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第二部 ~二年と再会~

103 噂の団長

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♢♦♢

~火の王国・ポロン村~

 レイとリエンナが瞬く間にポロン村を訪れ、久々に再会したローラやドロン婆さんと大いに盛り上がった翌日。レイ達3人は、数日後に水の王国に戻って来る予定のランベルと合流しようと計画を立てていた。

「――じゃあ予定通り、来週ランベルを迎えに行くって事で」
「音信不通だった奴がよく予定通りなんて言葉使えるわね」
「フフフ。こうして話すのがとても懐かしい感じもしますが、つい昨日の事の様にも感じる不思議な気持ちですね」
「そうだな」
「ドーランさんも元気そうで良かったです」
<黒龍の我に心配は無用だ。それより……リエンナもローラも少しは“成長”した様であるな――>

 リエンナに声を掛けられ出てきたドーランが、久々に会った2人を見てそう言った。どうやらこの2年で成長したローラとリエンナの魔力を感じ取っている様だ。

「当たり前でしょ。その為に毎日特訓してきたんだから」
「そうですね」
「俺は相当ヤバかったぞこの2年」
「アンタ昨日からそれしか言ってないけど、結局何がどうヤバかったのよ」
「言葉では言い表せないぐらい……。兎に角ヤバかったんだよ!な、ドーラン」
<……>

 この2年で成長した部分もあればそうでない部分も当然ある。良くか悪くかその成長が全くない部分の1つがレイの語彙力であった。昨日から皆お互いにどういう日々を送っていたかと自然に話していたのだが、レイは「兎に角ヤバかった」としか伝えられず、結局詳しい事が一切分からないローラとリエンナだった。

 強いて分かった事と言えば、ブラックホールという場所にはドラゴンがうじゃうじゃいるという事と、毎日ドラゴンが喧嘩しまくっているという事。そしてそんな環境にいたせいで兎に角ヤバかったという事だけである。

「それにしてもさ、いつの間にローラもリエンナもハンターランクBまで上がってんだよ。俺なんてあれから何も上がってないぞ」
「クエスト受けていないからでしょ。どうすんのよアンタ」
「いや~困ったな」
「ドーランも目的分かってる? 異空間にはアンタの体もあるんだから、もっと自覚持ちなさいよ」
<……すまぬ……>

 ぐうの音も出ないドーランは人間の女の子相手に頭が上がらなかった。心の奥底で、イヴだけには見られなくて良かったと思うドーランであった。

「まさかランベルがAランクまで上がってるとは更に驚きだぜ俺は」
「それは割と最近よ。レイと連絡が取れなくなったここ数ヶ月の話だから」
「へぇ~、そうなのか。皆頑張ってんだな」
「ランベルさんはそのAランクに上がった事がきっかけで、今回の任務を任されたらしいですよ」
「まぁある意味タイミングが良かったと言えば良かったかもね。結果皆集まれそうだし」
「ランベルにも早く会いてぇな――」


 ここから数日後、ランベルが水の王国に戻る予定日となり、レイとローラとリエンナの3人は水の王国へと向かうのであった――。


♢♦♢


~水の王国~


「うっはー!ここも久々だな!」

 水と街が神秘的に混ざり合う街並みは、何度訪れても見る者を虜にする景色。

「懐かしいわねぇ。水の王国は色々あったから」
「そうですね。ここで皆さんと出会っていなかったら、きっと私は今も変わらずに日々を過ごしていたと思います」
「思い返せば、レイが迷子になってくれたお陰でリエンナと出会えたのよね」
「何言ってんだよ。迷子になったのお前とランベルだろ? 勝手にいなくなったかと思いきや無銭飲食までしていたもんな……。しょうがねぇ奴らだ全く」
「お前が勝手に突っ走って行方不明になったんでしょうがッ!それに“無銭”ではないわよ!ちょっとお金が足りなかっただけ!それだって元はと言えばランベルのせいなんだからね」
「はいはい、もういいよそんな事は。それより早くランベルのとこ行こうぜ」

 この水の王国では色々あったなと振り返りながら、レイ達はランベルが戻ってきているであろう騎士団の屯所を目指し歩く。騎士団の屯所は王都にある城の直ぐ側だ。大きく聳え立つ城まで辿り着いたレイ達。その城を見るなり、皆あの日の事を鮮明に思い出していた。

 始まりはポロン村を襲ったオーガ……。
 黒幕が水の王国の騎士団員であると分かったレイ、ローラ、ランベルの3人が水の王国に訪れ、リエンナと出会った。一緒に犯人を探し出し、リエンナの不遇な事情も知った。王家に恨みを抱いていた団員がケルベロスを召喚したが、大団長がその実力で圧倒し、母様の残忍な裏切り行為もあったが結果リエンナという大切な仲間が出来た――。

 とても慌ただしくとても濃い1日。

 城を眺めていた3人はふとそんな事を思い出に浸っていた。

「大団長にも会いたいよな」
「是非お会いしたいですね」
「ランベルの話でもたまに出てきてたわよね。2人共元気かしら?」

 色々と思いにふけながら、レイ達はランベルが帰って来るのを待った。周辺をブラブラしたりご飯を食べたり。合間合間でランベルを確認するがまだ帰ってこない様子。その後も適当に買い物をしたり観光してみたりと時間を潰していたレイ達だったが、待てど暮らせどランベルは帰って来なかった。

「――すっかり夜だな」
「何時帰って来るのかしら」
「そう言えば正確な時間までは聞いていなかったですね。騎士団の任務は予定通りに行かない事も多々あるとも言っていましたし」
「まぁ騎士団は何かと忙しいからね……。ランベルも遅れてるって事かしら」
「おいおい、それじゃあ何時まで待てばいいんだよ」
「知らないわよそんなの」

 不測の事態にどうしたのもかと考えるレイ達。だが任務に出て個人的な連絡が取れない以上ランベルの帰りを待つしかない。普通ならばそう思うのだが……こういう時に予想外の行動を起こすのがレイの得意技である――。

「すいませーん!」

 ほんの一瞬目を離しただけの間に、いつの間にかレイは騎士団屯所の扉をノックしていた。

「え、また何してるのよアイツは……!」

 ローラとリエンナが気が付いた頃には、ノックに反応したであろう騎士団員が屯所の扉を開けレイと話していた。

「――はい。……って、どうしたんだい?こんな夜に。何かあったのかい?」
「いえ、そんな物騒な話ではなくて、あの……ランベルって名前の団員がここにいると思うんですけど、今日帰って来る予定だと言っていたのにまだ帰って来てないみたいなんです。何処にいるか分かります?」
「ああ、誰か探しているのか。ちょっと待ってくれよ……。え~と、ランベル……だったかな名前が?」
「はい」
「あー……と、いたいた!これかな? ランベル・モレ―」
「そうそう! それです」
「彼は第9師団の“団長”だね……。確かに第9師団の任務は今日が戻りの予定だけど、まだ戻って来ていないね。2,3日遅れそうだと今日の昼頃に屯所に連絡が入っているみたいだけど」

 親切にそう教えてくれた騎士団員のお兄さん。確かにとても有り難い情報であったのだが、レイはそんな事よりも今団員のお兄さんが言ったある言葉がとても気になっていた。

「ねぇ、お兄さん! 今……団長って言った……? ランベルが?」
「ん? そうだよ。彼は第9師団の団長だ。ここのリストにも書いてあるし、そう言えば少し前にAランクに上がった若い青年が団長になったと噂になっていたよ。彼の事だったんだね。この歳で凄い抜擢だ」
「ランベルが団長に……」

 団員のお兄さんの話を聞いた直後、レイの全身は武者震いに襲われた。無意識に口元も緩み、何故だか自分の事の様に嬉しさが込み上げているレイだった。

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