スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ

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88 最終決戦 ~協奏曲~

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 ハクは静かにその名を口から零す。

 空中に佇む人影。銀髪の長い髪が風に靡き、肌は人間とは違う紫色。首や腕に煌びやかな装飾を着けた彼女は全てを飲み込む様な深緑の瞳を俺達に向け、ゆっくりと口を開くのだった。

「実に何百年振りかしらね……3神柱の神々よ――」
「アイツが深淵神アビス……」

 人間の様な見た目だが決して人間のそれとは異なる異質な存在。彼女から感じる気配、魔力、圧力、オーラ、存在感。そういった類の全てがどんな生物をも優に上回る程超越されている。

「一時はどうなる事かとも思ったけど、やっとこの日を迎えられて嬉しいわ。貴方達もそうでしょ?」
「久しぶりねアビス……。でも悪いけど誰も貴方の復活なんて望んでいないの。邪魔をする気なら今度こそ貴方を消滅させるわ」
「久々だと言うのに穏やかじゃないわねシシガミ」
「相変わらず癇に障る高飛車な女だねぇアンタは」
「あら、貴方も元気そうねイヴ。黒龍のドラドムートはいないのかしら?」
『我ならここにいる。それよりもアビスよ、我らは貴様と交わす言葉など無い。無駄な争いを避けたいのなら直ぐにこの世界から立ち去れ』

 ドラドムートが鬼気迫る圧力でそう言うと、殺伐としたこの雰囲気の中で突如深淵神アビスが豪快に笑い始めた。

「アッ~ハッハッハッハッ! 私を倒せないから脅して諦めさせるつもり? そんな皆から意識されちゃうと寧ろ興奮して堪らないわ。神なら神らしくその力で全てを納得させなきゃね。お互いに――」
「「……!」」

 刹那、深淵神アビスが軽くを手を動かす仕草を見せると、何処からともなくアビスの周りに数十個の杖が出現した。しかもその杖はリューティス王国の神器の1つであり、七聖天のローゼン神父が使用していた『聖杖シュトラール』と瓜二つの物。更に出現した全ての聖杖シュトラールが瞬く間に魔力の輝きを纏うと、再び深淵神アビスが軽く手を振ったのを合図に強烈な魔法攻撃が俺達目掛けて放たれた。

「マズいッ! 避けろぉぉ!」
「ダメ、間に合わない! 皆近付いて! “ディフェンション”!」
「フフフフ。防げるかしら?」

 ――ズババババババババババババババババッ!!
 まるで災害かの如き魔法攻撃が上空から放たれ、エミリアが瞬時に防御壁を展開してくれたお陰で間一髪皆身を守る事が出来た。だが無数の聖杖シュトラールから放たれた魔法は凄まじく、今まで無傷だったエミリアの防御壁に亀裂が入った。

「そ、そんなッ……!」
「コレはマズいねぇ、皆入りな!」

 滝の様に強烈な魔法が降り注ぐ中、エミリアの防御壁が崩れそうだと判断したイヴが転移魔法を繰り出した。俺達は避難する為に異空間へと逃げ、数十メートル離れた位置に転送した。

「あら、いつの間に」

 逃げた俺達に気が付いたアビスは攻撃を止める。

「何だあの攻撃は。それにあの杖は……」
「神器は元々アビスの力。いや、数百年の間に与えられた全てのスキルと武器が奴の物なのさ」
「嘘でしょ……。それじゃああの聖杖シュトラールは本物って事で、もしかして他の神器も?」
「そうよ。全てはアビスが本来使っていた武器。それも完全復活した今の彼女は同時に複数の武器を召喚する」

 何だそのデタラメな力は。神器1つでも凄まじい力を宿しているのに、その上あんな数を使うだって? 次元が違い過ぎる。

「おいおい、あんな化け物どうやって倒すんだよ」
『そう腐るでないグリムよ。今や主達の力は我ら3神柱を上回っている。それだけ成長しているのだ。自信を持て』
「そんな自信を持てって言われてもッ……「お前は歴代最強の強者。是非手合わせ願おう――!」

 俺がドラドムートの会話していた一瞬、つい数秒前まで俺の近くにいた筈のフーリンがいつの間にか深淵神アビスに飛び掛かっていた。

 神威で紅色の獣人と化したフーリンは強力な超波動を纏いながら空中で狙いを定めると、その鋭い切っ先をアビス目掛けて勢いよく振り抜いた。

 ――シュン、シュン、シュン、シュン!
 電光石火の如き速さで槍を突くフーリンであったが、アビスは更にその上をいく速さで全ての攻撃を躱した。

「良い攻撃ね。でも、まだまだ足りないわ」
「成程。これは凄まじい強者だ」

 アビスの所まで思い切り跳んで攻撃を繰り出したフーリンの体は、そのまま重力に促され再び地面に戻ってくる。しかしそのタイミングを見計らって、アビスはフーリンに攻撃を仕掛けたのだった。

「槍には槍でいいかしら」
「……!?」

 杖が消えたかと思いきや次は数十本の槍が突如アビスの周りに出現する。しかもその槍は他でもないジャンヌが使っていた『雷槍グルニグ』だ。フーリンが地面に着地するまではほんの数秒。だが攻撃を繰り出すには十分な時間。

 そして次の瞬間、落下中のフーリンに一切の躊躇なくアビスは全ての槍を放った。

 ――シュババババババババババッ!
「ぐッ……!」
「フ、フーリン!」

 天から降り注いだ無数の槍は容赦なくフーリンを襲い、フーリンは槍と共に瞬く間に地面へと落下。フーリンはあの体勢からも何とか降り注ぐ槍を防いだ様だが、それは辛うじて致命的なダメージを防いだに過ぎない。流石のフーリンでもあの状況からアビスの攻撃を受けて無事ではなかった。

「大丈夫かフーリン!?」
「あ、ああ……。流石深淵の世界の神だけある。かなりの強者だ……」

 フラフラと立ち上がったフーリンの体は無数の数とそこから流れる血で一杯。アビスの攻撃の凄まじさが一目で分かった。

「あんなの一体どうやって倒せばいいのよ……!」
「大丈夫よエミリア。全員で力を合わせれば必ずアビスを倒せるわ」
「シシガミの言う通りさ。その為に全てを今日という日に託したんだからねぇ」

 そうだ。
 俺達に全ての運命が託されている。どう転んだって最終的にコイツを倒さなければ終わらないんだ。

「動けるかフーリン」
「これぐらい大丈夫だ」
「よし。なら全員で一気にアビスを倒そう。今の俺達ならイケる」
「うん、分かった!」
「微力ながら俺も加わるとしよう。神器が全て奴の物であるなら当然この龍籠手ポルックもそうなるが、不幸中の幸い。神器の力を知っている俺ならばいないよりは何かの役に立つだろう」

 カルはそう言って俺達側に付いてくれた。確かにこれは頼もしい。

「ありがとう。じゃあ改めてアビス討伐と行こうか皆」
「「おお!」」

 俺、エミリア、フーリン、ハク、イヴ、ドラドムート、そしてカルは一斉にアビス目掛けて攻撃を繰り出した。

 これが最後の戦い。絶対にお前だけは倒すぞアビス――。

「遊びは無し。最初から最後まで全開でいくよアンタ達!」
「精霊魔法、“エルフズ・フルフレイム”!」

 イヴの一喝で更に士気が高まった俺達。次の瞬間、先手必勝と言わんばかりにエミリアが攻撃魔法を繰り出した。強力な魔力が瞬く間に豪炎と化し一直線にアビスを襲う。エミリアの最大攻撃は最大防御でもあるディフェンションだが、既に今のエミリアは攻撃魔法も“神1級魔法”の威力を持つ。

「貴方達が私を倒す為に3神柱に力を与えられた人間ね。まんまと私の力まで利用されて少し不快だけど、その分楽しませて頂戴」

 そう言ったアビスは魔力を高めると、今度は『狩弓アルテミス』を無数に出現させると同時に自らに向かって来ていた豪炎向けて一斉に矢を射た。

 ――ズバァァァン!
 エミリアとアビスの攻撃は激しい衝突音と共に爆煙を巻き上げながら相殺され消え去った。だがエミリアの攻撃に続いて間髪入れずに仕掛けていたのはカル。彼は強力な重力の力で宙を漂っていたアビスを大地へと引き寄せた。

「あら。これも私の武器の力じゃないかしら?」
「ご名答。このまま自分の力で止めを差されるのも良いだろう」

 アビスが大地に落ちてくるとほぼ同時、カルは超波動で高めた正拳突きを勢いよくアビス目掛けて放った。何時かの戦闘でカルの実力は十分理解している。シンプルな戦闘力なら七聖天の中でも1,2を争う実力だろう。知ってか知らずか、今までに七聖天の奴らを見たところ気の流れを会得していたのはヴィルとカルだけだ。

 しかし、カルは流れる様な動きから鋭い拳をアビスに放ったものの、その拳は無情にも空を切った。

「ッ……!?」
「フフフ、ここまで私の武器も使いこなしているのも立派だけど、あなた自身の力もまた大したものね。まぁそれも所詮は“人間レベル”での話ですが――」

 一瞬だから何が起こったのか正確には分からない。だがアビスはカルの拳をそっと手で触れ攻撃の軌道をズラした。いや、今の動きには何か違う違和感があった。

 カルの拳を躱した次の刹那、アビスは驚異的な速さでカルの背後を取ると、そのままカルの背中にこれまたそっと手を置いた。

「この力はこう使うのよ」

 アビスが静かにそう呟いた次の瞬間、まるで凄まじい打撃を受けたかの如くカルが地面に叩きつけられた。

 ――ドゴォォォン!
「がはッ……!」
「カル!?」

 よく見るとアビスの腕にはいつの間にかカルの神器と同じ『龍籠手ポルック』が付けられていた。という事は今のはアビスが懸けたた重力の攻撃か。

「私の武器なんだから私に通じる訳ないじゃない」
「だったら違う武器で倒すしかないな――」
「……!」

 声に気付いたアビスが咄嗟に振り返る。するとそこには紅色の毛並みを逆立て槍を構えるフーリン。しかもアビスを挟み込む形で反対側には剣を構えるハクの姿もあった。

「消えなさいアビス!」
「はあッ!」

 完璧なタイミングで繰り出されたフーリンの槍とハクの剣は神速のスピードでアビスに振るわれた――。
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