんなことをしていては、ゼムド様の妻としては失格ですわ」
 そんなことを一人で喋っている。

 エスカは考える。
 ゼムドはどんな女性の好みなのだろうか?
 大人しい女性? 明るい女性? 優しい女性?
 毎日観察しているが、どんなタイプがいいのか全く分からない。

 どうしてもゼムドの好みが知りたい。
 ゼムドの弱点が知りたい。
 そこを女性として攻めたい。

「違う違う」
 そう言葉が出てきた。

 今は魔石を探さなきゃ、今度こそ見つけた魔族に魔石の場所を教えてもらわないと。そのことの方が今は大事だ。
 そう考えて、その場から離れる。

 だが、この後もエスカは出会った上位種の魔族三体を、見た瞬間に、即、殺してしまうのだった。

********************
 
 結局、アザドムドは五人が出て行った後、しばらくして自分も出かけてしまっていた。

 今は上空を飛んでいる。
 〝クソッ!!〟と思う。これも全部ゼムドのせいだ。

「あの野郎、いつか倒してやる」

 その言葉が思わず口から出る。
 適当に強そうな上位種を見つけて、魔石の場所でも聞くか、そう思って高位種の気配のする方へ飛んでいく。
 相手も気づいているな、と思う。相手は一体で、一瞬逃げるような気配を見せたが、諦めて臨戦態勢を取っているようだ。逃げようとした魔族からすると、アザドムド程の魔族が思いっきり魔力を垂れ流して、自分めがけて飛んでくるのだから逃げても意味が無いと判断したのだろう。

 アザドムドが高位種の魔族の前に降り立つ。
 アザドムドは魔族を直視せず、空を見ながら、腰に手を当てて話す。

「おい、珍しい魔石を出せ。」

「いや、持っていない。」

 その瞬間、答えた魔族の四本の手足が木っ端みじんに吹き飛ぶ。
 質問された高位種の魔族は〝なっ!!〟っと思った。
〝全く魔力の発生が見れなかった、これほど攻撃に備えた態勢を取っていたのに……〟
 アザドムドが相変わらず魔族を見ずに、空を眺めたまま、ゆっくりと喋りだす。

「俺の嫌いなことを教えてやろう。俺は弱い奴が嫌いだ。
 そんな俺がお前のような下位種に言葉を賜すのは、よほどの僥倖と言える。
 お前が生涯、その生に刻み付けるほど価値のあることだ。お前に幸福を与えてやってもいい。魔石はどこだ?」

 最後の言葉だけは早口だった。

 質問された魔族は冷静に答える。

「俺は魔石を持っていないが、ただ、ここから北に二〇〇キロメートルほど行ったところに、強い魔素の発生している沼がある。おそらくそこにはある」

 アザドムドはその言葉を聞くと、何も言わずに、すぐにその方へ飛んで行った。

 アザドムドは飛びながら思う。
 もし、魔石を隠し持っていたならば、最初の質問の際〝嘘〟を付いていたことになる。
 それなら魔石を奪って〝罰〟として殺すつもりだったが、嘘ではなかった。
 加えて魔石の場所の情報を吐いたので、殺さないでおいてやった。
 かつての自分なら魔石の場所が知れさえすれば、どちらにしても相手を殺していたはずだ。
 俺も丸くなったか、〝あいつら〟だけじゃないな。
 そう思った。

***********
 アザドムドに手足を吹っ飛ばされた魔族はその場に上半身のみで倒れている。

 答えた魔族は安堵していた。
 思わず声が出る。
「助かった。四本の手足で済んだなら〝安い〟。完全に死んだと思ったが、まさか助かるとは思わなかった」

 アザドムドがいなくなった瞬間、気配を察した中位種が自分の方へ飛んでくるのが分かる。
 弱った上位種を喰い殺すつもりなのだろう。

〝手足四本の回復には数年かかるが、それでも、中位種程度にはまだ負けない〟

 そう思って、宙へ浮かび上がって、戦闘態勢を取った。

************

 ガルドロストは目標地点に達すると、地面に向かって、物凄い速度でぶつかり、そのまま掘り進んでいった。魔力を放出して、地盤を破壊しながらどんどん地下に潜っていく。

 潜り始めて五〇〇〇mを過ぎたあたりだろうか、急に明るい場所へ出してしまう。
 そこには数十体の中位種の魔族達の集落があった。
 五〇〇〇mも潜ると流石に星の核に近づくからだろうか、それとも、マグマ溜まりがあるからだろうか、地上よりはそこは気温が高かった。

 中位種たちは、戦闘態勢を既に取っている。

 ガルドロストは、この手の中位種が魔石を好んで隠し持つのを知っていた。

 キョロキョロと見渡すと、沢山の魔石が彼らの後ろにある。
 それに向かって歩いていく。

 中位種たちは慌てて、ガルドロストから逃げる。

 ガルドロストは魔石に近づくと一つ一つを持ち上げて、どの魔石がいいか見ていく。
 だが、どの魔石がいいのか、よく分からない。
 魔石を選ぶのが面倒になってきたので、全部持っていくことにした。
 鎧の中に一つずつ入れていく。

 そして全部の魔石を鎧の中に入れると、来た道へ引き返していた。

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