57 / 211
第二章
第57話 美少女後輩マネージャーが妹になった?
しおりを挟む
おそらく学校に置きっぱなしのものがあるとはいえ、他にも宿題は残っている。
それらを取りに家に帰った香奈は、
「うぁ~……!」
玄関先で頭を抱えて転げ回っていた。
(だ、抱きついちゃった! 抱きついちゃったんだけど⁉︎)
これまでにも抱きついたことはあったが、それらはどちらかといえば泣きついたというべきものだった。
今回のような、心が弱っていたからという言い訳もできないケースは初めてだ。
巧はアキと華子の誘惑に負けなかった——どころか揺らぎもしなかった——理由として、香奈の謂れのない悪口を言っていたから、そして彼女の体調を崩させる原因になったからだと言っていた。
それがどうしようもなく嬉しくて、自分でも気がつかないうちに背後から抱きしめてしまっていた。
(巧先輩もいつもと少し反応違ったし、さすがにバレかけてはいるのかな)
「うわっ、恥ずかしっ……!」
香奈の顔は発火するのではないかと思うほど赤くなった。
「ん、でも待てよ……?」
もし彼女の気持ちに気づいているにも関わらず、巧が宿題を手伝ってもいいと言ってくれているのなら、逆に可能性はあるのではないだろうか。
(だってさ、ナシな相手から抱きつかれたら、普通はもうその後の接触は拒否るよね。も、もしかして巧先輩もちょっとは意識してくれてるのかなっ? 前に不可抗力でお尻押し付けちゃったときは勃起してたし、もしかするとさっきもおっぱい押し当てちゃってたし……って、ダメダメそんなこと考えちゃ!)
香奈はブンブンと首を振って、邪念を追い出そうとした。
「ダメだよ、香奈。今から宿題を手伝ってもらうんだから。そんな妄想してたら巧先輩に失礼だからねっ」
香奈は鏡の自分にビシッと指を突きつけた。
「……」
一人でそんなことをしている恥ずかしさも相まって、少しは落ち着いた——はずだった。
「どこがわからないの?」
(ムリムリムリ! 巧先輩の顔がこんな近くに……!)
ワークを覗き込んでくる巧に対して、香奈は最高潮にテンパっていた。
ちょうど顔の距離感が先程抱きついたときのそれと似通っていたため、どうしても脳内をよぎってしまうのだ。
(横顔も綺麗だったし、めっちゃいい匂いだった——)
「香奈?」
「は、はひっ! ……あっ」
(はひってなんだ、私のバカ!)
「はひ……? えっと、大丈夫?」
「だ、大丈夫ですっ!」
——そんなわけがなかった。
巧が懇切丁寧に教えてくれても、意識の半分以上が彼の発する内容より、彼自身にいってしまう。
そんな状態で理解できるはずもなく、さすがに申し訳なくなって自ら中断を申し出ようかとも考えていたが、意外なところに突破口はあった。
「解き方を簡単にまとめると、こんな感じかな」
「はい、ありがとうございます……あの、巧先輩。非常に申し訳ないんですけど……」
「何?」
「これ、なんて書いてあるんですか……?」
そう。巧は意外に文字が汚かったのだ。
特に走り書きをした部分はひどく、香奈には解読不可能だった。
実は、何が書いてあるのか聞くのはこれが初めてではなかった。
だから香奈もとても申し訳なく感じているのだ。
そして、そう何度も聞かれれば、直接言われなくとも自分の字が汚いのだということには誰でも気づく。
もちろん巧も例外ではなかった。
「よしっ、香奈。これからは僕の言ったこと全部メモして。僕もう絶対に字書かないから」
「あっ、でもそんなにめっちゃ汚いわけじゃ——」
「うるさい。もう決めたの」
「……ぷっ、あはははは!」
すっかり拗ねてしまっている様子の巧を見て、香奈は笑いを堪えられなかった。
彼は不機嫌そうに、そして恥ずかしそうに目を逸らす。
それすらも、香奈には笑いの着火剤にしかならなかった。
一度笑ったのが気分転換になったのか、それ以降、香奈は集中して勉強に取り組むことができた。
◇ ◇ ◇
翌日、アキと華子が退部したと、二軍監督から通達があった。
何も知らない部員たちは当然驚いていたが、巧はまあそうだろうな、という程度の感想しか抱かなかった。
彼女たちのような無駄にプライドの高い者たちが、弱みを握られたまま居残るとは思えなかった。
その日の部活終わり、例のごとくシャワーを浴びた後に巧の家にやってきた香奈は、いつも以上に疲れている様子だった。
「あ~……」
「お疲れ。マネージャーが一気に半数になったら、そりゃ大変だよね」
「はい……でも、精神的にはすごい楽になりましたよ」
香奈が机に突っ伏しつつ、笑みを見せた。
「ありがとうございます、巧先輩」
「あの二人がただ自爆しただけだけどね」
「いえいえ、先輩が録音という機転を効かせたおかげですよ。まさに巧妙な手口でしたね」
「犯罪者みたいに言わないでもらっていい?」
「はーい……」
香奈が弱々しく両手を上げた。
「まあそんなわけで、肉体的な疲労はたしかに増しましたけど、今日は今までよりも充実した時間を過ごせました。楓先輩はいっぱい褒めてくれるし」
「香奈が頑張ってるから褒めてくれるんだよ」
「えっ、私ちゃんと頑張ってるように見えます?」
「見える見える。いつもすごいしありがたいなーって思ってるよ」
「えへへ~、ありがとうございます!」
香奈は目元をへにゃりと緩ませて笑った後、巧を手で示して、
「褒めてくれたお礼に、巧先輩にはいい子な私の頭を撫でる権利を贈呈しましょう」
「意訳すると?」
「……ちょ、直接言うのは恥ずかしいです! びしょハラですっ、びしょハラ!」
「おっ、久しぶりのびしょハラだ」
「感動してないで、そのっ、あのっ……」
「わかったよ」
巧が近づくと、香奈が上体を起こした。
「別にいいよ? 突っ伏してても」
「いえ、さすがにそれは私のズキがムネムネしますから」
「変なところでいい子だよね」
「だって私、おちゃらけているように見せて礼儀正しさも持ち合わせていますから!」
香奈が親指を立ててニンマリと笑った。
「やめよっか。あのときの僕の言葉を復唱するの」
あのときとは、香奈が熱を出して弱っていたときのことだ。
「えっ……もしかしてあの言葉、全部嘘だったんですか……?」
「へぇ、僕がああいう場面で嘘つくような男だと思ってたんだ?」
「ぐっ」
香奈が言葉を詰まらせた。
彼女はふっと笑った。
「……負けを認めましょう。今の返しはうまかったです」
「素直な子は嫌いじゃないよ」
「巧先輩こそ素直じゃないですね。楓先輩はそういうとき『素直な子は好きですよ』って言ってくれるのに」
香奈が不満そうに唇を尖らせた。
巧は苦笑した。
「好きだね、篠塚先輩」
「だってめっちゃいい人なんですもん。あー、あんな人が姉に欲しい人生でした……先輩もそう思いません?」
「そうだね。相談とかすごく真面目に聞いてくれそう」
「わかります! えっ、先輩は上と下、どっちがいいですか? あっ、エッチな意味じゃありませんよ?」
「考えもしなかったよ。うーん……下かな」
「えっ、下香奈? それはつまり、私みたいな妹がほしいってことですか⁉︎」
鼻息を荒くする香奈を、巧はじっと見つめた。
彼女の頬が徐々に赤くなっていく。
「あ、あのっ、せめて何か言ってほしいんですけどっ……」
「いや……そう思うと、僕たちの関係ってちょうど兄妹っぽいんじゃないかなって思ってさ」
今だって頭を撫でているし、一緒にゲームをしたりサッカーの映像を見たり、くすぐられたり勉強を教えたりと、どちらかといえば先輩後輩よりも兄妹に近い気がした。
香奈も同感だったらしい。
「い、言われてみればっ……じゃ、じゃあ巧先輩っ、これから私のお兄ちゃんになってください!」
「えっ? うん?」
「なんで疑問系なんですか」
香奈が吹き出した。
「だって、後輩にお兄ちゃんになってくださいって言われるとか意味わかんないじゃん」
「まあまあまあ細かいことは気にしないでって」
香奈がyeah、と決めポーズをした。
「それはSnow Manでしょ。今、真夏だけどね」
「いいんですよ——お兄ちゃん」
「……あっ、呼び方も変えるんだ?」
「いえ、可愛い女の子にお兄ちゃん呼びされるのが男のロマンだって聞いたことがあったので。どうでした?」
「うーん、違和感すごいから今まで通りでいいかな」
「わかりました!」
香奈が突っ込んでこないことに、巧は安堵した。
正直、一人っ子で兄姉よりは弟妹がほしいタイプの彼としては、香奈からの「お兄ちゃん」呼びは少しだけクるものがあった。
ただ、それを悟られるわけにはいかない。
(だって多分、香奈は僕に「好きに甘えられる存在」を求めているんだろうから)
香奈の突然の兄妹提案を、巧はそう解釈していた。
彼女はずっと、兄のように甘えられる存在を求めていたのだろう。
そう考えれば、昨日抱きついてきたのも納得がいく。
(よかったー……変な勘違いしなくて)
巧は気恥ずかしさを覚えつつ、「香奈がもしかしたら自分のことを異性として好きなのかも」という選択肢を脳内から消去した。
そして新たに「香奈は自分に兄のように甘えられる存在を求めている説」を登録した。
——ピコン。
巧の携帯が鳴った。
「巧先輩、女の人からラインです~」
「それはわかんないでしょ」
巧はラインを開いた。女性——玲子からだった。
明日、一緒に映画を見に行くことについてだ。
「女の人でした?」
「女の人だった」
「えっ、まさかエッチな画像を送らせてたり……⁉︎」
「僕をなんだと思ってるの」
「でも、前に友達が巧先輩のことを『ああいう人が裏では女の子を調教してエッチな自撮りを送らせてるんだ』って言ってましたよ?」
「えっ、嘘でしょ?」
巧は愕然とした。
「嘘です——」
「よかった」
「——半分は」
「えっ」
巧は口を半開きにして香奈を見た。
「……半分は?」
「はい。ああいう人が女の子を調教して、までは本当に言ってました」
香奈がクスクス笑った。
「ちゃんと否定しといてね」
「大丈夫ですっ、どもりながら否定しておきましたよ!」
「おい」
巧がいつもより荒々しくツッコミを入れると、香奈が「やっぱり巧先輩は面白いです」と、くつくつと笑った。
それらを取りに家に帰った香奈は、
「うぁ~……!」
玄関先で頭を抱えて転げ回っていた。
(だ、抱きついちゃった! 抱きついちゃったんだけど⁉︎)
これまでにも抱きついたことはあったが、それらはどちらかといえば泣きついたというべきものだった。
今回のような、心が弱っていたからという言い訳もできないケースは初めてだ。
巧はアキと華子の誘惑に負けなかった——どころか揺らぎもしなかった——理由として、香奈の謂れのない悪口を言っていたから、そして彼女の体調を崩させる原因になったからだと言っていた。
それがどうしようもなく嬉しくて、自分でも気がつかないうちに背後から抱きしめてしまっていた。
(巧先輩もいつもと少し反応違ったし、さすがにバレかけてはいるのかな)
「うわっ、恥ずかしっ……!」
香奈の顔は発火するのではないかと思うほど赤くなった。
「ん、でも待てよ……?」
もし彼女の気持ちに気づいているにも関わらず、巧が宿題を手伝ってもいいと言ってくれているのなら、逆に可能性はあるのではないだろうか。
(だってさ、ナシな相手から抱きつかれたら、普通はもうその後の接触は拒否るよね。も、もしかして巧先輩もちょっとは意識してくれてるのかなっ? 前に不可抗力でお尻押し付けちゃったときは勃起してたし、もしかするとさっきもおっぱい押し当てちゃってたし……って、ダメダメそんなこと考えちゃ!)
香奈はブンブンと首を振って、邪念を追い出そうとした。
「ダメだよ、香奈。今から宿題を手伝ってもらうんだから。そんな妄想してたら巧先輩に失礼だからねっ」
香奈は鏡の自分にビシッと指を突きつけた。
「……」
一人でそんなことをしている恥ずかしさも相まって、少しは落ち着いた——はずだった。
「どこがわからないの?」
(ムリムリムリ! 巧先輩の顔がこんな近くに……!)
ワークを覗き込んでくる巧に対して、香奈は最高潮にテンパっていた。
ちょうど顔の距離感が先程抱きついたときのそれと似通っていたため、どうしても脳内をよぎってしまうのだ。
(横顔も綺麗だったし、めっちゃいい匂いだった——)
「香奈?」
「は、はひっ! ……あっ」
(はひってなんだ、私のバカ!)
「はひ……? えっと、大丈夫?」
「だ、大丈夫ですっ!」
——そんなわけがなかった。
巧が懇切丁寧に教えてくれても、意識の半分以上が彼の発する内容より、彼自身にいってしまう。
そんな状態で理解できるはずもなく、さすがに申し訳なくなって自ら中断を申し出ようかとも考えていたが、意外なところに突破口はあった。
「解き方を簡単にまとめると、こんな感じかな」
「はい、ありがとうございます……あの、巧先輩。非常に申し訳ないんですけど……」
「何?」
「これ、なんて書いてあるんですか……?」
そう。巧は意外に文字が汚かったのだ。
特に走り書きをした部分はひどく、香奈には解読不可能だった。
実は、何が書いてあるのか聞くのはこれが初めてではなかった。
だから香奈もとても申し訳なく感じているのだ。
そして、そう何度も聞かれれば、直接言われなくとも自分の字が汚いのだということには誰でも気づく。
もちろん巧も例外ではなかった。
「よしっ、香奈。これからは僕の言ったこと全部メモして。僕もう絶対に字書かないから」
「あっ、でもそんなにめっちゃ汚いわけじゃ——」
「うるさい。もう決めたの」
「……ぷっ、あはははは!」
すっかり拗ねてしまっている様子の巧を見て、香奈は笑いを堪えられなかった。
彼は不機嫌そうに、そして恥ずかしそうに目を逸らす。
それすらも、香奈には笑いの着火剤にしかならなかった。
一度笑ったのが気分転換になったのか、それ以降、香奈は集中して勉強に取り組むことができた。
◇ ◇ ◇
翌日、アキと華子が退部したと、二軍監督から通達があった。
何も知らない部員たちは当然驚いていたが、巧はまあそうだろうな、という程度の感想しか抱かなかった。
彼女たちのような無駄にプライドの高い者たちが、弱みを握られたまま居残るとは思えなかった。
その日の部活終わり、例のごとくシャワーを浴びた後に巧の家にやってきた香奈は、いつも以上に疲れている様子だった。
「あ~……」
「お疲れ。マネージャーが一気に半数になったら、そりゃ大変だよね」
「はい……でも、精神的にはすごい楽になりましたよ」
香奈が机に突っ伏しつつ、笑みを見せた。
「ありがとうございます、巧先輩」
「あの二人がただ自爆しただけだけどね」
「いえいえ、先輩が録音という機転を効かせたおかげですよ。まさに巧妙な手口でしたね」
「犯罪者みたいに言わないでもらっていい?」
「はーい……」
香奈が弱々しく両手を上げた。
「まあそんなわけで、肉体的な疲労はたしかに増しましたけど、今日は今までよりも充実した時間を過ごせました。楓先輩はいっぱい褒めてくれるし」
「香奈が頑張ってるから褒めてくれるんだよ」
「えっ、私ちゃんと頑張ってるように見えます?」
「見える見える。いつもすごいしありがたいなーって思ってるよ」
「えへへ~、ありがとうございます!」
香奈は目元をへにゃりと緩ませて笑った後、巧を手で示して、
「褒めてくれたお礼に、巧先輩にはいい子な私の頭を撫でる権利を贈呈しましょう」
「意訳すると?」
「……ちょ、直接言うのは恥ずかしいです! びしょハラですっ、びしょハラ!」
「おっ、久しぶりのびしょハラだ」
「感動してないで、そのっ、あのっ……」
「わかったよ」
巧が近づくと、香奈が上体を起こした。
「別にいいよ? 突っ伏してても」
「いえ、さすがにそれは私のズキがムネムネしますから」
「変なところでいい子だよね」
「だって私、おちゃらけているように見せて礼儀正しさも持ち合わせていますから!」
香奈が親指を立ててニンマリと笑った。
「やめよっか。あのときの僕の言葉を復唱するの」
あのときとは、香奈が熱を出して弱っていたときのことだ。
「えっ……もしかしてあの言葉、全部嘘だったんですか……?」
「へぇ、僕がああいう場面で嘘つくような男だと思ってたんだ?」
「ぐっ」
香奈が言葉を詰まらせた。
彼女はふっと笑った。
「……負けを認めましょう。今の返しはうまかったです」
「素直な子は嫌いじゃないよ」
「巧先輩こそ素直じゃないですね。楓先輩はそういうとき『素直な子は好きですよ』って言ってくれるのに」
香奈が不満そうに唇を尖らせた。
巧は苦笑した。
「好きだね、篠塚先輩」
「だってめっちゃいい人なんですもん。あー、あんな人が姉に欲しい人生でした……先輩もそう思いません?」
「そうだね。相談とかすごく真面目に聞いてくれそう」
「わかります! えっ、先輩は上と下、どっちがいいですか? あっ、エッチな意味じゃありませんよ?」
「考えもしなかったよ。うーん……下かな」
「えっ、下香奈? それはつまり、私みたいな妹がほしいってことですか⁉︎」
鼻息を荒くする香奈を、巧はじっと見つめた。
彼女の頬が徐々に赤くなっていく。
「あ、あのっ、せめて何か言ってほしいんですけどっ……」
「いや……そう思うと、僕たちの関係ってちょうど兄妹っぽいんじゃないかなって思ってさ」
今だって頭を撫でているし、一緒にゲームをしたりサッカーの映像を見たり、くすぐられたり勉強を教えたりと、どちらかといえば先輩後輩よりも兄妹に近い気がした。
香奈も同感だったらしい。
「い、言われてみればっ……じゃ、じゃあ巧先輩っ、これから私のお兄ちゃんになってください!」
「えっ? うん?」
「なんで疑問系なんですか」
香奈が吹き出した。
「だって、後輩にお兄ちゃんになってくださいって言われるとか意味わかんないじゃん」
「まあまあまあ細かいことは気にしないでって」
香奈がyeah、と決めポーズをした。
「それはSnow Manでしょ。今、真夏だけどね」
「いいんですよ——お兄ちゃん」
「……あっ、呼び方も変えるんだ?」
「いえ、可愛い女の子にお兄ちゃん呼びされるのが男のロマンだって聞いたことがあったので。どうでした?」
「うーん、違和感すごいから今まで通りでいいかな」
「わかりました!」
香奈が突っ込んでこないことに、巧は安堵した。
正直、一人っ子で兄姉よりは弟妹がほしいタイプの彼としては、香奈からの「お兄ちゃん」呼びは少しだけクるものがあった。
ただ、それを悟られるわけにはいかない。
(だって多分、香奈は僕に「好きに甘えられる存在」を求めているんだろうから)
香奈の突然の兄妹提案を、巧はそう解釈していた。
彼女はずっと、兄のように甘えられる存在を求めていたのだろう。
そう考えれば、昨日抱きついてきたのも納得がいく。
(よかったー……変な勘違いしなくて)
巧は気恥ずかしさを覚えつつ、「香奈がもしかしたら自分のことを異性として好きなのかも」という選択肢を脳内から消去した。
そして新たに「香奈は自分に兄のように甘えられる存在を求めている説」を登録した。
——ピコン。
巧の携帯が鳴った。
「巧先輩、女の人からラインです~」
「それはわかんないでしょ」
巧はラインを開いた。女性——玲子からだった。
明日、一緒に映画を見に行くことについてだ。
「女の人でした?」
「女の人だった」
「えっ、まさかエッチな画像を送らせてたり……⁉︎」
「僕をなんだと思ってるの」
「でも、前に友達が巧先輩のことを『ああいう人が裏では女の子を調教してエッチな自撮りを送らせてるんだ』って言ってましたよ?」
「えっ、嘘でしょ?」
巧は愕然とした。
「嘘です——」
「よかった」
「——半分は」
「えっ」
巧は口を半開きにして香奈を見た。
「……半分は?」
「はい。ああいう人が女の子を調教して、までは本当に言ってました」
香奈がクスクス笑った。
「ちゃんと否定しといてね」
「大丈夫ですっ、どもりながら否定しておきましたよ!」
「おい」
巧がいつもより荒々しくツッコミを入れると、香奈が「やっぱり巧先輩は面白いです」と、くつくつと笑った。
2
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
彼女の浮気現場を目撃した日に学園一の美少女にお持ち帰りされたら修羅場と化しました
マキダ・ノリヤ
恋愛
主人公・旭岡新世は、部活帰りに彼女の椎名莉愛が浮気している現場を目撃してしまう。
莉愛に別れを告げた新世は、その足で数合わせの為に急遽合コンに参加する。
合コン会場には、学園一の美少女と名高い、双葉怜奈がいて──?
貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
最愛の幼馴染みと親友に裏切られた俺を救ってくれたのはもう一人の幼馴染みだった
音の中
恋愛
山岸優李には、2人の幼馴染みと1人の親友がいる。
そして幼馴染みの内1人は、俺の大切で最愛の彼女だ。
4人で俺の部屋で遊んでいたときに、俺と彼女ではないもう一人の幼馴染み、美山 奏は限定ロールケーキを買いに出掛けた。ところが俺の凡ミスで急遽家に戻ると、俺の部屋から大きな音がしたので慌てて部屋に入った。するといつもと様子の違う2人が「虫が〜〜」などと言っている。能天気な俺は何も気付かなかったが、奏は敏感に違和感を感じ取っていた。
これは、俺のことを裏切った幼馴染みと親友、そして俺のことを救ってくれたもう一人の幼馴染みの物語だ。
--
【登場人物】
山岸 優李:裏切られた主人公
美山 奏:救った幼馴染み
坂下 羽月:裏切った幼馴染みで彼女。
北島 光輝:裏切った親友
--
この物語は『NTR』と『復讐』をテーマにしています。
ですが、過激なことはしない予定なので、あまりスカッとする復讐劇にはならないかも知れません。あと、復讐はかなり後半になると思います。
人によっては不満に思うこともあるかもです。
そう感じさせてしまったら申し訳ありません。
また、ストーリー自体はテンプレだと思います。
--
筆者はNTRが好きではなく、純愛が好きです。
なので純愛要素も盛り込んでいきたいと考えています。
小説自体描いたのはこちらが初めてなので、読みにくい箇所が散見するかも知れません。
生暖かい目で見守って頂けたら幸いです。
ちなみにNTR的な胸糞な展開は第1章で終わる予定。
寝取られて裏切った恋人への復讐
音の中
恋愛
【あらすじ】
彼との出会いは中学2年生のクラス替え。
席が隣同士だったのがきっかけでお話をするようになったんだよね。
彼とはドラマ鑑賞という共通の趣味があった。
いつも前日に見たドラマの感想を話していたのが懐かしいな。
それから徐々に仲良くなって付き合えた時は本当に嬉しかったよ。
この幸せはずっと続く。
その時はそう信じて疑わなかったな、あの日までは。
【注意】
・人を不快にさせる小説だと思います。
・けど小説を書いてると、意外と不快にならないかも?という感覚になり麻痺してしまいます。
・素読みしてみたら作者のくせに思った以上にダメージくらいました。(公開して3日目の感想)
・私がこの小説を読んでたら多分作者に怒りを覚えます。
・ラブコメパートが半分を占めます。
・エロい表現もあります。
・ざまぁはありますが、殺したり、人格を壊して精神病棟行きなどの過激なものではありません。
・された側視点ではハッピーエンドになります。
・復讐が駆け足だと感じちゃうかも……
・この小説はこの間初めて読んでみたNTR漫画にムカついたので書きました。
・プロットもほぼない状態で、怒りに任せて殴り書きした感じです。
・だからおかしいところが散見するかも……。
・とりあえず私はもうNTR漫画とか読むことはないでしょう……。
【更新について】
・1日2回投稿します
・初回を除き、『7時』『17時』に公開します
※この小説は書き終えているのでエタることはありません。
※逆に言うと、コメントで要望があっても答えられない可能性がとても高いです。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
学年一の美少女で自慢の幼馴染が親友に寝取られたので復讐します!+ 【番外編】
山形 さい
恋愛
優斗には学年一の美少女の自慢の幼馴染、玲がいた。
彼女とは保育園の頃に「大人になったら結婚しよ」と約束し付き合う優斗だったが。
ある日、親友の翔吾に幼馴染を寝取られている現場を目にする。
そこで、優斗は誓った。玲よりさらに可愛い女子と付き合って言おうと「お前とは結婚しない」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる