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第三章『不穏』~古より紡がれし負の片鱗~

幸希の目覚めと、淡き蕾の悲しみ

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 ――Side 幸希


「……ぁ」

 深い眠りの奥に委ねていた意識が、ゆっくりと……、現実の世界へと還っていく。
 額に……、誰かの手の温もりが感じられるけれど、これは……、誰?
 瞼を開くと、部屋の中の灯りは消されていて、サイドテーブルの淡い光だけが頼りとなっていた。
 
「……ここは」

「ユキちゃんの部屋だよ。おはよう、良く眠っていたね」

 暗闇の方から、壁に背を預けていた誰か……、ガデルフォーンの騎士団長、サージェスさんが片手をひらひらと振って、こちらへと近寄って来た。
 私の寝台の右側に腰かけ、目覚めの具合はどうだいと優しく問いかけてくる。

「私……」

「アレク君の部屋でうっかり眠っちゃってたみたいでね。ルイちゃんが君を引き取って、部屋まで運んでくれたんだよ」

「ルイヴェルさんが……」

 ぼんやりとサージェスさんの話を聞いていた私は、じゃあ、この額に触れている手は……、と、視線を左側へと移動させた。
 ……椅子に座った状態のルイヴェルさんが、サイドテーブルに頬杖を着いて、寝てる? いつも目にしている知の気配を湛える深緑の双眸は、瞼の奥だ。
 ルイヴェルさんが眠っているところを見るのは、これで二度目。
 
「さっきまで起きてたんだけどねー。護衛は俺が交代するからって言ったんだけど、ユキちゃんの事が心配みたいでさ。何が起きても良いようにここにいるって、……頑固だよねー」

「そう、……だったんですか」

「だけど、昨夜からずっと徹夜だったからね。俺がいる間は仮眠をとるように勧めておいたんだよ。少しでも寝ておかないと、いざとなった時に、ルイちゃん自身が後悔するだろうしね」

 規則正しい寝息が、ルイヴェルさんの唇から聞こえてくる……。
 
「あ、そうだ。ユキちゃん、お腹空かない? 夕食の時間はもう終わっちゃったから、簡単な物しか用意できないけど」

「ありがとうございます。でも、今夜はやめておきます。……それより、あの」

「ん?」

「……アレクさんは、今、どうしているんでしょうか?」

 彼の胸の内を聞いた後、扉を挟んで互いの気配を感じていたはずだけど、私は途中で眠りに落ちてしまったようだ。
 あの後、アレクさんが扉の向こうで何を思っていたのか、今、どんな気持ちでいるのか……。私はそれが気になって、サージェスさんに聞いてみた。

「アレク君はねー、外」

「え?」

「ユキちゃんの部屋の扉の外。入ればいいって言ったんだけどね、自分は今、ユキちゃんにとって有害だからって、中に入ろうとしないんだよ」

「アレクさん……」

 たった一枚の扉ひとつ、その境界線を越える事を拒んでいるアレクさん……。
 全ては、私を傷付けてしまう事を恐れているから、なのだろう。
 
(きっとまだ、自分の中で抱え込んで、一人で苦しんでる気がする……)

「真面目すぎるよね、……あの子」

「え?」

 私の寝台に腰かけているサージェスさんが、その右手を伸ばしシーツの上に流れ落ちている私の髪をひと房掬い上げた。
 それを指先で弄りながら、苦笑を滲ませて言葉を続ける。

「君を大好きだって気持ちが溢れすぎていて……、悪い意味で真面目すぎ」

「サージェスさん……?」

「皇子君の方は、自分の感情に素直な子だからね。気に入らない事があれば文句を言うし、噛みついてもくる。好きな子に対しても、遠慮なく喧嘩だってしちゃう」

「……」

 本当に、正反対の子達に好かれたね、と、サージェスさんは私に微笑む。
 私を傷付けないようにと、自分に枷をつけて必死に紳士的に振る舞おうとするアレクさん。普段は気のおける友人のような顔をしていても、しっかりと恋愛感情を抱いている事を私に伝えようと明確な意思を示してくるカインさん……。
 
「皇子君は、いつも自然体なんだよ。だから、必要以上にストレスを溜め込まない。だけどね……、副団長君は、君の事を気遣いすぎて、脆くなってしまっているんだよ」

「脆く……?」

「うん。相手の事を思い遣るのは、とても大切な事だけどね。そればかりに気を遣っていると、……自分が壊れちゃうんだ。たとえ相手と想いを交わせていなくても、好きな事に変わりはない。君を前にしていれば、好きな子に触れたいと、自分の想いを絶えず感じ続けてほしいと、好きになればなるほど……、ね」

「……」

 視線を胸元に寄せて困惑していると、髪に触れていたサージェスさんの指先が離れ、頬をプにぷにと摘ままれてしまった。

「サージェスさん?」

「柔らかいね。赤ちゃんみたいにぷにぷにだ。無垢でまっさらで、……ルイちゃんでなくても、過保護になっちゃうよね。ねぇ、ユキちゃん、君って、今幾つだっけ?」

「……今年で、二十歳になりました」

「ははっ、二十歳かー……。狼王族でいえば、少女期だった、かな? じゃあ、ユキちゃんをアレク君が必要以上に気遣うのもわかる気がするね」

「年齢が……、関係、あるんですか?」

 目をパチパチと瞬いて聞いてみると、サージェスさんはこくりと頷きを寄越して来た。ふぅ……、と、今度は別の方向を一度見て小さな溜息を零し、また私に視線を戻してくる。

「アレク君にとっては、君はうんと年下の女の子で、守るべきお姫様だからね。外部の悪意や敵から守り通す他に、自分からも守らなきゃって思ってるんじゃないかなー」

「……私を、アレクさんから?」

「恋愛経験がそれなりにあって、大人の付き合いが出来る相手ならまだ話は別だけど、ユキちゃんは、年齢的にも少女のようなものだ。心だって、俺達より……、とっても幼い」

 困ったなぁ……、とでも言うかのような表情で笑うサージェスさんが、私の顎に指先を移動させ、子猫の喉元を撫でるかのように、私のそれを擽ってきた。

「な、何やってるんですか、サージェスさんっ」

「アレク君も苦労するなーと、思ってね。あ、さっきの話だけど、俺が何を言いたいかっていうと、アレク君は、ユキちゃんに対して、我慢しすぎて、万年よっきゅ――ぐふっ!!」

「え?」

 何か良く分からない事を言おうとしたサージェスさんの顔に、突然ゲシッ!! と、長い足が顔面目がけて繰り出されてきた。
 多分、少し身を乗り出して、寝ている私の傍に顔を寄せていたからこそ入った、一撃。そして、それを繰り出した人物は、考えなくてもわかる。

「ルイヴェルさん……?」

 いつ目を覚ましたのか、不機嫌そうな気配を漂わせながら、サージェスさんの顔にグリグリと踵をめりこませている王宮医師様……。な、何て事をっ。
 
「ユキに余計な事を吹き込むな。お前は黙って護衛に徹していろ」

「る、ルイちゃん、容赦なさすぎだねー。アイタタタ……。あぁ、俺の言い方が悪かったんだよね、うん、わかってるよー。つい、下品な事を言おうとしちゃったよ、謝ります、ごめんなさい」

「ユキ(これ)におかしな事を吹き込めば、俺だけでなく、レイフィード陛下をはじめ、父親であるユーディス殿下にもにらまれる事になるぞ」
 
 ギロリと凄味を利かせてルイヴェルさんがサージェスさんに釘を刺すように睨みつけると、サージェスさんは身体を後ろに引いて、蹴りを入れられた顔を撫でさすった。

「それは流石に勘弁かなー。えーと、ユキちゃん、ごめんね? さっきの俺の発言、ちょっと訂正させて貰うね」

「は、はい」

「俺がアレク君について言いたかった事はね、まぁ、我慢のしすぎは良くないって事と、心のバランスをとらせた方が良いって事かな。両想いだったら、まだ話は早いんだけどねー……。俺の見立てだと、アレク君と皇子君両方に想いを寄せられてるでしょ?」

「……はい」

「しかも、まだ答えは出してない感じだし……。ユキちゃんとしては、二人分の想いって、結構きついよね? そのせいで、変な風に悩んだりしてない?」

「え……」

「サージェス……」

 もう一度ルイヴェルさんの睨みを受けたサージェスさんだったけれど、私を寝台から上半身だけ支えながら起こすと、背中に大きなクッションを挟んでくれた。
 そして、私の両手を優しくその手に包み込む。

「さっきさ、アレク君の部屋で眠っている君を見付けた時、……泣いてたよね?」

「……っ」

「アレク君は、君を困らせて、傷付けてしまった……、って、後悔してたよ。自分の欲で、ユキちゃんを穢しそうになってしまった、てね。君が流していた涙は、……そのせい? 何かされそうになって、怖かったから?」

 サージェスさんの静かな問いに、私は首を振る。
 違う、私が流していた涙は……。

「……アレクさんのせいじゃ、ありません。私、自身の……、せいなんです」

 俯いて毛布を握り締めると、和らいでいたはずの胸の奥の苦しみが、急速に痛みを伴って私の心を苛み始めた。
 アレクさんとカインさん、……二人が私に向けてくれる想いの大きさを自覚する度に、彼らが抱えている葛藤や辛さを知る度に、……私の中に、痛みが増えていく。
 それは、嫌悪という類の感情ではなく、……想われる事への恐れのようなものなのかもしれない。

「私……、わからなくなってきたんです」

 最初は、想いを向けてくれる二人に、早く答えを返さないと……、って、思っていたけれど。私の心の中で、そよそよと揺れている二つの蕾のどちらかが色づき、開花したその時……。

「怖く、なったんです。私の中にある想いが確かなものになった時、……どちらかを、傷付けてしまう事が」

 大切な人を、失くしてしまう日が……、来ることに、気付いた。
 二人分の想いが欲しいわけじゃない。ただ……、きっと私が選んだ答えは、アレクさんとカインさんのどちらかとの別れを意味している気がして。
 私がどちらかを選ぶ事になれば、……私は友人を失ってしまう。そう思えた。

「そっか……。アレク君と皇子君は……、幸せだね」

「え?」

「好きな子に、こんなに気遣われて……、羨ましいよ」

「サージェスさん、良い風に解釈しないでくださいっ。私は、二人を……、傷付けて、それで……、自分自身が傷付く事を恐れているだけなんです。どちらかを選んだら、大切な友人まで失ってしまう気がして……っ」

 サージェスさんに弱音を吐き出したって仕方ないのに……。
 私はポロポロとまた涙を零しながら嗚咽混じりに自分の感情を言葉にしていた。
 一番身勝手なのは私、醜くて浅ましい……、優柔不断な自分。
 私の中にはまだ、誰かを傷付けてでも手にしたい感情が存在しない。
 恋をして傷付く事、大切な人を失う事、その覚悟を……。
 
「いっそ……、友人同士の関係なら、何も失わないで済むんじゃないかって、そう思い始めたら、……どんどん自分にとっての逃げ道を探し始めていました」

「ユキちゃんは……、恋よりも、二人との友情を選びたいの?」

「……」

 恋なんてしたくない。そんなものがなければ、誰も傷付けないで済む。
 アレクさんとカインさんを、二人を失わずに済む、。
 だけど、それが無理な相談である事は、……私が一番良く知っている。

「私が……、相手に向けている想いをなかった事にされたら、きっと、……悲しくて、辛くて……。二度と、その人の顔を見れなくなってしまうと思います」

 知らなかった事にされるのは、目を背けられてしまったら、……きっと。

「すみません……。私、まだ……、自分の中が色々ごちゃごちゃしすぎていて……」

「お前もアレクも……、難しく考えすぎだ」

「うんうん、真面目なとこは共通点だよねー」

 自己嫌悪と、これからどう二人に向き合えば良いのかを、胸の痛みと共に俯いて考えていると……。頭の上と、毛布を握り締めて震えていた手に、……温かなぬくもりが触れてきた。

「お子様のお前には、確かに荷が重いだろうが……」

 私の頭を優しく撫でてくれたルイヴェルさんが、寝台の向こうへと向かうと、

 ――ドサッ!!

「か、カインさん!?」

 ルイヴェルさんがその後ろ首の部分を鷲掴み、私の方へと放り投げてきたのは、漆黒の髪の青年……。気まずそうな表情を浮かべた、――カインさんだった。
 え? え? どうして、私の部屋にカインさんが!?

「……よぉ」

「あ、……えっと」

 今までの話を聞かれていたのだろうかと顔を青ざめさせていると、今度は扉の方にルイヴェルさんが足を伸ばし、その外にいたアレクさんを無理矢理部屋に引き摺りこんで、私の前へと立たせた。

「アレク、お前も話を聞いていただろう? 俺達は狼王族だからな……、耳は人より遥かに良い」

「ルイ……」

「君達のお姫様がお困りみたいなんだけど、――泣かせた責任取ったらどうかなー?」

「……」

 サージェスさんが私に向けていた優しい笑みを掻き消すと、アレクさんとカインさんを、ただならぬ気配を込めてひと睨みし、また口許を微笑ませた。

「あの、……何で、カインさんはここに?」

「レイルもいるぞ。あっちの方で、寝台に背中預けて寝てる。お前の事が心配で、全員でここにいる事にしたんだけどよ。俺も途中で眠くなって……、気付いたら、なんか、お前が面倒な事ぐだぐだ悩んじまってるし」

「き、聞いていたんですか……?」

「聞いたっつーか、聞こえたんだよ……。ったく、余計な事気にしやがって……。はぁ……」

 寝台に乗り上がったカインさんが、頭を掻いて、私にずいっと顔を寄せてきた。
 お、怒って……、る? 眉間に寄った皺、私を射抜く真紅の瞳は確実に怒っているとしか思えない。

「あのな、お前……。何度言やぁ、わかんだろうなぁ……。前のガーデンパーティーの時もそうだったが、どんだけ真面目すぎなんだよ。余計な事にばっかり意識向けやがって。その上、今度は何だ? 俺と番犬野郎を傷付けるのが怖い? どっちか選んだら、どっちか失っちまうのが嫌だ? ふざけんなよ……!!」

「うっ……」

「お前は一人しかいねぇんだから、そん中にある想いだって、一人にしか向けられねぇだろ。俺か番犬野郎、もしかしたら、別の誰かに向いちまう可能性もあるんだ」

「そうそう。お子様と真面目君よりも、俺とかどうかなー? ユキちゃんの事、すっごく大事にしちゃうよー」

「テメェは黙ってろ!! この茶化し要員が!!」

 カインさんに凄まれながら怒鳴られていると、椅子に座り直していたサージェスさんが場の空気をぶち壊すように爽やかな冗談を挟み込んでくる。

「ったく……。はぁ、つまりだな。俺も番犬野郎も、お互いにいつかお前が選んだ答えで傷付く事は覚悟してんだよ。それでもな、……傷付いても良いって思えるほど、お前の事が」

「え……、きゃあ!!」

 真剣な気配を漂わせて近付いて来たカインさんの顔が、横に移動したかと思った瞬間。ガリッと耳朶にピリリとした強い痛みが生じ、私は悲鳴を上げた。
 ぺろりと濡れた舌先の感触が耳朶を這うと、低く熱い音が……。

「好きで好きで……、堪んねぇんだよ。――ユキ」

「!!!!!!!!!!!!」

 な、ななななななな、何て事をするんですかああああああああああ!!
 囁かれた声音は少し掠れていて、心臓に悪いって問題のものじゃなかった!!
 前に告白された時よりも、カインさんの私に対する想いが強くなっているのがわかる。強く……、強く……、深いところにまで響いてくるその音に、私の心臓は破裂寸前と言ってもいい。

「俺達が出会ったあの日から、お前が俺の想いってやつを育ててくれたんだ。自分の人生投げ捨て状態だった俺に、大切なモンをくれたお前は、すげぇ奴だと思う。お前の事を考える度に、目の前で笑うお前の姿を見る度に、いいや、笑顔でなくても、俺に対して怒って暴れるお前も、全部全部……」

「か、カインさんっ、あ、あのっ、……きゃっ」

 嬉しそうに微笑んだカインさんが、私の額へとキスを捧げ、また顔の前に視線を戻してきた。カインさんに触れられた額が、囁かれた耳が、彼の言葉のひとつひとつが……。一度目の告白の時よりも大きな想いとなって、私の心に降り注ぐ。

「好きだ、って、何度言っても足りない。俺が知らないお前の顔や感情を、もっと近くで全部知っていきたい。そんで、俺の想いで、お前の中にある真っさらな心を、俺への想いだけで塗り潰してやりたい。いつもそう思ってるんだよ。だけどな……、傷付く覚悟だって、ちゃんと最初から持ってる」

「カインさん……」

「番犬野郎だって、それは同じはずだ。好きになればなるだけ、胸の奥がどうしようもなく熱くなるし幸せになってく。けど、それと同時に……、お前が将来、別の男を選んだ時を思うと、醜い嫉妬心や絶望感に苛まれる事だってあるんだよ。当然だけどな……」

 そこで自嘲めいた小さな笑いを零すと、カインさんが私の髪を指先で梳いて、額同士を合わせてくる。私は、さっきのカインさんからの不意打ちのような耳への囁きと、目の前の真剣な想いから、身体を動かす事も出来ずに、彼の真紅にだけ囚われてしまう。

「諦めちまえば、きっと一気に楽にはなれるんだろうが、何度考えても、俺はそんな事が出来るほど器用じゃねぇし、そんな軽い気持ちなんかじゃないって事は、自分がよくわかってるんだ」

「か、カイン、さん……」

 だから……、俺は、たとえ傷付くような未来が待っているとしても、お前を想う気持ちを捨てるぐらいなら、最後まで足掻く道を選ぶ。最後の最後まで、お前の事を好きだっていうこの気持ちをお前に伝え続けて、それで、……最終的にお前が別の男を選んだとしたら」

 全力を尽くして破れる恋ならば、それはそれで悔いがなくて良いじゃないかと、カインさんは額を一度離し、またコツンとぶつけて、微笑んだ。
 迷いのない……、自分の気持ちに正直な、カインさんの瞳。
 翻弄されていた私の鼓動が、意識が、彼の想いに共鳴し……。
 心の中でそよそよと揺れている蕾のひとつに、淡い色を灯らせていく気がした。

「……俺達がそんな風に最初から覚悟してるってのに、お前って奴は……、本当、俺達が知らない所で変な事気にして悩んでるとはなぁ」

「ご、ごめんなさい……」

「後で説教と仕置きは確定だな。もう俺達がいない所で、勝手に面倒な考えに振り回されねぇように、俺がしっかりと……、な?」

「な、ななななっ、カインさんっ、何をする気なんですか!!」

「俺もお前に対しては、常日頃から抑え込んでるモンが色々あるしな。この機会に、俺以外の事を考えられねぇように、全部ぶつけちまうのもあり……、ちっ」

 動揺する私を面白がるように、カインさんが真紅の瞳に危うげな色香を滲ませた。
 私の顎を指先で持ち上げ、親指で唇の表面をなぞる。
 吐息が触れるほど近くに感じたカインさんの存在が、私の背中に冷汗が伝うのと同時に、勢いよく向こう側へと引き戻された。

「ユキに、……触れるな」

 カインさんの肩を掴み、ぐっと後ろに引き戻して怒り心頭の声を発していたのは、――怖い顔をしているアレクさんだった。

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