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~番外編・レアンドル×ブランシュ~
公爵様の蜜愛と、無垢なる天使の戸惑い1◆(全6話)
しおりを挟む――Side ブランシュ
「とても素敵なお話でした……」
ほぉ……と、王都でも有名な劇団が行った舞台の余韻を表すように、私は小さな息を吐きました。
ある町に住んでいた貧しい女の子が、国の王子様とも知らず出会った男性と恋に落ち、その身分差に悩みながらも惹かれ合っていく、切ない恋のお話。
レアンドル様の隣で、はしたないと思いつつも、私は涙を堪えられずに感動してしまいました。
途中でさりげなく差し出されたレアンドル様のハンカチは、劇が終わっても私の手の中にあります。
「ふふ、やはり女の子は、恋の話がお好みのようだね。楽しんで貰えて良かったよ」
「は、はいっ。ヒロインの為に身を挺してその想いを貫く王子様が、とても素敵でした。ヒロインも、ただ守られるだけの女の子じゃなくて、恋をする強さがあるというか」
頬に熱を抱き、微笑ましそうに馬車へと促してくださるレアンドル様に感想を伝えていると、二人で中に乗り込み、その扉が閉まった瞬間。
「きゃっ!!」
それまで優しい笑みを浮かべていらしたレアンドル様が、私を馬車の隅へと追い詰め、その両腕の中に閉じ込めてしまいましたっ。
近づけられる表情には、何故か怒っていらっしゃるような気配が感じられるのですが……。
笑顔なのに怖いだなんて、凄く失礼な感想を抱いてしまっている自分を反省するべきでしょうか。
「あの劇の王子をいたくお気に召したようだけど……、物語の中の人物とはいえ、愛する君の心に居座るとは、捨て置けないね」
「れ、レアンドル様っ、あ、あのっ、どうして怒っていらっしゃるのですか? 私、何か悪い事でもっ」
「俺以外の男を、この胸の奥に抱いた事が、罪……、かもしれないね。焦がれるような熱い眼差しで王子役の役者を見つめていた君を、すぐに連れ出してしまいたかったよ」
「そ、そんなっ。わ、私はただ、とても素敵な恋のお話だと思いまして、べ、別に、王子様や役者の方に不埒な想いを抱いたわけではっ」
必死に正直な言い訳を繰り返しているのに、レアンドル様は怒ったような気配を消してはくれません。戸惑う私の顎を持ち上げ、その唇が、温もりが……。
「んぅっ!! レ、レアンドル、様……っ、ンンッ!!」
「ブランシュ……」
柔らかな感触が私の唇を塞いだかと思うと、ぬるりと濡れた感触が口内に入り込んできました。
顎からその指先を離し、レアンドル様が私の両頬をその手に包み込んで、熱い吐息を零しながら口内を甘い愛撫に満たしていきます。
いつもは優しくエスコートをしてくださるように触れてくるはずのレアンドル様が、今日に限って……、炎のような激しさを抱いて口内を貪るようなキスをしてきます。
「覚えておきなさい、ブランシュ……。君が心に抱く男は、俺だけでいい」
深く濃厚な行為の後、呼吸を乱して空気を求める私を見つめながら、レアンドル様が熱に濡れた低い声音で言い含めました。
神様に祝福されているかのような美しい面差しを至近距離で見つめながら、私はゆっくりと頷きます。社交界の『蝶』たるお姉さま方が、一目そのご尊顔を拝すると、心を虜されてしまうと評判の、レアンドル様の輝き。まるで、物語の中にいる、大天使様のような神々しさを秘めた……。
何故、こんなにも美しく立場のある御方が、私の事を求めてくださるのか……。
御付き合いをさせて頂いてから、……そろそろ半年になるでしょうか。
まだ婚約はしていませんが、レアンドル様の愛は日々恐れ多いくらいに深まっている気がするのです。
「自分で観劇に誘っておいて何だけどね……。君があそこまで王子と町娘の恋に心を揺さぶられるとは思っていなかったよ。愛する君の眼差しを、その心を受けた役者には、理不尽とはわかっていても、嫉妬を覚えずにはいられなかった」
「レアンドル様……」
切なげな揺らぎを感じさせる眼差しを向けられた私は、もう一度レアンドル様に唇を捧げる事になりました。先程とは違い、軽く角度を変えて小鳥同士がキスをするように、何度か啄まれます。
そして、戯れの時が過ぎた後、お互いの温もりが口内の中で甘く溶け始め……。
「んっ……、レアンドル、様っ」
「ブランシュ、可愛い俺の小鳥……。│一時(いっとき)でも君の心が他の男の存在に囚われたかと思うと、自分が自分でなくなってしまいそうな醜さを感じてしまう」
王都の中を走る馬車の揺れを感じながら、レアンドル様の抱いた嫉妬の感情に、不謹慎だとはわかっているのですが……、喜びに似た嬉しさを感じてしまいます。
何故レアンドル様が、こんなにも私に深い愛情を抱いてくださるのか、目を背けていた不安を塗り潰すように……。
レアンドル様はクレイラーゼ公爵家の御当主様です。
グランティアラ王家の血を引く、御本人もその環境も華々しい……、高貴なる御方。
遠くからその御姿を拝見する事はありましたけれど、まさか、こんなにも近く感じられるようになるなんて、本当に不思議です。
「何を考えているんだい、ブランシュ……。俺の目を見てごらん」
「も、申し訳ありま……、ふぅ、ンッ。レアンド、ル、様っ」
蕩けるように甘いキスに酔いしれながら、何故この方に自分が求められているのだろうかと考えていると、咎められるように舌同士を強く絡められ、ねっとりと吸われてしまいました。
瞼を閉じる事も許されません。レアンドル様の綺麗な青の瞳に掻き抱かれるように見つめられ、私は息を乱しながらその強い想いを受け止め続けます。
そんな資格が私にあるのか……、レアンドル様の相手として、本当に私は相応しいのか。
時々悩んでしまう私の不安は、この身を包み込むレアンドル様の熱に溶かされた後も、必ず心の隙を突いて戻ってくるのです……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レアンドル様と初めて言葉を交わしたのは、一年近く前の事でしょうか。
それほど大きな規模ではありませんでしたが、何度かお顔を合わせた事のある伯爵家の御子息の方からご招待を受け、その夜会に訪れていました。
御子息は次期伯爵の座にある方で、親しげにお話をしてくださる優しい方でした。
私は御子息が勧めて下さったジュースを飲んで、その方が席を外した後、お屋敷の庭を訪れたのです。夜会の賑わいは何度参加しても慣れず、息を抜きたくて庭へ。
そして、その場所で……、私はレアンドル様と思いもがけない出会いを果たしたのです。
「――愛らしい寝顔だね。可憐な眠り姫の安息を邪魔したくはないけれど、このままだと、良からぬ事をしてしまいそうだ」
心地の良い闇に染まった意識の中、聞こえたのは、とても優しい響きを纏った声でした。
私の頬をなぞる硬い指先の感触と、身体を包み込む確かな腕の温もり。
微睡む夢の世界から目覚めた私は、満点の星空を背にした……、美しい大天使様と出会ったのです。ぼんやりと瞬きを繰り返す私に微笑む大天使様。
まだ自分は夢を見ているのだろうかと、私は自分の左手をゆっくりと持ち上げました。
その手を大天使様が大きな手の中に包み込み、寝惚けている私の額へとキスを落としたのです。
「天使……、様、ですか?」
「君には残念な事かもしれないが、生憎と、俺はただの人間だよ。ふふ、急に倒れそうになったから、吃驚してしまった」
「私……、えっと、どうして……」
御屋敷の庭で冷たい風を感じながら休んで、……それから、庭に迷い込んできた子猫ちゃんと遊んでいる最中に。
「急に、酷い眠気に襲われたような気が……」
その御方が幻想の世界の住人ではない事を把握した私は、何故自分がレアンドル様の腕に抱かれていたのか、その記憶を探ろうとしました。
庭に設置された長椅子に、まるで守られるようにレアンドル様の膝の上にいた私。
包まれるように私の身を包んでいた男性用の外套。
今思い出しても、淑女として、とても恥ずかしい出会いだったように思います。
「可愛らしい姫君にひとつ助言をあげよう。男から渡された飲み物や食べ物に、迂闊に口を付けてはいけないよ」
「え……」
「この屋敷の子息は、少々困った事をしでかす男でね。泣き寝入りをさせられた令嬢もいるんだよ」
戸惑っていた私を抱え直し、その指先に私の金色の髪を絡めたレアンドル様が話してくれたのは、この伯爵家の御子息が、卑劣な方法を使って女性を泣かせる酷い方だという真実でした。
私も、夜会の席で手渡されたグラスの中身に潜んでいた睡眠薬のせいで、こんな状態になってしまったのだと説明を受け、目を丸くしてしまったのをよく覚えています。
あの時、御子息が誰かに呼ばれて席を離れる事にならなければ……。
「睡眠薬の事を教えてあげようと思ったんだけどね。君が広間を出てしまったから、慌てて追いかけてきて正解だったよ」
「そ、それは、御親切にどうも……、感謝いたします」
「素直な姫君だね。だけど……、とても危うい子だね」
「え?」
その時の私は、自分を守ってくれていた御方が誰なのか、思い出せずにいました。
だって、見知らぬ殿方のお膝の上で目覚めるなんて、淑女として恥ずべき事ですしっ。
自分の犯した失態を思うと、今すぐにこの場から消え去ってしまいたくなる羞恥の波に耐えるのが精一杯で、この御肩がどこのどなたかなんて、冷静に思い出せませんっ。
私と同じ、金の髪を纏う美貌の紳士……。微笑む様は本当に見惚れる程の美しさ。
こんなにも素敵な方に、私はなんというご迷惑をっ。
真っ赤な顔で百面相をしている私に、その御方は眉根を寄せて溜息を吐かれると、私の唇に指先を添えられました。
「迂闊に男を信用してはいけないよ。今君を守っている俺も、狼の一人かもしれないからね」
「え、え? あ、あのっ、でも……」
「純粋無垢な真白の花、それを愛でたくなるのは、男の本能だよ」
「で、でも……、私が目覚めるまで、守ってくださっていたのでしょう? そんな心優しい方が、不埒な真似をするはずがありませんっ」
「……」
もしも何か良からぬ事をなさる気だったのなら、今頃私は寝台の人となっていたに違いありません。それなのに、どうしてこの御方は自分を貶めるような事を言われるのでしょうか。
「あ、わかりました!! 私に男性に対する警戒心を強めさせる為ですね!! その為に、御自分を卑下されてまで……、本当に、ありがとうございます!!」
「……」
瞳にキラキラとした光を込めながらお礼を申し上げると、その御方は目を丸くされてしまいました。そして、次の瞬間、噴き出すように笑い出し、私の頭を撫でてきたのです。
まるで、本物のお兄様のように優しい仕草でした。
こんなにも温かな気配を纏う御方が、不埒な真似などするわけがありません。
けれど、何故笑われているのでしょうか……。
「清らかなる天使を前にしているような心地だが、そうだね。確かに今の私は、君に害を成す者ではない。正解だ」
「あぁ、やっぱり!! 私が信じたとおりの御方です!!」
「……素直すぎて、何だか怖いな」
「はい?」
今度は困ったように苦笑されてしまいました。
私は何か変な事でも言ってしまったのでしょうか?
外套に包まったままの私を、丁寧な動作で長椅子の空いた部分に座らせてくれたその御方が、クスクスと笑いながら、私の肩を抱き寄せます。
「今回は無事に終わったけれど、やはり危機感を持ちなさい。愛らしい姫君」
「は、はい……。で、でも、やっぱり貴方は良い方だと思うのです」
「それでも、だよ。君のように可愛らしい女性を前にしたら、男の理性など、すぐに意味をなくしてしまう」
う~ん、私のような子供に狼さんのようになってしまう男性がいるのでしょうか。
夜風の冷たさから私を守るように肩を抱いてくれている男性は、紳士の礼儀として褒め言葉と注意をしてくれているのでしょう。
騎士様のように私の傍に寄り添ってくれているその御方を見上げていた私は、庭の入口からやってきた焦り顔の男性に名を呼ばれました。
「探しましたよ、ブランシュ嬢!!」
「あ……」
怒りと焦りが混じったかのような、この伯爵家の御子息の顔に、私は全身を震わせました。
私は無事でしたけど、この方は……、無力な女性の方々を卑怯な方法で泣かせた人。
その事が、沸々と私の心の奥で怒りを生んでいきました。
「ブランシュ嬢、俺の後ろに隠れていなさい」
「え」
長椅子から立ち上がろうとした私の腕を掴み、御子息とは正反対の紳士様は私を背に庇うように隠してくださいました。
「あ、貴方は……、く、クレイラーゼ公爵様っ」
「お邪魔させて頂いているよ。次期ラルヴェナ伯爵殿。――彼女に何か用かな?」
「い、いえ……、あ、あの。そ、そちらの令嬢と、約束をしていまして」
クレイラーゼ公爵様、そのお名前と立場に、私はようやく記憶の中に隠れていた情報を引き出す事が出来ました。
――レアンドル・クレイラーゼ公爵様。
グランティアラ王家の血を引かれる、現国王陛下の甥にあたられる御方です。
社交界でも、クレイラーゼ公爵様の美貌や手腕は有名で、また『蝶』の方々が競い合うように、その奥方の座を求めている、とも。
私は遠くからしか拝見させて頂いた事がありませんが、……この御方が、クレイラーゼ公爵様。
こんなにも近くに、高貴なる御方を感じているなんて……、夢なのでしょうか。
ラルヴェルナ伯爵家の御子息から私を庇ってくれている、逞しい広い背中。
胸の奥が感じた事のない熱と共に、早足で鼓動を奏でています。
「約束……、ね。君には残念な話になるが、可憐な天使は、俺が連れて帰らせてもらうよ」
「なっ!!」
「一目見て、虜になってしまったからね。無粋な欲に穢される前に、俺が奪ってしまう事にしたんだよ」
きっとわざとなのでしょう。
クレイラーゼ公爵様は、御子息を煽るように、挑発的な音を含んでいました。
御自分よりも身分の高い公爵家の御当主様の命(めい)を、退けられるわけもありません。
けれど、御子息は怒りの色で真っ赤になったその顔で、なおも言い募ります。
「私とそちらの令嬢は、以前より交流もあり、いずれは我が妻に迎えたいと望んでいる人です。今宵も、その話をする為に招いたのです。どうか、お返しください」
「ほぉ……。妻に、ね」
クレイラーゼ公爵様の表情を確認する事は出来ません。
けれど、背中越しに響いてきた高貴な方の声音は、とても低くなり、恐ろしい気配を纏った気がします。伯爵家の御子息も、声に怯えの気配を乗せて、一歩後ずさっていきました。
そっと、クレイラーゼ様の背中から顔を出した私は、青ざめて息を乱している御子息様の少しだけ眺めた後、隠れている事をやめる事にしました。
「ブランシュ嬢?」
御子息の許に近づいていく私を、クレイラーゼ公爵様が腕を掴んで引き留めてきます。
けれど、私は首を振って腕を掴むその熱を離してくださるようにお願いしました。
「大丈夫ですから」
「ブランシュ嬢……」
クレイラーゼ公爵様に怯えていた御子息が、希望の光を見つけたように表情に明るさを纏いました。まるで、私が自分を庇うとでも思っているかのように……。
「あぁっ、ブランシュ嬢!! そうです、貴女は私の妻となる女性です!! さぁ、一緒に私の部屋へ」
勝ち誇ったように笑う御子息に、私は冷たく目を細めました。
人様に対してこんな感情を向けた事はありませんが……、どうしても、やっておかねばならない事があります。
「ブランシュじょ、ぐはああっ!!」
私を抱き寄せようとしたその腕を嫌悪した私は、右手を強く握り込み、以前に友人であるフィニアお姉様とアルディレーヌお姉様から習った一撃を、御子息の頬に繰り出しました。
初めての実践だったので、正直上手くダメージを与えられたかはわかりません。
けれど、無力な女性を卑怯な手で苦しめるこの方を、絶対に許してはおけなかったのです。
「貴方の行動は、ラルヴェルナ家の名を穢す行為であるのと同時に、人としても最低です!!」
「ぶ、ブランシュ嬢、な、何を……っ」
「女性を薬でどうこうしようなんて、貴方はそれでも紳士の一人ですか!? 貴族としての誇りを、男性としての誇りを、どこにお忘れになられたのですか!!」
殴られてしまった頬を押さえ、地面に屈した御子息が、意味がわからないと言いたげに私を見上げてきます。以前は優しい人だと信じていたのに、今は見ているだけでも怒りが募るお顔です。
この方の本性を見抜けずに笑っていた自分が、とても恥ずかしいです。
「貴方の卑劣な手に傷つけられた女性達の御心を思った事がありますか!? 意に沿わぬ行為を強いられ、その御心に生涯消えないかもしれない深い傷を刻み付けられた方々のお気持ちを!! 謝ってください!! 傷付けられた女性達一人一人に、誠心誠意の謝罪をなさってください!!」
叩き付けるように叫んだ私は、頬を伝う涙を抑える事も出来ず、人生初めての憤慨をご子息にぶつけていました。
「ご、誤解です!! 私は美しいご令嬢の方々と一夜の夢を見ただけでっ」
「ふざけないでください!! ご自分に都合の良い夢を見たのは貴方だけです!! 私は、貴方のような身勝手で卑怯な殿方の妻になんて、絶対になりません!!」
自分の迂闊さにも苛立ちを抱いていますが、それよりも、何故自分のした事にここまで無責任でいられるのか、ご子息の最低最悪な姿に、私は本気で怒っているのです。
今この時だって、この方の被害に遭われた女性達は、その時の恐怖と傷に涙を流しておられるはずです。生きている事さえ苦しくて、必死に生と死の狭間でお辛い思いをされているに違いないのです……。それを思うと、何の力にもなれない自分が不甲斐なく感じます。
私は涙を拭い、身に纏っていた外套を腕の中に収め、深々とクレイラーゼ公爵様に頭を下げました。
「クレイラーゼ公爵様。お見苦しいものをお見せしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。今後は自身の浅慮と迂闊さを正し、公爵様や他の方々にご迷惑をおかけしないように努めたいと思います」
「……」
「クレイラーゼ公爵様?」
何も反応がない事に疑問を覚え顔を上げてみると、じっと私の事を見下ろしている、クレイラーゼ公爵様の青い目と会いました。
宝石の輝きよりも澄んだ、綺麗な青。他の誰でもなく、私だけを見つめているその眼差しに、また胸の奥が賑やかになっていきます。
「あ、あの……」
「ブランシュ嬢……」
「は、はいっ」
ようやく我に返ったらしきクレイラーゼ公爵様が、お返ししようとした外套を受け取り、また私の身体に着せてくださいました。
しっかりと前の釦を止めて、御子息を殴った私の右手を持ち上げます。
「クレイラーゼ公爵様……?」
「こんなに小さな手で、何て事をしたんだい、君は」
「え」
暴力など振るった事のない私の手を、殴った時に生じた赤い腫れを、クレイラーゼ公爵様がその両手に包み込み、ふぅ、と、熱い息を吹きかける。
「んっ……」
「俺の屋敷に来なさい。早く手当をしないと」
「あ、あの、だ、大丈夫です!! じ、自分でやった事ですからっ」
その熱に擽ったさと僅かな痛みを覚えながら身を捩ると、クレイラーゼ公爵様が逃げられないように私を腕に抱き上げてしまいました。
自分の中の怒りに我慢出来ずやった事なのに、どうしてそんな辛そうなお顔をされているのでしょうか。手の腫れなんて、湿布でも貼っておけばすぐに治ります。
それなのに、クレイラーゼ公爵様はがっくりと項垂れている御子息の前に立ち、それはそれは氷よりも冷たい絶対零度の音で挨拶をしました。
「今後、俺の天使に手を出したら……、ラルヴェルナ伯爵家の明日はないと思いなさい」
「は、はいっ」
「それと、悪い遊びもきっぱりとやめる事だね。女性は守るべき存在であって、その矜持や心を痛めつけていい存在ではない。――然るべき責任を取るべきだ」
「き、肝に銘じさせて頂きますっ」
遠くなっていく御子息の姿に、もう二度と悪い事はしないでほしいと私は祈りました。
卑怯な手なんて使わなくても、心を尽くせば愛を誓ってくださる女性がいらっしゃるはずなのに、あの方の弱さが可哀想で仕方がありません。
楽な道を選び、数々の女性達を傷つけてきたという方ですから、同情なんて間違っているのでしょうが……。
「どうか、あの方が正しき道を歩めますように」
「ブランシュ嬢、もう君のその目に、あの男を映してはいけないよ」
「え」
私をお姫様のように抱いて歩くクレイラーゼ公爵様が、優しい声でそう囁きを落としました。
庭の方を見てはいけないと、御子息に情を分け与えてはいけないと、少しだけ、厳しい音を含ませて、自分の方へと私の意識を向けます。
「反省も更生も、彼が自分でやる事だ。いいね?」
「はい……。あ、あの、も、もう、下ろしてくださいっ。手なら大丈夫ですから、クレイラーゼ公爵様は、夜会にお戻りくださいっ」
「退屈な夜会になど興味はないよ。それよりも、あの男のせいで傷ついた君の手を、一刻も早く助けてあげなくてはね」
「ほ、本当に大丈夫です!! 公爵様の手を煩わせるなんて、恐れ多いですっ」
私のせいで、高貴なる御方に恥ずかしい姿や見苦しい光景を見せてしまった事は、本当に反省ものなのです!! 出来れば忘れて頂きたいところですが、この上、さらなる迷惑をかけるなんてっ。
けれど、必死に訴える私を地面に下ろす事はなく、クレイラーゼ公爵様は、ついに御自分の乗って来られた馬車に乗り込んでしまわれました。
私の屋敷から一緒に来ている御者の許に使いを出し、馬車の中には私達二人だけになってしまいました。く、クレイラーゼ公爵家の馬車に乗るなんてっ、お、恐れ多すぎますっ。
私の生家であるパティーリア子爵家の馬車とは比べものにもならない、豪奢な馬車。
緊張で震えあがってしまった私の隣で、クレイラーゼ公爵様がひとつ息を吐かれました。
「ブランシュ嬢、手を見せてごらん」
「い、いいえっ、あの、本当に、だ、大丈夫ですからっ。お、下ろしてくださいっ。じ、自分の馬車で、か、帰りますのでっ」
懇願するように声を発しても、クレイラーゼ公爵様は私の右手を引き寄せて、腫れた部分をじっくりと観察し始めてしまいます。
厳しい顔つきで負傷の具合を確かめ、痛々しく腫れた私の小さな手を優しく撫でてくださるクレイラーゼ公爵様は、本当に慈愛の方だと思います。
家族や親戚以外の男性に、こんな風に触れられた事なんてなくて……、胸の奥がおかしな熱を抱いています。ど、どうしましょうっ、し、心臓が、く、苦しくなっていきますっ。
「クレイラーゼ公爵様……っ」
「君が制裁を下さずとも、俺が始末をつけるつもりでいたのに、出遅れてしまったね」
腫れている手の甲に、クレイラーゼ様が予告もなく、その柔らかな唇を落としました。
吐息が直に触れ、痛みを感じている肌を癒すように、何度も小さなキスが。
「んっ……、こ、公爵様、お、おやめくださいっ。私のような者に触れてはっ」
「それは聞けない相談だね。君は、あの卑劣な男に傷付けられた女性達の無念を晴らしたんだ。頑張ってくれたこの手には、何度礼を言っても足りないくらいだよ」
手だけではなく、ついには身体まで公爵様の腕の中に収まってしまった私は、予想外の事態に適応出来ず、ますます身体の熱を強くしてしまいましたっ。
何故私は、高貴なる方の抱擁を受けているのでしょうか。
そんな資格も立場もないのに、これはあきらかに夢としか思えない事態です!!
ま、まるで、大切な恋人を労わっているかのような優しい抱擁に、私は徐々に許容量不足で遠くなっていく意識と共に、クレイラーゼ公爵様の腕の中で気絶してしまったのでした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ブランシュ、また何か別の事を考えていたね?」
「ぁっ……、はぁ、れ、レアンドル、様っ」
観劇の後、レアンドル様のお屋敷へと招待された私は、大きな寝台の上に囚われてしまいました。
レアンドル様が与えてくださる甘い抱擁と、理性を蕩かせる愛撫を秘められた部分に受けながら、それを紛らわす為に思い出していた、出会いの日の事。
あの時はまさか、自分が雲の上の御方としか思えない、当代のクレイラーゼ公爵様の恋人になるなんて、考えもしませんでした。
ドレスを脱がされ、生まれたままの姿になってしまった私を、上着だけ脱いだレアンドル様が、その硬い指を動かしながら翻弄しています。
すでに蕩けきった秘部を擦りながら、時折わざと中へと指を忍び込ませ、いつか訪れる初夜の日の為に慣らしてくださっているレアンドル様は、私が意識を別の事に逸らしていたせいで、少し不機嫌になっているのがわかりました。
「さっきの役者の事でも考えていたのかな? 悪い子だね、ブランシュ」
「んんっ、……はぁ、ち、違い、ますっ。そ、その、……レアンドル様に」
「俺に? 何かな?」
「あああっ!! ぁっ、はぁ、んっ、は、初めてお会いした、日の事を……、ぁんっ」
私の零したはしたない蜜を指先に絡めながら、秘められた場所を咎めるように抜き差ししていたレアンドル様が、その動きを止めました。
私の上に覆い被さり、愛おしさを込めたキスを唇に落としてくれます。
「可愛い俺のブランシュ、今の俺ではなく、過去の俺に想いを馳せていたのかい? 妬けるね」
どうしてそうなるんでしょうか?
レアンドル様は、舞台の上の役者の方だけでなく、過去の御自分にまで嫉妬を抱いているようです。過去も今も未来も、レアンドル様はレアンドル様だと思うのですが。
レアンドル様の目に晒されている二つの膨らみがゆっくりと淫らな愛撫を受け、私は堪え切れずに囀ってしまいます。
「ぁっ、あぁ……、れ、レアンドル、様っ」
「そういえば、あの時の君は……、ラルヴェルナ伯爵の息子に睡眠薬を盛られて、危うく俺の心臓を止めてくれそうな目に遇いそうだったね」
「はぁ、はぁ……、あ、あの時は、レアンドル様に、た、助けて頂いた、お、御蔭でっ」
「本当に間に合って良かったよ……。もしも、君があの男に穢されていたら……」
「あ、あぁああっ!!」
ぐっと強く鷲掴まれた膨らみが、レアンドル様の怒りを表すかのように歪みました。
私はあられもない甲高い囀りを上げ、弱められたその大き手のひらに、ゆっくりと痛みを和らげるように愛撫され、涙の滲んだ顔でレアンドル様を見上げます。
「愛しいブランシュ……。俺は、あの夜に君と出会えた事を、神に感謝しているよ」
「はぁ、はぁ……、レアンドル、様」
「人生を共に歩む素晴らしい伴侶と、あの場所で出会えた事、不埒な害獣から守れた事」
「んっ……、れ、レアンドル、様っ。はぁ、あっ、ンゥッ」
レッスンという名の、淫らなこの行為は、いつ体験してもあまり慣れません。
レアンドル様の前に全てを晒し、いつか訪れる初夜の日の為に淫らな愛撫を受ける日々。
魅惑の『蝶』の方々を見慣れているレアンドル様に、こんな貧相な身体を晒す事が、心の底までも暴かれてしまうこの時間が、とても恥ずかしいのです。
「君は出会った時から、純粋無垢な天使そのものだったからね……。友人関係を築いて三か月、想いを告げてまた数か月、毎日が試練と幸せを感じる連続だ」
「し、試練……、ですか?」
「わかるだろう? 愛しい女性を前にして、ひとつになる日を先延ばしにしているこの気持ちが。急かす気はないが、君を前にすると……、自分でレッスンだと言っておいて、先に進みたくなってしまうのが辛い」
「はぁ……、んっ、わ、私は、レアンドル様を……、く、苦しめて、い、いる、の、ですね」
「確かに苦しいけれど、俺の欲で君を傷つける方が、もっと辛いんだ」
私の身体の輪郭を、レアンドル様の指先がなぞっていきます。
胸にある桃色の頂を口に含まれ、もうひとつの手は、また私の大切な部分へと向かいました。
こんな貧相な身体で、本当にレアンドル様は満足してくださるのでしょうか。
愛を囁かれ、触れられる度に……、レアンドル様には相応しくない自分に涙が出てきそうになるのです。
「ブランシュ……、はぁ、俺の愛しい……、んっ」
「ぁああっ、レア、ン、ドル、様……っ。ぁっ、ンンッ」
焦らされた為に熱と蜜を持て余していた私の秘部の中へと、レアンドル様が指を沈めました。
私を傷つけないように、ゆっくり、ゆっくりと内部を愛撫しながら抜き差しされる硬い感触。
愛する方に触れられている幸せに酔いしれながら、私は腰をくねらせ甘い囀りを零し続けます。
「はぁ、レアンドル、様っ。いけま、せんっ、あぁっ、おかしく、なって、あっ、あぁ」
「それでいいんだよ、ブランシュ。数を増す毎に、俺の愛撫で感じやすくなっていく君の姿を見ていると、はぁ……、幸せ過ぎて、狂ってしまいそうな熱を覚えるよ」
「んっ、い、いい、の、ですか? はぁ、んぁあっ」
「もっと変になりなさい。いずれ俺の熱を受け入れて、君を俺に縛り付ける事になるのだからね」
秘部の内側をくいっと指先を折り曲げて刺激されたせいで、私は何もかもがわからなくなるような快楽の涙を感じて果ててしまいました。
初夜の為なのはわかっているのですが、レアンドル様に触れられる度に、自分がはしたない女性になっていくようで、何だか怖いのです。
レアンドル様も、この淫らな行為の時は、いつもの優しい印象を薄め、どこか意地悪く見える時があり、男性である事を強く感じさせられてしまいます。
「はぁ、はぁ……」
「ブランシュ、今日は……、もう少し先に進んでみようか」
「え……」
私の目の前で、覆い被さっているレアンドル様が喉の奥に唾を飲み込む気配がしたかと思うと、ごろん……と、私を寝台の上で後ろ向きに転がしてしまいました。
力強い腕の感触が、私のお腹を支えて腰を浮かせます。
こ、この体勢は……、な、なんでしょうかっ。レアンドル様にお尻を突き出す形にさせられてしまった私は、涙を浮かべた目で後ろに視線を送りました。
「涙と羞恥に染まった君の表情は、本当に罪深いよ。はぁ……、俺のブランシュ」
「れ、レアンドル、様っ。な、なにをっ」
背後から覆い被さってきたレアンドル様が、御自身の下肢を寛げる音がしますっ。
しっかりと私を逃がさないように抱き締め、りょ、両足の間に……、な、何かがっ。
熱く、ドクドクと脈打つ硬い感触が、私の蕩けた蜜を纏う秘部に、ゆっくりと触れてきます。
「あ、あの……、こ、これはっ」
「わかっているくせに、愚門だね。はぁ……、大丈夫。最後まではしない。ただ、君を愛してやまない俺の熱を、君の温もりで癒してほしいだけなんだ」
「い、癒す、って……、ぁっ、あぁ……、こ、擦りつけちゃ、はぁ、んんっ」
私の太腿の間にしっかりと御自身の分身を挟ませたレアンドル様が、性急に腰を動かし濡れた秘部をその硬いもので愛撫してきました。
今までは、私に触れるだけだったのに……、こんな。
「はぁ、れ、レアンドル、様っ。熱い、です。んっ、……はぁ、あぁっ」
「大丈夫、大丈夫だよ、ブランシュ……。何も怖い事などない。二人でひとつになる日を迎える為の、大切なレッスンだ。はぁ……、こんなに蕩けて、俺を誘うように、くっ、本当に、狂ってしまいそうだね」
「あっ、……んんっ、アァッ、レアンドル様っ、駄目っ、駄目、ですっ」
「意地悪な事を言わないでおくれ。……はぁ、俺も、聖人君子ではないからね。んっ、愛しい女性の痴態を見続けながら、くぅっ……、いつまでも堪え切れる器ではないんだよ」
腰の動きが速くなり、私はレアンドル様にしっかりと抱き締められながら揺さぶられ続けます。
これ以上ないほどの熱で濡れた部分を、今にも押し入ってきそうな昂ぶりがぐちゅぐちゅと擦り上げ、自分がいけない事をしている気にさせられてしまいます。
私の耳元に顔を埋め、荒い吐息を繰り返し浴びせてくるレアンドル様は、徐々に言葉を失くしていきました。こんな、こんなにも淫らではしたない行為を、昼間からしているなんて。
自分の罪深さと、このままレアンドル様の好きにされたいという衝動の狭間で、はしたない声を漏らし続けます。
「はぁ、だ、めっ、お、おかしく、あっあぁっ」
「さっきも言っただろう? 好きなだけおかしくなりなさい。はぁ、はぁ……、俺も、君が欲しくて、今にも狂ってしまいそうなのだからねっ」
こんな身体で、ちっぽけな私の身体で、レアンドル様は本当に満足なのでしょうか。
互いの熱をしっかりと感じ合いながら、淫らな熱と汗の匂いに酔いしれながら、私は秘部を嬲るレアンドル様の分身の猛攻を受け止め続け……、やがて。
「くっ、……はぁ、ブランシュ、……ブランシュっ、――っ!!」
「レアンドル、さ、まっ、はぁ、はぁ、あぁああっ」
ぶるりと震えたレアンドル様の分身が、私のお腹や太腿にねっとりとした何かを放ちました。
それが男性の精だと気付いた私は、自分の右手を下肢へと導き、太腿に垂れているそれを指先に拭います。これが……、レアンドル様の。
変な感触なのに、私はそれを自分の口元へと移動させ、熱に浮かされた思考のまま。
「待ちなさい、ブランシュ!!」
「んっ……、ンンンンッ!!」
も、物凄く……、うぅっ、に、苦いですっ!!
いつも私が零してしまう蜜を甘いと、恍惚とした表情で舐める時もあるレアンドル様を見ていましたから、大好きな人の蜜もきっとそうなのだろうと思ったのに……。
ひと口舐めただけで、私は毒薬でも飲んだかのような心地で吐き気を催してしまいました。
に、苦い、というか、むしろ、不味過ぎて……、ぐ、具合がっ。
「ど、どうして……、あ、甘くないんでしょうか」
「ブランシュ!! 大丈夫かい!? 駄目だろう!! 男の精など女性が口にするものではないんだよ!! 今水を持って来てあげるから、少しだけ我慢していなさい!!」
「は、はい……。うぅっ」
果てた御自分の分身を黒いズボンの中に急いで直したレアンドル様が、寝台の外へと飛び出して行きます。その間に、私は口の中の味に疑問を覚えながら咳き込んでいました。
そして、大慌てで寝台に戻ってきたレアンドル様が、、私の口の周りについている精をハンカチで拭い、グラスの中身を飲んで口をゆすぐように命じられました。
「口をゆすいだら、こっちのグラスに吐きなさい」
口の中に広がる異質な味と、鼻を突く青臭い匂い……。
私は甘い味のする水で口内をゆすぎ、グラスの中に吐き出しました。
初めて味わってしまった男性の味、レアンドル様には本当に申し訳ないのですが……。
「何でこんなに不味いんでしょう」
「すまない、本当にすまなかった……。まさか、君が俺の精を舐めるなんて、そんな嬉しい、ごほんっ!! もとい、危険な事をするとは思わなかったんだ」
「い、いえ……。でも、不思議です。何故あんなにも苦かったんでしょうか。レアンドル様は、私の蜜を甘いと言ってくださったのに」
「それは……、心境的な問題だろうね。女性の蜜も、そこに愛情がなければ、甘いとは感じられない。俺の場合は、君の事が愛しくて、何もかもが好きで堪らないから、甘く感じてしまうんだよ」
……心境の問題、ですか。
でも、私だってレアンドル様の事は大好きです。
告白をされた時は戸惑ってしまいましたけど、一緒に過ごす内に、好き好きで……、お傍にいたいと願うようになってしまったのです。
それなのに、レアンドル様の精を不味いと感じてしまうのは、私の愛情が足らないから、なのでしょうか。
「ブランシュ……?」
「やっぱり私は……」
「どうしたんだい、ブランシュ? え? ぶ、ブランシュ!? 何故泣いているんだい!!」
こんなにもレアンドル様の事をお慕いしているのに、甘く感じられないなんて……。
ポタポタと寝台のシーツや肌に涙の痕を零し始めた私を、レアンドル様が動揺しながら宥めようとしてくれています。
けれど、私は、私は……。愛する御方の精を不味いと言ったばかりか、情けなく涙まで流して……。
「ブランシュ、本当にすまなかった!! 今度から君の目に触れ……、ないのは難しいが、決して口に入るような事態にはさせないから」
「レアンドル様……」
「ん? 何だいっ、何か償える事があれば、幾らでもっ」
「申し訳ありません……。私、今日はこの辺りでお暇させて頂きますね」
「え……」
身体に付いている蜜や精を拭ってくれていたレアンドル様が、びくりと震えました。
私は下着を着ける事もせず、ドレスだけを手に取ります。
その様をぼーっとレアンドル様が眺めていましたが、我に返るとすぐに止めにかかってきました。
「まだ夕方にもなっていないんだよ、ブランシュ!! 何故急に帰るなんて」
「申し訳ありません……。今は、一緒にはいられないんです」
「ブランシュ!?」
ドレスを纏い寝台を下りた私に、レアンドル様の悲痛な声が響きました。
ごめんなさい、レアンドル様……。今の私は、貴方に相応しくないのですっ。
愛する御方の精を不味いだなんて、私の愛情が足りない証拠なんだわ!!
こんなにもお慕いしているのに、私の心は、レアンドル様を想う気持ちは、何の意味もなかったのです。やっぱり私は、この方に愛される資格なんて……!!
「ブランシュ!! ちょっと落ち着きなさい!! やっぱりさっきの俺の精が原因なのかい!? そうだったのなら、幾らでも謝る!! だから、帰るなんて言わないでくれ!!」
「レアンドル様は……、何も悪くありませんっ。ごめんなさい!!」
私は宥めようとしてくださるレアンドル様の言葉に逆らって、クレイラーゼ公爵邸を逃げるように飛び出したのでした。
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