この身が朽ち果てる前に

レン太郎

文字の大きさ
上 下
21 / 45

羞恥心のブルース

しおりを挟む
 あれは、私がまだ高校生だったころ──。
 一番の楽しみといえば、仲の良い友人と麻雀をすることだった。麻雀といえば、賭け麻雀をアナタは想像するかもしれないが、私達の麻雀とは、最下位の人が一位の人にアイスをおごるという、非常にかわいいものであった。

 そんなある日、いつものように、友人宅で麻雀をしていると、そのうちの一人が突然こんな事を言い出したのである。

「最下位の人に、なんか罰ゲームをやって貰おうぜ」と。

 いつもアイスばっかりだったので、そろそろ飽きてきたのだろう。そして、その罰ゲームを内容を聞いた私は、びっくらたまげてしまう事となってしまうのである。

 その罰ゲームの内容とは──。

【罰ゲーム】
・場所…コンビニ
・ターゲット…女子バイト
・買う物…エロ本

【ミッション】
 コンビニに入り、成人雑誌コーナーでエロ本を物色後、女子バイトに「すいません、これよりエロい本はありますか?」と質問する。

 という、非人道的な、思春期まっ盛りの男子にとって致命的ダメージを与える、だがエロ本は手に入って嬉ピーみたいな、ジレンマ的罰ゲームであった。
 私は麻雀が強くない。ていうか弱い。実はこの時も、連続最下位記録を更新中だったのだ。
 だが、この戦いばかりは「負けるわけにはいかねえ」と思っていた。

 そして、数時間にわたる激闘の末──。

 私は見事に、最下位となってしまった。罰ゲーム決定である。

 神様……私が何か悪いことをしたでしょうか。
 一日三回の自慰行為は、多すぎたでしょうか。
 女性のブラ線をガン見していたのが、いけなかったのでしょうか。
 18禁のビデオを観たのは、そんなにヤバイことだったのでしょうか。

 とかなんとか思っているうちに、ミッションは開始を迎えてしまうのであった。

 私は今、ミッションを遂行するべくコンビニの前にいる。そして少し離れた所で、麻雀仲間が私を監視している。
 私は「やっぱ止めない?」とのサインを送ったが、麻雀仲間は「ダメだ早くいけ」とのサイン。私はこの時、殺人を犯す人の気持ちがわかったような気がしていた。

 母さん……私は今から、女の子の目の前でエロ本を買います。
 公然で羞恥プレイです。もしかしたら、変態の容疑で警察のご厄介になり、鑑別所に送られ、精神鑑定をうけるかもしれません。
 最後まで親不孝な息子で、ごめんなさい。

 そう思いながら、私はコンビニの自動扉へと向かったのであった。

 ウィーンという自動扉の音が、私の頭のスイッチを切り替えた。
 もうやるしかないんだな。そう思いながら、レジにいる女子バイトに目をやった。

「……………!」

 か、可愛い……。

 ちくしょう! 可愛いじゃねえか! 女子バイト! はっきり言って、好みのタイプだぜ! ウハハーッ!

 ……待て待て、落ち着け俺。
 俺は今から、あの可愛い女子バイトのレジで“エロ本を買わなければならない”のだぞ。
 しかも「これよりエロい本はありますか?」と、質問せねばならないのだぞ。
 私はとりあえず店内を一周した。その際に、成人雑誌の棚にあるエロ本を確認。その姿はまるで、意味なくウロウロしている、動物園のシロクマのようだったであろう。

 客は私一人。レジには可愛い女子バイト一人。

 やるなら今だ!
 頑張れ俺!
 しずまれ下半身!

 意を決した私は、エロ本を一冊むんずと掴み、レジへと一目散に駆け寄った。そして可愛い、ていうか結婚したい女子バイトに向かって、言い放ったのである。

「こ、こ、これよりエロいのありますか?」と。

 すると、女子バイトの顔色が一気に曇り、まるで汚いものを見るかの如く、こう言い放ったのだ。

「知らん!」

 うん、そうだ! そらそうだよねー! だって知ってたら、ある意味スゲーじゃん! 間違ったことは言ってないよな、うん。

 結局私は、最初に手に取ったエロ本を購入し、コンビニの出口へと向かった。イマイチすっきりしない結果に終わったように思えるが、私自身はそうではなく、これまでにない達成感に満たされていた。

 出口に差し込んでいた陽射しが、とてもまぶしかった。

 父さん……今日の私の姿を、父さんにも見せたかった。
 アナタの息子は、こんなにも大人になりました。
 もう私に、羞恥心はありません。
 父さんならきっと、こう言ってくれるでしょう。

「お前こそ、真の夜の四番バッターだ」と。

 父さん……俺、打つよ!
 今夜は場外ホームランだ!

 そして今現在、私はレンタルショップの女の子の前で、いかがわしいDVDを、何食わぬ顔で五本借りるまでに成長した。

 私の羞恥心は、あのコンビニに置いたままだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

丸(まる)くなったミャーコの背中

転生新語
エッセイ・ノンフィクション
 母の実家には猫がいて、名前をミャーコという。私の最推(さいお)しだ。そのミャーコが子どもを産んだようで……  カクヨム、小説家になろうに投稿しています。  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16818023214059061090  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n6557iq/

怪異・おもらししないと出られない部屋

紫藤百零
大衆娯楽
「怪異・おもらししないと出られない部屋」に閉じ込められた3人の少女。 ギャルのマリン、部活少女湊、知的眼鏡の凪沙。 こんな条件飲めるわけがない! だけど、これ以外に脱出方法は見つからなくて……。 強固なルールに支配された領域で、我慢比べが始まる。

混迷日記【電子書籍作家の日々徒然】

その子四十路
エッセイ・ノンフィクション
高齢の母と二人暮らし。 電子書籍作家『その子四十路』のぜんぜん丁寧じゃない、混迷に満ちた日々の暮らしの記録。 2024年10月〜 ※他サイトでも公開しています。

メイキング「ちょっと待ってお姉様、親友と浮気した旦那とそのまま続けるおつもり? 」

江戸川ばた散歩
エッセイ・ノンフィクション
完結しましたのでレシピをは。

処理中です...