上 下
5 / 85

第4話 人族の困惑

しおりを挟む
 人族の首都では、ある高層ビルの頂上階に、人族の代表達が集まっていた。

 集まった理由は、もちろん人の国を訪れた魔族の対処法を話し合うためだ。

 人族の建物は近代的であり、側面はガラスと鉄材で作られていて、階層は四十階建て、ビルの上層階に近づくほど、尖っていく構造をしていた。ピラミッドを細長くしたような形状であった。

 人族は三種族で構成されている。
 人・ドワーフ・エルフの三つの種族がこの世界での〝人族〟であった。
 それぞれの種族の代表である三人が話を始めた。

「大変なことになったな」

「本当じゃわい」

「では、現在その魔族はキウェーン街に滞在しているということで宜しいでしょうか?」
 
 エルフの代表で、ほっそりとした体型の女性であるキエティが尋ねた。
 キエティの服装は、キャリアウーマンのような装いで、黒いスカートを履いている。スカートはぴっちりと足に巻き付き、その長さは膝くらいまでだ。また、上半身はフリルの付いた白いシャツを着ている。

 人の男がキエティの方を見ながら答える。
「そうだ。キウェーン街の街長がその魔族の監視・付き添いを行うようにしている。グリフォン七体の首に関しては、人・ドワーフ・エルフの三種族からの使者によって殺害が間違いなく確認されている。通信板マジックフォンによる画像の転送からして間違いない。他に一体倒したというのは人のみの目撃証言になるが、状況から考えて嘘はついていないだろう。そして、問題はグリフォンに対して現状をどう申し開きするのかだ」

 キエティがそれを受けて、首を傾げながら質問した。
「グリフォン側から事態の説明について、人族への質問はないのでしょうか?」

 これにもまた、人の男が答える。
「グリフォンからの質問はないな。時系列から考えて、おそらく最初の一体が殺された直後にグリフォンの本拠地カルサーンではすぐに異変を察知したのだろう。即座に迎撃部隊を差し向けたが、それは現場に到着するどころか僅か三十分で首七個に変えられたわけだ。カルサーンでも現在相当揉めているのではないか? グリフォン八体の損失なんて種全体の恥であるし、いくらグリフォンでも何かしらの状況を掴むまでは新規での部隊を送り込めない、というのが現状なのだろう」

「正直、ざまーみろ、というのが本心じゃわ。三千年にも渡って、人族から搾取し続けていた連中に天罰が下ったんじゃわ」
 ドワーフの男は嬉しそうにそう言ったが、これに対して人の男は困惑した表情で返答する。
「いや、それどころの話ではないでしょう。現在、その犯人の魔族を滞在させているのは人族なのですから。グリフォンがそのことを知ったらどう人族に賠償を求めるか分かりませんぞ。もし、総人口の九割以上を差し出しせなどと言われたら……」

 キエティには、この可能性は〝ない〟と思う根拠があったが、それを説明せずに話題を変えた。

「しかし、その魔族一体何を考えているのでしょうか? 上位の魔族はそもそも同族であっても群れるということはしません。繁殖期になった時だけ同族を求めますが、基本的には常時単独で戦いを求め続けるだけの種です。単純に自身の強さを向上させること、強い相手と戦うことだけを楽しみにする種であって、弱い者、まして他者の文化に興味を示すというような話は聞いたことがありません」

 人の男もこれに答える。
「そう。そこが一番よく分からないところだ。外見が魔族であっても、実際は獣族であったりするのではないだろうか? 何かしら偽装することで、獣族同士の争いを魔族との争いに誤認させたいのではないだろうか? そして、人はその争いに巻き込まれている」

「……そういう可能性はあるかもしれないですね」

「魔族がいくら強いといっても、グリフォン七体を単独で倒せるほどの力を持った魔族など本当に存在するのか分からん。複数の強い何者達かがグリフォンに打ち勝ったというのが真相だろう」

「で、グリフォンから説明を求められたらどう返答するつもりじゃ?」
 ドワーフの男が人に尋ねた。

「現状ではグリフォンを倒した魔族から脅迫されて街に滞在させるしかなかった、グリフォンに対して人族は永世従属を求め続ける、といった内容の返答をするしかないだろう」

 キエティはここで今後の人族のために提案をした。

「あの、グリフォンは獣族の下位種に現状を探らせているのではないでしょうか? もしそうだとして、魔族を街に匿ったとなると、後々申し開きが出来ない可能性があるように思えます。今の段階で、こちらからグリフォンに対して使者を派遣して現状を説明するのが一番いいかと思いますが」

 人の男はキエティの話を聞いて納得したように返答し始めた。

「たしかにこちら側からグリフォンへ状況説明をしておいた方が良さそうではあるな。キウェーン街周辺にいる獣族の下位種を見つけ出して、グリフォンの本拠地へ状況を伝えた方がいいだろう。今はちょうど、人族とグリフォンの通信板マジックフォンが機能しない時期であるのが幸いしているか。こちからもあちらからも情報の伝達は遅れる時期であるのは運が良いと言える。グリフォンが気づく前に、魔族は早めに追い出すことにしよう。」

「今、キウェーン街に滞在させている現在の魔族についてはどう対処するつもりじゃ?」

「現段階では自由に街を見学させてやるように指示はした。グリフォン七体を本当に一人で倒したかは確認が取れていないが、現場の兵士の話からすれば一体を倒したのは間違いなくその魔族であるはずだ。
 単純な戦力だけでみれば、人族全体で立ち向かっても勝てる相手だとは思えない。キウェーン街にのみ滞在させて様子を見るしかないだろう。それに、本当に魔族なら知能は高くないはずで、適当にやりたいように機嫌を取ってやれば街を破壊したりすることはないとは思うのだが……。しかし、もし何かしら他の獣族が策を弄するために送り込んだ個体ならば、グリフォンからあらぬ疑いを掛けられないよう、キウェーン街内に留めて置きたいところだ」

 その後も色々と魔族の対応について協議された。
 会議が終わった後、エルフ代表の女性、キエティは一人しばらく考え事をしていた。

 キエティは美人だ。だが、エルフの代表は美人だからなれるわけではない。
 キエティのそれまでの業績が認められて、エルフ代表になれたのだ。
 また、彼女は同時に大学の教授でもあった。
 キエティは努力家であった。
 
 キエティは考える。
 異常に強い魔力を持った魔族が人族の領域に侵入した。
 そして、その魔族は人族の文化に興味を示している、という話。
 キエティの知識からするとありえない類の話だと思った。

 キエティからすると、この魔族の言い分は真実でないと思う根拠がある。
 そして彼女はそれについて考察していく――。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

公爵家次男の巻き込まれ人生

ファンタジー
ヴェルダン王国でも筆頭貴族家に生まれたシアリィルドは、次男で家を継がなくてよいということから、王国軍に所属して何事もない普通の毎日を過ごしていた。 そんな彼が、平穏な日々を奪われて、勇者たちの暴走や跡継ぎ争いに巻き込まれたりする(?)お話です。 ※見切り発進です。

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

俺の召喚魔術が特殊な件〜留年3年目から始まる、いずれ最強の召喚術士の成り上がり〜

あおぞら
ファンタジー
 2050年、地球にのちにダンジョンと呼ばれる次元の裂け目が開いた。  そこから大量のモンスターが溢れ出し、人類は1度滅亡の危機に立たされた。  しかし人類は、ダンジョンが発生したことによって誕生した、空気中の物質、《マナ》を発見し、《魔導バングル》と言う物を発明し、そのバングルに《マナ》を通すことによって、この世界の伝承や神話から召喚獣を呼び出せる様になり、その力を使ってモンスターに対抗できる様になった。  時は流れて2250年。  地球では魔術と化学の共存が当たり前になった時代。  そんな中、主人公である八条降魔は国立召喚術士育成学園都市に入学した。  この学園の生徒はまず、精霊や妖精などのスピリットや、鬼、狼、竜などの神話や伝承の生き物を召喚し契約する。  他の生徒が続々と成功させていく中で、降魔だけは、何も召喚することができなかった。  そのせいで何年も留年を繰り返してしまう。  しかしそれにはある理由があって———  これは学園を3年留年してから始まる、いずれ最強になる召喚術士の物語。    

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...