上 下
69 / 112
第四章 ~幽霊屋敷(ゴーストハウス)編~

68 何気ない一日

しおりを挟む
「―そうだ!そういえばあの子達誰なんだよレイ。しっかり説明して……って、あの子達何か体変じゃねぇか⁉ 大丈夫かお前ら!」

そう。

再びレイ達の前に現れたルークとネルは体が透け、徐々に消えかかっていたのだ。

「ルーク、ネル……」

レイ達は少し不安そうな表情でルーク達を見たが、それに反してルークとネルはとても嬉しそうな表情をしていた。

「お兄ちゃん達ありがとう!アイツが消えたお陰で全部思い出したよ」

「私もルークも、パパやママ達も、全部あの黒い影が犯人だったの。凄く前に……まだ私達がこの屋敷に引っ越してきたばかりの頃は普通だったんだよ。でもね、ある日ママが急に体の具合が悪くなって、そこから変な事ばかり起きる様になったの」

思い出したルークとネルは全てを話してくれた。

体調不良になったママは段々と様子が可笑しくなっていき、屋敷でもパパや他の兄妹達も黒い影を見るようになったと。
その後ママの体調は原因不明のまま治る事がなくずっと寝たきりになり、パパや他の兄妹……そしてルークとネルも同じようになっていったという―。

始めは屋敷に来ていた医者や関係者も、この屋敷を訪れた次の日から次々に身の回りで不幸や災難が起こり、噂が噂を呼んだ結果、いつの間にか誰も寄り付かなくなってしまったらしい。
助けが来ず、また呼ぶことも出来ず、ルーク達家族はそのままこの屋敷……グリムリーパーに囚われてしまったのだった―。

最後の力を振り絞りパパが色々調べた結果、このグリムリーパーという存在に辿り着いた為何とか逃げようとしたのだが、その時にはもう遅かった……。

逃げる程の体力も残っておらず、何とか子供達だけでも非難させようとしたパパであったが、グリムリーパーに逃げる事を感づかれ皆奴に捕まってしまったという。

ルークとネルの最後の記憶はそんなグリムリーパーから逃げているところだった―。

そして、ルークとネルが目を覚まし気か付いた時には数十年後のこの屋敷。

ルークとネル以外の家族の姿は無く、屋敷のあちこちに埃が溜まり壁や天井には蜘蛛の巣が張っていた。
目を覚ました時にはその最後の記憶だけが頭にあり、皆が何処へ行ってしまったかは分からない。

何度か屋敷に人が訪ねてくるも、誰もルークとネルに気付かなかった。声を出しても聞こえない。触れようとしても触れられない。

何年もこの屋敷を彷徨っていた時に、レイ達が現れた。

グリムリーパーが消滅し“死して尚、幻覚の中に囚われていた”ルークとネルの魂は、遂に家族の元へと旅立てる時がやって来たのだ。

話を聞いていたレイ達の目にはいつからか涙が―。

「……何で泣いてるのお兄ちゃん達?僕とネルはお兄ちゃん達のお陰でこれから家族に会えるんだよ!」

「そうそう!パパもママも、ネル達のお兄ちゃんとお姉ちゃんもネルとルークの事呼んでるから大丈夫!皆を見つけてくれてありがとう!」

涙と嗚咽が止まらない―。

事情が分からなかったレイやローラは勿論、ルークとネルの話を聞き全て理解したランベルとリエンナもただただ泣いていた。
辛かっただろう……寂しかっただろう……。
とても想像できるような事ではない。ましてや気持ちを理解してあげる事などきっと誰にも出来ない。

だが、ここでレイ達が出会ったのも何かの巡り合わせ―。

レイは鼻を啜りグッと涙を堪えた。

自分より幼いルークとネルは泣いていない。それどころかレイ達に感謝し、純真無垢な笑顔で見ている。

確かに起こった事は悲しいが、ルークとネルにとっては待ちわびた瞬間なのかも知れない―。

消えて行く小さな体に向かって、レイも笑顔で声を掛けた。

「……ルーク!ネル!これで家族に会えるんだろ?良かったな!」

「うん!ありがとう!」

「お兄ちゃん達に会えて良かった!」

「俺も……二人に会えて楽しかった。色々案内してくれてありがとな!」

「また遊ぼうね!」

「おう!またな!」

そう言った直後、ルークとネルの体は完全に消えていってしまった―。

薄暗かった幽霊屋敷の窓からは暖かい日差しが降り注ぐ。

雲一つない快晴。
レイはにっこりと笑い、窓の外を見上げた。

「皆会えたかな……」

<今頃会っているさきっとな>

そんなレイの問いかけにルークとネルが答えるかの様に……開けた窓から心地よい風が吹いてきた―。



「――さて。……それじゃあ帰ろうぜ皆!」



こうして、レイ達の何とも不思議な出来事は幕を閉じた。

いつもと変わらない一日。

いつもと変わらないクエスト。

だが、今日という日は少し特別で少し悲しくて、とても素敵な出会いがあった……そんな何気ない一日であった―。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺達ダン!ジョン!創作隊

霧ちゃん→霧聖羅
ファンタジー
憧れの冒険者。 冒険者になったら、魔物をガンガンぶっ倒して。 そうして成り上がって綺麗な姉ちゃん達にラブラブもてもて! …そんな夢、みたっていいよな? そんな俺を襲う悲しいチート。 モンスターホイホイってなんなのさ!? ハーレムの一つも作れない、そんな俺の冒険譚。 こちらの作品は隔日更新になります。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

無属性魔術師、最強パーティの一員でしたが去りました。

ぽてさら
ファンタジー
 ヴェルダレア帝国に所属する最強冒険者パーティ『永遠の色調《カラーズ・ネスト》』は強者が揃った世界的にも有名なパーティで、その名を知らぬ者はいないとも言われるほど。ある事情により心に傷を負ってしまった無属性魔術師エーヤ・クリアノートがそのパーティを去っておよそ三年。エーヤは【エリディアル王国】を拠点として暮らしていた。  それからダンジョン探索を避けていたが、ある日相棒である契約精霊リルからダンジョン探索を提案される。渋々ダンジョンを探索しているとたった一人で魔物を相手にしている美少女と出会う。『盾の守護者』だと名乗る少女にはある目的があって―――。  個の色を持たない「無」属性魔術師。されど「万能の力」と定義し無限の可能性を創造するその魔術は彼だけにしか扱えない。実力者でありながら凡人だと自称する青年は唯一無二の無属性の力と仲間の想いを胸に再び戦場へと身を投げ出す。  青年が扱うのは無属性魔術と『罪』の力。それらを用いて目指すのは『七大迷宮』の真の踏破。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

処理中です...