上 下
43 / 132
第一章

第43話 シャーロットの悩み

しおりを挟む
 サター星の接近は、非友好的な星である可能性も相まって話題になったが、それはあくまで新鮮な話題を欲しがる人間の習性によるものであって、本当に危機感を覚えたスーア星の人間は少なかった。
 シャーロットも例に漏れなかった。
 十二月に入っても、接近まで一ヶ月を切ったんだな、という程度の感想しか抱かなかった。

 というより、もはやサター星の事など忘れていた。
 それ以上に大切なイベント——ノアの誕生日が二週間後に迫っていたからだ。

 人間主義者の襲撃後に一時はみぞができてしまっていたが、それが埋まると、ノアとシャーロットの関係はより深まっていた。
 具体的にいうと、スキンシップの量と濃度が上がった。

 さすがにキスやエッチな事はしていないが、手を繋いだり頭を撫でたりは当たり前。
 最近では、ハグもそれなりの回数をするようになったし、互いにマッサージをし合ったりもした。

 ここまでくれば、さすがのシャーロットも確信した。
 自分とノアが両想いである事を。

 ノアは良識的な人物だ。
 いくら偽カップルを演出するためとはいえ、好きでもない異性に頻繁ひんぱんにハグをするような節操のない人ではない。

 最近では、早くお付き合いしたいなー、と毎晩のように思っている。
 しかし、シャーロットも女の子だ。
 できればノアの方から告白してほしいという思いがある。

 そうなると、誕生日プレゼントも慎重に選ぶ必要がある。
 明確な好意を伝えずに、それでいて軽くないものだ。

「アクセサリー、財布、日用品……」

 散々悩んだ結果、自分では最適解がわからなかったため、シャーロットは双子の妹であるエリアに相談する事にした。



◇   ◇   ◇



 話を聞いたエリアは、

(数多のカップルよりもよほどイチャイチャしているくせに、今さら明確な好意を伝えないもクソもあるか)

 と思ったが、人の恋路を邪魔するつもりはないので口には出さなかった。

「そもそも私、男の子に誕生日プレゼントを渡すのも初めてですし……」

 お姉ちゃんの眉は下がり切っている。
 ほとほと困りきっている様子だ。
 エリアとしても協力したいのは山々なのだが、

「私もお菓子とか飲み物とかしかあげた事ないから、よくわかんないんだよねー」

 エリア自身にも、彼氏や好きな人に誕生日プレゼントを贈った経験がないため、アドバイスが難しかった。

「お菓子とかでは軽すぎますよね」
「まあねー……あっ、なら、実際に男の子に聞いてみればいいんじゃない?」
「いえ、まあ、それも考えたのですが、あまりそういう事を聞けるような方が思い浮かばなくて……」
「あーね」

 確かに、お姉ちゃんはこれまでなるべく人付き合いを避けてきた。
 いきなり「誕生日に何欲しい?」なんて気軽に聞ける相手はいないだろう。

「なら、私の方で聞いてみようか?」

 一人だけ心当たりがあったのでそう提案してみると、お姉ちゃんは「ぜひお願いします!」と瞳を輝かせた。
 我が姉ながら、とても可愛かった。
 ほぼ同じ顔のはずなのに、エリアにここまで純粋無垢な笑顔は浮かべられない。

 すごいなとも思うし、純粋に羨ましくもあった。



「つまり、気持ちは込めたいけどあまり重すぎないものがいいって事だな?」
「そそ」

 テオの確認に、エリアは頷いた。
 気軽に相談できそうな男子を脳内検索した時、真っ先にヒットしたのが彼だった。

 表向きはノアとお姉ちゃんは恋仲という事になっているので、少し話は改編したが、ニュアンスは正しく伝わっただろう。

「無骨なテオと紳士なノアの感性が同じだとは思わないけど、参考程度に教えてよ」
「それ、頼む側の言葉か?」
「いいえ、仲介役の言葉よ」
「どっちにしろだろ」

 テオが苦笑する。
 いつもに比べて語気が少し弱いのは、同席しているお姉ちゃんに気を遣っているからだろう。

「すみません、テオさん。お手間をとらせてもらって」
「気にすんなって」

 申し訳なさそうにするお姉ちゃんに対し、テオがヒラヒラと手を振った。
 そして、真剣な表情で考え込む。

「文房具はちょっと軽すぎるよな……バックとか、服とかがアンパイかな。今の時期だと、マフラーとか手袋でも嬉しいんじゃねーか」
「なるほど、防寒具ですか……」
「あっ、それこそマフラーとか手袋とか、手編みしたらいいんじゃね? 特別感出るし」
「て、手編みですかっ?」

 お姉ちゃんはびっくりしたような声を出した。

「あぁ。実用品で、気持ちも込められるだろ」
「一理あるね。やるじゃん、テオ」
「任せろ」

 エリアはテオとハイタッチを交わした。

「とか言って、本当はただの自分の願望でしょ?」
「んだよ。男子の意見聞きたがってんだから、俺の願望を言うべきだろうが」
「ふむ、確かに」

 悔しいが、エリアはすんなりと納得してしまった。



 何かビビッとくるものがあったようだ。
 その日から、お姉ちゃんはノアに気づかれないようにしつつ、マフラー作りに精を出し始めた。



◇   ◇   ◇



「……暇だなぁ」

 とある日の放課後、僕は自室で教科書を眺めて頬杖をつきながら呟いた。
 現在は十二月半ばだが、十二月に入ったあたりから、どうもシャルの様子がおかしい。
 具体的に言うと、何か隠し事をしているようなのだ。

 それに伴ってなのかどうかはわからないが、家に誘ってくれる頻度も減った。
 今となっては両想いである事はほぼほぼ確信しているが、付き合ってはいない以上、こちらから強引に上がり込むわけにもいかない。
 結果として、これまでよりもシャルと会う頻度が減ってしまっていた。

 エリアに聞いてみると、「ノアを遠ざけているとか、他に男ができたとかじゃないから安心して」という言葉がウインクとともに返ってきた。
 取りあえずは安心したが、それでも会えないのは寂しい。

 学校では四六時中とまではいかないまでも、大体の時間をともに過ごしているし、それ以外でも全く会えないわけではないのに、この寂しさ。

「思った以上に愛が重いんだな、僕って」

 自分で自分に苦笑する。
 以前は本を読んでいれば時間を忘れられたが、今は恋愛シーンなどでシャルの顔が思い浮かんできて、現実に引き戻されてしまう。

 悶々とした日々を過ごすうちに、気がつけば十二月十五日——僕の誕生日を迎えていた。



「誕生日おめでとう、ノア」
「おめでとう、もう十五歳か」
「うん、ありがとう。お義母さん、お義父さん」

 朝、リビングに顔を出すと、両親からお祝いの言葉をいただいた。

「プレゼントやケーキは夜にしましょうか。大丈夫そう?」
「うん。シャルの家に寄ってくるけど、夕食までには帰るよ」
「あらっ、それなら多少は遅れても構わないわよ? ねぇ、あなた」
「そうだね。俺も時間ぴったりに帰れるかはわからないし」

 義母のカミラはニマニマと悪い笑みを浮かべながら、義父のマーベリックは穏やかな笑みを口元にたたえてそんな事を言ってくる。

「ちゃんと時間通りに帰ってきます」

 そうぶっきらぼうに言って、僕は飲み物を一気に飲み干した。
 照れ隠しである事は、両親にもバレバレだっただろう。



 学校に着くと、シャルとエリア、そしてアッシャーからお祝いの言葉をもらった。
 シャルとエリアはなんだかんだで律儀な性格だから祝ってくれるだろうと思っていたが、アッシャーは意外だった。

 性格や関係性的に、という事ではなく、そもそも彼とは誕生日に関する会話をした記憶がなかったからだ。

「僕、アッシャーに誕生日教えたっけ?」
「ううん。朝、たまたまシャーロットさんとエリアさんの会話が聞こえてきたから」

 なるほど。そういう事か。

「ごめんね。急だったから、こんなものしか用意できなかったけど」

 アッシャーが飲み物をくれた。

「ごめん、わざわざありがとう」

 祝ってくれただけでも嬉しいのに、相変わらず人が良いな。
 アッシャーの誕生日を聞き出すと、今年はすでに過ぎていた。
 来年、何かしらのお返しをすると約束した。



 彼女ら三人の他に僕の誕生日を知っているのは、おそらくアローラだけだ。
 元カノである彼女とは実質絶縁状態なので、誕生日とはいえ、僕はほとんど普段と何も変わらない学校生活を送った。

 そして放課後、エリアに車で拉致された。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

クラスの双子と家族になりました。~俺のタメにハーレム作るとか言ってるんだがどうすればいい?~

いーじーしっくす
恋愛
ハーレムなんて物語の中の事。自分なんかには関係ないと思っていた──。 橋本悠聖は普通のちょっとポジティブな陰キャ。彼女は欲しいけど自ら動くことはなかった。だがある日、一人の美少女からの告白で今まで自分が想定した人生とは大きくかわっていく事になった。 悠聖に告白してきた美少女である【中村雪花】。彼女がした告白は嘘のもので、父親の再婚を止めるために付き合っているフリをしているだけの約束…の、はずだった。だが、だんだん彼に心惹かれて付き合ってるフリだけじゃ我慢できなくなっていく。 互いに近づく二人の心の距離。更には過去に接点のあった雪花の双子の姉である【中村紗雪】の急接近。冷たかったハズの実の妹の【奈々】の危険な誘惑。幼い頃に結婚の約束をした従姉妹でもある【睦月】も強引に迫り、デパートで助けた銀髪の少女【エレナ】までもが好意を示し始める。 そんな彼女達の歪んだ共通点はただ1つ。 手段を問わず彼を幸せにすること。 その為だけに彼女達は周りの事など気にせずに自分の全てをかけてぶつかっていく! 選べなければ全員受け入れちゃえばいいじゃない! 真のハーレムストーリー開幕! この作品はカクヨム等でも公開しております。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...