狼さんのごはん

中村湊

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赤ずきんちゃんLOVEな人たち

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 熱が治まらない毎日が、過ぎていく。雅和の昂ぶりは酷く荒々しさを日に日に増してイッテいる。すやすやと眠っている絵里を見つめ、雅和は眠る前にキスをした時の彼女の甘い啼き声や火照った頬。潤んで自分を見つめている瞳。蕩けた表情。
 今も、時折、「雅和さん」と小さく紅い唇から寝言だが……自分を呼ぶ声に鼓動を激しく打ち鳴らしながら鎮めようと必死になっている。

 「……んっ、くぅ……はっ、はぁはぁ……」
 「んぅ、雅和さん」
 「っ、ぁあ、絵里……はっ……」
 「ぅん」

 小さな吐息が彼女から漏れた瞬間。彼は果てた。何度目かだろうか? 毎晩。もう、一緒に暮らし初め、3ヶ月は経った。彼女と初めて食事をした昨年の秋から、部署が変わった春から季節は夏に変わり始めていた。
 つまり、半年以上は……キスで我慢し続けている。のだ。盛りに盛っているオオカミさんは。

 「はぁ……絵里……好き」
 「んぅ……雅和さん……」
 「好き……」

 眠っている絵里の唇を奪うと、とまらなくなり始めた。唇の中に舌を入れ込み、彼女は応えるように甘く啼きながらキスをする。ここ数日、彼女の断りなしに始めてしまったこと。
 どうにもとめられないのだ。一緒に居られることが嬉しいのと、自分の感情が好き以上なのか、ただ単に彼女を味わい尽くしたいだけなのか?
 彼女は照れながら、「雅和さん」と呼んでくれたり。お弁当を作ってくれ、「美味しく楽しく食べられるから嬉しい」とか。もう、可愛いとしか思えない。
 今まで自分に寄っては去っていった女たちは、「なぁんかつまんないし」とか、「私といても別にいいでしょ? つまんなそうだし」とか言って去っていた。「アッチはいいんだけど……なぁんか、ねぇ」とか言われたことも。
 アッチって、きっと……まぁ、いいや。今は。俺は絵里が……絵里といたい。絵里が可愛い。絵里は、俺ともっといてくれるだろうか? これからも、ずっと……傍に。

 自問自答して結局、強い睡魔に襲われて彼女と一緒のベッドで眠る。朝には、彼女を抱きしめている。

 会社に行くと、理人が絵里と一緒にいる所に出くわした。何やら彼女は照れた表情で笑っている。
 ズキズキと胸が痛み、ザワザワしてくる。
 気がつくと、理人から絵里を引き離し抱き締めていた。その状態に、理人が少し驚いていた。
 
 「ま……高井課長?」
 「雅和」
 「えっ、あの……」
 「雅和、ここ、会社だよ?」
 「んーーーー」
 「いや、俺に威嚇いかくするなよぉ。別にさ、彼女をとって喰おうって訳じゃないし」
 「か、課長……その、坂口課長は仕事の件で……」
 「んぅ」
 「雅和さん?」
 「絵里」
 「あのさ、俺も居るんだけどさ」

 理人が声をかけても、雅和は彼女を自分の胸の中に抱き締めて頬を撫でている。心地よい撫で方に、彼女は思わず胸のなかで心地よさを覚え始めた。
 
 ーーここ、会社なのに……わたし、どうしちゃったんだろうーー
 
 絵里の心はどんどん揺れ始めていく。雅和とのキスやスキンシップは激しさを増し、濃度も濃くなって……それに抗いたくもないという気持ち。もっと触れて欲しい。傍にいて欲しいという、気持ちが日に日に増している。
 早鐘をうつ鼓動。耳が真っ赤になって、彼の逞しい腕と胸の中で、思わず顔を埋める。

 廊下の奥の方から、「理人にぃ~~」と明るい声がした。ピクリと動く雅和。「あぁ、きたか」と言った理人。
 
 「あぁ、兄さんが言っていた可愛いお気に入りって、この子?」
 「んーーーー」
 「いや、俺は別に取って喰わないし。紹介して欲しいし?」
 「朝は軽い」
 「いやいや、軽いのは外見で、好きな子には真っ直ぐだし。俺」
 「俺の」
 「分かってるよ、雅兄まさにぃ
 「で、朝。頼んでいたプログラムのは?」
 「あぁ、そうだ。今日は一緒に営業の人も来て貰ってるんだよ。野崎さん?」
 「……え、絵里ちゃ、ん?」
 「「知り合い?」」

 理人と朝の声が重なる。 
 真っ青な顔をした華やかでフェロモン溢れる女性は、立ちすくんで雅和の胸のなかにいる絵里を見つめている。
 
 「真弥まやさん?」
 「ちょっと、アンタ!! 私たちの絵里から、はーなーれーろー!!」

 どっかで聞いた台詞だなぁ、と。雅和。同時に、廊下の反対側から歩いてきた楓と優歌。絵里の状態をみるやいなや。

 「「はーなーれーろー!! ど阿呆!!」」

 と、叫んで走ってくる。

 俺の周りは、どうしてこうも絵里と離そうとするんだ? としか考えていない雅和。
 朝は、「真弥さんの言っていた子かぁ」とポツリ。理人は、「あぁ、楓ちゃんが暴走しそうだなぁ。後でちゃんと言い聞かせておこうっと」とニヤリ。
 3人の絵里大好き女子が、とてつもない勢いでなんとかした。あとあと、楓は逆に大変だったようだが……。

 総務部の会議室で、朝は新しく作成したプログラミングの説明。真弥こと、野崎真弥は営業トーク&威嚇。藤井エンジニアのプログラマーの雅和の弟。高井朝は、営業部の真弥とコンビを組んでいる。
 坂口商社の食品会社で使われるプログラムは、藤井エンジニアで開発されてきた。朝が坂口家の縁戚関係というのは関係なしに、彼は優秀なプログラマー。真弥自身も、営業はトップクラス。プログラマー泣かせでもあるが、フォローもきっちりしている。

 「うぅ、今回のプログラム依頼。キツかったんだけど……出来たよ」
 「やぁ、助かったよ。藤井エンジニアさん」
 「……ソレ、イヤミ?」
 「まぁ、坂口商社の総務課長という方がイヤミを言う人とは思いもしませんでした」
 「いやぁ、営業の野崎さんはうまいことを説明しながら言われましたねぇ」
 「そうでもしないと……あなたの従兄弟いとこですか? 私たちの絵里ちゃんに、何してくれてんですかねぇ」
 「「…………」」
 「では、この契約書でよろしいですか?」
 
 会議室は変な方向に話しがいきそうだったので、理人は契約書を確認すると決済にまわすと伝えた。
 朝の話しによると、真弥は絵里の長兄ちょうけいと婚約しており結婚間近だという。真弥の妹・優歌も、絵里の次兄じけいと付き合っていると……絵里の兄2人も絵里を溺愛している、らしい。
 どれだけ絵里LOVEなんだか……彼女の周りの人間は。
 かくゆう、理人も彼女と話して可愛い子だなぁと思えた。雅和が好きになるのも何となくわかった。彼女のもつ空気感というか、雰囲気。
 真っさらな心根こころねみたいな。坂口家の逸話にある、村姫巫女さまのような人なのだ。大神である、ニホンオオカミを受けれた彼女のように。

 真弥が次の営業先に行くと去っていたあと。会議室では、久し振りの従兄弟同士、雅和の恋話で盛り上がった。雅和ネタで大いに盛り上がるこの男達も、どうだろう?

 「「会長が知ったら……泣いちゃうだろうなぁ」」
 
 理人と朝は、ポツリと言う。
 その後、2人がこっそり良い機会だからと、雅和と父親の会う時間を設けたのが……良かったのか、悪かったのか。という事態へなるとも知らなかった。というより、色々な意味で2人は愉しんでいる。
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