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第一章
第43話 シャーロットの悩み
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サター星の接近は、非友好的な星である可能性も相まって話題になったが、それはあくまで新鮮な話題を欲しがる人間の習性によるものであって、本当に危機感を覚えたスーア星の人間は少なかった。
シャーロットも例に漏れなかった。
十二月に入っても、接近まで一ヶ月を切ったんだな、という程度の感想しか抱かなかった。
というより、もはやサター星の事など忘れていた。
それ以上に大切なイベント——ノアの誕生日が二週間後に迫っていたからだ。
人間主義者の襲撃後に一時は溝ができてしまっていたが、それが埋まると、ノアとシャーロットの関係はより深まっていた。
具体的にいうと、スキンシップの量と濃度が上がった。
さすがにキスやエッチな事はしていないが、手を繋いだり頭を撫でたりは当たり前。
最近では、ハグもそれなりの回数をするようになったし、互いにマッサージをし合ったりもした。
ここまでくれば、さすがのシャーロットも確信した。
自分とノアが両想いである事を。
ノアは良識的な人物だ。
いくら偽カップルを演出するためとはいえ、好きでもない異性に頻繁にハグをするような節操のない人ではない。
最近では、早くお付き合いしたいなー、と毎晩のように思っている。
しかし、シャーロットも女の子だ。
できればノアの方から告白してほしいという思いがある。
そうなると、誕生日プレゼントも慎重に選ぶ必要がある。
明確な好意を伝えずに、それでいて軽くないものだ。
「アクセサリー、財布、日用品……」
散々悩んだ結果、自分では最適解がわからなかったため、シャーロットは双子の妹であるエリアに相談する事にした。
◇ ◇ ◇
話を聞いたエリアは、
(数多のカップルよりもよほどイチャイチャしているくせに、今さら明確な好意を伝えないもクソもあるか)
と思ったが、人の恋路を邪魔するつもりはないので口には出さなかった。
「そもそも私、男の子に誕生日プレゼントを渡すのも初めてですし……」
お姉ちゃんの眉は下がり切っている。
ほとほと困りきっている様子だ。
エリアとしても協力したいのは山々なのだが、
「私もお菓子とか飲み物とかしかあげた事ないから、よくわかんないんだよねー」
エリア自身にも、彼氏や好きな人に誕生日プレゼントを贈った経験がないため、アドバイスが難しかった。
「お菓子とかでは軽すぎますよね」
「まあねー……あっ、なら、実際に男の子に聞いてみればいいんじゃない?」
「いえ、まあ、それも考えたのですが、あまりそういう事を聞けるような方が思い浮かばなくて……」
「あーね」
確かに、お姉ちゃんはこれまでなるべく人付き合いを避けてきた。
いきなり「誕生日に何欲しい?」なんて気軽に聞ける相手はいないだろう。
「なら、私の方で聞いてみようか?」
一人だけ心当たりがあったのでそう提案してみると、お姉ちゃんは「ぜひお願いします!」と瞳を輝かせた。
我が姉ながら、とても可愛かった。
ほぼ同じ顔のはずなのに、エリアにここまで純粋無垢な笑顔は浮かべられない。
すごいなとも思うし、純粋に羨ましくもあった。
「つまり、気持ちは込めたいけどあまり重すぎないものがいいって事だな?」
「そそ」
テオの確認に、エリアは頷いた。
気軽に相談できそうな男子を脳内検索した時、真っ先にヒットしたのが彼だった。
表向きはノアとお姉ちゃんは恋仲という事になっているので、少し話は改編したが、ニュアンスは正しく伝わっただろう。
「無骨なテオと紳士なノアの感性が同じだとは思わないけど、参考程度に教えてよ」
「それ、頼む側の言葉か?」
「いいえ、仲介役の言葉よ」
「どっちにしろだろ」
テオが苦笑する。
いつもに比べて語気が少し弱いのは、同席しているお姉ちゃんに気を遣っているからだろう。
「すみません、テオさん。お手間をとらせてもらって」
「気にすんなって」
申し訳なさそうにするお姉ちゃんに対し、テオがヒラヒラと手を振った。
そして、真剣な表情で考え込む。
「文房具はちょっと軽すぎるよな……バックとか、服とかがアンパイかな。今の時期だと、マフラーとか手袋でも嬉しいんじゃねーか」
「なるほど、防寒具ですか……」
「あっ、それこそマフラーとか手袋とか、手編みしたらいいんじゃね? 特別感出るし」
「て、手編みですかっ?」
お姉ちゃんはびっくりしたような声を出した。
「あぁ。実用品で、気持ちも込められるだろ」
「一理あるね。やるじゃん、テオ」
「任せろ」
エリアはテオとハイタッチを交わした。
「とか言って、本当はただの自分の願望でしょ?」
「んだよ。男子の意見聞きたがってんだから、俺の願望を言うべきだろうが」
「ふむ、確かに」
悔しいが、エリアはすんなりと納得してしまった。
何かビビッとくるものがあったようだ。
その日から、お姉ちゃんはノアに気づかれないようにしつつ、マフラー作りに精を出し始めた。
◇ ◇ ◇
「……暇だなぁ」
とある日の放課後、僕は自室で教科書を眺めて頬杖をつきながら呟いた。
現在は十二月半ばだが、十二月に入ったあたりから、どうもシャルの様子がおかしい。
具体的に言うと、何か隠し事をしているようなのだ。
それに伴ってなのかどうかはわからないが、家に誘ってくれる頻度も減った。
今となっては両想いである事はほぼほぼ確信しているが、付き合ってはいない以上、こちらから強引に上がり込むわけにもいかない。
結果として、これまでよりもシャルと会う頻度が減ってしまっていた。
エリアに聞いてみると、「ノアを遠ざけているとか、他に男ができたとかじゃないから安心して」という言葉がウインクとともに返ってきた。
取りあえずは安心したが、それでも会えないのは寂しい。
学校では四六時中とまではいかないまでも、大体の時間をともに過ごしているし、それ以外でも全く会えないわけではないのに、この寂しさ。
「思った以上に愛が重いんだな、僕って」
自分で自分に苦笑する。
以前は本を読んでいれば時間を忘れられたが、今は恋愛シーンなどでシャルの顔が思い浮かんできて、現実に引き戻されてしまう。
悶々とした日々を過ごすうちに、気がつけば十二月十五日——僕の誕生日を迎えていた。
「誕生日おめでとう、ノア」
「おめでとう、もう十五歳か」
「うん、ありがとう。お義母さん、お義父さん」
朝、リビングに顔を出すと、両親からお祝いの言葉をいただいた。
「プレゼントやケーキは夜にしましょうか。大丈夫そう?」
「うん。シャルの家に寄ってくるけど、夕食までには帰るよ」
「あらっ、それなら多少は遅れても構わないわよ? ねぇ、あなた」
「そうだね。俺も時間ぴったりに帰れるかはわからないし」
義母のカミラはニマニマと悪い笑みを浮かべながら、義父のマーベリックは穏やかな笑みを口元にたたえてそんな事を言ってくる。
「ちゃんと時間通りに帰ってきます」
そうぶっきらぼうに言って、僕は飲み物を一気に飲み干した。
照れ隠しである事は、両親にもバレバレだっただろう。
学校に着くと、シャルとエリア、そしてアッシャーからお祝いの言葉をもらった。
シャルとエリアはなんだかんだで律儀な性格だから祝ってくれるだろうと思っていたが、アッシャーは意外だった。
性格や関係性的に、という事ではなく、そもそも彼とは誕生日に関する会話をした記憶がなかったからだ。
「僕、アッシャーに誕生日教えたっけ?」
「ううん。朝、たまたまシャーロットさんとエリアさんの会話が聞こえてきたから」
なるほど。そういう事か。
「ごめんね。急だったから、こんなものしか用意できなかったけど」
アッシャーが飲み物をくれた。
「ごめん、わざわざありがとう」
祝ってくれただけでも嬉しいのに、相変わらず人が良いな。
アッシャーの誕生日を聞き出すと、今年はすでに過ぎていた。
来年、何かしらのお返しをすると約束した。
彼女ら三人の他に僕の誕生日を知っているのは、おそらくアローラだけだ。
元カノである彼女とは実質絶縁状態なので、誕生日とはいえ、僕はほとんど普段と何も変わらない学校生活を送った。
そして放課後、エリアに車で拉致された。
シャーロットも例に漏れなかった。
十二月に入っても、接近まで一ヶ月を切ったんだな、という程度の感想しか抱かなかった。
というより、もはやサター星の事など忘れていた。
それ以上に大切なイベント——ノアの誕生日が二週間後に迫っていたからだ。
人間主義者の襲撃後に一時は溝ができてしまっていたが、それが埋まると、ノアとシャーロットの関係はより深まっていた。
具体的にいうと、スキンシップの量と濃度が上がった。
さすがにキスやエッチな事はしていないが、手を繋いだり頭を撫でたりは当たり前。
最近では、ハグもそれなりの回数をするようになったし、互いにマッサージをし合ったりもした。
ここまでくれば、さすがのシャーロットも確信した。
自分とノアが両想いである事を。
ノアは良識的な人物だ。
いくら偽カップルを演出するためとはいえ、好きでもない異性に頻繁にハグをするような節操のない人ではない。
最近では、早くお付き合いしたいなー、と毎晩のように思っている。
しかし、シャーロットも女の子だ。
できればノアの方から告白してほしいという思いがある。
そうなると、誕生日プレゼントも慎重に選ぶ必要がある。
明確な好意を伝えずに、それでいて軽くないものだ。
「アクセサリー、財布、日用品……」
散々悩んだ結果、自分では最適解がわからなかったため、シャーロットは双子の妹であるエリアに相談する事にした。
◇ ◇ ◇
話を聞いたエリアは、
(数多のカップルよりもよほどイチャイチャしているくせに、今さら明確な好意を伝えないもクソもあるか)
と思ったが、人の恋路を邪魔するつもりはないので口には出さなかった。
「そもそも私、男の子に誕生日プレゼントを渡すのも初めてですし……」
お姉ちゃんの眉は下がり切っている。
ほとほと困りきっている様子だ。
エリアとしても協力したいのは山々なのだが、
「私もお菓子とか飲み物とかしかあげた事ないから、よくわかんないんだよねー」
エリア自身にも、彼氏や好きな人に誕生日プレゼントを贈った経験がないため、アドバイスが難しかった。
「お菓子とかでは軽すぎますよね」
「まあねー……あっ、なら、実際に男の子に聞いてみればいいんじゃない?」
「いえ、まあ、それも考えたのですが、あまりそういう事を聞けるような方が思い浮かばなくて……」
「あーね」
確かに、お姉ちゃんはこれまでなるべく人付き合いを避けてきた。
いきなり「誕生日に何欲しい?」なんて気軽に聞ける相手はいないだろう。
「なら、私の方で聞いてみようか?」
一人だけ心当たりがあったのでそう提案してみると、お姉ちゃんは「ぜひお願いします!」と瞳を輝かせた。
我が姉ながら、とても可愛かった。
ほぼ同じ顔のはずなのに、エリアにここまで純粋無垢な笑顔は浮かべられない。
すごいなとも思うし、純粋に羨ましくもあった。
「つまり、気持ちは込めたいけどあまり重すぎないものがいいって事だな?」
「そそ」
テオの確認に、エリアは頷いた。
気軽に相談できそうな男子を脳内検索した時、真っ先にヒットしたのが彼だった。
表向きはノアとお姉ちゃんは恋仲という事になっているので、少し話は改編したが、ニュアンスは正しく伝わっただろう。
「無骨なテオと紳士なノアの感性が同じだとは思わないけど、参考程度に教えてよ」
「それ、頼む側の言葉か?」
「いいえ、仲介役の言葉よ」
「どっちにしろだろ」
テオが苦笑する。
いつもに比べて語気が少し弱いのは、同席しているお姉ちゃんに気を遣っているからだろう。
「すみません、テオさん。お手間をとらせてもらって」
「気にすんなって」
申し訳なさそうにするお姉ちゃんに対し、テオがヒラヒラと手を振った。
そして、真剣な表情で考え込む。
「文房具はちょっと軽すぎるよな……バックとか、服とかがアンパイかな。今の時期だと、マフラーとか手袋でも嬉しいんじゃねーか」
「なるほど、防寒具ですか……」
「あっ、それこそマフラーとか手袋とか、手編みしたらいいんじゃね? 特別感出るし」
「て、手編みですかっ?」
お姉ちゃんはびっくりしたような声を出した。
「あぁ。実用品で、気持ちも込められるだろ」
「一理あるね。やるじゃん、テオ」
「任せろ」
エリアはテオとハイタッチを交わした。
「とか言って、本当はただの自分の願望でしょ?」
「んだよ。男子の意見聞きたがってんだから、俺の願望を言うべきだろうが」
「ふむ、確かに」
悔しいが、エリアはすんなりと納得してしまった。
何かビビッとくるものがあったようだ。
その日から、お姉ちゃんはノアに気づかれないようにしつつ、マフラー作りに精を出し始めた。
◇ ◇ ◇
「……暇だなぁ」
とある日の放課後、僕は自室で教科書を眺めて頬杖をつきながら呟いた。
現在は十二月半ばだが、十二月に入ったあたりから、どうもシャルの様子がおかしい。
具体的に言うと、何か隠し事をしているようなのだ。
それに伴ってなのかどうかはわからないが、家に誘ってくれる頻度も減った。
今となっては両想いである事はほぼほぼ確信しているが、付き合ってはいない以上、こちらから強引に上がり込むわけにもいかない。
結果として、これまでよりもシャルと会う頻度が減ってしまっていた。
エリアに聞いてみると、「ノアを遠ざけているとか、他に男ができたとかじゃないから安心して」という言葉がウインクとともに返ってきた。
取りあえずは安心したが、それでも会えないのは寂しい。
学校では四六時中とまではいかないまでも、大体の時間をともに過ごしているし、それ以外でも全く会えないわけではないのに、この寂しさ。
「思った以上に愛が重いんだな、僕って」
自分で自分に苦笑する。
以前は本を読んでいれば時間を忘れられたが、今は恋愛シーンなどでシャルの顔が思い浮かんできて、現実に引き戻されてしまう。
悶々とした日々を過ごすうちに、気がつけば十二月十五日——僕の誕生日を迎えていた。
「誕生日おめでとう、ノア」
「おめでとう、もう十五歳か」
「うん、ありがとう。お義母さん、お義父さん」
朝、リビングに顔を出すと、両親からお祝いの言葉をいただいた。
「プレゼントやケーキは夜にしましょうか。大丈夫そう?」
「うん。シャルの家に寄ってくるけど、夕食までには帰るよ」
「あらっ、それなら多少は遅れても構わないわよ? ねぇ、あなた」
「そうだね。俺も時間ぴったりに帰れるかはわからないし」
義母のカミラはニマニマと悪い笑みを浮かべながら、義父のマーベリックは穏やかな笑みを口元にたたえてそんな事を言ってくる。
「ちゃんと時間通りに帰ってきます」
そうぶっきらぼうに言って、僕は飲み物を一気に飲み干した。
照れ隠しである事は、両親にもバレバレだっただろう。
学校に着くと、シャルとエリア、そしてアッシャーからお祝いの言葉をもらった。
シャルとエリアはなんだかんだで律儀な性格だから祝ってくれるだろうと思っていたが、アッシャーは意外だった。
性格や関係性的に、という事ではなく、そもそも彼とは誕生日に関する会話をした記憶がなかったからだ。
「僕、アッシャーに誕生日教えたっけ?」
「ううん。朝、たまたまシャーロットさんとエリアさんの会話が聞こえてきたから」
なるほど。そういう事か。
「ごめんね。急だったから、こんなものしか用意できなかったけど」
アッシャーが飲み物をくれた。
「ごめん、わざわざありがとう」
祝ってくれただけでも嬉しいのに、相変わらず人が良いな。
アッシャーの誕生日を聞き出すと、今年はすでに過ぎていた。
来年、何かしらのお返しをすると約束した。
彼女ら三人の他に僕の誕生日を知っているのは、おそらくアローラだけだ。
元カノである彼女とは実質絶縁状態なので、誕生日とはいえ、僕はほとんど普段と何も変わらない学校生活を送った。
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