上 下
8 / 112
第一章 ~追放と出会い~

07 宣戦布告

しおりを挟む
「バカなッ……⁉︎そんな事ある筈が……!!」

前代未聞の事態に、先程まで冷静だったマリシャスの体が小刻みに震え出す。

「弾が止まってるのってフェアリー・イヴの力……?」

自分に向かって放たれた弾丸が止まっているのはイヴの力だとレイも気付いた。
クリアな檻の中にいるイヴは真っ直ぐマリシャスを見ている。

「─何をそんなに驚いている?“こんなもの”で本当に私を封じ込められていると思っているのか……愚かな」

イブ本人の言葉で、この魔力がイブのものであると確定した。

現実を理解しようとすればする程マリシャスの顔が絶望へと変わっていく。
それでも信じたくないマリシャスは最早冷静に考えられる状態ではない。
何の考えも対策もなく再び「う、撃てッ…!!」と取り乱しながらの発砲指示を出し、それに従い警備員達が撃ったが結果は全く同じ。

まるでデジャヴを見ているかの様なその光景にイブもあきれ果てている様子だ―。

「――昔は“全て”の種族が仲良く平穏に暮らしていた…。貴様ら“人間”と我々“エルフ”もな。
しかし人間が…いや、“忌まわしきロックロス家”がこの世界の秩序を変えた―。
流れゆく千年という時の中で“その真実”を知る者は数少ない。事の始まりであるロックロス家の者ですら、今となっては何も知らなそうだ」

イヴはレイを見ながら言った。

言葉から感じ取られる人間への恨みや憤り。
言葉通りならば人間全てではなく“ロックロス家”に対するものに思える。

大きなきっかけとなっているであろう千年決戦やロックロス家というワードがドーランだけでなくイヴからも出た事で、レイは自分が思っている以上にロックロス家の闇の深さを痛感した。
レイがそんな事を思っていると、また別のところに引っ掛かったマリシャスが口を開いた。

「お前らエルフの歴史など興味はない……!真実がどうであれお前の“危険度”は変わらないのだからな。抵抗するならば死あるのみ!!
それよりも……少年!ロックロス家の者とは一体どういう事だ―?お前ら犯罪者が軽々しく口にしてよい名ではない」

マリシャスは動揺しながらも険しい剣幕でレイを睨みつけていた。

「余計な事言うなよ……!」

「ホントの事を言って何が悪い」

レイが小声でイヴに文句を言ったが当の本人はしれっとしている。

<……それより異空間の話を進めてくれぬか?我はそこに用がある>

「うるせぇなお前は!先にこの状況何としないといけないだろうが!」

ドーランのマイペースさにレイがツッコんだ。

レイがわちゃわちゃしていると、一人の警備員が紙切れを手にしマリシャスに渡した。
それを受け取ったマリシャスは内容を読み驚きの表情を見せた。

「レイ……ロックロスだとッ……⁉本当に王家の者なのか⁉」

マリシャスの言葉に周囲にいた者達も驚いている。

どうやらアルカトラズの監視カメラに映ったレイの身元を調べた調査班からの報告書だったらしい。
さすがの対応力でレイの素性が直ぐにバレた。

「フッフッフッ!私が言わなくてもバレたね……ロックロス」

<意外と個人情報が守られていないな。ロックロス家なのに>

次々に口にする“ロックロス”という言葉に拒絶反応のあるレイは怒りが爆発した―。

「あ”ぁぁぁぁーー!!!!どいつもこいつもロックロスロックロスうるせぇんだよッ!!……いいかそこのオヤジッ!!」

突如怒り出したレイを皆が見る。

そのレイはマリシャスを思いっ切り指差し“口”撃に出た―。

「俺はもうロックロスの人間じゃねぇ!!ついさっき出てきたからな!!キャバルの野郎の事だから直ぐに俺の名前をロックロスから消すはずだ!!それまで待ってろ!!二度とその名を口にするんじゃねぇ!!
もし間違ってでもその名を口にしてみろ……俺の魔法で貴様諸共このアルカトラズを消してやるからな!!」

怒り狂ったレイ。
子供の様にプンスカ怒っている姿は呆れて物も言えないが、本人も無意識のうちにその体から練り出された“魔力”の強さに周囲は唖然としていた―。

勿論これはレイでなくドーランの魔力。

だが今回はドーランが出しているのではくレイの魔力コントロールによって出されていた。

「……アンタの主人大丈夫かい?」

<まだ十六の子供……そっと見守ってやってほしい……>

「フッハッハッ。何だねそれは。……まぁ無意識だろうがアンタの魔力を“扱っている”じゃないか」

<ああ。あたかも自分の物の様に言っておるが>

イヴとドーランが話していると急にレイの怒りの矛先が変わった―。

「お前らもお前らだ!!」

「<――⁉>」

マリシャスに文句を言ったレイの怒りは、“同じくロックロスを口にした”ドーランとイヴに向いた。

「ドーラン!!お前に至ってはもう三回目だ!!何度俺をロックロスと呼ぶ!!学習能力がねぇのかこのバカドラゴンは!!」

<なッ……⁉バ、バカドラゴンと……⁉>

「お前もだぞイヴ!!妖精王だか人間恨んでんのか知らねぇけどちょっと魔力が高いからって俺をロックロスの名で呼ぶな!!“次言ったら”この檻ごと吹き飛ばすぞ!!」

「ハーーハッハッハッ!どこまで笑わせるんだこの人間は」

狂喜乱舞するレイに思わずまた笑ってしまうイヴ。馬鹿呼ばわりされたドーランは驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。

そしてその勢いのまま再びマリシャスの方を向いたレイ。

無意識に発動された魔法でマリシャスが持っていた拡声器を自分の所に移した。
レイは手にした拡声器の音量を最大にし、アルカトラズ全てに響き渡る音でこう言った―。


「――俺はロックロス家を潰す!!!
……“キャバル”!!顔洗って待ってろ!!これは俺からお前らロックロスへの宣戦布告だッ!!!
お前等の悪事を俺が全て暴いてやらぁ!!!」



今日ここに、長年世界を牛耳ってきた王家ロックロスへの正当な宣戦布告がなされた――。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

無属性魔術師、最強パーティの一員でしたが去りました。

ぽてさら
ファンタジー
 ヴェルダレア帝国に所属する最強冒険者パーティ『永遠の色調《カラーズ・ネスト》』は強者が揃った世界的にも有名なパーティで、その名を知らぬ者はいないとも言われるほど。ある事情により心に傷を負ってしまった無属性魔術師エーヤ・クリアノートがそのパーティを去っておよそ三年。エーヤは【エリディアル王国】を拠点として暮らしていた。  それからダンジョン探索を避けていたが、ある日相棒である契約精霊リルからダンジョン探索を提案される。渋々ダンジョンを探索しているとたった一人で魔物を相手にしている美少女と出会う。『盾の守護者』だと名乗る少女にはある目的があって―――。  個の色を持たない「無」属性魔術師。されど「万能の力」と定義し無限の可能性を創造するその魔術は彼だけにしか扱えない。実力者でありながら凡人だと自称する青年は唯一無二の無属性の力と仲間の想いを胸に再び戦場へと身を投げ出す。  青年が扱うのは無属性魔術と『罪』の力。それらを用いて目指すのは『七大迷宮』の真の踏破。

邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~

きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。 しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。 地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。 晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。

「やり直しなんていらねえ!」と追放されたけど、セーブ&ロードなしで大丈夫?~崩壊してももう遅い。俺を拾ってくれた美少女パーティと宿屋にいく~

風白春音
ファンタジー
セーブ&ロードという唯一無二な魔法が使える冒険者の少年ラーク。 そんなラークは【デビルメイデン】というパーティーに所属していた。 ラークのお陰で【デビルメイデン】は僅か1年でSランクまで上り詰める。 パーティーメンバーの為日夜セーブ&ロードという唯一無二の魔法でサポートしていた。 だがある日パーティーリーダーのバレッドから追放宣言を受ける。 「いくらやり直しても無駄なんだよ。お前よりもっと戦力になる魔導士見つけたから」 「え!? いやでも俺がいないと一回しか挑戦できないよ」 「同じ結果になるなら変わらねえんだよ。出ていけ無能が」  他のパーティーメンバーも全員納得してラークを追放する。 「俺のスキルなしでSランクは難しかったはずなのに」  そう呟きながらラークはパーティーから追放される。  そしてラークは同時に個性豊かな美少女達に勧誘を受け【ホワイトアリス】というパーティーに所属する。  そのパーティーは美少女しかいなく毎日冒険者としても男としても充実した生活だった。  一方バレッド率いる【デビルメイデン】はラークを失ったことで徐々に窮地に追い込まれていく。  そしてやがて最低Cランクへと落ちぶれていく。  慌てたバレッド達はラークに泣きながら土下座をして戻ってくるように嘆願するがもう時すでに遅し。  「いや俺今更戻る気ないから。知らん。頑張ってくれ」  ラークは【デビルメイデン】の懇願を無視して美少女達と楽しく冒険者ライフを送る。  これはラークが追放され【デビルメイデン】が落ちぶれていくのと同時にラークが無双し成り上がる冒険譚である。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

神から最強の武器をもらったのに無双出来ないんですが!

半袖高太郎
ファンタジー
神が死に絶えた世界。 人の世になった世界で誕生した「勇者」と「魔王」 勇者は果敢な冒険を! 魔王は力で覇を唱える! 仲間たちとの冒険! 大軍勢での侵略! 神秘的な世界! 美しき姫とのロマンス! 勇者と魔王は世界の端から互いを目指して突き進む! 勝利を! 愛を手に入れるため! ……なんて、簡単な話だったらどれだけよかっただろう。 ——これは世界を巻き込んだ愛する人の奪い合い。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

処理中です...