上 下
43 / 51
3杯目~悪酒~

42 ど~~~しても後数秒だけ

しおりを挟む
♢♦♢

~特別禁止区域・ヘクセンリーパーの城前~


「――いくら何でも無茶苦茶過ぎるんよ」
「まぁ結果オーライだろ」

 幕切れは何とも呆気ない。

 ルルカとヘクセンリーパーの攻撃を掻き消したリフェルの一撃が天へと消えたかと思いきや、再び空から舞い戻り、そのままヘクセンリーパーを襲ったのである。

 そして今俺達の足元には完全に気を失ったヘクセンリーパーが倒れていた。

「これでも一応待っていたのですヨ。ですが余りに戦闘が長く効率が悪いと判断したので、こうして私が修正しましタ」

 これがリフェルの言い分だ。 

 順を追って説明すると、まずルルカの持つ魔具というのは1つ1つに特殊な効果があるアイテムの事。

 俺も勿論その存在は知っているし見た事もあるが、これは魔草と同じで、魔具にも物によってかなり貴重で効果の高い物が存在する。子供が遊び用から人の命を奪うものまでな。

 ここは流石盗賊団だと褒めていいのか複雑ではあるが、ルルカ達は珍しい物や入手困難な物を狙う筋金入りの盗賊。今回の魔具は、ヘクセンリーパーを倒す為……今日という日の為だけにルルカが入手した超希少な魔具であった。

 その効果は、“魔具を使用した場所から半径50m以内全ての魔術を無効化”――。

 つまり、この島に張られていたヘクセンリーパーの結界効果が消され、通常通り魔力を扱える様になったのだ。

 そしてその恩恵を受けたのは使用者であるルルカのみならず、ついでに彼から半径50m以内にいた俺達全員も対象になっていたらしい。

 魔具の効果を発動させたのはルルカとヘクセンリーパーが対峙した時から。リフェル達は直ぐに気付いたとの事だが……これは残念。魔力の無い俺には分からなかった。

 ある意味この魔具は、魔法ではなく魔術を扱う“対魔女”としては絶大な効果を誇る。当然それ目的でルルカは手に入れた訳だろうが、所詮は1つのアイテム。魔具は効果が高ければ高いほど、強ければ強い程、回数や時間に制限がある。

 ルルカの使用した魔具の制限回数は1回。そして効力はたったの10分。

 これまでの状況を整理した上で、ここからが本題だ――。
 
 ルルカとヘクセンリーパーの目まぐるしい激闘が始まって直後、図らずもその効力を受けたリフェルの言い分では、彼女は極めて効率的で現実主義な為、全くメリットのないルルカ達の戦闘を直ぐに強制終了させようとしたらしい。

 だが、これはいい意味で誤算だったのだが、“ルルカのお陰で魔力が通常通り使える様になった”というリフェルなりの“思いやり”が芽生えていた瞬間でもあった。

 今しがたリフェル本人の口からそれを聞いた時は本当に驚いたぜ。今まで情の欠片も感じられなかったからな。特に俺に対しては。

 まぁ理由はどうであれ、思いがけない形でリフェルに変化が起きた。これは良い事でしかない。

 確かに良い事でしかないし、言ってもアンドロイドなのだから徐々にという事は分かっている。Dr.カガクも言っていたし、想定よりも早く人間らしくなっていると俺は常々思っていた。

 だがしかしリフェルよ。

 後ほんの少しだけ待てなかったか? それが我慢の限界だったのかお前の。

 ルルカの魔具のタイムリミットは10分。激しい攻防の連続で正確な時間は分からないが、今思い返せば多分7~8分。感覚だけど、奴が最後の力を振り絞った事を踏まえれば大きなズレがあるとは思えねぇ。

 逆を言えば、あの一撃で少なからず勝敗が着いていたと思う。仮にそうじゃなかったとしても、魔具の効力もどの道1~2分ぐらいだろ。

 も~~うちょっと待ってやれよ。後ホントにちょっとだけだったぞ。

 5分以上待ったならたかが数分大目に見てやれなかったか? リフェルよ。

 俺達も確かにヘクセンリーパーから重要な手掛かりを求めてやってきたし、ルルカとは会ったばかりで何も知らねぇけどよ、アイツがかなり気持ち入れ込んでたって事を少しぐらい汲み取ってやっても良かっただろうに。

 アクルは勿論、悪いがエマでさえ、ルルカの並々ならぬ事情に横槍入れちゃいけないなと思っていたと思うぞ。殺しの事しか考えていないエマでもな……。

 分かるよ。
 最初からお前を見てきた俺なら、お前に芽生えてきた“感情”という名の小さな功績を褒め称えたい。いや、本来なら皆で酒でも飲みながら祝ってもいいぐらいの出来事だ。正直俺はそれぐらい、リフェルに感情が生まれた事が嬉しかった。

 でも、だからこそ複雑なんだ。多くを求めてはいけない。まずは出来たという偉大な1歩を認めたい。認めているし誇らしく思うが、ど~~~しても後数秒だけでいいから待って欲しかったぜ。

 これが俺の正直な本音です。はい。

 長々とどうでもいい事を語って悪かったな。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

魔法大全 最強魔法師は無自覚

yahimoti
ファンタジー
鑑定の儀で魔法の才能がなかったので伯爵家を勘当されてしまう。 ところが停止した時間と老化しない空間に入れるのをいいことに100年単位で無自覚に努力する。 いつのまにか魔法のマスターになっているのだけど魔法以外の事には無関心。 無自覚でコミュ障の主人公をほっとけない婚約者。 見え隠れする神『ジュ』と『使徒』は敵なのか味方なのか?のほほんとしたコメディです。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

処理中です...