上 下
48 / 51
4杯目~導き酒~

47 終焉の光~協奏曲~

しおりを挟む
「危ない危ない……! 今のはヤバかった……ヒャハハ」
「笑い事じゃない! 集中しろ馬鹿タヌキ!」
「今はタヌキじゃないでしょうよアクルちゃん」

 奴が咆哮を放った刹那、俺は再び一太刀攻撃を入れ2人の元へ寄った。

「アクル、ルルカ、助かったぜ。どうにか攻撃が通じるみてぇだな」
「ああ。援護ぐらいしか出来ないが任せろ。お前は奴の首を切り落とす事だけに集中すればいい」
「そうそう。ジンの旦那が倒さなきゃ全滅だからね。頑張ってもらわなきゃ困るんよ」
「相変わらずだなお前は……。それより“どうだ”?」

 当初の見込み通り、リフェルの魔法は満月龍相手には使えない。さっきみたいに魔力が相殺されちまう様だ。だがこんな事は想定内。俺達は他に手を考えていた。

「“問題なし”! これなら永遠にこの姿でいられるね」

 そう。

 リフェルの魔法は“満月龍には”通じない。しかし逆を言えば、“満月龍以外”ならば今までと変わらず魔法が使える。

 ルルカの呪いはまだ消えていない。
 
 コイツが人間の姿をキープ出来るのは魔力を全て消耗してしまう10分が限界であったが、付与魔法で余り余るリフェルの魔力を与えればずっと人間の姿でいられるんじゃないかと、俺達は前から試していたのだ。

 取り敢えず結果は成功。

 対象が満月龍でなければ大丈夫なのは分かった。後は……。

「リフェル! アクルとルルカに付与魔法全部掛けろ」

 直接攻撃出来ないなら出来ないでやり方を変えるだけだ。

 リフェルは2人に付与魔法を掛ける。

 最後の問題はこの付与の効果がどこまで持つか……。

 対象が満月龍じゃないとは言え根本は奴の魔力。実際に付与状態でもその効果が相殺される事なく奴を攻撃出来るのか……。これも実際に試してみる他ねぇ。

「身体強化、魔力値上昇、魔法威力上昇、耐魔法防御値上昇、全状態異常効果無効。アクル、ルルカ共に通常の戦力値より大幅上昇。満月龍と1対1で戦闘した場合、2人の勝率は1.374%にまで引きあがりました。
ついでに即死レベルの致命傷を受けてもガードしてくれる魔法陣シールドが10枚守ってくれています。全て破壊されてもまた私がシールドを追加してあげますので、心置きなく戦いに集中して下さい」 
「寧ろ死ぬイメージが強まったのは俺だけ……?」
「初めから分かり切っていた事だ。切り替えろ。サシで戦わなくていいのが唯一の救いだ」
「間違いないね」

 羨ましい限りだ。

 本当なら俺にも付与魔法掛けてもらいてぇ。即死レベルもガードしてくれるシールドって何だよ。反則だろソレ。欲しいぞ俺も。

「羨ましそうな目で見ている暇はありませんよジンフリー。アナタには“掛けられない”のだから、早く極限まで魂力を高めて満月龍を倒しなさい! もたもたしていると死にますよ」
「はいはい、分かってますよ。……エマ大丈夫か?」
「平気よ……。大した事ないわ」

 見るからに余裕がない。無理もねぇがな。こんなの目の前にして正気を保つ方が難しい。この上ない絶望感を感じたいるだろうが、それでもエマの凄い所は、完全に気持ちが折れていない事。
 
 常人では考えられない環境で育ったこの子は、まさに終焉が眼前に迫っている中でも尚、気持ちを立て直そうとしている。

『ギギャァァッ!』
「――来るぞ!」

 それでも満月龍は待ってくれない。
 これは互いの命を奪うか奪われるかの生存の戦いだ――。

「俺はまた顔面狙いでいくから宜しく!」
「ジンフリーの“竜化”まで攻撃の手を休めるな。リフェル、オラとルルカの魔力が切れない様に援護頼む」
「了解!」

 態勢を整えた満月龍が再び怒涛の攻撃を仕掛けてくる。

 俺達3人は一進一退の攻防を続けた。

 ――ズドォン! ガキィン! ブワンッ! シュバババ! ボオォォォ!
 
 誰も言葉を発する事なく、ただひたすら激闘だけが続く。

 ――シュバン! ズガガッ! ザシュン! ボゴォン! ガキィン!

 鳴り響く激しい轟音と地響き。
 もしここが王国のど真ん中であったら、一体何人の犠牲者が出ているのだろうか。

 ――ボゴォン! ガキィン! ドドドッ! シュバババ! ボオォォォ!

「うらぁッ!!」
『ヴォォォ!!』
 


 もうどれだけの時間が経った……?


「ハァ……ハァ……ハァ……」 


 何十分? いや、何時間だ……?

「大丈夫かジンフリー」
「ああ……ハァ……ハァ……余裕だよ」

 あれから魂力は練り上げてとっくに“準備”は整った。
 
 だが如何せん、中々隙が作れねぇ。

 流石満月と言うべきか……攻撃を食らわせれば食らわす程、弱るどころか動きが洗練され攻撃しづらくなってきている。心なしか攻撃の威力もキレも上がってんじゃねぇか……?

「ぶっちゃけ……あの満月龍と……ハァ……ここまで渡り合えている事が奇跡だ……」
「だろうな。リフェルの魔法効果がデカい」
「ああ。竜化も問題はねぇ……後は……一瞬でいい。僅か一瞬でいいから……奴の首を斬る隙さえあれば……」

 満月龍の強さが増しているのは事実。俺が体力消耗しているのを差し引いてもな。このままじゃジリ貧……。

 何とか隙をついて、次の一撃で全てを終わらせるしかねぇ――。

「後もう少しなんだけどな……。お前の体力が尽きる前に、どうにかしてオラとルルカが隙を作ってやる。それを見逃すなよ」
「頼むぜ……」

 情けないがそろそろ体力が限界。

 3人で必死に攻撃を仕掛けているが、後1歩……後もう1歩で何とか隙を作れそうなのによ……。







「――私に付与魔法掛けて」

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

処理中です...