かずのこ牧場→三人娘

パピコ吉田

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第十八話 用意周到

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 それから数日は和孝の姿を見る事もなく、諦めて帰ったのではないかと思っていた。
 
 とある夜、お風呂から上がると父の直己から着信がある事に気がついた。
 
 何事かと思い連絡してみると、父はかなり興奮した様子だった。
 
直己:『もしもし、今日、和孝くんと会ったよ。良い人じゃないか。どうして教えてくれなかったんだ』
 
花音:え?和孝さんが家に行ったの?
 
直己:『仕事から帰って来たら、母さんと楽しそうに話してて、結婚する前に挨拶に来たと言っていたぞ』
 
花音:お父さん、後で詳しく話すけど結婚はしないから。それに和孝さんが来たら家に入れないように。お願いね!
 
直己:『どういう事だ?全く何が何だか・・』
 
花音:えっとそれは・・。
 
 花音が返答に困っていると父に代わり母が嬉々と喋り始めた。
 
瑤子:『花ちゃん良い人を見つけたじゃないの。今度、和孝さんのご両親と会う事になったのよ』
 
花音:えっ。ダメ。絶対会っちゃダメ。断って!
 
瑤子:『あら、どうして?』
 
花音:とにかく、和孝さんとは結婚はしないから!分かった?
 
瑤子:『よく分かんないけど・・結婚はしないの?』
 
花音:うん、しない。だから、相手の両親に会う必要ないから。
 
瑤子:『そうなの?勿体無いわねえ』
 
 電話の向こう側の母はとても残念そうにため息をついていた。
 
 実家に来た和孝は表向きはとても愛想が良いせいで『こんな良い人なのにどこが問題なの?』と思ったに違いない。

 両親との電話が終わるとそのままベッドに寝転んだ。
 
 すると、通知音が鳴り画面を見ると姉の翼からメッセージが来ていた。
 
 『結婚するんだってな、おめでとう。
  今日フィアンセの人が会社に来てわざわざ挨拶に来たよ。良い人そうじゃん。幸せになれよ。』
  
  そのメッセージを見て和孝が姉の会社にまで顔を出してる事に驚いた。
  
  姉に返信しようとした時だった、地元の同級生や会社の同僚からお祝いメッセージが一気に届いた。
  
  文章を見ると『結婚式の招待状が届いた』『結婚おめでとう』『先程連絡貰いました、やったね花音』『寿退社おめでとう』など、何故か花音の知らないところで結婚式の話が一人歩きしていた。
  
 このメッセージを見ると、どう考えても和孝が勝手に招待状を送ったとしか思えなかった。
 
 両親や姉、ましてや同級生や同僚まで巻き込む用意周到さは見事なものだ。
 
 一人一人に返信する気にもなれず、花音は携帯電話を握りしめてベッドの上で丸くなった。
 
 翌日、自分では対処し切れないと思った花音は弁護士の立浪に相談すると招待状を送った人に対して事務所の方で対処してくれるとの事だった。
 
立浪:こちらが想定してるよりも佐々木という男は動きが早いですね。勅使河原様の方の調査結果次第ではこちらも動けるのですが・・。
 
花音:そうですか・・。私、和孝さんに直接言って来ます。
 
立浪:だめです。花音さんが行ったら相手の思う壺です。ここはぐっと我慢です。また何かありましたすぐご連絡下さい。
 
花音:分かりました・・。
 
 花音は自分ではどうにも出来ない無力さを一気に感じていた。
 
 このまま和孝を泳がせているわけには行かないと、立浪に止められたが和孝が泊まっているホテルに思い切って行ってみた。
 
 だが、和孝はホテルには不在でフロントに聞いても何処に出かけたのも分からず探しようがなかったのであった。
 
つづく
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