上 下
13 / 51
1杯目~誤飲酒~

12 戦争の引き金

しおりを挟む
~リューテンブルグ王国・城~

「――ではやってみておくれ」

 俺は今城にいる。お決まりの玉座の間にな。

 目覚めの悪い朝に更に追い打ちをかけるかの如く、朝っぱらからまたエドが俺の家を訪ねて来たのだ。

 理由はまぁ下らない。
 一応フリーデン様が絡んでいるから口が裂けても言えないが、実に下らないと俺は思う。

「早く見せろジン」
「見せる物なんてねぇっつうの」

 王国にとって最早一大行事となりつつあるアンドロイド計画。勿論まだ関係者しか知らない事だが、それでも既に多くの大人が関わっている事もあり、魔力が扱えない俺の“進捗状況”とやらで城に呼ばれ今に至る。

 だがハッキリ言わせてくれ。
 1だったものが5や10になったのならこの報告に意味があると思うが、0が0のままで一体何を報告しろと言うんだ。誰にもメリットの無いただただ無駄な時間を過ごすだけだぞ。

 って事をエドにも朝言ったのが、どうやら多くの大人が関わっている為、形だけでも協力してくれとフリーデン様にも頼まれたらしい。国王というのも色々大変そうだ。

 そんなこんなで城に集まった一堂に対し、俺は自信満々に魔力が使えない事を見せつけてやった――。

「……よし。ご苦労じゃったなジンフリーよ。エドワードにも手間を取らせたの」
「いえ。とんでもございません」
「全くだよ」

 城に来ていた専門家や関係者達も進捗状況とやらに満足したのか皆帰って行った。こんな事言ったら失礼なんだろうけど、俺には一生理解出来ない人達だ。


 そして、唐突にも“それ”は起こるのだった――。

「さて、ジンフリー。やっぱりまだ魔力の感覚は掴めぬか?」
「はい。正直って意味不明です。私なりに人生で初めてというぐらい真剣に取り組んでいるつもりなのですが……全く成果を感じられません」
「ホッホッホッ、そうかそうか。其方が言うのならさぞ苦労しておる様じゃな」
「誠に面目ないです」
「そう気負う必要はない。急いでおらぬからの。皆今回のアンドロイド計画にちと興奮しているだけじゃ。それよりジンフリーとエドワードよ、これはまだ誰にも言っておらぬ内密な事なのだが……」

 フリーデン様の表情が少し険しくなった。

「実はの、このアンドロイド計画の事が“ユナダス王国”に漏れてしまったらしいのじゃ」
「ユナダス王国に……⁉」

 ユナダス王国って、今はそうでもないけど、確かあんまりリューテンブルグと友好関係じゃなかったらしいな。もう昔程じゃないけど、100年以上前に戦争か何かしたんじゃなかったか……?

「知っておると思うが、リューテンブルグ王国とユナダス王国の間には1度戦争が起きておる。私が生まれる前であったから100年以上も前だが、その戦争はお互いの王国が壊滅寸前まで追い込まる程悲惨なものであったらしい。
当時リューテンブルグ王国の国王であった祖父の代では、ユナダス王国との関係は最も悪かったと先代の父も言っておった。

やがて歳を取った祖父とユナダスの国王も現役を退き、次の父の代へと引き継いだのじゃ。休戦協定の取り決めがある中ではあったが、父とユナダスの次期国王は2度と争いを起こさないと歩み寄りの姿勢を見せた。それだけお互いに失ったものが多すぎたのじゃな……」

 今のリューテンブルグからは想像も出来ない。
 壊滅寸前なんて満月龍の時より酷かったって事じゃねぇか。

「そこから更に月日は経ち現在にまで至る。私が国王になってから40年近く経つが、ユナダス王国の現国王である“バレス国王”とは共に両国の友好関係をより深めてきた。今となってはこの戦争を経験した者もごく僅か。私より10歳も上の世代じゃ。果たして何人が長生きしておるのかの。ホッホッホッ。

しかしどれだけ良好になろうと歴史を無かった事には出来ぬ。もう争いは起きないと、休戦協定も父から私に引き継ぐ時に撤廃しておるが、果たしてどうユナダス王国にアンドロイドの事が伝わったのか……。

100年以上築いてきた関係の雲行きが少し怪しくなってきておる――」

 俺とエドは静かに目を合わせた。
 フリーデン様の話が突然過ぎるという事もあるが、その内容もまたす直ぐに受け入れられるものではない。

 当然だろう。
 今フリーデン様が言った事を分かりやすく言うなら……。

「それは再び戦争が起きるという事ですか……?」

 そう。
 口を出したのはエドだが、俺も意見は全く同じだ。何ともまぁ物騒な話だが、問題はもっと根本。

「たかがアンドロイドで何故そこまでに?」
「ああ、問題はそこなんじゃ」
「そもそも我が王国の機密情報がどうしてユナダス王国に……」
「それについては今調べておる。エドワードの言う通り、アンドロイドの件は機密情報じゃ。まぁアンドロイドというより満月龍の力の事じゃがな。
5年前からこの研究に関わる人間は全員リューテンブルグ王国の者じゃ。身元も調べ、本人達にはこの研究についての情報を一切口外しないという契約も結んでおる」
「って事は、研究に関わっていないが事情を知っているであろう一部の家来や騎士団員達か?」
「もしくは研究に関わっている中に情報を漏らした奴がいるか……」

 様々な憶測が脳内を駆け巡る。
 どんな結果にせよ、それが良い事じゃないってのは確かだ。

「情報を漏らした者を特定するのも大事ではあるが、今最も重要なのは、その情報がきっかけで両国の関係に亀裂が生じようとしている事。先日ユナダス王国から入った連絡の内容がこうじゃ。

“リューテンブルグ王国が戦争を望むのならば、我がユナダス王国も全精力で迎え撃つ”とな――。

私も突然の事で動揺したが、直ぐにバレス国王に確認を取った。そして話を整理していくうちにようやく状況が理解出来た。
何でも……我がリューテンブルグ王国が進めていた満月龍の力を、ユナダス王国は他国への力の誇示と受け取った様なのじゃ」
「そんなの勘違いだろ」
「バレス国王にはその旨を?」
「当然じゃ。リューテンブルグが満月龍に襲われた時もユナダスは直ぐに支援をしてくれた。そんなユナダス王国へは勿論、全世界何処の国とも我が王国は戦争など望んでおらぬと。

しかし、この情報がどう伝わったのか分からぬが、図らずも満月龍の強大な力を手にしてしまった事を良く思っておらんのじゃ。リューテンブルグが満月龍の力を王国の軍事力として備えているとな」

 無茶苦茶だな……。

「それは誤解だという事も何度も説明したのじゃ。私達はこの力を、再び満月龍に襲われた時に我が王国を守る最後の防衛策として考えておるだけじゃと。そして間違ってもこの力を攻撃として扱う事は断じて無いとの――」

 神妙な面持ちで話すフリーデン様の無念が痛い程伝わってくる。それと同時に悟った現実。

「フリーデン様が事情を説明したがユナダス王国の意見は変わらないと言う事ですね……」
「バレス国王には何とか話をつけたが、向こうでは既に一部の者達が反乱を起こしているらしいのじゃ」
「成程。まぁユナダスの気持ちも分からなくはない。他の王国が強大な力を極秘に進めておいて攻撃する気は無いなんて、説得力がまるでねぇもんな」
「おいッ、言葉を慎めジン!」
「構わんエドワードよ。ジンフリーの言う通りじゃ。大砲を造っておいて絶対に撃たぬなどと言われても、誰も信用出来ぬ。しかも積んでいるのが満月龍の砲弾となれば他国にとっては脅威でしかない。

私のせいじゃな……。何処かで判断を誤ってしまった。父の代から守り続けてきた両国の平和を、まさか私が壊してしまうとはの……」
「決してフリーデン様のせいではありません! 満月龍の力が絶対に安全だと理解してもらえば大丈夫な筈です!」
「そうじゃな。私も諦めた訳ではあるまい。一刻も早く漏洩元を突き止めると共に、満月龍の力を確実に安全な物へと進化させねばッ……『――バリィィィンッ!!』
「「――⁉」」

 突如、玉座の間の窓ガラスが室内に飛び散った。
 
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

Crystal of Latir

ファンタジー
西暦2011年、大都市晃京に無数の悪魔が現れ 人々は混迷に覆われてしまう。 夜間の内に23区周辺は封鎖。 都内在住の高校生、神来杜聖夜は奇襲を受ける寸前 3人の同級生に助けられ、原因とされる結晶 アンジェラスクリスタルを各地で回収するよう依頼。 街を解放するために協力を頼まれた。 だが、脅威は外だけでなく、内からによる事象も顕在。 人々は人知を超えた異質なる価値に魅入られ、 呼びかけられる何処の塊に囚われてゆく。 太陽と月の交わりが訪れる暦までに。 今作品は2019年9月より執筆開始したものです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、 実在のものとは関係ありません。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約破棄ですって!?ふざけるのもいい加減にしてください!!!

ラララキヲ
ファンタジー
学園の卒業パーティで突然婚約破棄を宣言しだした婚約者にアリーゼは………。 ◇初投稿です。 ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。 ◇なろうにも上げてます。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

処理中です...