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2杯目~旅立ち酒~

28 抱いた事のない感情

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~地下オークション会場・フランクゲート~

 階段を降りると、薄暗く長い廊下が続いていた。等間隔に設置されたランプの灯りだけが淡く辺りを照らしている。廊下自体もあまり広くない。アクルの体を魔法で縮めていなければきっと奴は通れない幅だ。

 寧ろ通れない方が良かった気がする。余計な問題起きないからな。

「……で、肝心のアイツは何処行ったんだ?」
「この廊下の1番奥デス。オークション会場へと繋ガル扉の前で止められていマスね。リバース・オークションに参加スルには許可証ガ必要デスから」
「何やってるんだあの馬鹿」
「ジンフリーに馬鹿呼ばわりサレたら終わりデスね。因みに、トラブル発生マデ後4秒デス」
「なに⁉ そうだった、やべぇ……! おい! ちょっと待てアクル!」

 俺は急いで走りながら大声を出した。そうでもしないと間に合わない。

 静かな廊下だから声が結構響いたと思う。

 その証拠にほら。

 アクルが扉にいる警備の男達と今にも揉めそうな雰囲気の中、俺の声が聞こえたのかアクル達はこちらを見ていた。

「誰だ貴様ら」
「コイツの連れか? 許可証を見せろ」

 扉の警備をしていた2人の男がそう言ってきた。

「そんな物はないと言ってるだろうが人間」
「いい加減にしろアクル。これ以上面倒起こすな」
「許可証はコチラにありマス」

 俺がアクルに注意している横で、リフェルが当たり前の様に許可証を男達に見せた。

「すげぇ美女だなぁ」
「何か片言っぽいけど他の国の出身か?」
「いえ。私はアンドッ……「そ、そうなんだよッ! 別の大陸出身でな。取り敢えず……ほら、許可証。コレでいいんだろ?」

 危ねぇ。別にアンドロイドって事がバレても問題ねぇけど、わざわざ話をややこしくする必要もねぇからな。

「ああ。今チェックするから待ってろ」
「アンタ此処へは?」
「ん? あー……前に1回だけ……かな」
「今日はこっちのモンスターでも売りに来たんだろ? 」
「何だと貴様ッ……「ハ、ハハハ……! そうそう、今日はコイツをね……!」
「1回来ただけじゃまだ覚えていないだろう? フランクゲートは広いからな。オークションに出すなら入って直ぐの受付で手続きするといい」
「おぉ……確かそんな感じだったな。ハハハ……! どうも」
「――よし。チェックOK。“本物の許可証”だ。入っていいぞ」

 よし。何だか分からんが上手くいった様だ。早くしないとコイツ等のせいで面倒が増える。

 警備の男から渡された許可証を受け取り、俺達は遂にオークション会場の中へと入った。

 すると、そこには廊下の雰囲気からはとても想像も出来ない程明るく広いオークション会場の景色が目に飛び込んできた――。

「思ったより凄ぇ広さだな……しかも人も多いし。それにこの雰囲気……」

 噂で聞いたリバース・オークションのイメージとは真逆。
 不気味で血生臭く、正気とは思えない人間ばかりが集まった嫌悪感抱く禍々しい場所。勝手にそんなイメージだと思っていたのに。これじゃあまるで……。

「パーティでもしているつもりか人間共」

 オークション会場の雰囲気を直で体感したアクルの第一声がそれであった。

 だがそれはごもっとも。

 不気味で血生臭いどころか、高級そうな料理やら酒やらが辺り一帯に用意され、テーブルの周りにはドレスアップをした人々が優雅に食事や会話を楽しんでいる。リバース・オークションと呼ばれる場所にも関わらず、何処よりも清潔感がある上に上品ささえ感じる程だ。

 それは恐らく、“俺達の様な”ごく普通の身なりをした一般の冒険者や専門の密猟、密売人達と言った“売り手”側の人間だけではなく、オークショで売買されるブツの“買い手”側の存在。

 明らかに俺達とは住む世界の違う、見るからに富や権力を保持した富豪や、特別な地位に就くお偉いさんとか呼ばれる様な連中ではないだろうか。人間だけでなく、獣人族や他の種族の奴らもそれなりの立場の者達だろう。

 そして良くも悪くも、見るからに高価そうなドレスアップをしたコイツ等のこの存在によって、アクルの言ったが如く、ここは最早パーティ会場と言っても過言ではない雰囲気になっている。

「これがリバース・オークション……? マジで売買なんてやってるのかここで」
「人間だけじゃなく獣人族達も当たり前の様にいるな。それとは別に、向こうから色んな種族の魔力を感じる」

 アクルが向く方向に俺も自然と目を向けていた。

「まさかこれからオークションに掛けられッ……<――長らくお待たせ致しました。これより、本日のメインオークションを開催いたします>

 突如場内へと響くアナウンス。
 それによって、周りにいた大多数の者達が一斉に動き始めた。

「いや~、もうそんな時間ですかな」
「今日は何が出てくるか楽しみだ」
「珍しい物があるといいがな!」
「聞いたところによると、今日のメインオークションで“アレ”が出るらしいぞ」
「私は雑用に使い勝手のいい奴が欲しいわ」

 アナウンス通り、これからオークションが始まるのだろう。皆が同じ方向へと進んで行っている。

 俺はそんな何気ない人々の後姿を見て一瞬ゾッとした。

 まるで当たり前の様に軽快な足取りで向かうその先では、決して光の当たる事が無い混沌の闇が広がっている。そしてその闇の中で、視界に写る大勢の奴らが今まさに命の売買を行うと考えただけで、俺は体の奥底から抱いた事のない感情が溢れ出してきていた。

「オークションなんかさせるか! ここにいる奴ら1匹残らずオラが殺し……「――待て。このまま俺達も行こう」
「何を悠長な事言っているんだお前」
「手を出すなとは言ってねぇ。ただ少し待て。まだオークションとやらの状況が分からねぇ上に、もしかしたらツインマウンテンのモンスター達が売買される可能性もある。それに例えいなかったとしても、売買に掛けられる他の人間やモンスター達を助けられるかもしれねぇ」
「……成程。それは確かに一理ある。オラ達の山の仲間だけは助けないと」
「分かったならいい。どの道潰すなら1箇所に集まってくれた方がいいだろ」
「ソレは効率的で良い案デス。たまには頭ヲ使えマスねジンフリー」
「うるせぇな。行くぞ」

 俺達はこうして、メインオークションが行われる部屋へと入って行った――。 
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