上 下
28 / 51
2杯目~旅立ち酒~

27 世界中で最もクソな不利益

しおりを挟む
~教会・フランク修道院~

 時は遡る事修道院を見る2秒前。

 ――ズガァァァンッ!!
 この破壊音とほぼ同時に、俺は修道院の方を振り返っていた。

 目に映るは半壊した修道院。アクルがやった事は一目瞭然。

 辺りに散らばる建物の瓦礫。外にも関わらず砂埃で視界が悪くなっている。
 修道院を破壊したアクルはその場で仁王立ちしていた。 

「何やってんだこの馬鹿ッ!」

 俺が後ろからアクルに声を掛けたが、アクルは何故か砂埃が舞うある一点を見つめていた。

「ん? どうした?」

 アクルが送る視線の先。徐々に砂埃が晴れて視界がクリアになっていく。

 すると、俺達の視界に何人かの人影が見えてきた。その人影の正体は3~7歳くらいの数人の子供達の姿。子供達は部屋の隅っこに固まり明らかに怯えている様子だった。

 恐らくこの子達はこの修道院で暮らしている子達であろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「――パパ……熱いよッ……!」
「助けて……パパ」
「あなた……ッ!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 怯えた子供達が、あの日のミラーナやジェイルの姿と重なった。

 遂に夢じゃなくても見る様になったか……。

「え~んッ……!」
「怖いよぉ!」
「お、おじさん達誰……⁉」

 こんな見ず知らずのオヤジと化け物が入ってきたらそりゃ怖いよな。

「安心しろ。もう大丈夫だからよ。オジさん達は悪者じゃない」
「でも、あっちにいるモンスターが凄い怖い顔してるよ!」
「助けてよおじさんッ……!」
「大丈夫だって。泣かなくていいから落ち着け。……おいアクル! 子供達にそんな顔するんじゃねぇ。怖がってるだろ!」

 お前も親なんだからそれぐらい分かるだろ全く。

「“関係ない”……」
「ん、 何か言ったか?」

 アクルが小さな声で何か呟いた様だが、俺には全然聞こえなかった。
 
 アイツは確かに人間不信ではあるが、流石にこんな小さな子供達に手を出すことは無い。
 当たり前にそう思っていた矢先、まさかの一言が俺の耳に届いた――。

「どけ。こんな所にいるなんてどうせ密猟者達のガキだろ。殺してやる」

 まさかとは思った。

「あ"ぁ?」

 まさかとは思ったが、どうやら聞き間違いでもねぇらしい。

「だからどけとって言ってるんだよッ! オラ達の森で好き勝手したのだからな、自分達の家族が殺されても文句を言う筋合いはない筈だ!」
「子供だぞ……。テメェ本気で言ってんのか?」
「だったら何だ」

 その言葉を聞いた瞬間、俺は即座に戦闘態勢に入っていた。

「やっぱどうしようもねぇ化け物だったか」
「人間など信用出来ぬ」

 次の刹那、魔法を放つ構えに入ったアクルに対し、俺も奴目掛けて斬りかかった――。

「何時までも昔の事をネチネチ言ってんじゃねぇ――ッ!」
「黙れ――ッ!」

 アクルの魔法。
 
 俺の攻撃。

 互いの攻撃が相手に届くのはほぼ同時ッ……『――ズガァァンッ!』

「「……⁉」」

 気が付くと、俺とアクルは数メートル吹っ飛ばされていた。

「痛ってッ……!」

 は? 何だ?
 アクルの攻撃じゃねぇよな……?

 正面にいるアクルからではなく、“何か”に横から攻撃された。

 突然の出来事に一瞬困惑したが、状況を把握しようと辺りを見渡そうとした瞬間、その何かを放った“犯人”が現れた。

「――2人共邪魔デス!」
「リフェル……⁉」
「……」

 そう。俺とアクルを突如攻撃してきたのはリフェル。
 
 “何故だ?”と、俺が聞くよりも早くリフェルが語り出していた。

「何をしてイルのデスか? 私は無駄ナ事をスル非効率が1番嫌いなのデス。
目的は地下のオークション会場を潰す事でショウ。ソレなのに、何故一体無意味でメリットの無い争いをシヨウとしてイルのデスか。まさかコンナ所で喧嘩を始メルなんて私は少し驚きマシタ。アナタ達の馬鹿さにハ心底呆れマスよ! 
ソレに、たった今起きヨウとしていたジンフリーとアクルの馬鹿喧嘩ヲ計算スルと、現状コレは小便をスルよりも時間が無駄デあり、世界中で最もクソな不利益しか生み出さナイ最低な選択デス」

 怒っているのか呆れているのか……いや、多分両方。
 感じた事の無いリフェルのオーラに圧倒された俺達は、まるで何事も無かったかの如く引き続き速やかに地下を目指す為動き出したのだった――。

「リフェル。地下に行く前にこの子供達を安全な場所に避難させてくれ。それと、他にもう子供はいねぇか確かめてくれ」
「分かりマシタ」
「オラは先に行く」

 リフェルはこの場にいた子供達と一緒に、オークションと全く関係の無い教会と修道院の関係者達も魔法で避難させた。

「ありがとうリフェル。俺達も行こう。またアクルを追わないと直ぐに暴れ出すぞ」
「次のトラブルまで12秒デスね」
「おいおいおい……!」

 俺とリフェルはアクルに続き、フランクゲートと呼ばれるオークション会場へ続く階段を降りて行った――。
 
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...