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第三章『遊学』~魔竜の集う国・ガデルフォーン~
眠る前のひととき
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『ユキ、すまない……っ。俺が同行出来なかったばかりにっ』
「あ、アレクさん……」
慌ただしかった一日も終わりを迎え、さぁ寝よう、とベッドに入った途端に発動した通信道具。
寝る際に外してテーブルに置いておいた黄色い石と水晶の石がはめ込まれているブレスレットの許に向かった私は、通信を開始した瞬間に悲壮感漂う大迫力の謝罪を受ける事になってしまった。
お風呂上りなのか、夜着姿のアレクさんの顔には洗ったばかりらしき銀の髪が肌にはりついている。あぁ、水滴がポタポタと。
「あの……、何で急に謝ってるんですか?」
開口一番、大罪を犯したかのように苦悩の顔で謝り始めたアレクさん。
もしかして……、セレスフィーナさんから色々と聞いてしまったのだろうか。
と思ったら、王宮医務室内にいるアレクさんの隣へと、居合わせていたらしいロゼリアさんが身を乗り出してきた。
『申し訳ありません、ユキ姫様……。私とセレスフィーナ殿が話しているところに副団長が来てしまいまして』
『ユキ姫様の事を話しておりましたので、その流れで……。はぁ、アレク、少しは落ち着いてちょうだい』
あぁ、なるほど……。それでこんな事に。
テーブルに握り込んだ拳を乱暴に打ち付けながら血の涙を流している……、ように見えたアレクさんだったけど、女性陣の努力の甲斐あって、ようやく落ち着いてくれた。
『本当にすまなかった……、ユキ。俺がついていれば、清らかなお前の身に触手のような下種を近づける事は』
「い、いえ、それはルイヴェルさんに助けて頂きましたし、もう不快感も消えていますから大丈夫ですよ。アレクさんが責任を感じる事なんて」
『そこだ』
「はい?」
カインさんの時以外で珍しくその額に青筋を立てて強い怒りを滲ませたアレクさんが、身体を震わせながら続きを口にする。
あれ、……なんだかまた嫌な予感が。
『保護者を自称してお前について行ったというのに、なんなんだあの体たらくは……。本当にユキを守る覚悟があるのなら、徹底的に守り抜くべきだろう……。あの役立たずな竜には何の期待もしていないが、信じていたからこそ、ルイの罪は許せないんだ』
「つ、罪って、そんな大げさな……。アレクさん? アレクさ~ん、聞いてますか~?」
『完全に自己嫌悪とルイヴェル殿への八つ当たり的な怒りが強すぎるせいで聞いていませんね……。ユキ姫様の御前だというのに』
ブツブツとルイヴェルさんに対する恨み言がわかりやすい音量で聞こえてくる。
触手の件だけでなく、どうやら私がセレスフィーナさんに話した皇都での出来事も全部把握してしまっているらしく、アレクさんからはルイヴェルさんを呪い殺すかのような恐ろしい気配が……。
あ、ロゼリアさんとセレスフィーナさんが呆れて距離を取り始めた。
『まだルイは起きているな。朝まで説教をしてやる……っ』
「あ、アレクさん、それはやめましょうっ。睡眠妨害というか、ルイヴェルさんはちゃんと私の事を守ってくれていますから!! そ、それに、心配のし過ぎは良くないですよ!!」
騎士団でのお仕事疲れがプラスされているせいか、ちょっとした事にまで反応が過剰になっているアレクさんを懸命に宥める。
う~ん、アレクさんの場合、私が受けた傷やショックを自分の中で何倍にも膨れ上がらせてしまう傾向が強いというか、少しずつでもそれを改善して貰わないと。
下手をしたら、幼馴染同士だという副団長様と王宮医師様の仲に亀裂を入れてしまいかねないっ。
「と、ところで、お仕事の方はどうですか? お忙しいのなら、もう休んだ方が」
――って、あ。私の言葉を聞いたアレクさんが、一気に寂しそうなわんちゃんテイストになってしまった! 多分、自分が迷惑に思われているとか、追い払われかけているとか、そういう勘違いをしているに違いない!!
むしろ、私よりもアレクさんの方が繊細なんじゃないかなぁ……。
セレスフィーナさんとロゼリアさんも、生温かい目でしゅんとしているアレクさんを眺めている。
『アレク、そうやってすぐに悪い方へ考えてしまうのは駄目よ。度が過ぎると、心優しいユキ姫様とはいえ、限界が来てしまうわ』
『セレスフィーナ殿の言う通りです。ユキ姫様に対してだけ自信を失う癖をいい加減にどうにかなさってください。情けないネガティブな駄目男だと、いつか捨てられてしまいますよ』
『す、すまない……。気を付ける』
言葉は穏やかだけど、鋭い光を宿した女性陣二人からの精神的大打撃を受けたアレクさんが、その場で狼の姿に変化し、しゅぅぅぅぅんと、さっき以上に落ち込んでしまった。
もっふもふの銀毛を纏っている狼さんが、お耳と尻尾を悲しげにへにゃんと垂れさせてゆく。
あぁっ、今すぐに抱き締めて頭を撫でてあげたい衝動がっ。
『駄目だな、俺は……。恋をすると臆病になるという話の通り、ユキに対しては酷く情けなくなってしまう』
「アレクさん……」
普段はテキパキと騎士団のお仕事をこなすアレクさんだけど、本当に私の事になると、カインさんに対して怒りやすくなるし、過保護の度合いも日々強くなるばかり……。
当然、自分の責任を感じずにはいられないわけだけど、このままだと心配のし過ぎでアレクさんが倒れてしまう気がするので、少しでも安心させる為に言葉を重ね続ける。
「確かに大変な事もいっぱいありそうですけど、騎士団のお仕事を頑張っているアレクさんに負けないように、一か月間頑張ってみますから、心配するよりも、信じてくれませんか?」
『ユキ……』
「アレクさんが私の事を信じて待ってくれているのなら、もっと頑張れそうな気がするんです」
紡ぐ言葉は本当の事。いつも私の事を守ってくれるアレクさんを、少しずつでも成長して、いつか安心させてあげられるように、私は私に出来る事を頑張りたい。
心配されるよりも、信じて貰い続ける。それが、何よりも力になるから。
「それと、何度も言ってる事ですけど、私はアレクさんを心から信じていますし、嫌いになんて絶対にありません。だから、落ち込む必要なんてないんですよ。ね?」
『良かったですね、副団長。ユキ姫様がここまで仰ってくださるとは……、世界一の果報者ですよ』
『あぁ……。俺は本当に、幸せ者だ』
人の姿に戻ると、アレクさんは片手の中に顔を隠して、喜びに打ち震え始めた。
ほっ……。良かった、これで少しはアレクさんの心を支える事が出来たかな。
『さぁ、アレク。そろそろ通信を終えましょう。ユキ姫様の明日の為に』
『あぁ……。ユキ、有難う。これからはお前を心配し過ぎるよりも、お前を信じて、その力となれるように俺は心を尽くそう。……おやすみ、ユキ』
『はい。おやすみなさい。アレクさん、セレスフィーナさん、ロゼリアさん』
光が薄らぎ、やがてブレスレットの中にそれが消え入ると、私は小さく息を吐き立ち上がった。
本番は明日から……。ガデルフォーン皇国について学び、一か月間で沢山の事を吸収出来る様に、自分なりに頑張っていこう。
アレクさんを始めとしたウォルヴァンシア王国の皆さんが私の事を信じて送り出してくれたその心に報いる事が出来る様に。――精一杯、自分に出来る事をする。
私は自分への励ましを込めて両手を持ち上げてそれを握り締めると、笑顔を浮かべてベッドへと戻った。
「あ、アレクさん……」
慌ただしかった一日も終わりを迎え、さぁ寝よう、とベッドに入った途端に発動した通信道具。
寝る際に外してテーブルに置いておいた黄色い石と水晶の石がはめ込まれているブレスレットの許に向かった私は、通信を開始した瞬間に悲壮感漂う大迫力の謝罪を受ける事になってしまった。
お風呂上りなのか、夜着姿のアレクさんの顔には洗ったばかりらしき銀の髪が肌にはりついている。あぁ、水滴がポタポタと。
「あの……、何で急に謝ってるんですか?」
開口一番、大罪を犯したかのように苦悩の顔で謝り始めたアレクさん。
もしかして……、セレスフィーナさんから色々と聞いてしまったのだろうか。
と思ったら、王宮医務室内にいるアレクさんの隣へと、居合わせていたらしいロゼリアさんが身を乗り出してきた。
『申し訳ありません、ユキ姫様……。私とセレスフィーナ殿が話しているところに副団長が来てしまいまして』
『ユキ姫様の事を話しておりましたので、その流れで……。はぁ、アレク、少しは落ち着いてちょうだい』
あぁ、なるほど……。それでこんな事に。
テーブルに握り込んだ拳を乱暴に打ち付けながら血の涙を流している……、ように見えたアレクさんだったけど、女性陣の努力の甲斐あって、ようやく落ち着いてくれた。
『本当にすまなかった……、ユキ。俺がついていれば、清らかなお前の身に触手のような下種を近づける事は』
「い、いえ、それはルイヴェルさんに助けて頂きましたし、もう不快感も消えていますから大丈夫ですよ。アレクさんが責任を感じる事なんて」
『そこだ』
「はい?」
カインさんの時以外で珍しくその額に青筋を立てて強い怒りを滲ませたアレクさんが、身体を震わせながら続きを口にする。
あれ、……なんだかまた嫌な予感が。
『保護者を自称してお前について行ったというのに、なんなんだあの体たらくは……。本当にユキを守る覚悟があるのなら、徹底的に守り抜くべきだろう……。あの役立たずな竜には何の期待もしていないが、信じていたからこそ、ルイの罪は許せないんだ』
「つ、罪って、そんな大げさな……。アレクさん? アレクさ~ん、聞いてますか~?」
『完全に自己嫌悪とルイヴェル殿への八つ当たり的な怒りが強すぎるせいで聞いていませんね……。ユキ姫様の御前だというのに』
ブツブツとルイヴェルさんに対する恨み言がわかりやすい音量で聞こえてくる。
触手の件だけでなく、どうやら私がセレスフィーナさんに話した皇都での出来事も全部把握してしまっているらしく、アレクさんからはルイヴェルさんを呪い殺すかのような恐ろしい気配が……。
あ、ロゼリアさんとセレスフィーナさんが呆れて距離を取り始めた。
『まだルイは起きているな。朝まで説教をしてやる……っ』
「あ、アレクさん、それはやめましょうっ。睡眠妨害というか、ルイヴェルさんはちゃんと私の事を守ってくれていますから!! そ、それに、心配のし過ぎは良くないですよ!!」
騎士団でのお仕事疲れがプラスされているせいか、ちょっとした事にまで反応が過剰になっているアレクさんを懸命に宥める。
う~ん、アレクさんの場合、私が受けた傷やショックを自分の中で何倍にも膨れ上がらせてしまう傾向が強いというか、少しずつでもそれを改善して貰わないと。
下手をしたら、幼馴染同士だという副団長様と王宮医師様の仲に亀裂を入れてしまいかねないっ。
「と、ところで、お仕事の方はどうですか? お忙しいのなら、もう休んだ方が」
――って、あ。私の言葉を聞いたアレクさんが、一気に寂しそうなわんちゃんテイストになってしまった! 多分、自分が迷惑に思われているとか、追い払われかけているとか、そういう勘違いをしているに違いない!!
むしろ、私よりもアレクさんの方が繊細なんじゃないかなぁ……。
セレスフィーナさんとロゼリアさんも、生温かい目でしゅんとしているアレクさんを眺めている。
『アレク、そうやってすぐに悪い方へ考えてしまうのは駄目よ。度が過ぎると、心優しいユキ姫様とはいえ、限界が来てしまうわ』
『セレスフィーナ殿の言う通りです。ユキ姫様に対してだけ自信を失う癖をいい加減にどうにかなさってください。情けないネガティブな駄目男だと、いつか捨てられてしまいますよ』
『す、すまない……。気を付ける』
言葉は穏やかだけど、鋭い光を宿した女性陣二人からの精神的大打撃を受けたアレクさんが、その場で狼の姿に変化し、しゅぅぅぅぅんと、さっき以上に落ち込んでしまった。
もっふもふの銀毛を纏っている狼さんが、お耳と尻尾を悲しげにへにゃんと垂れさせてゆく。
あぁっ、今すぐに抱き締めて頭を撫でてあげたい衝動がっ。
『駄目だな、俺は……。恋をすると臆病になるという話の通り、ユキに対しては酷く情けなくなってしまう』
「アレクさん……」
普段はテキパキと騎士団のお仕事をこなすアレクさんだけど、本当に私の事になると、カインさんに対して怒りやすくなるし、過保護の度合いも日々強くなるばかり……。
当然、自分の責任を感じずにはいられないわけだけど、このままだと心配のし過ぎでアレクさんが倒れてしまう気がするので、少しでも安心させる為に言葉を重ね続ける。
「確かに大変な事もいっぱいありそうですけど、騎士団のお仕事を頑張っているアレクさんに負けないように、一か月間頑張ってみますから、心配するよりも、信じてくれませんか?」
『ユキ……』
「アレクさんが私の事を信じて待ってくれているのなら、もっと頑張れそうな気がするんです」
紡ぐ言葉は本当の事。いつも私の事を守ってくれるアレクさんを、少しずつでも成長して、いつか安心させてあげられるように、私は私に出来る事を頑張りたい。
心配されるよりも、信じて貰い続ける。それが、何よりも力になるから。
「それと、何度も言ってる事ですけど、私はアレクさんを心から信じていますし、嫌いになんて絶対にありません。だから、落ち込む必要なんてないんですよ。ね?」
『良かったですね、副団長。ユキ姫様がここまで仰ってくださるとは……、世界一の果報者ですよ』
『あぁ……。俺は本当に、幸せ者だ』
人の姿に戻ると、アレクさんは片手の中に顔を隠して、喜びに打ち震え始めた。
ほっ……。良かった、これで少しはアレクさんの心を支える事が出来たかな。
『さぁ、アレク。そろそろ通信を終えましょう。ユキ姫様の明日の為に』
『あぁ……。ユキ、有難う。これからはお前を心配し過ぎるよりも、お前を信じて、その力となれるように俺は心を尽くそう。……おやすみ、ユキ』
『はい。おやすみなさい。アレクさん、セレスフィーナさん、ロゼリアさん』
光が薄らぎ、やがてブレスレットの中にそれが消え入ると、私は小さく息を吐き立ち上がった。
本番は明日から……。ガデルフォーン皇国について学び、一か月間で沢山の事を吸収出来る様に、自分なりに頑張っていこう。
アレクさんを始めとしたウォルヴァンシア王国の皆さんが私の事を信じて送り出してくれたその心に報いる事が出来る様に。――精一杯、自分に出来る事をする。
私は自分への励ましを込めて両手を持ち上げてそれを握り締めると、笑顔を浮かべてベッドへと戻った。
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