満月に吼える狼

パピコ吉田

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スピンオフ 騎士団への道

第五話 涙の跡

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 薪を割っていたテルは二人に気がついたが無言でそのまま作業していた。

晴:テル君、お母さんが旅に出るから支度してって言ってるよ。

 声をかけても反応はなくさすがの晴もイラッとして声を荒げてしまった。

晴:ちょっと聞いてるの‼︎ 急いでるの分からないの?

テル:うるせーな、聞いてるよ‼︎
 
あれっくす:まあまあ二人とも落ち着いて。

 そこへロンジが馬車で裏手にやってきた。

ロンジ:何を喧嘩してんだおめえら。ほら、支度したら行くど。

テル:分かったよ・・・荷物取ってくるよ。

 テルが母屋に向かおうとした時だった。

 家の中に兵士達がいきなり入って来て村長の娘が抵抗している声が聞こえてきた。
 
村長の娘:やめて‼︎ 何するの‼︎ ここには息子はいません‼︎

テル:あのやろう‼︎ 母さんを‼︎

 テルが母屋に走り出そうとした時だった、ロンジがテルの口を塞いで体を抱きかかえた。

ロンジ:もう来たか・・・行くどおまら。

 ロンジは馬車の荷台に強引にテルを乗せて騒がないよう布を口に突っ込み手足を縛り、晴とあれっくすに荷台にすぐ乗るように顎で指図して来た。

晴でもまだ村長さんの娘さんが・・・。

ロンジ:今助けに行ったらテルもおまえらも殺されるど、早く乗れ。

あれっくす:・・・でも。

ロンジ:良いから早く乗れ。

 晴とあれっくすは後ろ髪が引かれる思いで荷台に乗り込んだ。

ロンジ:行くど。

 ロンジは二人が乗り込むとすぐさま馬に鞭を入れると馬車は凄いスピードで走り出した。

ロンジ:今はあいつらに捕まる訳にはいかねえ。テルを守るのがおまえらの役目だ分かったな?

 晴とあれっくすは縛られて呻きながら暴れるテルを横目に頷くしかなかった。

 半日馬車を走らせ途中で馬を休ませる為に人気が無い小川でみんなで休憩する事になった。

 テルは手足が自由になるとロンジに殴りかかった。

テル:ジジイよくもうちの母さんを置き去りに‼︎ 早く村に戻せ‼︎

 泣きながら何度も蹴ったり殴ったりしたが体格差のせいかロンジはびくともしなかった。

 テルは殴り疲れたのかその場で座り込んだ。

テル:ジジイ・・くそかてえ・・・母さんを迎えに行かなくちゃ。

 テルが立って来た道を戻ろうとした時だった、ロンジがテルの手足を掴みまた縛ろうとしていた。

ロンジ:トルマールはダマールの兵でいっぱいだ。諦めろ。

テル:いやだ。いやだ。迎えに行くんだ‼︎

晴:テル君、お母さんから頼まれたの。もしも何かあってもテルだけは連れて逃げて欲しいって。

あれっくす:トルマールに戻るような事したら僕達は君のお母さんの約束を破る事になるんだ・・・。

テル:そんな約束くそ食らえだあ。俺は母さんのとこに行くんだ‼︎

ロンジ:やっぱり縛っとかねえとだめか。

 どうしても戻ると聞かないテルをロンジは手足を再び縛り、口に布を突っ込んだ。
 
ロンジ:この水瓶にそこの川の水を入れといてくれ。わしゃ食べ物を適当に森の中から採って来る。
 
晴:は、はい。
 
あれっくす:あの・・すみません、この後はどこに行く予定ですか?

ロンジ:次はアラゴーラ港町で情報収集する予定だ。
 
晴:港町ですか、どれくらいで着きそうなんです?
 
ロンジ:そうだな・・脇道から行くからは二、三日はかかるかもしれんな。とりあえず休憩する場所が限られるから今夜は野宿になるだべさ。

晴:野宿は初めて・・。
 
あれっくす:晴さんは荷台で寝て。僕たちはその辺で雑魚寝でも大丈夫だから。
 
ロンジ:ほう。おめえ少しは骨のある男のようだな。それに比べて。

 ロンジがテルの方を見ると観念したのか大人しくしていたが目の下には涙の跡が残っていた。

ロンジ:やっと静かになったか。村長にも頼まれてたからな・・・テルおまえの証は誰にも渡しちゃならねえ・・・分かったな?

 テルは聞こえてるのか聞こえたないのか明後日の方向を見て無言だった。

あれっくす:僕達を恨んでも良い。でもお母さんや村長さんの気持ちを無駄にしないで欲しい。

 テルはそれでもだんまりだった。

 そして次の休憩場所に到着した際にはテルは反抗的な態度もなくなりトルマールに戻るとは言わなくなっていた。

つづく
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