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1杯目~誤飲酒~
05 拒絶反応
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「この5年……満月龍の血の効力について調べた結果は、既にフリーデン様もご存じの通り、私達の想定を遥かに上回る程強力な物でした。
満月龍の血に含まれた魔力値は驚異的。あのボトル1本で約、我々人間1000人分に匹敵する魔力量でした」
たったあれだけで1000人分とは……。最早笑うしかねぇな。
「そしてその驚異的な魔力を何かしらの形で利用できないかと、研究所の専門家達を含む各分野のプロフェッショナルが集まって研究を進めてきました。この力を何とか使えないものかと……万が一また満月龍が出現した場合の対抗策になる事を願って――。
ですが、やはりこの力はそう甘くはありませんでした。魔力操作に長けた魔法使いや元から魔力量の多い者。それに騎士団員を含めた数名の実力者に協力してもらいましたが、満月龍の力を利用するどころか全員その魔力に“拒絶”され、触れようと近づいただけで気を失ってしまいました」
エドが話を進めれば進める程、場に緊張感が張り詰めていくのが分かった。
無理もない。話の内容が耳を疑う事ばかりだ。それに疑問も残る……。
「おいエド。今お前が嘘を言ってるなんて思わねぇが、あの満月龍の血にそんな力があるなら何故俺も含め、その拒絶とやらが起きない? 近づいただけで気を失うなら、そもそもお前達が血を集めた時点で全員倒れてるだろ」
「ああ、確かにお前の言う通りだジン。だが、我々が拒絶と呼んでいるその現象は無差別で起こっている訳ではなかったんだ。様々な分析や要因を踏まえた結果……恐らくこの力は、魔力が強ければ強い者程拒絶され反発する」
やべぇ……何だか話が難しくなってきた様な……。
「満月龍の魔力を使おうとするには当然、扱う者も魔力を用いて利用する。しかしその扱おうとする者の魔力が高ければ高い程、奴の魔力に拒絶されてしまう。
逆を言えば、魔力を使おうとしていない通常時ならば、誰が近づいても何も起きない。お前が何事もなく手にした様にな。これは個人が持つ魔力の強い弱いに関係なく、奴の魔力を“使用”した瞬間に起こるんだ」
ダメだ。眠くなってきたかも。
「その証拠に、初めて奴の魔力を扱おうと試みた時、協力してくれた者達全員が無意識の内に魔力を練り上げてしまっていた。だから近づいただけで拒絶現象が起こってしまったんだ。勿論その後もあらゆる手段は試した。
極限まで魔力を抑え近づいてもダメ。ボトルを手にした後に魔法を発動させてもダメ。人間だけでなく獣人族やエルフと言った他の種族に力を貸してもらったがそれもダメ。“他の魔力”に反発して受け付けないんだ。
それ以上の進展がないまま暫く経ったある日、満月龍の被害で妹を失った1人の協力者が、奴の血を自分の体内に入れてほしいと志願してきた。
当たり前だが専門家達も私も反対したよ。けれどその子の意志はとても固く、何が何でも自分と同じ様な被害は2度と起きてほしくない……だから研究の役に立つなら自分の体を使ってほしいとせがまれてね……。
だがいくら本人の意志とは言えそれは出来ない。悩んだ末、専門家達が彼を納得させる為にモルモットを使った実験を行う事にした。もしモルモットに異常が起これば諦めてくれるだろうとね。
そしてその実験も失敗に終わった。失敗と言うより……その時には既に、ボトル越しに触れただけでもかなりの拒絶が起こると皆が分かっていたから、血を直接体内に入れる事がどれ程危険なのか説明するまでもない。
強いて言うならば、その実験結果が想像以上に悲惨だったという事……。
満月龍の血を輸血したモルモットは、血や魔力だけではなく体全てが拒絶しているかの如く藻掻き苦しみ、吐血や自傷行為を繰り返した後、最終的には原形をとどめない程の姿形となって死んだと言う結果に至った……。細胞や遺伝子レベルで拒絶されるのは言うまでもない。これが人間だったらと思うだけでゾッとする。
それなのにも関わらず、彼は諦めるどころか更に懇願してきた。どういう結果になっても構わないから試してくれと……もう自分は生きる気力が無いから実験をさせてくれないのならばこのまま死ぬとまで言い出した。
我々も苦渋の決断であったが、出来る限り最大の厳戒態勢の元、そして命の保証は出来ないと何度も確認した上で、それでも意志の変わらない彼の提案を受ける事にした……。
そして結論から言うと、全員の頭を過っていたであろう最悪の事態は避ける結果となった――。
彼はその実験で左腕を失ったが命は助かった。驚いたよ……モルモットの時と同じ事態を想像していたからな。これを勇気とは呼べないが、彼の強い意志のお陰で滞っていた研究が少し前進した。その結果と専門家達の調べにより、彼とモルモットの研究結果に2つの違いを見つけた。
1つ目は、モルモットの時と違い、血を輸血しても直ぐには拒絶反応が見られなかった。これは今までの調べから、彼に魔力を使うなと予め言っておいた事が要因として考えられている。人間と違って本能で生きている動物達にはそれが出来ない。現時点で分かっている唯一の差はそこになる。
そして更に重要なのが2つ目。決定的な違いは、一瞬ながらも彼が満月龍の魔力を“扱えた”という事。この事実が全てを変えるきっかけとなった」
あ~……危ねぇ……! 内容が難しくなった上に話が長くて意識飛んじまった。
“近づいただけで拒絶現象が起こってしまった……”辺りから記憶がねぇ。絶対大事な事話していた雰囲気だよな。辛うじてその青年のお陰で何かが変わろうとしている事は理解出来た。
覚悟を見せた青年の為にも、ここからは今1度集中して聞けよ俺――。
満月龍の血に含まれた魔力値は驚異的。あのボトル1本で約、我々人間1000人分に匹敵する魔力量でした」
たったあれだけで1000人分とは……。最早笑うしかねぇな。
「そしてその驚異的な魔力を何かしらの形で利用できないかと、研究所の専門家達を含む各分野のプロフェッショナルが集まって研究を進めてきました。この力を何とか使えないものかと……万が一また満月龍が出現した場合の対抗策になる事を願って――。
ですが、やはりこの力はそう甘くはありませんでした。魔力操作に長けた魔法使いや元から魔力量の多い者。それに騎士団員を含めた数名の実力者に協力してもらいましたが、満月龍の力を利用するどころか全員その魔力に“拒絶”され、触れようと近づいただけで気を失ってしまいました」
エドが話を進めれば進める程、場に緊張感が張り詰めていくのが分かった。
無理もない。話の内容が耳を疑う事ばかりだ。それに疑問も残る……。
「おいエド。今お前が嘘を言ってるなんて思わねぇが、あの満月龍の血にそんな力があるなら何故俺も含め、その拒絶とやらが起きない? 近づいただけで気を失うなら、そもそもお前達が血を集めた時点で全員倒れてるだろ」
「ああ、確かにお前の言う通りだジン。だが、我々が拒絶と呼んでいるその現象は無差別で起こっている訳ではなかったんだ。様々な分析や要因を踏まえた結果……恐らくこの力は、魔力が強ければ強い者程拒絶され反発する」
やべぇ……何だか話が難しくなってきた様な……。
「満月龍の魔力を使おうとするには当然、扱う者も魔力を用いて利用する。しかしその扱おうとする者の魔力が高ければ高い程、奴の魔力に拒絶されてしまう。
逆を言えば、魔力を使おうとしていない通常時ならば、誰が近づいても何も起きない。お前が何事もなく手にした様にな。これは個人が持つ魔力の強い弱いに関係なく、奴の魔力を“使用”した瞬間に起こるんだ」
ダメだ。眠くなってきたかも。
「その証拠に、初めて奴の魔力を扱おうと試みた時、協力してくれた者達全員が無意識の内に魔力を練り上げてしまっていた。だから近づいただけで拒絶現象が起こってしまったんだ。勿論その後もあらゆる手段は試した。
極限まで魔力を抑え近づいてもダメ。ボトルを手にした後に魔法を発動させてもダメ。人間だけでなく獣人族やエルフと言った他の種族に力を貸してもらったがそれもダメ。“他の魔力”に反発して受け付けないんだ。
それ以上の進展がないまま暫く経ったある日、満月龍の被害で妹を失った1人の協力者が、奴の血を自分の体内に入れてほしいと志願してきた。
当たり前だが専門家達も私も反対したよ。けれどその子の意志はとても固く、何が何でも自分と同じ様な被害は2度と起きてほしくない……だから研究の役に立つなら自分の体を使ってほしいとせがまれてね……。
だがいくら本人の意志とは言えそれは出来ない。悩んだ末、専門家達が彼を納得させる為にモルモットを使った実験を行う事にした。もしモルモットに異常が起これば諦めてくれるだろうとね。
そしてその実験も失敗に終わった。失敗と言うより……その時には既に、ボトル越しに触れただけでもかなりの拒絶が起こると皆が分かっていたから、血を直接体内に入れる事がどれ程危険なのか説明するまでもない。
強いて言うならば、その実験結果が想像以上に悲惨だったという事……。
満月龍の血を輸血したモルモットは、血や魔力だけではなく体全てが拒絶しているかの如く藻掻き苦しみ、吐血や自傷行為を繰り返した後、最終的には原形をとどめない程の姿形となって死んだと言う結果に至った……。細胞や遺伝子レベルで拒絶されるのは言うまでもない。これが人間だったらと思うだけでゾッとする。
それなのにも関わらず、彼は諦めるどころか更に懇願してきた。どういう結果になっても構わないから試してくれと……もう自分は生きる気力が無いから実験をさせてくれないのならばこのまま死ぬとまで言い出した。
我々も苦渋の決断であったが、出来る限り最大の厳戒態勢の元、そして命の保証は出来ないと何度も確認した上で、それでも意志の変わらない彼の提案を受ける事にした……。
そして結論から言うと、全員の頭を過っていたであろう最悪の事態は避ける結果となった――。
彼はその実験で左腕を失ったが命は助かった。驚いたよ……モルモットの時と同じ事態を想像していたからな。これを勇気とは呼べないが、彼の強い意志のお陰で滞っていた研究が少し前進した。その結果と専門家達の調べにより、彼とモルモットの研究結果に2つの違いを見つけた。
1つ目は、モルモットの時と違い、血を輸血しても直ぐには拒絶反応が見られなかった。これは今までの調べから、彼に魔力を使うなと予め言っておいた事が要因として考えられている。人間と違って本能で生きている動物達にはそれが出来ない。現時点で分かっている唯一の差はそこになる。
そして更に重要なのが2つ目。決定的な違いは、一瞬ながらも彼が満月龍の魔力を“扱えた”という事。この事実が全てを変えるきっかけとなった」
あ~……危ねぇ……! 内容が難しくなった上に話が長くて意識飛んじまった。
“近づいただけで拒絶現象が起こってしまった……”辺りから記憶がねぇ。絶対大事な事話していた雰囲気だよな。辛うじてその青年のお陰で何かが変わろうとしている事は理解出来た。
覚悟を見せた青年の為にも、ここからは今1度集中して聞けよ俺――。
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