上 下
72 / 73

第72召喚 Sランクアーティファクトの存在

しおりを挟む
  グリムは決して冗談を言った訳ではない。それはアーサーにもすぐに分かった。だが疑わずにはいられない。たった今グリムが発した言葉……。

 “Sランク”という言葉に――。

「いや……あの、グリムさん……。確かにランクアップ召喚はアーティファクトのランクを上げる事が出来ますけど、AランクアーティファクトをSランクにって……」
「なんだ、それは出来ないのか?」

 アーサーとグリムの会話が僅かに噛み合わない。グリムは“そういう意味ではない”と伝えたいのだが、いつも間にか鼓動が速くなって言葉が上手く口から出せない。

「そうじゃなくて……! えっと、Sランクに上げるって、勿論“アーティファクト”の話ですよね?」
「当たり前だろ。何言ってるんだよ急に」

 この会話に“違和感”を抱いたのはアーサーだけではなく、シェリルとモルナも同じ様子。3人が感じている事は全く同じであった。

「アーティファクトにSランクなんてあるの?」
「私も疑問に思いました。アーティファクトはAランクが最も上ではないのでしょうか」

 そう。アーサー達3人が戸惑っていたのはまさにそこ。
 既存のアーティファクトはF~Aランクまでしか存在していない筈。Aランクが最も上のアーティファクトだと誰もが知っている常識。

 ……だった。

 “今まで”は――。

「なんだ、まだSランクの事知らなかったのかお前達」

 グリムもアーサー達がSランクの存在を今知ったのだと理解。それと同時に戸惑うアーサー達を見たマリアが口を開いた。

「この間、私達『精霊の宴会』がフロア90に行ったのは知ってるわよね?」
「はい、勿論知ってます」
「ここ数年、ずっとフロア89で足止めされていたのは私達の実力不足も然ることながら、フロア90に上る為の条件が分からずに難航していたの」
(精霊の宴会でも“実力不足”って……。一体どんな世界なんだよフロア90……)

 アーサーは何気なく言ったマリアの言葉に思わず口に出して突っ込みそうになった。だが今の話の論点はそこではない。マリアは1から説明するように話を続けた。

「でもね、貴方達も知っている通り、私達はあらゆる事を試して遂にその条件を見つけ、やっとの思いでフロア90に上がる事が出来たのよ。
そして私達は未だかつて前人未到とされていたフロア90に足を踏み入れた。このまま攻略していき、絶対にこのダンジョン――世界樹の頂上まで辿り着いてみせるとね。だけど……」

 そこまで話したマリアが急に伏し目となり表情を曇らせる。

「フロア90はそれまでのフロアとは“別次元”だった――。
私達『精霊の宴会』は誰1人として自分達の実力に奢りなんてなかったし、油断もしていなかったわ。でも結果は“惨敗”。
世界樹の頂上どころか、たった1フロアを攻略するのもギリギリだったの……。全員に命があって戻って来れただけでも奇跡的だったわ」
「「……」」

 想定の遥か上を行ったマリアの話。

 間違いなく世界最強のギルドである『精霊の宴会』がたった1フロアを攻略するのも命懸け。その事実が当の本人であるマリアから語られた上に、強気なグリムでさえ今のマリアの話にいつの間にか真剣な表情へと変わっていた。

 つまり、今の話は微塵の冗談もなければ一切の嘘偽りも真実。
 頭では分かっているが、到底すぐには受け入れらえない事実にアーサー達3人も気が付けば沈黙。言葉を発する事すら忘れてしまっていた。

「フフフ。そんな深刻な顔しないでアーサー君。それにシェリルちゃんにモルナちゃんも。確かにフロア90の脅威は凄まじかったけど、でもそれはただ単に私達を絶望させただけじゃないの。
命懸けで前を向いていたお陰かしら? それ相応の“見返り”もあったからね」
「それって……」

 そこでアーサーもハッと気付く。
 マリアの言った見返り――それが“Sランクアーティスト”である事を。

「ええ、そうよ。それがこのSランクアーティファクト、『イザナギの薙刀(S)』よ」


====================

マリア・シスター

【スキル】ヒーラー(A):Lv80
・回復術(ランク:上級)
・付与術(対象の能力値を+30%上昇させる/上限人数5)
・スキルP:440,000

【サブスキル】
・癒しの祈り(回復率が上昇する)
・付与の領域(付与術の上限人数+2)
・戦闘鼓舞(自らが戦えば戦う程に全能力値アップ)

【アーティファクト】
・スロット1:『イザナギの薙刀(S): Lv1 ※ヒーラー専用』
・スロット2:『エルフの草冠(B):Lv9』
・スロット3:『魔女帝のローブ(A):Lv3』
・スロット4:『エルフの腕輪(B):Lv9』
・スロット5:『守護の魔爪(A):Lv9』

【能力値】
・ATK:26,000『+3800』
・DEF:28,000『+8000』
・SPD:29,000『+3800』
・MP:52,000『+23800』

====================


 マリアに見せられた世界初のSランクアーティファクトの存在。
 アーサー達はSランクアーティストから醸し出される圧倒的な存在感と強さを直ぐに感じ取る。

「凄い……」
「これがSランクアーティファクト――」

 Aランクでさえその存在感は他のランクよりも群を抜いているように感じた。しかし、今目の前にあるSランクは全くの別物。全てのモンスターやあらゆる生命をも超越したまさに“神”のような神秘的な力が溢れ出ていた。

 だが本当に更にアーサー達を驚かせたのがその桁外れの能力値――。

「マリアさんはヒーラーだから元々MPが高かったと思いますけど、それでもこの『イザナギの薙刀』の能力値がヤバいですね……。Lv1なのに+20,000にもMPが上がってるじゃないですか……!」
「やっば☆ 鬼つよなんだけど」

 アーサー達はSランクアーティファクトのその能力値の高さにただただ驚かされた。だがそれだけでは終わらない。そのSランクアーティファクトの能力値の高さも然ることながら、アーサーはある部分が気になった。

「あのー、マリアさん。この“ヒーラー専用”って表示は何ですか?」
「ああ。それはね――」

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界を服従して征く俺の物語!!

ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。 高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。 様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。 なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

処理中です...