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第9話 新たな入門

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 地下2階に到達してから千年後。

「うらっ!」
「せいせいせいせいせいっ!」

 俺とどアホは、アンデッド系モンスターと壁をまとめて破壊しながら、地下100階に到達した。
 千年も掛かったのは、勿論壁を破壊していたからだ。この迷宮は恐ろしく広いが、普通に突破するだけならば、百年くらいでいけた筈だ。

「お、随分と立派な扉があるではないか」
「はい、この先には100階層の“守護者”が待ち受けております!」

 どうやら100階ごとに守護者と呼ばれるボスがいるらしい。これはまた楽しみである。
 どアホ曰く、下に降りる程に魔物が強力になっているらしい。だが、俺には全く分からない。どいつもこいつもゴブリン以下の強さなのだ。
 ようやくまともな相手の登場という訳である。

「やっと、敗北を知る事が出来るかもしれないな」

 俺の望みは、俺を負かした相手に師事する事だ。そうする事で、更なる武の境地に達する事が出来る筈。
 大きな期待を胸に、ゆっくりと扉を開ける。

「貴様か? 私の可愛い子供達を葬ってくれたのは」

 ローブを着た小柄な骸骨が、宙に浮かびながら俺に話し掛けて来た。

「どアホよ、あれはリッチか?」
「はい、しかしただのリッチではございませぬ! 奴は深淵の魔女でありリッチの王、ヘクセンリッチでございます! 史上最高の死霊術師と称される強者、お気を付け下され!」

 性懲りもなくまた“王”を冠する者か。どうせ雑魚だろ。優れた武人は、相手を見ただけで瞬時に力量を見極められるという。
 俺も目に氣を集中させれば、同じ様な事が出来るのだが、どこどうを見ても雑魚の判定。
 かつて、裁きの間には英雄クラスの者も何人か来たが、彼らですら雑魚であった。明らかに俺の目のセンサーが狂っている。まだまだ修行が足りないのだろう。

「さーて、お前には最高の恐怖を味わせてやろうかねぇ、ヒヒヒヒ!」

 深淵の魔女の目の前に魔法陣が出現すると、そこから漆黒鎧を全身に纏った騎士が出現した。

「だ、大王様……! あれは英雄の死体を寄せ集めて融合させた、史上最強のアンデッドです! 我々では倒す事は不可能です、地上へ戻りましょう!」
「馬鹿者が!」

 俺はどアホの頬をビンタしてやった。今のコイツはこの程度では死なない。

「我らは死者の魂をあるべき所へ導くのが仕事であろう。世界の為に死した英雄とならば、尚更リスペクトを込めて天へ送らねばなるまい。違うか!」
「はい、大王様の仰る通りです! 大変申し訳ありませんでした!」

 どアホは深々と頭を下げた。
 この二千年でだいぶ腕は上げたが、精神はまだまだ未熟。厳しく躾なければ。

「英雄の魂よ、俺が今すぐ解放してやるぞ」
「ヒヒヒ、何を言ってるんだい。アンタ、ステータスが全部1のゴミじゃないか。そっちの髭濃い面はそこそこ強い様だがねぇ」
「貴様ぁぁぁ! 大王様に侮辱の言葉を吐いたな! 許せん、死ぬがいい!」

 どアホは漆黒の鎧騎士を無視し、深淵の魔女に真っすぐ突っ込んで行く。
 次の瞬間、どアホは漆黒の鎧騎士の剣で真っ二つに斬られた。

「はっ!」

 俺は即座に氣を送り、奴の一命を取り留めた。

「甘いぞ。怒りで氣が散漫になっていた。未熟さを恥じるが良い」
「ぐッ、申し訳ありませぬ……」

 深淵の魔女の目が見開かれる。

「な、何だい今のは……? アンタ、回復魔法なんて使えるステータスじゃないでしょう」
「これは氣だ。さぁ、今度は俺が相手しよう」
「気味の悪い男だねぇ。さっさと殺しておやり!」

 命令に従い、漆黒の鎧騎士が剣を振り回しながら向かって来た。これしきの相手は拳で十分。
 俺は静かに一礼した後、腰を落として構えた。

「感謝の正拳、はあっ!」

 世界の為に戦ってくれた英雄達への感謝を込め、正拳突きを放った。俺の拳は漆黒の鎧騎士の腹部を貫き、白く輝く大爆発を起こした。

「ありがとう」

 英雄達の魂が天へと昇って行く。俺は彼らに敬礼し、見送った。

「な、なん……っ」

 深淵の魔女は口をパクパクとさせている。まさか、漆黒の鎧騎士が倒されるなど夢にも思っていなかった、という表情だ。ご愁傷様。

「想定以上に弱かったぞ。お前がアンデッドにしたせいで、彼ら英雄の本来の力が失われたんじゃないか?」
「そ、そんなバカな訳があるかいッ、私の魔法で英雄五人を融合させて、更に百倍のステータスに強化させたんだよ!?」
「何、百倍だと? ……ん、そうか。ははは、そういう事か」

 全てを悟った俺は、思わず呆れ笑いが零れた。
 やれやれだぜ、本当に地獄の連中ってぇのは、大袈裟な事ばっかり言うじゃあねぇかよ。
 嘘を言わないと死ぬ病にでも罹っているのだろうか。

「英雄の魂を冒涜した罪、しっかりと贖ってもらうぞクソ魔女」
「黙りなクソガキ、深淵の魔女の真の力、見せてあげるよ!」

 深淵の魔女の両手から、漆黒の球体が浮かぶ。

「ヒヒヒ、これは死の魔法。触れればどんな奴でも即死さ! 私はこれを秒間三十発撃つ事が可能さ!」
「ほう」
「死にな!」

 魔女から秒間三十発の死が連射された。だが、迫る死は俺にぶつかると、息絶えたセミの如く落下し、そのまま消滅した。

「なッ!? 死の魔法が効かない……!? お前は死の魔法の耐性など持っていない筈じゃ……!」
「氣の力とは、生命の讃美歌。命を弄ぶ貴様の力など一切効かぬわ」
「何を畜生め……! それっぽい事を言っている様で、実際の所まるで意味が分からないよ!」
「うらっ!」

 俺の拳が腹部にめり込み、深淵の魔女は壁に叩きつけられてバラバラになった。
 しかし、直ぐに骨が集まり、元の姿へと戻る。

「ヒッヒッヒッ、私はねぇ、不死の力を持っているんだよ。どんな攻撃も無駄さ」
「ほう、それは面白い。ならば……うらうらうらうらうらうらうらぁぁっ!」

 俺のラッシュで深淵の魔女は再びバラバラになる。

「ヒヒヒ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁっ!」
「うらうらうらうらうらうらうらうらうらぁっ!」

 俺はバラバラのなった骨が戻りきる前に、更なるラッシュを叩き込む作戦に出た。

「え、あ、ちょっ……! 待っ……って!」
「うらうらうらうらうらうらうらうらうらぁっ!」

 どうやら俺の作戦が功を奏したらしい。深淵の魔女の骨はサラサラの粉になった。暫し眺めていたが、再生は始まらない。ジ・エンド、というやつだ。

「不死の力とやらはこんなものか」
「なんか、あのぉ、調子乗ってすみませんでした……元に戻していただけないでしょうか?」

 深淵の魔女の声が急に可愛くなった。どアホに比べると、だいぶ素直な様だ。勿論、英雄の魂を弄んだ事は許せないが、改心の機会を与えてもいいかもしれない。

「よし、では今からお前に氣を送り込んでやる」
「え? ちょっと待って下さい、氣って生命エネルギー……ですよね? 私はアンデッドですので、それを送り込まれると死ぬ気がするんですが……!」
「馬鹿者! 己自身で限界を決めつけるな」
「ひいぃ!」
「アンデッドとて、生命エネルギーを力に出来る筈だ。そう信じろ。心さえ折れなければ必ず叶うのだ」
「は、はい!」
「ではゆくぞ」

 俺は深淵の魔女に氣を送り込んだ。

「ぎゃああっ! 死ぬぅうぅっ!」
「愚か者め、氣を害と思うでない。感謝と愛の心で包み込むのだ」

「コイツ指導に向いてねぇぇぇ! 意味不明だよぉぉ! うわぁぁぁん!」
「己を信じ、俺を信じよ。さすれば氣もお前に寄り添う」
「頑張れ深淵の魔女よ! ワシと共に大王様の元で氣の道を極めようぞ!」

 どアホが深淵の魔女にエールを送る。弟弟子が出来るかもと、思わず熱が入ってしまっているのだろう。
 ふむ、深淵の魔女が弟子となれば、どアホも一回り成長するかもしれぬな。
 試す価値はある。
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