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第3召喚 妹と再びの決意
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♢♦♢
時は遡る事、アーサーがバットから追放される約半年前――。
「お兄ちゃんッ、お母さんが……!」
「ッ!?」
アーサーの元に突如入った妹からの連絡。
呼吸が荒くなる妹のエレインを落ち着かせながら、2人は母親が倒れて運ばれた病院へと向かった。
そして医師から告げられた母親の診断結果は『悪性魔力欠乏症』
体に流れる魔力がどんどん失われ、最終的に体の自由や命までをも失ってしまう病気だ。この病気はダンジョンが現れた100年前から存在する病であり、未だに完全な治療法が見つかっていない不治の病である。
一説によると、ダンジョンの影響でなったこの病を治す手掛かりはダンジョンにのみ存在するとかしないとか――。
アーサーとエレインの父親は元ハンターであったが、アーサーが生まれて直ぐにダンジョンで命を落としてしまった。その為彼らの母親は女手一つで懸命に2人を育てたのだ。
アーサーとエレインが何度思い返しても、母親は1度たりとも辛い所を見せた事がない明るく強い母親だった。ひとまず命があって何より。
アーサーとエレインは母親の治療費の為に節約し、洋服や家具を売っては生活を切り詰め、まだ17歳でアカデミーに通っていたアーサーは妹との生活の為に早朝と夜に働いた。しかし若干17歳のアーサーが稼げる金額では、母親の膨大な治療費や生活費を稼ぎ切る事は困難であった。
他に頼れる家族や知り合いはいない。
アカデミーに通いながら必死に働く日々の中、アーサーとエレインは2人で暮らすには到底広いとは言えない、すきま風が吹く小さくてボロボロな家に暮らすようになっていた。
互いの部屋など存在しない。2人で寝るのがやっとの1つの部屋。それでも互いに文句を言う事は絶対にない。入院している母親も含め、世界で唯一の家族だから――。
**
「兄ちゃんな、アカデミー辞めるよ」
アーサーが妹のエレインにそう告げたのは、彼らの母親が倒れて丁度1年が経った頃ぐらいだった。
この国では6歳~18歳まで、魔法や知識を学ぶ“魔導アカデミー”という学院に通うのが至極一般的であり、アーサーもエレインもアカデミーに通うごく普通の学院生。もうすぐ新学期を迎えて1つ上の学年となる。
しかし、ここ1年間寝る間も惜しんで働いていたアーサーは学業が疎かになってしまっていたのだ。そこで彼は気持ちは固めていた。このままアカデミーに通うよりも、これからの生活がアーサーのとっては大事だと。
自分の事は別にどうでもいい。それよりも妹のエレインに苦労を掛けたくないとアーサーは常々思っていたから。
出来の悪い自分とは違って妹にはまだ希望がある。
成績優秀で容姿も端麗なエレインは、アーサーにとって最も誇れる自慢の妹でもあった。無能で追放されてしまう自分とは違って、エレインの存在はアーサーにとって救いでもあった。
だから生活費は自分が稼ぐと決めた。
エレインだけはしっかりとアカデミーを卒業して自分の可能性を広げてほしい。
そんなアーサーが自分の思いの丈をエレインに伝えたのが今日の朝の事――。
だが……。
それを聞いたエレインは怒りを露に。
「だったら私も稼ぐ! そうすればお兄ちゃんもアカデミー辞めなくていいでしょ。2人で助け合えば負担は減って稼ぎは増えるじゃん!」
アーサーはエレインの強さと優しさに涙が零れそうになる。
エレインの決意を汲み取ったアーサーは今回だけは妹の言葉に甘える事にした。
しかし。
この決断がやはり間違いであったとアーサーは直ぐに現実を突きつけられた――。
**
「エレイン!」
「お、お兄ちゃん……!」
エレインは決して悪くない。ただ少し考えが甘かった。
彼女も懸命に生活費を稼ごうと最初は飯屋や宿屋で雑用の仕事をしていたのだが、何時からかエレインはモンスターから取れる魔鉱石やアーティファクトを違法に取引する、野良ハンター達の“闇仕事”に手を出してしまっていたのだ。
勿論エレイン本人にそんな自覚はなかった。
アーサーも稼ぐ為にハンターをやるようになってから、そういう連中が裏で悪事を働かせていると初めて知った。自分も気を付けようと。
アーサーにとっては想定外。まさかハンターでもない自分の妹が関わってしまうとは思いもしていなかった。でもこれはアーサー達と同じ年頃の子供達に被害が多く、暫し国でも問題になっている事だった。
野良ハンター達は何も知らない無知な子供を狙っている。ただ子供の純粋な気持ちを利用して――。
アーサーがエレインのそれに気が付いたのは偶然。
何気ない会話から違和感を覚えたアーサーがエレインの後をつけて今回の事態が発覚したのだ。しかも今回はあろう事か“エレイン本人”の身に危険が迫った。
綺麗に靡く長い髪と端正な顔立ち。
年頃になり体つきもより女性らしくなってきたエレインは、今まで以上に自然と皆の注目が集まる美少女になっていた。そしてそんな容姿端麗さが今回は運の悪い方向へと流されてしまったのだ。
「ゔゔッ、怖かったよ……お兄ちゃん……!」
「もう大丈夫だ。兄ちゃんがいる。だから落ち着け」
エレインはいつも通りに仕事を行っていた最中、突然野良ハンターの男2人組に捕まり強引に押し倒された。更に男達はエレインの服を脱がせ、卑劣な笑みを浮かべながら彼女の上に跨る。
恐怖で震えるエレイン。
女1人の力では当然男達の力に対抗する事も出来ず、ただただ震えて涙を流す事しか出来ない。
もうダメだ……。と諦めかけた瞬間、物凄い鬼の形相をしたアーサーが縦横無尽に剣を振るい勢いよく男達へ突撃して行った。そのお陰で男達は逃げ、エレインは間一髪の所で助かったのだった。
**
落ち着いた2人は小さな家に帰る。
疲れたエレインは倒れる様にそのまま眠りについた。
(ごめんなエレイン。本当にごめん。こんな怖い思いをさせて……)
帰る道中、アーサーは家に着くまでずっと自分の服を掴んでいた妹の姿を見て決意していた。自分への不甲斐なさと妹への罪悪感。情けない自分に涙が零れそうになったアーサーはグッと堪えて上を向く。
(このままではダメだ。僕はもっと強いハンターになってお金を稼がないと。
そうすればエレインを二度とこんな目にも遭わせないし、生活も楽になる。それにアカデミー辞めるのも止めだ!)
何か吹っ切った様子のアーサーはこれまで抱えていた体の奥底の感情を沸々と煮えたぎらせる。
自分は最弱無能のハンター。
でもアーサーはやはり全てを手に入れたいと思ってしまった。
ハンターの世界は常に弱肉強食。だからこそ強くなれば望む物全てが手に入る。
生活に困らない程の金を稼ぎ、至極平凡な幸せを手に入れる。
そんな自分勝手で高望みな強情な夢を夢で終わらせない唯一の方法。
アーサー・リルガーデンの欲望を叶えられる唯一の道。
「必ず僕の手で全てを掴んでやる――!」
彼はこの日強く決心した。そしてこの半年後、強い決心とは裏腹に何も変わらなかった現実。強くなるどころか遂には見限られて追放。ダンジョンに置き去りにされ、自分では勝てないモンスターとの遭遇に生きる事すら諦めてしまった。
アーサーは1度死んでいたかもしれない。
しかし、本当の絶望に落ちた彼に遂に“奇跡”が舞い降りた。
1度は生きる事を諦めて心が折れたが、今度こそ決意を固めたアーサー。
彼のどん底からの這い上がりはここから始まる――。
時は遡る事、アーサーがバットから追放される約半年前――。
「お兄ちゃんッ、お母さんが……!」
「ッ!?」
アーサーの元に突如入った妹からの連絡。
呼吸が荒くなる妹のエレインを落ち着かせながら、2人は母親が倒れて運ばれた病院へと向かった。
そして医師から告げられた母親の診断結果は『悪性魔力欠乏症』
体に流れる魔力がどんどん失われ、最終的に体の自由や命までをも失ってしまう病気だ。この病気はダンジョンが現れた100年前から存在する病であり、未だに完全な治療法が見つかっていない不治の病である。
一説によると、ダンジョンの影響でなったこの病を治す手掛かりはダンジョンにのみ存在するとかしないとか――。
アーサーとエレインの父親は元ハンターであったが、アーサーが生まれて直ぐにダンジョンで命を落としてしまった。その為彼らの母親は女手一つで懸命に2人を育てたのだ。
アーサーとエレインが何度思い返しても、母親は1度たりとも辛い所を見せた事がない明るく強い母親だった。ひとまず命があって何より。
アーサーとエレインは母親の治療費の為に節約し、洋服や家具を売っては生活を切り詰め、まだ17歳でアカデミーに通っていたアーサーは妹との生活の為に早朝と夜に働いた。しかし若干17歳のアーサーが稼げる金額では、母親の膨大な治療費や生活費を稼ぎ切る事は困難であった。
他に頼れる家族や知り合いはいない。
アカデミーに通いながら必死に働く日々の中、アーサーとエレインは2人で暮らすには到底広いとは言えない、すきま風が吹く小さくてボロボロな家に暮らすようになっていた。
互いの部屋など存在しない。2人で寝るのがやっとの1つの部屋。それでも互いに文句を言う事は絶対にない。入院している母親も含め、世界で唯一の家族だから――。
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「兄ちゃんな、アカデミー辞めるよ」
アーサーが妹のエレインにそう告げたのは、彼らの母親が倒れて丁度1年が経った頃ぐらいだった。
この国では6歳~18歳まで、魔法や知識を学ぶ“魔導アカデミー”という学院に通うのが至極一般的であり、アーサーもエレインもアカデミーに通うごく普通の学院生。もうすぐ新学期を迎えて1つ上の学年となる。
しかし、ここ1年間寝る間も惜しんで働いていたアーサーは学業が疎かになってしまっていたのだ。そこで彼は気持ちは固めていた。このままアカデミーに通うよりも、これからの生活がアーサーのとっては大事だと。
自分の事は別にどうでもいい。それよりも妹のエレインに苦労を掛けたくないとアーサーは常々思っていたから。
出来の悪い自分とは違って妹にはまだ希望がある。
成績優秀で容姿も端麗なエレインは、アーサーにとって最も誇れる自慢の妹でもあった。無能で追放されてしまう自分とは違って、エレインの存在はアーサーにとって救いでもあった。
だから生活費は自分が稼ぐと決めた。
エレインだけはしっかりとアカデミーを卒業して自分の可能性を広げてほしい。
そんなアーサーが自分の思いの丈をエレインに伝えたのが今日の朝の事――。
だが……。
それを聞いたエレインは怒りを露に。
「だったら私も稼ぐ! そうすればお兄ちゃんもアカデミー辞めなくていいでしょ。2人で助け合えば負担は減って稼ぎは増えるじゃん!」
アーサーはエレインの強さと優しさに涙が零れそうになる。
エレインの決意を汲み取ったアーサーは今回だけは妹の言葉に甘える事にした。
しかし。
この決断がやはり間違いであったとアーサーは直ぐに現実を突きつけられた――。
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「エレイン!」
「お、お兄ちゃん……!」
エレインは決して悪くない。ただ少し考えが甘かった。
彼女も懸命に生活費を稼ごうと最初は飯屋や宿屋で雑用の仕事をしていたのだが、何時からかエレインはモンスターから取れる魔鉱石やアーティファクトを違法に取引する、野良ハンター達の“闇仕事”に手を出してしまっていたのだ。
勿論エレイン本人にそんな自覚はなかった。
アーサーも稼ぐ為にハンターをやるようになってから、そういう連中が裏で悪事を働かせていると初めて知った。自分も気を付けようと。
アーサーにとっては想定外。まさかハンターでもない自分の妹が関わってしまうとは思いもしていなかった。でもこれはアーサー達と同じ年頃の子供達に被害が多く、暫し国でも問題になっている事だった。
野良ハンター達は何も知らない無知な子供を狙っている。ただ子供の純粋な気持ちを利用して――。
アーサーがエレインのそれに気が付いたのは偶然。
何気ない会話から違和感を覚えたアーサーがエレインの後をつけて今回の事態が発覚したのだ。しかも今回はあろう事か“エレイン本人”の身に危険が迫った。
綺麗に靡く長い髪と端正な顔立ち。
年頃になり体つきもより女性らしくなってきたエレインは、今まで以上に自然と皆の注目が集まる美少女になっていた。そしてそんな容姿端麗さが今回は運の悪い方向へと流されてしまったのだ。
「ゔゔッ、怖かったよ……お兄ちゃん……!」
「もう大丈夫だ。兄ちゃんがいる。だから落ち着け」
エレインはいつも通りに仕事を行っていた最中、突然野良ハンターの男2人組に捕まり強引に押し倒された。更に男達はエレインの服を脱がせ、卑劣な笑みを浮かべながら彼女の上に跨る。
恐怖で震えるエレイン。
女1人の力では当然男達の力に対抗する事も出来ず、ただただ震えて涙を流す事しか出来ない。
もうダメだ……。と諦めかけた瞬間、物凄い鬼の形相をしたアーサーが縦横無尽に剣を振るい勢いよく男達へ突撃して行った。そのお陰で男達は逃げ、エレインは間一髪の所で助かったのだった。
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落ち着いた2人は小さな家に帰る。
疲れたエレインは倒れる様にそのまま眠りについた。
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(このままではダメだ。僕はもっと強いハンターになってお金を稼がないと。
そうすればエレインを二度とこんな目にも遭わせないし、生活も楽になる。それにアカデミー辞めるのも止めだ!)
何か吹っ切った様子のアーサーはこれまで抱えていた体の奥底の感情を沸々と煮えたぎらせる。
自分は最弱無能のハンター。
でもアーサーはやはり全てを手に入れたいと思ってしまった。
ハンターの世界は常に弱肉強食。だからこそ強くなれば望む物全てが手に入る。
生活に困らない程の金を稼ぎ、至極平凡な幸せを手に入れる。
そんな自分勝手で高望みな強情な夢を夢で終わらせない唯一の方法。
アーサー・リルガーデンの欲望を叶えられる唯一の道。
「必ず僕の手で全てを掴んでやる――!」
彼はこの日強く決心した。そしてこの半年後、強い決心とは裏腹に何も変わらなかった現実。強くなるどころか遂には見限られて追放。ダンジョンに置き去りにされ、自分では勝てないモンスターとの遭遇に生きる事すら諦めてしまった。
アーサーは1度死んでいたかもしれない。
しかし、本当の絶望に落ちた彼に遂に“奇跡”が舞い降りた。
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