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1杯目~誤飲酒~
06 アンドロイド計画
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「――彼に輸血をしてから数十分後。やはり魔力を使わない分には何も拒絶反応が見られなかった。
僅かな可能性を広げると同時に彼の覚悟を汲み取った我々は、遂に魔力を発動させると言う結論に至り、行動に移した。その結果、彼が魔法を発動させようと魔力を練り上げた瞬間、予想通り満月龍の血が拒絶を始めたんだ。
彼の左腕は凄まじい激痛に襲われ、肌も青紫色に変色していった。内部からの拒絶により左腕の血や肉が飛び散り骨も砕け、時間にして僅か数秒にも関わらず、その余りの激痛に彼は自ら左腕を吹き飛ばした。反射的に取った行動だったが結果それが功を奏し、左腕は失ったものの何とか一命は取り留められた。
だがその実験で何より驚いたのが、彼が無意識だったとはいえ満月龍の魔力を使った事――。
彼が自らの腕を自爆させようとした刹那、腕が吹き飛ぶとほぼ同時に魔法が放たれた。それも僅かな魔力量でありながら、実験を行っていた研究室と壁を破壊し、そのまま直ぐ横に広がっていた森林およそ200m以上を消し去る程にな」
俺の眠気は完全に飛んでいた。
満月龍の血を調べていた事も、その力が想像以上だった事も、まさに寝耳に水な事態の連続に驚くばかりである。
話の内容を若干(約8割)聞いていなかったが、流石の俺でも起こっている現状の深刻さを痛感している。余りに危険だが、確かに奴のデタラメな魔力を扱う事が出来れば大勢の人が安心して暮らせるのは事実だ。1度絶望を味わったこのリューテンブルグの人々ならば尚更だろう。そんな事は誰もが願う事だ。
彼は俺と境遇が似ている。大切な人を失った絶望は計り知れない。この王国にはきっとまだ彼や俺の様な人々が多く存在している。だからこそ、この満月龍の血から見出される僅かな可能性は、そんな人々の大いなる希望にもなり得る。半ば自暴自棄だったとはいえ、結果彼の覚悟は混沌とした暗闇に一筋の光を見出した。
分かってる……。俺はそんな人々の大いなる希望を飲んじまった。
そして、俺は少し前から体中に嫌な汗を掻いている。何故かって?
話すエドに確かめる様に、俺は恐る恐る口を開いた。
「――ほぉ。幻の満月龍の力ともなると全てが未知であり脅威だな。そして時にエドよ……。
ひょっとして、その未知なる脅威は今俺の体にいるって事だよな……?」
「ああ」
聞いたのは確かに俺。
だがエドのその淡々とした態度に、いつの間にか俺はまたキレていた。
「おいおいおいおいッ、どうするんだよ⁉ もれなく死ぬぞ俺!」
「お前が飲んだんだろ。自分で」
「そうだけどそうじゃねぇだろ! 何呑気な顔で俺を見てやがる!」
「落ち着けよ。騒いだところで何も解決しないぞ」
「落ち着けるか! そんな危ない物を俺に飲ませやがって。どうすりゃいいんだよ! このままじゃ俺も死ぬッ……ん……?」
言いかけた言葉が止まった。
ちょっと待てよ……そう言えば今の青年も輸血だけじゃ……。
俺のその様子を見てエドが少し笑いながら言ってきた。
「気が付いたか? だから落ち着けって言ったんだ。安心しろジン。悪運が強いと言うか何というか……。勿論100%とは言い切れないが、魔力が0のお前なら恐らく拒絶の心配は一切無い」
「……!」
エドの言葉を聞いて確信した。
そう。
俺は今の時代にとってはかなり珍しい“魔力0”の体質だった。
「これは安心していいものなのかかなり複雑な心境だけどよ、死ぬ心配はねぇって事でいいんだよな?」
「分からん。何せまだ研究途中だったからな。いつ死んでも可笑しくはない」
「また嫌味な言い方だなぁおい。まぁ別にいいけど。どうせ1度終わってるようなもんだしな。それに俺にとって死は“最後の希望”でもある」
「また訳の分からん事を……。もう少し緊張感を持てジン。全く、何の因果だろうな――」
俺と話していると調子が狂うのか、エドは小さくそう呟きながら、再び真剣な表情でフリーデン様に言った。
「フリーデン様。肝心の研究所からの最新の分析結果と“今後”については今からとなります。今更ながら随分とお時間を無駄にしてしまった事、心の底からお詫び申し上げます」
「ホッホッホッ。何も謝る事は無いぞ。それに今の時間が無駄になったかどうかは“まだ”分からぬ。エドワードよ、では早速その最新の結果とやらを聞かせてくれるか?」
フリーデン様は何時でもそうだ。こんな俺達の見苦しいやり取りも優しく見守ってくれている。そう思うと同時に、如何に自分が浅はかな人間だと痛感させられるのもまた事実。
「ありがとうございますフリーデン様。ついでにジン、ここからはお前ももっと集中して聞け」
意識飛んでたのはバレてなさそうだなギリギリ。
「今回、図らずも私の隣にいるジンフリーが満月龍の血を体に宿しました。幸いなことに、彼はフリーデン様もご存知のとおり魔力0であります。ですが、現代となっては珍しいその生まれつき魔力が0の者達が唯一の鍵になるのではないかと、研究が進められていました。そしてその後の専門家達の分析と知識により、1つの提案が生まれたのです。
それがこの紙に記されている……『無限魔力人造人』計画です!」
アンドロイド?
俺だけでなく、その場にいた者達全員がピンときていない様子。首を傾げる者や眉を顰める者。皆が訝しい表情を浮かべていたが、エドの説明によりそれが徐々に氷解されていく。
僅かな可能性を広げると同時に彼の覚悟を汲み取った我々は、遂に魔力を発動させると言う結論に至り、行動に移した。その結果、彼が魔法を発動させようと魔力を練り上げた瞬間、予想通り満月龍の血が拒絶を始めたんだ。
彼の左腕は凄まじい激痛に襲われ、肌も青紫色に変色していった。内部からの拒絶により左腕の血や肉が飛び散り骨も砕け、時間にして僅か数秒にも関わらず、その余りの激痛に彼は自ら左腕を吹き飛ばした。反射的に取った行動だったが結果それが功を奏し、左腕は失ったものの何とか一命は取り留められた。
だがその実験で何より驚いたのが、彼が無意識だったとはいえ満月龍の魔力を使った事――。
彼が自らの腕を自爆させようとした刹那、腕が吹き飛ぶとほぼ同時に魔法が放たれた。それも僅かな魔力量でありながら、実験を行っていた研究室と壁を破壊し、そのまま直ぐ横に広がっていた森林およそ200m以上を消し去る程にな」
俺の眠気は完全に飛んでいた。
満月龍の血を調べていた事も、その力が想像以上だった事も、まさに寝耳に水な事態の連続に驚くばかりである。
話の内容を若干(約8割)聞いていなかったが、流石の俺でも起こっている現状の深刻さを痛感している。余りに危険だが、確かに奴のデタラメな魔力を扱う事が出来れば大勢の人が安心して暮らせるのは事実だ。1度絶望を味わったこのリューテンブルグの人々ならば尚更だろう。そんな事は誰もが願う事だ。
彼は俺と境遇が似ている。大切な人を失った絶望は計り知れない。この王国にはきっとまだ彼や俺の様な人々が多く存在している。だからこそ、この満月龍の血から見出される僅かな可能性は、そんな人々の大いなる希望にもなり得る。半ば自暴自棄だったとはいえ、結果彼の覚悟は混沌とした暗闇に一筋の光を見出した。
分かってる……。俺はそんな人々の大いなる希望を飲んじまった。
そして、俺は少し前から体中に嫌な汗を掻いている。何故かって?
話すエドに確かめる様に、俺は恐る恐る口を開いた。
「――ほぉ。幻の満月龍の力ともなると全てが未知であり脅威だな。そして時にエドよ……。
ひょっとして、その未知なる脅威は今俺の体にいるって事だよな……?」
「ああ」
聞いたのは確かに俺。
だがエドのその淡々とした態度に、いつの間にか俺はまたキレていた。
「おいおいおいおいッ、どうするんだよ⁉ もれなく死ぬぞ俺!」
「お前が飲んだんだろ。自分で」
「そうだけどそうじゃねぇだろ! 何呑気な顔で俺を見てやがる!」
「落ち着けよ。騒いだところで何も解決しないぞ」
「落ち着けるか! そんな危ない物を俺に飲ませやがって。どうすりゃいいんだよ! このままじゃ俺も死ぬッ……ん……?」
言いかけた言葉が止まった。
ちょっと待てよ……そう言えば今の青年も輸血だけじゃ……。
俺のその様子を見てエドが少し笑いながら言ってきた。
「気が付いたか? だから落ち着けって言ったんだ。安心しろジン。悪運が強いと言うか何というか……。勿論100%とは言い切れないが、魔力が0のお前なら恐らく拒絶の心配は一切無い」
「……!」
エドの言葉を聞いて確信した。
そう。
俺は今の時代にとってはかなり珍しい“魔力0”の体質だった。
「これは安心していいものなのかかなり複雑な心境だけどよ、死ぬ心配はねぇって事でいいんだよな?」
「分からん。何せまだ研究途中だったからな。いつ死んでも可笑しくはない」
「また嫌味な言い方だなぁおい。まぁ別にいいけど。どうせ1度終わってるようなもんだしな。それに俺にとって死は“最後の希望”でもある」
「また訳の分からん事を……。もう少し緊張感を持てジン。全く、何の因果だろうな――」
俺と話していると調子が狂うのか、エドは小さくそう呟きながら、再び真剣な表情でフリーデン様に言った。
「フリーデン様。肝心の研究所からの最新の分析結果と“今後”については今からとなります。今更ながら随分とお時間を無駄にしてしまった事、心の底からお詫び申し上げます」
「ホッホッホッ。何も謝る事は無いぞ。それに今の時間が無駄になったかどうかは“まだ”分からぬ。エドワードよ、では早速その最新の結果とやらを聞かせてくれるか?」
フリーデン様は何時でもそうだ。こんな俺達の見苦しいやり取りも優しく見守ってくれている。そう思うと同時に、如何に自分が浅はかな人間だと痛感させられるのもまた事実。
「ありがとうございますフリーデン様。ついでにジン、ここからはお前ももっと集中して聞け」
意識飛んでたのはバレてなさそうだなギリギリ。
「今回、図らずも私の隣にいるジンフリーが満月龍の血を体に宿しました。幸いなことに、彼はフリーデン様もご存知のとおり魔力0であります。ですが、現代となっては珍しいその生まれつき魔力が0の者達が唯一の鍵になるのではないかと、研究が進められていました。そしてその後の専門家達の分析と知識により、1つの提案が生まれたのです。
それがこの紙に記されている……『無限魔力人造人』計画です!」
アンドロイド?
俺だけでなく、その場にいた者達全員がピンときていない様子。首を傾げる者や眉を顰める者。皆が訝しい表情を浮かべていたが、エドの説明によりそれが徐々に氷解されていく。
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