誤飲魔力 ～酔っ払いオヤジの俺、遂に酒と間違え【ドラゴンの魔力】を誤飲してしまった～

1杯目～誤飲酒～

14 希望の光

～リューテンブルグ王国・研究所～

「――やぁジンフリー君！ 未だに魔力が使えないみたいだな！」
「そう腐らないで下さいね！ 魔力0の方が大人になって魔力を得るなんて世界でも類を見ない事ですし、いくら子供でも出来る事をジンフリーさんが出来なかったとしても、その1つ1つが世界に誇れる貴重な成果となっていますから！」

　数日ぶりに会ったDr.カガクとトーマス君の第一声がコレ。

　さっき城で多くの大人に進捗状況をお披露目した際にはまだ魔力を使えていなかった。だから当然この2人は疎か、他の誰1人として俺が魔力を使える様になった事を知らない。　

　ここで止めないと話が長くなりそうだと悟ったエドは、差し迫った現状をいち早く伝えるのだった。

「なんと……ユナダス王国と戦争が起こりそうだって？ しかも満月龍の魔力を使える様になったのかジンフリー君」
「ええ。完全にたまたまですけど」
「そう言う事ならば一刻も早くアンドロイドへと魔力を移そう！ 皆直ぐに準備してくれ！」

　Dr.カガクの一言で研究所が一気に騒がしくなった。

　ガンテツやユナダス王国の動きも気になるが、俺は他のある事が気になっていた。

「なぁエド。あのガンテツとかいう野郎が現れた時、気付いたか？」
「いや、それについては俺も気掛かりだった」

　やはりエドも同じことを思っていたか。

　通常ならば、城は結界魔法によって覆われているから侵入は極めて困難だ。しかも窓ガラスが割られ奴が現れる瞬間まで全く気配を感じなかった。しかも外から結界を破るのではなく突如“内側”から現れやがった。
勿論それ自体は決して不可能な事ではないが、もし誰かの仕業だとするならばそれは相当の実力者だという事。

「俺の思いつく限りでは、ユナダス王国最大の特徴とも言える“魔女”が関係している」

　魔女ね……成程。
　リューテンブルグ王国が世界一の科学技術大国だとするならば、ユナダス王国は古くから魔女や魔法使いの凄まじい魔力の高さで栄えた魔法大国と言ったところか。確かに魔女や魔法使いの力ならば俺達が思っている以上に厄介だ。魔力使えないから良く知らないけど、魔法は凄い数の種類があるらしいからな。

「まぁそれなら奴の気配を感知出来なかったのも頷ける。結界の内側に入り込んできた事もな」
「これも俺の憶測だが、ユナダス王国はアンドロイドやお前を狙いつつ、“何時でもリューテンブルグを攻撃出来るぞ”という奴らからのメッセージとも受け取れる」

　エドの言う通り。本気で奪いに来るなら奴1人じゃ到底無理。ある意味これはユナダス王国からの宣戦布告とも捉えられる。だが逆を言えば、まだ交渉の余地が少なからず残っているとも言える。ユナダスも好き好んで戦争を望んでる訳ではない。

「どの道解決方法は満月龍の魔力だな」
「ああ。兎にも角にも、先ずはこの力を完全に制御出来る様にした上で、リューテンブルグとユナダス両国にとっての落としどころ見つけなければな。1歩でも間違えれば全面戦争だ」
「――準備出来たぞ！」

　Dr.カガクの声に俺達は同時に反応した。
　この間と似た光景。アンドロイドとゴツイ機械が何やら起動している。

「ジンフリー君！」
「ええ。何時でも大丈夫ですよ」

　魔力の感覚はまだ残ってる。これならイケそうだ。今更だが、さっき魔力練り上げて拒絶が起きていないって事は、取り敢えず死なないで済むって事でいいよな？

「よし。心臓のナノループに魔力全てを注ぎ込んでくれ！」

　ぐだぐだ考えてもしょうがねぇ。今はこの魔力を使う事に集中しろ。

　――むにゅ…………ブワァァァァァンッ！！
「「……！」」

　俺の体から溢れ出る強大な満月龍の魔力。
　危ねぇ。こんな状況にも関わらず、お〇ぱいの感触に一瞬気を取られちまった。どうやら上手く魔力を出せているらしい。俺の手からどんどんアンドロイドへ魔力が注がれていくのが分かる。

　後少し……。
　注ぎ続ける事数十秒。体から感じる魔力が一切無くなった。

「ナノループへの取り込み正常です！」
「よし。そのまま全起動だ！」

　そして、世界で初めてであろう満月龍の魔力を宿したアンドロイドが此処に誕生した――。

「――全起動完了。システム及び動作、魔力値に異常ナシ」

　目を開いて喋り出したアンドロイド。体に繋がれていた幾つもの管が外され、自身の体を確認するかの如く腕や頭を動かすその仕草は、どこからどう見ても人間そのものであった。
　
「凄ぇ……」

　俺だけじゃなく、その場にいた者達全員の視線がアンドロイドに集まっている。美人で露出が多いナイスボディだからじゃない。誰も見た事無い非現実的な物を目の当たりにしているからだ。

「ジンフリー・ドミナトル。年齢40歳。通常の人間よりかなり魂力と剣術レベルが高い。だけど魔力は0で使える魔法も勿論0。現在の体内アルコール濃度は0.88％で人間の平均値と比べると異常。酒の飲み過ぎが疑われマスね」

　色んな意味で驚かされる。言葉はやや片言だが、それ以外はマジで人にしか見えない。そして高性能なあまり俺の個人情報は駄々洩れだし、最後は余計なお世話だ。

「私を生み出したDr.カガク。申し訳ありませんが服を下さい。いやらしい目的で私の体を見ている者が7名おりマス。あちらのモジャモジャ頭のエリック博士にそちらの眼鏡を掛けたピーター。それからッ……「おい、そんな事はいちいち名指しせんでいい。誰か服を持って来てやれ！」

　運悪く名前が出たエリックとピーターとやらは災難だな。百歩譲って男だけならまだしも、ここには女性の専門家達も多くいる。皆の視線が痛いだろうな。ご愁傷様です……。

　服を着たアンドロイドは再び俺に声を掛けてきた。

「ジンフリー・ドミナトル。アナタから頂いた魔力により、私にプログラムされている魔法全666種ガ問題なく使用デキルようになりまシタ。使いたい時は気軽に仰ってくれて構いまセンよ」
「あ、ああ……ありがとう。Dr.カガク、この後はどうすれば……」
「このアンドロイドはここからまだ成長する様に造っておる。今はまだ話し方もぎこちないが、そのうちもっと流暢になるぞ。ガハハハ！」

　いや、そういう意味で聞いた訳じゃないんだけどな。

　既にここまで驚きの連続であったが、この後のアンドロイドの言葉が更に俺を驚かせた。

　そして、腐りきっていた俺の人生に一筋の希望の光を生ませたのだった――。


「それではジンフリー・ドミナトル。満月龍ラムーンドラゴンを“倒しに行きまショウ”」
「――⁉」