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アリスの計画
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苛立つアルダスとは対照的に、アリスは聖女のような笑みを浮かべている。
彼女の今回の茶番の役がそうだからというのもあるが、自然体のようにみえるのは彼女が日頃からその笑みを浮かべているからだろう。
彼女をよく知る者ならその笑みを見た瞬間に逃げ出す。何故ならそれはアリスが何かとんでもないことを企んでいる時の笑い方だから。
そして同時に違和感を覚える。その表情が少し硬いのではないかと疑問に思うだろう。
付き合いが短いどころか、掻き集めても二十四時間に達していない小沼は当然それがわからない。
アリスの純粋な暗黒面しか知らない彼はただアリスのその笑顔が恐ろしかった。
彼はその笑みを浮かべている時のアリスを信じて身を任せ、そしてどん底に落とされた。スマホ様の神秘の力がなければ彼は今もあの時の地獄を延々と味わっている。
尤も、スマホ様の力がなければ小沼はアルダスの実験室から逃げ出すことはできなかった。アリスは実験室を訪ねる途中に小沼と出会ったから、逃げ出さなくとも会っていたかもしれないが、一生アリスと出会わない可能性もある。
だからこの仮説に大した意味はない。小沼も実験室から逃げ出したところで、行くあてもないから野垂れ死ぬ可能性が高いことはわかっている。
それでも、アリスを信じて希望を持っていた。それがその笑みに粉々に砕かれた。だから小沼はその笑みを見るとゾッとしてしまうのだ。
アリスの表情とは裏腹に、彼女の内心は穏やかではなかった。
彼女は遊ぶことが大好きだ。城の兵士や侍女、給仕や家臣、彼女にイタズラをされていない者はケンレ城では彼女の姉くらいだ。
一回だけ彼女は姉にイタズラをしようとして、失敗した。その後に姉からお仕置きされたらしいが、その内容を知る者は当事者である彼女らのみ。
但し、通りかかったメイドの話によれば、瞳孔から光消え、目の焦点があっておらず、そして手と足が揃って機械仕掛けの人形のように姉の部屋から出てきたという。
彼女が小沼に出会った時、一目で彼が実験室から逃げ出したのだとわかった。アルダスはポーションの研究をしているから、常にモルモット代わりの実験台が必要だ。そして彼らの大半は直ぐに死んでしまう。
小沼のような特殊例を除けば実験台の限界の最長記録『実験台274』は一週間である。しかも、あの実験台は二日目で正気を失い、五日目でピクリともしなかった。残った二日間は生きていると言うより、辛うじて死にきれていなかったと言った方が妥当だ。
このように、アルダスはかなりの頻度で実験台を用意しては使い潰してしまう為、中には逃走を図る者も結構いた。
そして成功者は誰もいなかった。
アリスが逃走者と鉢合わせになることは小沼が始めてではない。彼女はその都度に彼らを助けるフリをして地獄に落としてきた。
実験室を見た時の絶望の顔を見て彼女は嗤う。
しかし小沼は違った。彼は最初の『引き裂きポーション』以外は瞬間的に『解毒』した為、今までの先輩達ほどの苦痛を味わってはいない。最初のあの苦しみも半分で処理されてしまった。
だから彼はそこまで絶望していなかった。スマホ様の力があればどうにかできる自信はあるし、実際に彼はどうにかできた。
スリとアルダスに捕まった時も「エネルギーの吸収ができるからまぁ良いっか」と割り切ってしまった。
アリスはその時から小沼を不思議に思っていた、そして今は警戒している。
アリスは小沼の話をちっとも信じてはいない。嘘をついているのが丸わかりだからだ。アルダスも冷静になればそれがわかっただろうが、彼はそうではなかった。
アリスは『クオベロ王家』の第二王女。姉は第一王女である。
人族と違って魔族には統一国家が存在する。その『魔族王』の継承権を第一王女『フェリナ』も持っている。しかも、先代の『魔族王』は子宝に恵まれていなかったから子供は第一王女とアリスだけである。
本来なら、先代魔族王が崩御した時に王位継承権一位のフェリナが王位を継ぐ筈が、その叔父である『クディノル』に奪われた。
名目上は幼いフェリナの代わりに国を治めることになっているが、クディノルは自分が王位を継ぐ気満々である。
現に、フェリナをケンレ城のようなど田舎に追いやって、自分は首都で権力を強めている。
かつては第一王女派の文官と武官も失脚したり行方不明になったりと、徐々に減っている。
アリスはこの世で姉より大切な者はいなかった。姉の為なら自分の命くらいは投げ出せる勇気と覚悟をアリスは持っている。
もし小沼が姉の影響力を高められるのなら、彼女はなんだってする。
彼女の今回の茶番の役がそうだからというのもあるが、自然体のようにみえるのは彼女が日頃からその笑みを浮かべているからだろう。
彼女をよく知る者ならその笑みを見た瞬間に逃げ出す。何故ならそれはアリスが何かとんでもないことを企んでいる時の笑い方だから。
そして同時に違和感を覚える。その表情が少し硬いのではないかと疑問に思うだろう。
付き合いが短いどころか、掻き集めても二十四時間に達していない小沼は当然それがわからない。
アリスの純粋な暗黒面しか知らない彼はただアリスのその笑顔が恐ろしかった。
彼はその笑みを浮かべている時のアリスを信じて身を任せ、そしてどん底に落とされた。スマホ様の神秘の力がなければ彼は今もあの時の地獄を延々と味わっている。
尤も、スマホ様の力がなければ小沼はアルダスの実験室から逃げ出すことはできなかった。アリスは実験室を訪ねる途中に小沼と出会ったから、逃げ出さなくとも会っていたかもしれないが、一生アリスと出会わない可能性もある。
だからこの仮説に大した意味はない。小沼も実験室から逃げ出したところで、行くあてもないから野垂れ死ぬ可能性が高いことはわかっている。
それでも、アリスを信じて希望を持っていた。それがその笑みに粉々に砕かれた。だから小沼はその笑みを見るとゾッとしてしまうのだ。
アリスの表情とは裏腹に、彼女の内心は穏やかではなかった。
彼女は遊ぶことが大好きだ。城の兵士や侍女、給仕や家臣、彼女にイタズラをされていない者はケンレ城では彼女の姉くらいだ。
一回だけ彼女は姉にイタズラをしようとして、失敗した。その後に姉からお仕置きされたらしいが、その内容を知る者は当事者である彼女らのみ。
但し、通りかかったメイドの話によれば、瞳孔から光消え、目の焦点があっておらず、そして手と足が揃って機械仕掛けの人形のように姉の部屋から出てきたという。
彼女が小沼に出会った時、一目で彼が実験室から逃げ出したのだとわかった。アルダスはポーションの研究をしているから、常にモルモット代わりの実験台が必要だ。そして彼らの大半は直ぐに死んでしまう。
小沼のような特殊例を除けば実験台の限界の最長記録『実験台274』は一週間である。しかも、あの実験台は二日目で正気を失い、五日目でピクリともしなかった。残った二日間は生きていると言うより、辛うじて死にきれていなかったと言った方が妥当だ。
このように、アルダスはかなりの頻度で実験台を用意しては使い潰してしまう為、中には逃走を図る者も結構いた。
そして成功者は誰もいなかった。
アリスが逃走者と鉢合わせになることは小沼が始めてではない。彼女はその都度に彼らを助けるフリをして地獄に落としてきた。
実験室を見た時の絶望の顔を見て彼女は嗤う。
しかし小沼は違った。彼は最初の『引き裂きポーション』以外は瞬間的に『解毒』した為、今までの先輩達ほどの苦痛を味わってはいない。最初のあの苦しみも半分で処理されてしまった。
だから彼はそこまで絶望していなかった。スマホ様の力があればどうにかできる自信はあるし、実際に彼はどうにかできた。
スリとアルダスに捕まった時も「エネルギーの吸収ができるからまぁ良いっか」と割り切ってしまった。
アリスはその時から小沼を不思議に思っていた、そして今は警戒している。
アリスは小沼の話をちっとも信じてはいない。嘘をついているのが丸わかりだからだ。アルダスも冷静になればそれがわかっただろうが、彼はそうではなかった。
アリスは『クオベロ王家』の第二王女。姉は第一王女である。
人族と違って魔族には統一国家が存在する。その『魔族王』の継承権を第一王女『フェリナ』も持っている。しかも、先代の『魔族王』は子宝に恵まれていなかったから子供は第一王女とアリスだけである。
本来なら、先代魔族王が崩御した時に王位継承権一位のフェリナが王位を継ぐ筈が、その叔父である『クディノル』に奪われた。
名目上は幼いフェリナの代わりに国を治めることになっているが、クディノルは自分が王位を継ぐ気満々である。
現に、フェリナをケンレ城のようなど田舎に追いやって、自分は首都で権力を強めている。
かつては第一王女派の文官と武官も失脚したり行方不明になったりと、徐々に減っている。
アリスはこの世で姉より大切な者はいなかった。姉の為なら自分の命くらいは投げ出せる勇気と覚悟をアリスは持っている。
もし小沼が姉の影響力を高められるのなら、彼女はなんだってする。
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