上 下
3 / 51
1杯目~誤飲酒~

02 満月龍(ラムーンドラゴン)

しおりを挟む
ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「――パパ……熱いよッ……!」
「助けて……パパ」
「あなた……ッ!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ――バッ!
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……!」

 くそッ……“また”か……。何時まで経っても最悪な目覚めだぜ全く……。

 あの日からもう5年……。未だにあの時の光景が頭から離れねぇ。毎夜訪れる悪夢のせいで悲劇がつい昨日の事の様に感じる。何で俺だけ生きてるんだ……。

 マリア……ミラーナ……ジェイル……それにパク……。きっと皆怒ってるし恨んでるよな……。そんな言葉じゃ言い表せないか。無理もねぇ……俺だけのうのうと生きてるんだからよ……。

 目覚めから果てしない虚無感に襲われた俺は、僅かに残った昨日の酒を一気に飲み干した。

「……やっぱり美味くねぇ酒だな」

 既に昨日味わっていたが、改めて飲んでもやっぱり美味くない。まぁ味の好みは人それぞれだけどな。俺は辺りに散らばる金貨を数枚適当に拾いポケットに突っ込んだ。動くのが面倒くさいから買い物はまとめて済ませる。何日分かの食料と無くてはならない大量の酒を買ってそれを消費。そして無くなったらまたまとめて買う。それの繰り返しだ。

 そして今日はそのまとめ買いの日。正確には日付を跨いでいたが、こうして連続で外に出るなんて珍しい。いや、この5年の間にも片手で数えられるくらいだろう。なんの自慢にもならねぇがな。

 微塵の変化もない今日という当たり前の1日。
 毎回面倒だと思いながらも、俺は家の扉を開けて外に出た。

「――おい」
「うわッ⁉」

 久々に大きな声を出した。出したというより思わず出た。だって、まさか扉開けていきなり人が立ってるなんて思わねぇだろ。しかもかなり“圧”を感じたし。そりゃ驚くって。目の前にいる奴がいくら知った顔でもな。

「何してんだよ朝っぱらから……エド」

 連続で人と会って話すのも久しぶりだな。 

「“返せ”よ」
「 は?」
「いいから早く返せ。お前だろ、“犯人”」

 いきなり現れた挙句に何言ってるんだコイツ。

「何の話だよ」
「トラックの防犯カメラに写ってたんだ。“ボトル”を持っていくお前の姿がな、ジン」

 ボトル……。ああ、昨日の酒の事か。思ったよりバレるの早かったな。っていうか防犯カメラなんて付けてたのかあのトラック。

「ボトルってあの“酒”の事か? 何だよ、酒の1本や2本別にいいだろ」
「良くねぇよ!」

 エドにしては珍しく焦った表情をしている。しかも食い気味で言い返してきたし。

「やっぱ高い酒だったのか。それなら金はちゃんと払うからッ……「いいから返せ! しかも言っておくがアレは“酒じゃない”!」

 え……? 酒じゃないの……? 
 俺が少し困惑した顔をするとエドは何かを察したのか、突如顔面蒼白の表情で俺の胸ぐらを勢いよく掴んできた。

「おいッ! まさかお前……アレ飲んだ訳じゃないだろうなッ⁉」

 何かヤバそう。俺の直感はこれに尽きた。

 エドとは出会ってから30年以上も経つが、正直こんな焦った顔を見た事がない。初めてだ。それ故に、察しの悪い俺でも何か尋常ではない空気を感じ取っている。
 
 俺はこの時思った。
 多分……アレ飲んじゃいけないやつだったんだ。

 うん。絶対そう。じゃないとこの状況に説明が付かん。

「あー……アレな……俺には酒に見えたけどな……ハハ。そもそも酒じゃねぇとは……へー。


…………だったら何ですか⁇」

 ぎこちなくも何とか絞り出した回答に、遂にエドがキレた。

「馬鹿野郎ォォォォォォォォォォォォッ‼‼」


 ♢♦♢

 
~リューテンブルグ王国・城~

 あれから俺とエドは、王国のど真ん中に聳え立つリューテンブルグ王国の城に来ていた。当たり前だが此処には国王や王族が住んでいる城でもある。だから当然の如く国王もいるし、何なら今俺は城の中で1番広い玉座の間で静かに片膝を付いている。

 何故かって? 当然だろ。目の前に国王が座ってるんだからよ。常識だ。
 
「――久しぶりであるな。ジンフリー・ドミナトルや」
「ご無沙汰しております。フリーデン様」

 リューテンブルグ王国の国王であるシャロム・フリーデン。俺が物心ついた時からずっと国を平和に保っている。歳ももう90近い筈なのに元気だな。良い事なんだけど。

「先ず、元気そうで何よりじゃ。其方がリューテンブルグ王国誕生以来、最年少で騎士団の大団長になった事も私にとってはつい最近の事の様に感じる。人々が平和に暮らせてこれたのも其方のお陰じゃジンフリーよ。改めて礼を言うぞ」
「国王様にお礼を言われる程の事なんてしていないですよ」
「そう謙遜するでない。……あの時、其方が命を懸けて守ってくれたからこそ、ここまで復興の道を歩む事が出来ておるのじゃ」

 フリーデン様の言葉に、周りにいた家来や護衛の騎士団員達も皆頷いていた。

 一応理解はしてるつもり。5年前、死に物狂いで満月龍を止めたのは確かに事実。でも、それはあくまで結果論。あの時、俺にもっと力があれば……こんな事にはなっていなかった。大勢の人を救ったと称えられるがそうじゃねぇ。救えた筈の何千と言う命を、俺は救えなかった。1番守らなきゃいけない家族でさえも……。

「終焉を生むと言われる幻の満月龍……。多くの命が失ってしまったのもまた事実。しかしそれで其方を責める者など1人もおらぬ。大勢の人々が感謝しているのじゃ。最早ドラゴンは自然災害の1つ。人間の力など自然に比べれば無に等しいのじゃよ。悲しいがな。其方の家族も本当に残念じゃった……」
「自分に実力があれば全てを救えた。それだけの事です」

 自分でも面倒くせぇ奴だなと思う。
 周りからの感謝はこんな俺にもちゃんと伝わってる。気を遣ってるわけでもお世辞を言ってるわけでもない。皆心の底から“ありがとう”と言ってくる。助かったと。感謝してると。どれだけ言われたか分からない。そう思ってくれるのは本当に嬉しいが、自分の気持ちの整理が全く付けられないんだ……。

「私から話し出してしまったとは言え、何時までも自分を責めるでないぞ。そして時にジンフリーよ――」

 静かに一呼吸の間が空いた。
 皆の視線が自然とフリーデン様に集まる。

「わざわざここに足を運んでもらったのは他でもない。既にエドワード大団長から聞いていると思うが、余りに不測の事態に私も少々戸惑っておる……」

 仰る通りです。俺もまさかこんなバツが悪い事態になるとは思っていませんでしたよ。それにしても……。

「その事に付きましては……まぁ何というか……私が言うのも可笑しな話ですが、結論、もう飲んでしまってどうにもこうにも返しようがありません。そしてフリーデン様……察しの悪い私でも、何かやらかしてしまったという事は分かっております。一体……私が酒だと思って飲んだアレは何だったのでしょうか……?」

 これが1番の疑問。国王まで動くなんて只事じゃねぇ。

 俺の率直な疑問に、何故かフリーデン様も困ったような表情でこう言った。

「ジンフリーよ。私も何処から説明すればいいのか悩んでおるが……結果から言うとな、其方が口にしたアレな……


“満月龍の血”なんじゃ――」






 ん……?? 
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》

Siranui
ファンタジー
 そこは現代であり、剣や魔法が存在する――歪みきった世界。  遥か昔、恋人のエレイナ諸共神々が住む天界を焼き尽くし、厄災竜と呼ばれたヤマタノオロチは死後天罰として記憶を持ったまま現代の人間に転生した。そこで英雄と称えられるものの、ある日突如現れた少女二人によってその命の灯火を消された。  二度の死と英雄としての屈辱を味わい、宿命に弄ばれている事の絶望を悟ったオロチは、死後の世界で謎の少女アカネとの出会いをきっかけに再び人間として生まれ変わる事を決意する。  しかしそこは本来存在しないはずの未来……英雄と呼ばれた時代に誰もオロチに殺されていない世界線、即ち『歪みきった世界』であった。  そんな嘘偽りの世界で、オロチは今度こそエレイナを……大切な存在が生き続ける未来を取り戻すため、『死の宿命』との戦いに足を踏み入れる。    全ては過去の現実を変えるために――

Crystal of Latir

ファンタジー
西暦2011年、大都市晃京に無数の悪魔が現れ 人々は混迷に覆われてしまう。 夜間の内に23区周辺は封鎖。 都内在住の高校生、神来杜聖夜は奇襲を受ける寸前 3人の同級生に助けられ、原因とされる結晶 アンジェラスクリスタルを各地で回収するよう依頼。 街を解放するために協力を頼まれた。 だが、脅威は外だけでなく、内からによる事象も顕在。 人々は人知を超えた異質なる価値に魅入られ、 呼びかけられる何処の塊に囚われてゆく。 太陽と月の交わりが訪れる暦までに。 今作品は2019年9月より執筆開始したものです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、 実在のものとは関係ありません。

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

南洋王国冒険綺譚・ジャスミンの島の物語

猫村まぬる
ファンタジー
海外出張からの帰りに事故に遭い、気づいた時にはどことも知れない南の島で幽閉されていた南洋海(ミナミ ヒロミ)は、年上の少年たち相手にも決してひるまない、誇り高き少女剣士と出会う。現代文明の及ばないこの島は、いったい何なのか。たった一人の肉親である妹・茉莉のいる日本へ帰るため、道筋の見えない冒険の旅が始まる。 (全32章です)

転生令嬢の幸福論

はなッぱち
ファンタジー
冒険者から英雄へ出世した婚約者に婚約破棄された商家の令嬢アリシアは、一途な想いを胸に人知の及ばぬ力を使い、自身を婚約破棄に追い込んだ女に転生を果たす。 復讐と執念が世界を救うかもしれない物語。

令和欲張りギャグコメディ「しまづの県」

郭隗の馬の骨
ファンタジー
現代っぽい日の本でお菓子製造を営む株式会社しまづの面々と全国の戦国時代にどこかで聞いたような人々があれこれするお話。 随所にアニメや漫画などのパロディーを散りばめて、戦国島津を全く知らない人にも楽しんでもらいつつ、島津の魅力を味わってもらおう、ついでにアニメ化やゲーム化やいろんなタイアップを欲張りに求めていくスタイル! 登場人物は戦国島津、戦国武将、島津ゆかりの風味(ここ大事!)で舞台は現代っぽい感じ。(これも大事!!) このお話はギャグパロディ小説であり実在の人物や組織、団体などとは一切関係ありません。(ということにしておいてください、お願いします)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...