上 下
107 / 132
第一章

第107話 諦めたと思っていた

しおりを挟む
「……ごめん……」

 十分ほどして泣き止んだハーバーの頬は真っ赤だった。
 中学三年生が友達の前で大泣きしたのだ。恥ずかしいのだろう。

「気にしないで。私の周りにもね、いるんだよ。中学三年生なのに大泣きしたのが、しかも二人もね。その二人は今はカップルなんだけど——」
「え、エリアっ!」

 自分の事を言われているのだと気づき、シャーロットは慌てて妹の口を塞ぎにかかった。
 その行為は、大泣きしたのが自分とノアであると高らかに宣言したようなものだった。

「シャーロットちゃんもノアも泣くんだ……なんか意外かも」
「人間、誰だって泣きたくなる時はあるものですよ」
「私は全然ないもんね」
「エリアだって……確かにほとんどないですね」
「ほらね?」

 エリアがドヤ顔を浮かべた。
 なんだか悔しいが、中学生、いや、少なくとも小学校高学年になってから、エリアが泣いているのを見た記憶は、ほとんどシャーロットにはなかった。
 せいぜい、ノアとシャーロットがケラベルスに襲われた後や、命の危機に瀕していたノアが助かった時など、大きな事件が起こった時くらいだ。

「ハーバー。お姉ちゃんは関わりが深くなるほど意外な一面が出てくるからね。噛めば噛むほどってやつだから、覚悟しときな?」
「人をお米みたいに言わないでください」
「うん……でも、皆の中でもちょっとずつイメージは変わってきてるよ。最近、今まで以上に教室でノアとよくイチャついてるしね」
「あらら~?」

 ニマニマと見てくるエリアに対し、「あなたが発案者でしょう」とシャーロットは言い返したくなった。
 アローラがノアに接触してきた話をエリアにもしたところ、「だったら、学校でもこれまで以上にイチャついて、アローラが入り込む隙なんてない事を証明したらいいじゃん」と提案してきたのだ。

 とは言っても、軽いスキンシップ程度しか行っていないため、シャーロットは自分たちがそんなにイチャついているという認識は持ち合わせていなかったのだが、それを言うとハーバーが口をへの字に曲げた。

「……シャーロットちゃん。それ本気?」
「えっ? ……そ、そんなになのですか?」
「うん。二人の空気が甘すぎるから、お菓子を食べる気分じゃなくなってダイエットになってるって子、冗談抜きに続出してるくらい」
「はあ……」

 ハーバーの言葉はさすがに誇張だろうが、そう言われるほどだった事、何より無自覚だった事が恥ずかしい。
 シャーロットの頬が熱を持った。

「……まあ、見てて温かい気分にはなれるから別にいいんだけどね。あれ見たら、間違っても二人の間に割って入ろうとする人なんていないと思う」
「……そうですか」

 結果的に目的が達成できているようなので、それならいいか、とシャーロットは思い直した。
 そして、自分たちが集まった本来の目的も、同時に思い出した。

「それより二人とも。勉強しましょう、勉強」
「あっ、やばっ、そうだった!」
「ごめん、私のせいで……」
「そうだよ。ハーバーのおっぱいがデカすぎるのが悪いんだ」
「お、おっぱいは関係ないよっ!」
「うるさいですよ、二人とも。今はおっぱいではなく脳に栄養を回してください」
「なるほど、そういう事か! 前回のテスト順位は私たち三人だと、上からお姉ちゃん、私、ハーバー……おっぱいに栄養が行き過ぎると逆に脳には栄養が——あいたぁっ⁉︎」

 馬鹿らしい考察を展開し始めたエリアの頭を、シャーロットは容赦なく叩いた。
 本気で痛がるエリアは放っておき、呆気に取られているハーバーに視線を向ける。

「ハーバー。あんな事を言われて悔しくないですか?」
「く、悔しいです」

 ハーバーは親に怒られている子供のように、頬を引きつらせながらガクガクと頷いた。
 彼女は、思いもよらず暴力的だったシャーロットにすっかり怯えてしまっていた。

「なら、私たち二人でエリアをぶっ倒しましょうっ」
「は、はい!」

 ハーバーが元気よく返事をして、勉強に取り掛かる。

 彼女に気づかれないように、シャーロットとエリアは笑みを交わした。
 エリアは少し涙目だったが。



◇   ◇   ◇



「あー、終わった……」

 定期テスト最終日。
 全ての筆記試験を終え、僕は自席で大きく伸びをした。

「お疲れ様です、ノア君」
「シャルもお疲れー」

 隣の席に座るシャルの頭を撫でれば、彼女は嬉しそうに目を細めた。

 二人きりの時ほどではないが、僕とシャルは学校でもちょっとしたスキンシップくらいは行っていた。
 それは意識してやるものも無意識に出てしまうものもあったが、アローラが接触してきて以降は、エリアから提案されて意識的なものを増やした。
 サミュエルやテオから「胸焼けするから控えてくれ」と真顔で文句を言われるくらいには、イチャついた。

 アローラはあの一回以降、全く接触して来なかったし、素振りすら見せなかった。
 今日も、テストが終わり次第、誰とも会話をせずに速攻帰っている。

 僕と復縁してクラス内での地位を高めようとしていたが、僕たちの仲を見て可能性はないと諦めた——。
 状況的には、そう考えるのが合理的なんだろうな。

「どうだった?」
「やった分の成果は出せたかな、という感じですね。ノア君は?」
「僕もそうだね。変なケアレスとかしてなければ」
「今回こそは私が勝つんですから、全然解答欄ずれていたりしても構いませんよ」
「いやあ、空欄にしたところはないから、その可能性はないんじゃないかな」
「余裕がムカつきます」
「痛い痛い」

 脇腹をつねられていると、昇降口にたどり着く。

「ん? 何これ」

 靴の上に、一枚の紙切れがあった。

「どうしたのですか?」
「手紙……みたいなのがあった?」
「えっ……告白?」
「まさか」

 二つ折りにされている手紙を開ける。
 そこには、やけに綺麗な字でこう書かれていた。

『ノア君へ 話したい事があります。一人で今日の午後八時に⚪︎⚪︎公園に来てください アローラ』
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

クラスの双子と家族になりました。~俺のタメにハーレム作るとか言ってるんだがどうすればいい?~

いーじーしっくす
恋愛
ハーレムなんて物語の中の事。自分なんかには関係ないと思っていた──。 橋本悠聖は普通のちょっとポジティブな陰キャ。彼女は欲しいけど自ら動くことはなかった。だがある日、一人の美少女からの告白で今まで自分が想定した人生とは大きくかわっていく事になった。 悠聖に告白してきた美少女である【中村雪花】。彼女がした告白は嘘のもので、父親の再婚を止めるために付き合っているフリをしているだけの約束…の、はずだった。だが、だんだん彼に心惹かれて付き合ってるフリだけじゃ我慢できなくなっていく。 互いに近づく二人の心の距離。更には過去に接点のあった雪花の双子の姉である【中村紗雪】の急接近。冷たかったハズの実の妹の【奈々】の危険な誘惑。幼い頃に結婚の約束をした従姉妹でもある【睦月】も強引に迫り、デパートで助けた銀髪の少女【エレナ】までもが好意を示し始める。 そんな彼女達の歪んだ共通点はただ1つ。 手段を問わず彼を幸せにすること。 その為だけに彼女達は周りの事など気にせずに自分の全てをかけてぶつかっていく! 選べなければ全員受け入れちゃえばいいじゃない! 真のハーレムストーリー開幕! この作品はカクヨム等でも公開しております。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...