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2杯目~旅立ち酒~

32 奴隷少女

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 あれからどれぐらい経っただろう。

「ハァ……ハァ……ハァ……」
「残り体力19%。全盛期と比べて大分スタミナが落ちていマスよ。運動不足と酒ノ飲み過ぎが原因デス」
「うるせぇ……ハァハァ……知らねぇだろ、俺の若い頃……」

 取り敢えず反抗しておくが、リフェルの言う事は正しい。そんなの俺が1番痛感している。

 ――ズガァァンッ!

「アクルの残り体力42%。マダ半分程残っていマスが、魔法の威力やスピードが若干落ちてきマシタね。ジンフリーとアクルがフランクゲートを潰し始メテ1時間。破壊率は全体の約8割ト言ったところデスか。本当に時間と労力の無駄デス」
「効率だけが全てじゃねぇんだよ」
「理解不能」
「お前もそのうち分かる様になるといいな。……さて、言い当てられたのは癇に障るが、その残り体力のパーセンテージは正確だろう。滅茶苦茶しんどいからな……」

 無意味に暴れたお陰で大分ストレス解消されたな。さっきより幾分か頭も気持ちもすっきりしている。

「ウガァァッ!!」

 視線の奥の方ではまだ元気にアクルが暴れていた。

「凄い体力だなアイツ」
「いい加減二して下サイ。もう残りは私ガ片付けマス。一瞬で。ソシテ早く満月龍探しを再開しマスよ」
「別にそんな焦らなくてもいいだろ。何処にいるか分からねぇんだし」
「何時も呑気ナ事ばかり言ってマスね。アナタがサボってイル間でも、私は常の満月龍の魔力をヲ感知出来る様にッ……!」

 皆まで言いかけたリフェルの言葉が突然止まった。そして徐にある方向へと視線を移したリフェル。

「どうした?」
「可笑しいデスね」
「何がだよ」
「さっき私の魔法で全員飛ばした筈デスが、何故か“あそこから”1つ魔力ヲ感知していマスよ」

 そう言いながらリフェルは自分が見ている方向を指差した。

 そこはオークションに掛けられそうになった者達がいた、最も嫌悪感を抱いた部屋……があったであろう場所。俺達が壊しに壊した結果、この会場にはもうほぼ壁が無かった。何処が何の部屋だったかも分からない程形跡が無いのだが、その部屋だけはオークションの残留品や無数の空の檻が積み重なっていた為一目で分かった。

「あそこって……。まさかまだ誰かいるのか?」
「ソレはあり得マセン。私が全員飛ばしましたカラ」
「1人だけ失敗したんじゃねぇの?」
「無礼者! 言葉を包みナサイ! アナタならいざ知らず、コノ私がそんなミスをスル訳がないでショウ! 魔法ガ一切使えないアナタだけには死んでも言われたくありマセン!」

 おっと。地雷を踏んでしまった。

「そんな事言ったって、誰かいるんだろ?」
「納得いきマセンよ。確かめマス」

 リフェルが早歩きでその部屋へ向かったので、俺も慌てて付いて行った。


~フランクゲート・ステージ裏の部屋があった場所~
 
 俺とリフェルは、無造作に積み重ねられている無数の檻の中のとある1つの檻の前で歩みを止めた。

「――“いる”じゃん」
「いマスね」

 檻の中には1人の小さな子供がいた。

「……獣人族の子か」

 女の子と見られるこの子には耳と尾が生えていた。

「彼女ハ羆の獣人族。つまりピノキラーですネ」
「何⁉」

 ピノキラーって確か最凶の殺人兵器とか言っていた奴だよな?
 嘘だろ……こんな子供が……? 

「冗談だよな? 殺人兵器とか言われる奴がこの子だって?」
「ハイ。間違いないありマセン。羆の獣人族で性別は女。腕にNo.444と焼印が押されていますし、年齢も恐らく13~14歳。魔力もピノキラーのものだと私のデータで完全一致していマス。因みにオークションでの彼女の取引相場は最低でも66,600,000Gからになるそうデス」
「そういう胸糞悪い情報はいらねぇんだよ」

 ここに来てから信じられないものばかり見ている気がする。
 いや、世界の何処かではこういう事が少なからず起きていると認識はしていても、実際に目の当たりにし、体感しているこの感覚が直ぐには受け入れられないんだ……。

「動かないけど生きてるよな……?」

 微動だにせず直立不動。まるで人形の如く気配も感じられない。頭を俯かせているから表情も分からないが、よく見ると呼吸をしているのだけは伺えた。

「おーい、大丈夫か?」

 声を掛けると、彼女はゆっくりと顔を上げ俺を見た。

 ――ゾクッ……!!

 一瞬で背筋が凍った。

 彼女の瞳はまるで生気を感じられないにも関わらず、目が合った瞬間“死”を連想させる程の殺意を感じた――。
  
 見るからに髪や毛はボサボサ。風呂にも入っていないのか肌も全体的に黒ずんでいる。しかも体の至る所には痛々しい傷や痣があり、とても生きている者の瞳とは思えなかった。

 例え殺人兵器だとしても、世界中で多くの者が欲しがっている最高傑作なんだろ?

 裏稼業の世界なんて知ったこっちゃねぇがせめて敬意を払え。1人の命ある女の子だぞ。焼印も押され鎖で繋がれているなんて、これじゃまるで奴隷扱いじゃねぇか。

 一体彼女はどんな人生を歩んできた……?
 どんな思いをしてここまで生きてきた……?
 何故この子がこんな思いをしなくてはならない……?

 考えてもどうにもならない思考ばかりが頭を駆け巡る。それと同時に、彼女の姿がまたしても自分の子供達と重なり、気が付くと涙が頬を伝っていた。

「――次の主人はアナタ?」

 固まっていた俺を他所に彼女はそう言った。


 これが、俺達と彼女との最初の出会い――。
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