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第二部 ~二年と再会~
108 水の国王
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「“アイル大団長”! どうしてこんな所に?」
忘れる筈がない。レイ達は皆その顔を鮮明に覚えていた。ランベルが所属しているのは水の王国騎士団。だとすれば、彼は当然そこにいるであろう。アイル大団長とランベルに呼ばれた彼は、紛れもないレイ達の知る大団長。アイルもまたレイ達の事を鮮明に覚えていた。
「任務ご苦労だったなランベル団長。不測の事態に見舞われた様だが、無事に帰って来て安心したぞ。それに何やら懐かしい顔が揃っているな。一回りも二回りも成長して――」
「久しぶりです大団長!」
「そう言えば名前聞いたの初めてかも」
「あの時は助けて頂きまして、本当にありがとうございました」
「ハハハハ。そんな昔の事はもういいですよ。それに、私も君達に助けられたからね。もう2年以上は経っているかな?」
懐かしそうにそう言う大団長は、前と変わらない優しさと強さを感じられる人だった。
「もうそんな経ちますか……って、アイル大団長がどうしてここに? 別の任務で王国を離れていたんじゃ?」
「ああ。その任務は予定よりも早く終わってね。私もさっきここに着いたばかりなんだが、何やら城も屯所も騒がしくてな。詳しい話を聞こうと君を探していたんだよ、ランベル団長」
何気なく呼ばれている団長という言葉に1番違和感を抱いているのはランベル自身であろう。レイ達の前では当たり前かの様に振舞っていたが、正式に呼ばれ初めたのはここ2カ月程。呼ばれる度に嬉しい反面何処かもどかしさも覚えるランベルであった。
「まさか君達もいるとは驚いたけどね。日頃からよく話は聞いているよ」
「い、いやいや、そんな話は1度も……! それより俺に話を聞きにきたんですよね、アイル大団長!」
アイル大団長がレイ達にそう言うと、ランベルは恥ずかしかったのか慌てて話を変えた。
積もる話も多々あったが、変わらずまだ屯所はバタバタとしている様子だ。ランベルはアイル大団長を含め、他の団員達への状況報告や雑務が残っていた為、今日の所は一旦レイ達と別れ、また明日集まろうと約束をして解散したのだった。
♢♦♢
~水の王国・城~
昨夜の騒動から一夜が明け、レイ、ローラ、リエンナの3人はランベルに呼ばれ水の王国の城に来ていた。
「凄いわねぇお城……。私こんな中にまで入るの初めてだわ」
「俺だってそうだぞ。高そうな物ばかり飾ってるな……」
「ほら、ランベル団長。キョロキョロせずにもっと落ち着いて歩け」
一般人では城の中に足を踏み入れる等、余程の事がない限りは有り得ない。それこそ優秀なハンターやその分野の専門家達等、王国の為になる実績や功績を上げた者が表彰される時ぐらいである。他に例外があるとすれば、騎士団員として城の護衛を行う時ぐらいだ。
その為ローラは疎か、ランベルも城の中にまで入るのは今回が初めてであった。住む世界が違うと言わんばかりの城の雰囲気に、ローラとランベルは無意識に挙動不審な歩き方や行動を取っていた。アイル大団長は当然の如く何度か護衛等で入っている為とても慣れた様子である。
それはまたレイとリエンナも然り。
王家出身である2人にとっては何も珍しくない、旅に出る前では当たり前であった言わば日常である。生まれ持っての環境の違い……。どちらが正解でもどちらが正しい訳でもないが、レイとリエンナ、ローラとランベルのそれぞれの反応はとても対照的なものとなっていた。
こればかりは仕方のない事だろう……。
「ローラもランベル何やってんだよ」
「しょ、しょうがないじゃない! 王家のアンタ達と一緒にしないでくれる? 城の中なんて初めてで緊張するに決まってるでしょ……!」
「そ、そうだよ! それに“国王”と話すなんてッ……! 俺なんか緊張でゲロ吐きそうだ」
「コラ。城ではしたない言葉を使うんじゃないぞランベル団長」
「いやそんな事言われましても……」
ごく普通の人……というより、王国に住むほぼ全ての人がローラとランベルと同じ様な心境になるだろう。寧ろレイやリエンナがごく少数派の例外とも言える。
「そう言えばレイさんは国王とお会いした事あるんですか?」
「ああ、小さい頃に何度か見た事あるぞ。火と水の王国は結構親交あったみたいだからな。その辺は俺よりリエンナの方が詳しいか」
「どうでしょうか。確かに昔から火の王国と水の王国は良好な関係ですね。ただ回数だけで言えば、確かに私の方が国王をお見掛けしていますが、あちらは当然私の事など認識していないと思います」
「そんなの俺だって……と、言いたい所だが……。これがロックロスの厄介なところだよな」
「ええ。レイさんの気に障ったら申し訳ないですが、水の王国の国王が直接レイさんの顔を覚えているのかは分かりかねますが、その……」
皆まで言うのは何処かバツが悪い様子なのか、リエンナの歯切れが悪くなったのに気が付いたレイが何ともない口調で言った。
「ハハハ。別に大丈夫だよリエンナ。悪いな気を遣わせて。確かに俺もなるべく余計な話は避けたいからさ、あっちが俺に気が付いたら面倒だな~と思ってるよ。まぁあの頃よりデカくなってるし、もう何年も見てないから直ぐ気付く事はないだろ。
息子を捨てて養子を可愛がってるぐらいの話は流石に水の国王も知ってると思うけどな」
レイ達がそんな話をしていると、国王がいる玉座の間へと着いた。
「よし、入るぞ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってッ……!心の準備がッ……」
「お、俺もだ。1度トイレに行く時間は……?」
「国王だってバケモンじゃない。ただの人だぞ」
「だから王家出身のお前と一緒にすんじゃねぇ!」
「静かにしろ」
これでは埒が明かないと悟ったアイル大団長は、呆れた様子で玉座の間の扉を開いた――。
「「ちょ……⁉」」
心の準備が出来ていなかったローラとランベルは極度の緊張でもう言葉を発せなかった。
「失礼致します」
アイル大団長が頭を下げる。レイとリエンナも慣れた様子で自然と頭を下げていたが、緊張で言葉を失っていたローラとランベルは、言葉だけでなく己の体の動かし方も忘れる程思考が停止していた。
「国王の前だぞ……! 失礼だろ……」
固まっていた2人に気が付いたアイル大団長は慌てた様子でローラとランベルの頭を下げさせていた。
「ホッホッホッ。そう畏まらんで良いぞアイル大団長。他の者も楽にしておくれ――」
レイ達の目の前には玉座に座る水の王国の国王の姿が。
レイとリエンナ、そしてアイル大団長は促された通りに顔を上げ国王と目を合わせたが、ローラとランベルは完全にフリーズしていた。
「おいおい……。勘弁してくれお前達……」
「ローラ、ランベル! いい加減普通に戻れって」
「「……」」
レイとアイル大団長の言葉も虚しく、2人の意識はまだ戻って来る気配は無かった。
「本当にどうしようもねぇな」
「私達が外の世界に出た時のワクワクとはまるで逆パターンですね……。どうしたらいいでしょうか」
「ホッホッホッ。何も気にする事はないぞ。その者達が落ち着くまで、現状の分かる範囲で“昨日の事”を説明してもらっても良いかの?アイル大団長」
「はい。かしこまりました」
そう。
昨夜から一旦別れたレイ達であったがその翌日の早朝。アイル大団長とランベルに呼ばれて城を訪れる事になったレイ達は、昨日起こった異様な騒動の貴重な目撃人として、国王から呼ばれた次第であった。
勿論レイ達は騎士団の後を追ってあそこにいました等、本当の事は言えないのだが、場所が場所なだけに、普通のハンター達がいても何ら可笑しい状況ではなかった事に加え、あの騒動を無事に鎮めたレイ達の事を、国王は騎士団員から何十回と耳にしていたらしい。
そういった経緯でレイ達は城に呼ばれ今に至るのである――。
忘れる筈がない。レイ達は皆その顔を鮮明に覚えていた。ランベルが所属しているのは水の王国騎士団。だとすれば、彼は当然そこにいるであろう。アイル大団長とランベルに呼ばれた彼は、紛れもないレイ達の知る大団長。アイルもまたレイ達の事を鮮明に覚えていた。
「任務ご苦労だったなランベル団長。不測の事態に見舞われた様だが、無事に帰って来て安心したぞ。それに何やら懐かしい顔が揃っているな。一回りも二回りも成長して――」
「久しぶりです大団長!」
「そう言えば名前聞いたの初めてかも」
「あの時は助けて頂きまして、本当にありがとうございました」
「ハハハハ。そんな昔の事はもういいですよ。それに、私も君達に助けられたからね。もう2年以上は経っているかな?」
懐かしそうにそう言う大団長は、前と変わらない優しさと強さを感じられる人だった。
「もうそんな経ちますか……って、アイル大団長がどうしてここに? 別の任務で王国を離れていたんじゃ?」
「ああ。その任務は予定よりも早く終わってね。私もさっきここに着いたばかりなんだが、何やら城も屯所も騒がしくてな。詳しい話を聞こうと君を探していたんだよ、ランベル団長」
何気なく呼ばれている団長という言葉に1番違和感を抱いているのはランベル自身であろう。レイ達の前では当たり前かの様に振舞っていたが、正式に呼ばれ初めたのはここ2カ月程。呼ばれる度に嬉しい反面何処かもどかしさも覚えるランベルであった。
「まさか君達もいるとは驚いたけどね。日頃からよく話は聞いているよ」
「い、いやいや、そんな話は1度も……! それより俺に話を聞きにきたんですよね、アイル大団長!」
アイル大団長がレイ達にそう言うと、ランベルは恥ずかしかったのか慌てて話を変えた。
積もる話も多々あったが、変わらずまだ屯所はバタバタとしている様子だ。ランベルはアイル大団長を含め、他の団員達への状況報告や雑務が残っていた為、今日の所は一旦レイ達と別れ、また明日集まろうと約束をして解散したのだった。
♢♦♢
~水の王国・城~
昨夜の騒動から一夜が明け、レイ、ローラ、リエンナの3人はランベルに呼ばれ水の王国の城に来ていた。
「凄いわねぇお城……。私こんな中にまで入るの初めてだわ」
「俺だってそうだぞ。高そうな物ばかり飾ってるな……」
「ほら、ランベル団長。キョロキョロせずにもっと落ち着いて歩け」
一般人では城の中に足を踏み入れる等、余程の事がない限りは有り得ない。それこそ優秀なハンターやその分野の専門家達等、王国の為になる実績や功績を上げた者が表彰される時ぐらいである。他に例外があるとすれば、騎士団員として城の護衛を行う時ぐらいだ。
その為ローラは疎か、ランベルも城の中にまで入るのは今回が初めてであった。住む世界が違うと言わんばかりの城の雰囲気に、ローラとランベルは無意識に挙動不審な歩き方や行動を取っていた。アイル大団長は当然の如く何度か護衛等で入っている為とても慣れた様子である。
それはまたレイとリエンナも然り。
王家出身である2人にとっては何も珍しくない、旅に出る前では当たり前であった言わば日常である。生まれ持っての環境の違い……。どちらが正解でもどちらが正しい訳でもないが、レイとリエンナ、ローラとランベルのそれぞれの反応はとても対照的なものとなっていた。
こればかりは仕方のない事だろう……。
「ローラもランベル何やってんだよ」
「しょ、しょうがないじゃない! 王家のアンタ達と一緒にしないでくれる? 城の中なんて初めてで緊張するに決まってるでしょ……!」
「そ、そうだよ! それに“国王”と話すなんてッ……! 俺なんか緊張でゲロ吐きそうだ」
「コラ。城ではしたない言葉を使うんじゃないぞランベル団長」
「いやそんな事言われましても……」
ごく普通の人……というより、王国に住むほぼ全ての人がローラとランベルと同じ様な心境になるだろう。寧ろレイやリエンナがごく少数派の例外とも言える。
「そう言えばレイさんは国王とお会いした事あるんですか?」
「ああ、小さい頃に何度か見た事あるぞ。火と水の王国は結構親交あったみたいだからな。その辺は俺よりリエンナの方が詳しいか」
「どうでしょうか。確かに昔から火の王国と水の王国は良好な関係ですね。ただ回数だけで言えば、確かに私の方が国王をお見掛けしていますが、あちらは当然私の事など認識していないと思います」
「そんなの俺だって……と、言いたい所だが……。これがロックロスの厄介なところだよな」
「ええ。レイさんの気に障ったら申し訳ないですが、水の王国の国王が直接レイさんの顔を覚えているのかは分かりかねますが、その……」
皆まで言うのは何処かバツが悪い様子なのか、リエンナの歯切れが悪くなったのに気が付いたレイが何ともない口調で言った。
「ハハハ。別に大丈夫だよリエンナ。悪いな気を遣わせて。確かに俺もなるべく余計な話は避けたいからさ、あっちが俺に気が付いたら面倒だな~と思ってるよ。まぁあの頃よりデカくなってるし、もう何年も見てないから直ぐ気付く事はないだろ。
息子を捨てて養子を可愛がってるぐらいの話は流石に水の国王も知ってると思うけどな」
レイ達がそんな話をしていると、国王がいる玉座の間へと着いた。
「よし、入るぞ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってッ……!心の準備がッ……」
「お、俺もだ。1度トイレに行く時間は……?」
「国王だってバケモンじゃない。ただの人だぞ」
「だから王家出身のお前と一緒にすんじゃねぇ!」
「静かにしろ」
これでは埒が明かないと悟ったアイル大団長は、呆れた様子で玉座の間の扉を開いた――。
「「ちょ……⁉」」
心の準備が出来ていなかったローラとランベルは極度の緊張でもう言葉を発せなかった。
「失礼致します」
アイル大団長が頭を下げる。レイとリエンナも慣れた様子で自然と頭を下げていたが、緊張で言葉を失っていたローラとランベルは、言葉だけでなく己の体の動かし方も忘れる程思考が停止していた。
「国王の前だぞ……! 失礼だろ……」
固まっていた2人に気が付いたアイル大団長は慌てた様子でローラとランベルの頭を下げさせていた。
「ホッホッホッ。そう畏まらんで良いぞアイル大団長。他の者も楽にしておくれ――」
レイ達の目の前には玉座に座る水の王国の国王の姿が。
レイとリエンナ、そしてアイル大団長は促された通りに顔を上げ国王と目を合わせたが、ローラとランベルは完全にフリーズしていた。
「おいおい……。勘弁してくれお前達……」
「ローラ、ランベル! いい加減普通に戻れって」
「「……」」
レイとアイル大団長の言葉も虚しく、2人の意識はまだ戻って来る気配は無かった。
「本当にどうしようもねぇな」
「私達が外の世界に出た時のワクワクとはまるで逆パターンですね……。どうしたらいいでしょうか」
「ホッホッホッ。何も気にする事はないぞ。その者達が落ち着くまで、現状の分かる範囲で“昨日の事”を説明してもらっても良いかの?アイル大団長」
「はい。かしこまりました」
そう。
昨夜から一旦別れたレイ達であったがその翌日の早朝。アイル大団長とランベルに呼ばれて城を訪れる事になったレイ達は、昨日起こった異様な騒動の貴重な目撃人として、国王から呼ばれた次第であった。
勿論レイ達は騎士団の後を追ってあそこにいました等、本当の事は言えないのだが、場所が場所なだけに、普通のハンター達がいても何ら可笑しい状況ではなかった事に加え、あの騒動を無事に鎮めたレイ達の事を、国王は騎士団員から何十回と耳にしていたらしい。
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