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ニコニ

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ヒミコ伝説

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 「絶対、何か彼に効くポーションは存在する筈なんだ!」

 アルダスはヒステリックに叫び、姫を前にして粗相して失態していることにさえ気づかない。

 「たった数百年、人族はもうここまで恐ろしくなっているのか?こいつはまだ弱い一般人だ!これでは、我ら魔族の将来は……」

 アリスはアルダスと違って冷静を保っている。頭を横に振って否定する。

 「全ての人族が彼と同じ体質じゃないと思うわ、こいつが何か隠しているのよ。アルダス師、魔法器具を作って測定してみないかしら?」

 「そういった器具は作れません、錬金術は深奥に過ぎます。私はその中のポーションについて多少の研究をしているだけでございます。」

 アルダスはアリスに話しかけられたことによって我に返ったらしい。そこで急に目の色を変えた。

 「こいつにスリの血を飲ませたことがありますが、このような免疫効果はありませんでした。今回はいっそう、こいつの身体を切開して調べましょう!」

 小沼はびくりと震え、心配していたことは遂に起きてしまった。アルダスの目には狂乱の色が浮かんでいる。

 「待って!アルダス師!」

 アリスは小沼が言いたいことを代弁した。そこでやっとアルダスは伸ばしていた腕を引っ込める。だが目の狂乱は減る様子を見せない。

 「まだ彼を殺さないで、こいつは中々面白いわ、私のオモチャとして残して頂戴。」

 この時、小沼は天使の輪が再びアリスの頭上に舞い降りた気がした。自らがオモチャになる覚悟さえ出来た。

 「殺さないでください、アルダス様!大人しくあなたの実験台になります。」

 数時間前なら、アルダスは良い実験台が手に入ったと喜んだのだろう。しかし、今となっては最大の皮肉となった。アルダスの顔色はさっきよりも酷いものになっていく。

 「姫様、もしこの人族の体質を解明できれば、我ら魔族の力は新たなの段階に進化するも可能でしょう、私たち『ケンレ城』にとってもメリットは数知れず、少なくも、第一王女殿下の立場は向上なさる筈でございましょう。」

 アリスは自分の姉のことに関しては優先的である。その顔には躊躇の色が浮かんでいる。小沼はアルダスが一歩、一歩と彼に近づくのを見て鳥肌が立った。

 「安心しろ、一気に殺すなんて勿体無いことへしない。必要なところだけを解剖するとも、お前の生命を維持してもっと多くの実験をするさ。」

 (くそ!死ぬにしてもモルモットになるつもりはない。)

 小沼がどうやれば死なずに済むと高速で脳を働かせている時、彼は急にひらめいた。

 「待て!僕を殺さないのなら、全ての秘密を話そう!」

 「言え!」

 小沼の言葉を聞いてゼロ秒の躊躇で答えたのはアルダスだ。

 「ことの始まりは僕が『蓬莱の島』に流れ着いた時でした。船に乗って海に遊んでいた時、船は暗礁で沈んで僕は近くの木の板に一生懸命しがみついていました。そして流れ着いたのが蓬莱の島です。」

 もちろん、小沼はそんな伝説の島に行ったことなんてない。それでも作り話を続けないと彼は解剖されかねない。

 「そこで偉大な錬金術師に出会いました。彼女から教えを受けて、その偉大な錬金術師の名前は……『卑弥呼』という!」

 この世界は色んなところが地球とほぼ一緒である。時間や距離の単位、基本的な常識などは然程変わらない。
 それでも神話まで一緒な訳がないと小沼は高を括る。でまかせにでまかせを重ねてとにかく流れに任せて喋りまくった。

 例えば、十万の鏡型の神器を作り出し、敵に向かって破壊光線を放って地形を変えてしまう程の力だったとか。

 例えば、不老不死の秘薬を作ったものの、愛する者がこの世から去ったから『山』を作り上げてそこに秘薬を埋めたとか。

 例えば、敵に捕まり十字架に磔にされたのに、三日後に再び蘇り敵を全て火炙りの刑に処したとか。

 例えば、敵に追い詰められた時、目の前の海を割って自国の民を救いの地まで渡らせて導いたとか。

 例えば、神々が世界を浄化しようとした時に、箱舟を作り出して世界の最後の生命を守ったとか。

 例えば、この世に産まれた時に、いきなり七歩歩いて片手が天を指し、もう片方の手は地を指して『天上天下唯我独尊』と言ったとか。

 例えば……



 今は生死の狭間を彷徨う小沼である。言えることは取り敢えず言っといておこうと思った彼はあっちこっちから伝説を引き出しては『卑弥呼』様にくっつけた。

 途中から、アルダスは魂が抜けたような様子だった。何もかもが衝撃的過ぎたからだ。

 「もしそれが本当なら、その御方は絶対に神の境地に至っている!」

 あまりに衝撃が強過ぎて、アルダスは返って疑いの色を浮かべた。

 「これ程までに偉大な功績を残しながら、私は何故歴史書でその『ヒミコ』という名前を聞いたことがないのかな?」

 小沼は嘘がバレそうになって、内心ヒヤッとなったが、幸いなことに彼はラノベを読んでいる為に、ネタには困らなかった。
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