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第一章
第114話 合宿一日目 〜場違い〜
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「——中学校生活最後にして最大の、魔法に注力できる機会です。クラスを超えて互いに切磋琢磨し、実りある合宿にしましょう」
通り一遍の挨拶を終え、シャーロットは一歩下がって頭を下げた。
特にノアやエリアの前では威厳も何もないだろうが、一応生徒会長としての務めは果たさなければならない。
「久しぶりにまともなお姉ちゃんを見た気がするなぁ。格好良かったよ!」
「うるさいです」
出立式が終わって早々に絡んできたエリアの脳天をチョップする。
「いてっ……最後褒めたじゃん!」
「終わりよければすべてよし、なんて甘ったれた思考は私には通じませんから」
「ストイック! そんなお姉ちゃんもいい! ねっ、ノア」
「何を言っているのさ、エリア。シャルに良くないところなんて一つも存在しないよ」
「っ……」
「おおー!」
ノアの軽口にシャーロットは息を呑み、エリアは拍手をした。
エリアがニマニマとシャーロットを見る。
「あ——」
「うるさいです」
「まだ何も言ってないのにっ!」
エリアの満点のリアクションに、ノアやシャーロットだけでなく、そばにいたアッシャーやサミュエル、テオ、ハーバーのお馴染みになりつつある面子も一斉に笑った。
テオと「お前、リアクション芸人になれよ」「大出世すぎるでしょ」などと言葉を交わしているエリアを見て、シャーロットは頬を緩めた。
ルーカスから紹介された、グレースというWMUに属していない女性魔法師のもとで感知魔法を鍛えているという話は、彼女本人の口から聞いた。
そのときから、明らかに雰囲気が変わっている。
ちゃらんぽらんした態度は相変わらずだが、表情が違うのだ。
これまでのどこか達観したような、それでいて諦念を含んでいたような瞳も、ここ数日は影を潜めている。
そんな妹の成長が、シャーロットは素直に嬉しかった。
しかし、反対にシャーロットたちのクラスは全く成長していない。
元ジェームズ一派とそれ以外——ノア派とでも呼ぼうか——に完全に分離している。
お互いに歩み寄ろうともしなかったのだ。当然と言えば当然だろう。
しかし、これはこれでいいかとシャーロットは思っていた。
このクラスで過ごすのもあと二ヶ月弱なのだ。
無理に交わろうとする必要もないだろう。
だから、シャーロットはジェームズ一派に関してはほとんど気にしていなかった——アローラを除いて。
ノアに二度目の告白をして見事に玉砕してからというもの、彼女は再び全くと言っていいほど接触してこなくなった。
今度こそ諦めてくれたのならいい。
だが、妙に落ち着いた表情の彼女を見ていると、シャーロットの胸はざわついた。
「——大丈夫だよ」
不意に、左手に温かさを覚える。
ノアが手を握ってくれたのだ。
「僕がついてる。シャルが不安がる事は何もないから」
「……はい」
不思議なものだ。ただ言葉をかけられただけなのに、潮が引くように、ざわついていた心がスッと落ち着いた。
「……何、お前らイチャつかなきゃ死ぬ呪いにでもかかってんの?」
テオが呆れたような表情を浮かべていた。
他の者たちも概ね似たようなもので、ハーバーはすっかり頬を赤らめていた。
事情を知らない彼らからすれば、確かにただイチャついていたようにしか見えないだろう。
……事情を知っているはずのエリアも呆れたような表情になっていたが、シャーロットは華麗にスルーをした。
——バスに揺られること数時間。
人里離れた山の近くに、合宿所はあった。
宿は簡素なものだったが、修練場はさまざまな設備の整った、豪華なものだった。
部屋に荷物だけを置いた後、早速合宿が始まった。
あらかじめ選択していたコースごとに分かれ、修練をしていく。
普段は関わる事のない他クラスの生徒との交流は、実りの多いものだった。
部屋ごとに夕食と風呂を済ませれば、そこから消灯までは自由時間だ。
例によって集まった七人——ノア、アッシャー、サミュエル、テオ、ハーバー、エリア、そしてシャーロット——は、ラウンジの一角を陣取ってトランプをしていた。
最近七人の間でもっぱら流行っている大富豪を、雑談をしながら行っていた。
合宿という特別な体験の夜に、気の合う友人たちと遊ぶ。
楽しくないわけがなかった——その声が聞こえてくるまでは。
「見て。またいるよ、あの場違い」
「うわっ、本当だ」
「一人だけレベル合ってない事に気づいてないのかな」
「他の奴らもよく一緒にいるよね」
「あの胸で男子たぶらかしてんじゃないの?」
「うっわ、引くわー」
元ジェームズ一派の女子たちが、シャーロットたちを見て意地の悪い笑みを浮かべながら、ヒソヒソと話している。
ギリギリ聞こえる声で言っているのは、おそらく意図的だろう。
彼女たちは固有名詞を出していないが、他の全員がBランク以上の中で、一人だけEランクのハーバーの悪口を言っているのかは明らかだった。
「クズどもがっ……」
「サム、落ち着いて」
瞳に憎悪を宿らせて立ち上がろうとするサミュエルを、隣に座っていたノアが押さえた。
「落ち着いてなどいられるかっ、何も知らないくせに好き勝手言いやがって——」
「大丈夫……キレてるのは僕も同じだから」
「っ……!」
実際に言われたサミュエルだけではない。
シャーロットたちも、彼女たち以外も、ラウンジにいた全ての人間が息を呑んだ。
それほどの殺気を、ノアは放っていた。
彼がふっと頬を緩めると、同時に殺気も消えた。
ほぅ、と詰めていた息を吐き出す気配があちこちからした。
「ただ、ここで彼女らに怒りをぶつけても、失うだけで得られるものは何もないからね」
「……あぁ、わかっている」
サミュエルがどかっと腰を下ろした。
彼の剣幕に恐怖したのか、ノアが殺気を放つ以前に、女子たちはすっかり姿を消していた。
もしそれまでここにいたなら、立ち去る事などできていなかっただろう。
「ああいう輩は、こちらが反応しなければいずれ引き下がる。無視しよう」
「……正論だとはわかってっけど、納得はできねえな」
テオが吐き捨てるように言った。
彼は誰よりも真っ直ぐな人間だ、とエリアが真面目な表情で評していたし、それはシャーロットも同感だ。
ああいう陰湿なやり口が気に食わないのだろう。
「うん……そうだね」
アッシャーがゆっくりうなずいた。
テオと一緒で、納得できていないのは明らかだ。
そしてそれは、何も言葉を発していないシャーロットとエリアも同じだった。
口を開けば悪態を吐いてしまいそうで、あえて無言を貫いているのだ。
「皆、ごめんねっ……私のせいで——」
「それは違う」
悪口を言われていた張本人、ハーバーの表情は空気を悪くしてしまったという罪悪感で埋め尽くされ、瞳には涙が溜まっていた。
彼女の謝罪を、サミュエルが強い口調で遮った。
「勘違いするな。あくまで悪いのはあのクズどもだ。ハーバーに何も責任はないし、もちろん場違いなどでもない」
「でも、私だけランクも身分も低いのは事実だし——」
「そんなものは、時間を共にするか否かの判断材料にはならない」
「っ……!」
ハーバーが、ハッとした表情で顔を上げた。
「魔法という超人的な力があるからこそ、人とのつながりはより大事だ。それこそノアくらいの飛び抜けた実力の前では、俺たちは同じその他大勢だ。一人で何とかできる力もない。だから、少しばかり魔法が苦手だからといって気にする必要はない。これから覚醒する可能性だって十分にあるのだし、ハーバーは学校のテストでは測りきれない色々な知識も持っている。自信を持て……すまないな、ノア。本来なら、以前のお前にもこういう声かけをするべきだった」
「いや、全然いいよ。いいこと言うじゃん、サム」
「あぁ、いいこと言ったな。でもよ——」
「うん——」
ノアとテオとアッシャーが顔を見合わせた。
彼らは口を揃えて、
「「「クサい、セリフが」」」
「なっ……!」
サミュエルの顔が真っ赤に染まった。
三人の息の合いっぷりに半分感心、半分呆れつつも、シャーロットはその流れに乗っかる事にした。
「なかなかの名言でしたね」
「いやぁ、なんかこう、ブルってきたよ」
エリアもニマニマと笑っている。
「うん。確かにクサかったよ」
「ハーバーッ、お前まで——」
「でも嬉しかった。ありがとう、サミュエル君。すごく励みになったよ」
「っ……フン」
サミュエルがあらぬ方向に目を向けて、鼻を鳴らした。
一見そっけない態度だが、ただ恥ずかしがっているだけなのは、夕陽に照らされているかのように赤く染まっている耳を見ればわかった。
もうすっかり陽は落ちているため、元々その言い訳も使えないが。
「皆もありがとね。怒ってくれて」
「いいって事よ、親友!」
エリアがハーバーの肩を抱いた。
「えぇ、ハーバーは大切な友人ですから」
「あんなの気にしなくていいからね」
「そうそう。ハーバーの凄さは俺らがわかってるから」
「ぶっ飛ばしてほしいなら言えよ? 俺らでタコ殴りにしてやっから」
「それはやめてね」
テオの物騒な発言にツッコミを入れつつ、ハーバーはくすぐったそうに笑った。
「んじゃまあ、再開すっか。サムが大貧民な」
「おい、おかしいだろう。俺は平民だったはずだ」
テオの提案に、サミュエルがすかさず抗議の声を上げるが、
「だね」
「天才じゃん」
「はい」
「テオにしては妙案だ」
「さ、賛成」
「最大多数の最大幸福だよ、ベンサム」
ノアが上手い事を言いつつ、サミュエルの肩をポンポンと叩いた。
「……チッ。まあいいだろう。すぐに都から引きずりおろしてやる。大富豪は誰だ?」
「あっ、私」
「……やはり、一歩一歩確実に這い上がっていくべきだろう」
ハーバーが大富豪である事がわかって、サミュエルが気まずそうな表情で手のひらを返した。
彼以外の六人全員が吹き出した。
その後は、誰かに絡まれる事はなかった。
一度アローラが通りかかったが、彼女は視線を向けてくる事もなければ表情を変える事すらなく、何食わぬ顔で通り過ぎていった。
通り一遍の挨拶を終え、シャーロットは一歩下がって頭を下げた。
特にノアやエリアの前では威厳も何もないだろうが、一応生徒会長としての務めは果たさなければならない。
「久しぶりにまともなお姉ちゃんを見た気がするなぁ。格好良かったよ!」
「うるさいです」
出立式が終わって早々に絡んできたエリアの脳天をチョップする。
「いてっ……最後褒めたじゃん!」
「終わりよければすべてよし、なんて甘ったれた思考は私には通じませんから」
「ストイック! そんなお姉ちゃんもいい! ねっ、ノア」
「何を言っているのさ、エリア。シャルに良くないところなんて一つも存在しないよ」
「っ……」
「おおー!」
ノアの軽口にシャーロットは息を呑み、エリアは拍手をした。
エリアがニマニマとシャーロットを見る。
「あ——」
「うるさいです」
「まだ何も言ってないのにっ!」
エリアの満点のリアクションに、ノアやシャーロットだけでなく、そばにいたアッシャーやサミュエル、テオ、ハーバーのお馴染みになりつつある面子も一斉に笑った。
テオと「お前、リアクション芸人になれよ」「大出世すぎるでしょ」などと言葉を交わしているエリアを見て、シャーロットは頬を緩めた。
ルーカスから紹介された、グレースというWMUに属していない女性魔法師のもとで感知魔法を鍛えているという話は、彼女本人の口から聞いた。
そのときから、明らかに雰囲気が変わっている。
ちゃらんぽらんした態度は相変わらずだが、表情が違うのだ。
これまでのどこか達観したような、それでいて諦念を含んでいたような瞳も、ここ数日は影を潜めている。
そんな妹の成長が、シャーロットは素直に嬉しかった。
しかし、反対にシャーロットたちのクラスは全く成長していない。
元ジェームズ一派とそれ以外——ノア派とでも呼ぼうか——に完全に分離している。
お互いに歩み寄ろうともしなかったのだ。当然と言えば当然だろう。
しかし、これはこれでいいかとシャーロットは思っていた。
このクラスで過ごすのもあと二ヶ月弱なのだ。
無理に交わろうとする必要もないだろう。
だから、シャーロットはジェームズ一派に関してはほとんど気にしていなかった——アローラを除いて。
ノアに二度目の告白をして見事に玉砕してからというもの、彼女は再び全くと言っていいほど接触してこなくなった。
今度こそ諦めてくれたのならいい。
だが、妙に落ち着いた表情の彼女を見ていると、シャーロットの胸はざわついた。
「——大丈夫だよ」
不意に、左手に温かさを覚える。
ノアが手を握ってくれたのだ。
「僕がついてる。シャルが不安がる事は何もないから」
「……はい」
不思議なものだ。ただ言葉をかけられただけなのに、潮が引くように、ざわついていた心がスッと落ち着いた。
「……何、お前らイチャつかなきゃ死ぬ呪いにでもかかってんの?」
テオが呆れたような表情を浮かべていた。
他の者たちも概ね似たようなもので、ハーバーはすっかり頬を赤らめていた。
事情を知らない彼らからすれば、確かにただイチャついていたようにしか見えないだろう。
……事情を知っているはずのエリアも呆れたような表情になっていたが、シャーロットは華麗にスルーをした。
——バスに揺られること数時間。
人里離れた山の近くに、合宿所はあった。
宿は簡素なものだったが、修練場はさまざまな設備の整った、豪華なものだった。
部屋に荷物だけを置いた後、早速合宿が始まった。
あらかじめ選択していたコースごとに分かれ、修練をしていく。
普段は関わる事のない他クラスの生徒との交流は、実りの多いものだった。
部屋ごとに夕食と風呂を済ませれば、そこから消灯までは自由時間だ。
例によって集まった七人——ノア、アッシャー、サミュエル、テオ、ハーバー、エリア、そしてシャーロット——は、ラウンジの一角を陣取ってトランプをしていた。
最近七人の間でもっぱら流行っている大富豪を、雑談をしながら行っていた。
合宿という特別な体験の夜に、気の合う友人たちと遊ぶ。
楽しくないわけがなかった——その声が聞こえてくるまでは。
「見て。またいるよ、あの場違い」
「うわっ、本当だ」
「一人だけレベル合ってない事に気づいてないのかな」
「他の奴らもよく一緒にいるよね」
「あの胸で男子たぶらかしてんじゃないの?」
「うっわ、引くわー」
元ジェームズ一派の女子たちが、シャーロットたちを見て意地の悪い笑みを浮かべながら、ヒソヒソと話している。
ギリギリ聞こえる声で言っているのは、おそらく意図的だろう。
彼女たちは固有名詞を出していないが、他の全員がBランク以上の中で、一人だけEランクのハーバーの悪口を言っているのかは明らかだった。
「クズどもがっ……」
「サム、落ち着いて」
瞳に憎悪を宿らせて立ち上がろうとするサミュエルを、隣に座っていたノアが押さえた。
「落ち着いてなどいられるかっ、何も知らないくせに好き勝手言いやがって——」
「大丈夫……キレてるのは僕も同じだから」
「っ……!」
実際に言われたサミュエルだけではない。
シャーロットたちも、彼女たち以外も、ラウンジにいた全ての人間が息を呑んだ。
それほどの殺気を、ノアは放っていた。
彼がふっと頬を緩めると、同時に殺気も消えた。
ほぅ、と詰めていた息を吐き出す気配があちこちからした。
「ただ、ここで彼女らに怒りをぶつけても、失うだけで得られるものは何もないからね」
「……あぁ、わかっている」
サミュエルがどかっと腰を下ろした。
彼の剣幕に恐怖したのか、ノアが殺気を放つ以前に、女子たちはすっかり姿を消していた。
もしそれまでここにいたなら、立ち去る事などできていなかっただろう。
「ああいう輩は、こちらが反応しなければいずれ引き下がる。無視しよう」
「……正論だとはわかってっけど、納得はできねえな」
テオが吐き捨てるように言った。
彼は誰よりも真っ直ぐな人間だ、とエリアが真面目な表情で評していたし、それはシャーロットも同感だ。
ああいう陰湿なやり口が気に食わないのだろう。
「うん……そうだね」
アッシャーがゆっくりうなずいた。
テオと一緒で、納得できていないのは明らかだ。
そしてそれは、何も言葉を発していないシャーロットとエリアも同じだった。
口を開けば悪態を吐いてしまいそうで、あえて無言を貫いているのだ。
「皆、ごめんねっ……私のせいで——」
「それは違う」
悪口を言われていた張本人、ハーバーの表情は空気を悪くしてしまったという罪悪感で埋め尽くされ、瞳には涙が溜まっていた。
彼女の謝罪を、サミュエルが強い口調で遮った。
「勘違いするな。あくまで悪いのはあのクズどもだ。ハーバーに何も責任はないし、もちろん場違いなどでもない」
「でも、私だけランクも身分も低いのは事実だし——」
「そんなものは、時間を共にするか否かの判断材料にはならない」
「っ……!」
ハーバーが、ハッとした表情で顔を上げた。
「魔法という超人的な力があるからこそ、人とのつながりはより大事だ。それこそノアくらいの飛び抜けた実力の前では、俺たちは同じその他大勢だ。一人で何とかできる力もない。だから、少しばかり魔法が苦手だからといって気にする必要はない。これから覚醒する可能性だって十分にあるのだし、ハーバーは学校のテストでは測りきれない色々な知識も持っている。自信を持て……すまないな、ノア。本来なら、以前のお前にもこういう声かけをするべきだった」
「いや、全然いいよ。いいこと言うじゃん、サム」
「あぁ、いいこと言ったな。でもよ——」
「うん——」
ノアとテオとアッシャーが顔を見合わせた。
彼らは口を揃えて、
「「「クサい、セリフが」」」
「なっ……!」
サミュエルの顔が真っ赤に染まった。
三人の息の合いっぷりに半分感心、半分呆れつつも、シャーロットはその流れに乗っかる事にした。
「なかなかの名言でしたね」
「いやぁ、なんかこう、ブルってきたよ」
エリアもニマニマと笑っている。
「うん。確かにクサかったよ」
「ハーバーッ、お前まで——」
「でも嬉しかった。ありがとう、サミュエル君。すごく励みになったよ」
「っ……フン」
サミュエルがあらぬ方向に目を向けて、鼻を鳴らした。
一見そっけない態度だが、ただ恥ずかしがっているだけなのは、夕陽に照らされているかのように赤く染まっている耳を見ればわかった。
もうすっかり陽は落ちているため、元々その言い訳も使えないが。
「皆もありがとね。怒ってくれて」
「いいって事よ、親友!」
エリアがハーバーの肩を抱いた。
「えぇ、ハーバーは大切な友人ですから」
「あんなの気にしなくていいからね」
「そうそう。ハーバーの凄さは俺らがわかってるから」
「ぶっ飛ばしてほしいなら言えよ? 俺らでタコ殴りにしてやっから」
「それはやめてね」
テオの物騒な発言にツッコミを入れつつ、ハーバーはくすぐったそうに笑った。
「んじゃまあ、再開すっか。サムが大貧民な」
「おい、おかしいだろう。俺は平民だったはずだ」
テオの提案に、サミュエルがすかさず抗議の声を上げるが、
「だね」
「天才じゃん」
「はい」
「テオにしては妙案だ」
「さ、賛成」
「最大多数の最大幸福だよ、ベンサム」
ノアが上手い事を言いつつ、サミュエルの肩をポンポンと叩いた。
「……チッ。まあいいだろう。すぐに都から引きずりおろしてやる。大富豪は誰だ?」
「あっ、私」
「……やはり、一歩一歩確実に這い上がっていくべきだろう」
ハーバーが大富豪である事がわかって、サミュエルが気まずそうな表情で手のひらを返した。
彼以外の六人全員が吹き出した。
その後は、誰かに絡まれる事はなかった。
一度アローラが通りかかったが、彼女は視線を向けてくる事もなければ表情を変える事すらなく、何食わぬ顔で通り過ぎていった。
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