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~第3章 元凶と秘密~
回想~エミリオとジークリート~後編
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<……と言う事は、貴様の息子が我を此処から解放すると? 召喚魔法など他の者でもいいだろう……>
『それはダメです。長きに渡り貴方を封印してきた我々リルガーデン家の者の召喚でしか、この封印を完璧に解く事は出来ないですから』
<何処までも貴様のペースだな。もういい……。だが最後に聞かせろ。何故今になって我の封印を解く気になった――>
ジークは心の何処かでエミリオという1人の人間を認めた。そしてエミリオの意図も段々と分かってきたが、何故このタイミングでという事だけがジークは最後に気になっていた。
どれだけ長い間封印されていたかは定かではないが、恐らく今でなくてもタイミングはあった筈だと。確かにモンスターの軍の襲来でピンチなのは分かるが、それだけが理由とは到底思えなかったのだ。
『それはですね……。今しがた起きているモンスター軍の襲撃という事も1つですが、それ以上に、代々受け継いできたリルガーデン家の魔力が限界となったからです。
長きに渡り強大な貴方を封印してきた事により、我々は時代を重ねるごとに受け継がれる魔力が弱まってきました。その証拠に、ルカは僅かな魔力しか宿らないFランクの診断を受けています』
<聞かぬ方が良かったな。最後まで結局貴様達の都合か>
『確かに貴方からすればそう思うかもしれません。ですが、先程も言った通り、運命とは必然でもあります。
我々リルガーデン家では過去にルカ以外、召喚魔法の適性を持って生まれた者がいないですからね。我々にとっても、貴方にとっても、きっとこれが運命であり最後の時なのですよ――』
エミリオは全てを話し終えると、最後に焦る様に言った。
『もう時間がありません。頼みましたよ、竜神王ジークリート。
最後に貴方と話せて良かった。リルガーデン家の名において……貴方の封印を解きます――!』
<(最後の最後まで身勝手で偉そうに……。まぁいい。我にかかれば人間1人守るなど造作もない。しかもソイツしか我を此処から出せぬと言うならば仕方がないな。だが、飲む条件はそれだけ。
エミリオ……。貴様は言った通り我が食らってやる! 人間如きが王の我に一杯食わせるなど解せぬからな!
封印さえ解ければ我にもそれぐらいは出来る! ヌハハハッ――!)>
エミリオが封印を解くと、真っ暗闇であったこの場に突如激しい光が生まれ、一瞬にして暗闇が光りに包まれた――。
<おお……>
肉体の無いジークであったが、封印が解かれた瞬間確かに五感を得た。そして、真っ暗闇であった視界から瞬く間に切り替わると、そこは見慣れない何処か外……。目の前には壊れかけている建物の外で、1人の女の人間がジークを見ている。
一瞬戸惑ったジークであったが、此処が外の世界であり、目の前にいる女の人間がエミリオであるという事を理解した。
<ヌハハハハ! 本当に封印が解かれたか! よし、貴様との条件は一先ず守ってやろう。だが我を散々侮辱した貴様だけはッ……⁉>
次の瞬間、ジークは皆まで言いかけて止まった。
「貴方が……竜神王ジークリート……。初めまして……。私がエミリオ・リルガーデンよ……」
<貴様……>
ジークがエミリオを食らおうとしたが、そのジークに視界で捉えたエミリオは全身から血を流し、既に瀕死状態であった――。
<何だ。貴様既に死にかけているじゃないか……。食らってやろうと思っていたのに>
「フフフフ……。もう助からないからお好きにどうぞ……。でも、約束だけは守ってもらうわよ……」
<死ぬ間際までいけ好かん奴だ……。こんな状態の貴様を食らっても面白くない>
エミリオの現状を直に見たジークは、いつの間にか食らってやるという気持ちが冷めてしまっていた。
<我はどれだけ封印されていた?>
「もう2000年にはなるわね……」
<そんなに……? 思ったより時が経っているな>
ジークは最後に改めて関心してしまった。
例え強力な封印魔法を持つ一族だとしても、所詮は人間……。全種族のトップに君臨する王のジークを人間が2000年もの間封印し続けてきたからだ。ジークにとって、弱き人間がここまでやるとはとても意外だったのだろう。
「そうよ。でもそれももう限界……。貴方の封印に魔力を使い過ぎて、私達の代で最後だわ……。ルカも貴方を封印し続ける魔力なんて残っていない。
だけど……あの子は世界で唯一、貴方を完全に解き放つ事が出来る存在。ルカとジークリート……。お互いにとって欠かせない存在になると、私は思っている……」
瀕死状態にも関わらず、エミリオは揺るぎない覚悟を持った真っ直ぐな瞳をジークに向けていた。
「どうしたの……? 何時でも食べていいわよ……。早くしないと死んじゃうけど……」
<ふん……。こんな状態では興醒めだ>
「フフフ。優しいのね貴方はやっぱり……」
長きに渡り封印してきたリルガーデン家の者であるからこそ、ジークから感じる魔力は強さや憎悪だけでなく、奥底からしっかりと暖かさを感じ取っていた。エミリオはジークと実際に会い、ずっと感じていた暖かさが確信に変わったのだった。
<ふざけた事を……。まぁいい。貴様のその覚悟と我の封印を解いた事だけは認めてやろう。息子1人ぐらい我が守ってやる――。
どの道ソイツに死なれたら我は本当に終わりの様だからな。それに貴様の卑怯な空間魔法の事もある。それだけは王として絶対に許せぬわ>
「……ありがとう。多分ルカはもうすぐここに来ると思うわ……。分からないけど、そんな気がするの……。宜しくねジークリート……。
それと……この事……はルカに……内緒……で――」
エミリオはそこで息絶えた――。
そしてその数十分後、多くの人間が逃げ惑う中で1人の青年がエミリオの遺体の前で止まった。
「嘘だろ……」
青年はエミリオの遺体を見ると崩れる様にその場にへたり込んだ。遺体を抱く青年の腕には血が付いていたが、どうやらエミリオの血ではない。それどころかよく見れば彼自身も凄い出血であった。
<ん。もしかしてコイツか……?>
ジークはエミリオを抱きしめる1人の青年に気が付いた。ジークが彼を視界に捉えた刹那、その青年から一気に怒り、虚無、絶望、憎悪……と様々な負の感情が溢れ出したのを感じ取った。
エミリオを抱きながら大粒の涙を流す青年を見て、ジークはコイツだと確信した。
「くそモンスターがッ……! うあ゛ァァァァァ……!」
エミリオと交わした約束。そして彼女が最後に残した言葉。
ジークは面倒くさそうに小さく溜息を付いていた。
<(見るからに弱そうな人間だ……。本当に魔力もほぼ感じられぬ。面倒だが仕方がない。今の事も内緒にしたいらしいからな……適当に合わせておいてやるぞ。エミリオよ――)>
ジーク自身も様々な思いを胸に、怒り泣き狂う青年に声を掛けた。
<今のは主か……>
何処からともなく聞こえた声に、青年は困惑しながら辺りを見渡している。
「は……? なにこれ……」
<どうやら主で間違いないようだな。ヌハハハ、まさか封印が解かれる日が来るとは>
こうして、ジークはエミリオの息子であるルカ・リルガーデンと出会った。
唯一自分を解放出来る筈のルカであったが、既に彼も死にそうであった。そしてルカは、エミリオとの会話でジークが察していた通り、詳しい事情を何も知らない青年であった。
ただ、その瞳の真っ直ぐさと纏う雰囲気がエミリオそっくりだとジークは思っていたのだった。
<(わざわざ内緒にしなくても、これなら大丈夫だろう。
エミリオよ、これで良いのだな……? 不本意ではあるが、主との約束は我が守ってやる。安心して静かに眠るが良い――)>
『それはダメです。長きに渡り貴方を封印してきた我々リルガーデン家の者の召喚でしか、この封印を完璧に解く事は出来ないですから』
<何処までも貴様のペースだな。もういい……。だが最後に聞かせろ。何故今になって我の封印を解く気になった――>
ジークは心の何処かでエミリオという1人の人間を認めた。そしてエミリオの意図も段々と分かってきたが、何故このタイミングでという事だけがジークは最後に気になっていた。
どれだけ長い間封印されていたかは定かではないが、恐らく今でなくてもタイミングはあった筈だと。確かにモンスターの軍の襲来でピンチなのは分かるが、それだけが理由とは到底思えなかったのだ。
『それはですね……。今しがた起きているモンスター軍の襲撃という事も1つですが、それ以上に、代々受け継いできたリルガーデン家の魔力が限界となったからです。
長きに渡り強大な貴方を封印してきた事により、我々は時代を重ねるごとに受け継がれる魔力が弱まってきました。その証拠に、ルカは僅かな魔力しか宿らないFランクの診断を受けています』
<聞かぬ方が良かったな。最後まで結局貴様達の都合か>
『確かに貴方からすればそう思うかもしれません。ですが、先程も言った通り、運命とは必然でもあります。
我々リルガーデン家では過去にルカ以外、召喚魔法の適性を持って生まれた者がいないですからね。我々にとっても、貴方にとっても、きっとこれが運命であり最後の時なのですよ――』
エミリオは全てを話し終えると、最後に焦る様に言った。
『もう時間がありません。頼みましたよ、竜神王ジークリート。
最後に貴方と話せて良かった。リルガーデン家の名において……貴方の封印を解きます――!』
<(最後の最後まで身勝手で偉そうに……。まぁいい。我にかかれば人間1人守るなど造作もない。しかもソイツしか我を此処から出せぬと言うならば仕方がないな。だが、飲む条件はそれだけ。
エミリオ……。貴様は言った通り我が食らってやる! 人間如きが王の我に一杯食わせるなど解せぬからな!
封印さえ解ければ我にもそれぐらいは出来る! ヌハハハッ――!)>
エミリオが封印を解くと、真っ暗闇であったこの場に突如激しい光が生まれ、一瞬にして暗闇が光りに包まれた――。
<おお……>
肉体の無いジークであったが、封印が解かれた瞬間確かに五感を得た。そして、真っ暗闇であった視界から瞬く間に切り替わると、そこは見慣れない何処か外……。目の前には壊れかけている建物の外で、1人の女の人間がジークを見ている。
一瞬戸惑ったジークであったが、此処が外の世界であり、目の前にいる女の人間がエミリオであるという事を理解した。
<ヌハハハハ! 本当に封印が解かれたか! よし、貴様との条件は一先ず守ってやろう。だが我を散々侮辱した貴様だけはッ……⁉>
次の瞬間、ジークは皆まで言いかけて止まった。
「貴方が……竜神王ジークリート……。初めまして……。私がエミリオ・リルガーデンよ……」
<貴様……>
ジークがエミリオを食らおうとしたが、そのジークに視界で捉えたエミリオは全身から血を流し、既に瀕死状態であった――。
<何だ。貴様既に死にかけているじゃないか……。食らってやろうと思っていたのに>
「フフフフ……。もう助からないからお好きにどうぞ……。でも、約束だけは守ってもらうわよ……」
<死ぬ間際までいけ好かん奴だ……。こんな状態の貴様を食らっても面白くない>
エミリオの現状を直に見たジークは、いつの間にか食らってやるという気持ちが冷めてしまっていた。
<我はどれだけ封印されていた?>
「もう2000年にはなるわね……」
<そんなに……? 思ったより時が経っているな>
ジークは最後に改めて関心してしまった。
例え強力な封印魔法を持つ一族だとしても、所詮は人間……。全種族のトップに君臨する王のジークを人間が2000年もの間封印し続けてきたからだ。ジークにとって、弱き人間がここまでやるとはとても意外だったのだろう。
「そうよ。でもそれももう限界……。貴方の封印に魔力を使い過ぎて、私達の代で最後だわ……。ルカも貴方を封印し続ける魔力なんて残っていない。
だけど……あの子は世界で唯一、貴方を完全に解き放つ事が出来る存在。ルカとジークリート……。お互いにとって欠かせない存在になると、私は思っている……」
瀕死状態にも関わらず、エミリオは揺るぎない覚悟を持った真っ直ぐな瞳をジークに向けていた。
「どうしたの……? 何時でも食べていいわよ……。早くしないと死んじゃうけど……」
<ふん……。こんな状態では興醒めだ>
「フフフ。優しいのね貴方はやっぱり……」
長きに渡り封印してきたリルガーデン家の者であるからこそ、ジークから感じる魔力は強さや憎悪だけでなく、奥底からしっかりと暖かさを感じ取っていた。エミリオはジークと実際に会い、ずっと感じていた暖かさが確信に変わったのだった。
<ふざけた事を……。まぁいい。貴様のその覚悟と我の封印を解いた事だけは認めてやろう。息子1人ぐらい我が守ってやる――。
どの道ソイツに死なれたら我は本当に終わりの様だからな。それに貴様の卑怯な空間魔法の事もある。それだけは王として絶対に許せぬわ>
「……ありがとう。多分ルカはもうすぐここに来ると思うわ……。分からないけど、そんな気がするの……。宜しくねジークリート……。
それと……この事……はルカに……内緒……で――」
エミリオはそこで息絶えた――。
そしてその数十分後、多くの人間が逃げ惑う中で1人の青年がエミリオの遺体の前で止まった。
「嘘だろ……」
青年はエミリオの遺体を見ると崩れる様にその場にへたり込んだ。遺体を抱く青年の腕には血が付いていたが、どうやらエミリオの血ではない。それどころかよく見れば彼自身も凄い出血であった。
<ん。もしかしてコイツか……?>
ジークはエミリオを抱きしめる1人の青年に気が付いた。ジークが彼を視界に捉えた刹那、その青年から一気に怒り、虚無、絶望、憎悪……と様々な負の感情が溢れ出したのを感じ取った。
エミリオを抱きながら大粒の涙を流す青年を見て、ジークはコイツだと確信した。
「くそモンスターがッ……! うあ゛ァァァァァ……!」
エミリオと交わした約束。そして彼女が最後に残した言葉。
ジークは面倒くさそうに小さく溜息を付いていた。
<(見るからに弱そうな人間だ……。本当に魔力もほぼ感じられぬ。面倒だが仕方がない。今の事も内緒にしたいらしいからな……適当に合わせておいてやるぞ。エミリオよ――)>
ジーク自身も様々な思いを胸に、怒り泣き狂う青年に声を掛けた。
<今のは主か……>
何処からともなく聞こえた声に、青年は困惑しながら辺りを見渡している。
「は……? なにこれ……」
<どうやら主で間違いないようだな。ヌハハハ、まさか封印が解かれる日が来るとは>
こうして、ジークはエミリオの息子であるルカ・リルガーデンと出会った。
唯一自分を解放出来る筈のルカであったが、既に彼も死にそうであった。そしてルカは、エミリオとの会話でジークが察していた通り、詳しい事情を何も知らない青年であった。
ただ、その瞳の真っ直ぐさと纏う雰囲気がエミリオそっくりだとジークは思っていたのだった。
<(わざわざ内緒にしなくても、これなら大丈夫だろう。
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