上 下
63 / 112

53 紅色と漆黒の交わり・共鳴

しおりを挟む
「そこそこやるようだな人間」
「まだまだこれからだ」
 
 睨み合う両者。互いの殺気と闘争心が絶え間なくぶつかり合っている。

「これなら勝てそうだよフーリン」
「流石、シシガミ様に選ばれただけの事はありますね。ラウアーが攻撃を食らうなんて数百年ぶりに見ましたよ」
「フーリンの真価はこんなものじゃないわよ」

 エミリアとハクとモロウがフーリンに期待を抱く中、俺はどうしてもまだ一抹の不安が残っていた。フーリンが強いのは知っている。だがラウアーは恐らくあのラグナレクよりも上の相手。ラグナレクが特殊な存在である事も確かだけど、俺達が全員でやっと相手にしていたアイツよりも上であるラウアーを倒せるのか……?

「連続攻撃で俺の魔法を防ぐのはいい考えであったが、お前にとってこの一撃が俺に届く最後の一撃となるだろう」
「やれるものならやってみろ」

 超波動という一段階ギアを上げたフーリンに対し、ラウアーもまた一段階ギアを上げた。

「シシガミ様の力は俺が手にする。そして、俺がこの世界を新しくしてやろう――」

 そう言い放ったラウアーは突如を雷を自身へと纏わせた。

「“雷獣装《トールアーマー》”」

 次の瞬間、雷鳴の如き速さを纏ったラウアーは瞬く間にフーリンに攻撃を食らわせていた。

 ――ズドンッ!
「がはッ!?」

 目に留まらぬ速さ。それは超波動で強化されたフーリンをも遥かに凌ぐスピードであった。気が付いたら吹っ飛ばされていたフーリンは近くに聳えていた大きな岩に勢いよく衝突すると、砕かれた岩の残骸と共に地面に落下した。

「フーリンッ!」

 今のは誰が見てもヤバい一撃。
 辛うじて防げた最初の攻撃と違って今のは諸に食らった。

「グハハハ! 俺にたかだか一撃食らわせたからといって調子に乗るからだ愚か者。もう数百年前とは違う。深淵の力などを手にした人間共に、俺は2度と敗北せぬわ!」
「「ウオォォォォォォォッ!!」」

 ラウアーの圧倒的な強さに、周りにいた獣人族達が呼応する様に雄叫びを上げる。

「おいおい、幾ら何でも今のはヤバいぞ……。もう我慢出来ねぇ、俺も戦うぜ!」
「戦力にならないけど私もサポートするよグリム!」
「グリムもエミリアも待って!」

 この期に及んで、戦いに加わろうとする俺とエミリアをまたしてもハクが止めにきた。

「なんだよ。もういいだろ。このままじゃフーリンが死ぬぞ」
「そうよハクちゃん! 相手はラグナレクよりも魔力が強い。だったら皆で戦わないとッ……「お願い! フーリンはまだ大丈夫! だからもう少しだけこの戦いを見守って!」

 ハクはエミリアの言葉を遮る様にそう言った。

「見守ってって言われてもな、もう十分だろ! それにフーリンが仮に大丈夫だったとしても、もうまともに動けるかも定かじゃないぞ」
「グリム、私とフーリンを信じて。まだ彼の波動は消えていない。フーリンはまだ戦おうとしてるのよ」

 ハクが視線をフーリンに移すと、そこには瓦礫をどかしながらフラフラと立ち上がるフーリンの姿が。

「フーリン……!」

 全身から血を流しているフーリンは立っているのもやっとな状態。目は虚ろになり息遣いも荒くなっている事が分かる。

「まだ生きているのか人間。しぶとさだけは大したものだな」
「どう見てももう無理だろがハク。これでも手を出すなって言うのか?」
「うん。そうよ」

 ハクは滅茶苦茶な事を言う程馬鹿ではない。それは分かっている。寧ろ誰よりも博識で冷静だ。神だからな。だけど……。

「ふざけるなよハク! フーリン殺す気か!」

 気が付くと、俺はハクに怒鳴っていた。

「待つのだ。何か考えあっての事だろう。シシガミ様を信じよ」
「考えだと? 殺されそうになってる奴を見捨てて、ここで黙って見てるのが神の考えなのか! あぁ?」
「ハクちゃん。確かにフーリンは強いけど、ラウアーの強さはそれ以上だよ」
「それは分かってるわよ。私は“全部”分かってる上で貴方達に言ってるの。大丈夫、フーリンはここからよ――」

 そう言うと、ハクは走ってフーリンの元へと駆け寄った。

「フーリン、大丈夫?」
「ハァ……ハァ……ああ、問題ない……ハァ……ハァ……」
「フーリン。貴方はずっと強者を追い求めて1人でここまで強くなった。貴方が知らず知らずのうちに身に着けたその超波動はね、まだまだ人間の強さを引き出せるものなのよ」
「……」
「本来なら、スキルを使ったからといって武器が壊れるなんて有り得ない。貴方達呪われた世代が特定の武器しか使えず毎度壊れてしまうのは、貴方達の真の力は私達が与えたものだから。

でもね、例え私達3神柱の力を与えたからと言って、それだけじゃ深淵神アビスを倒しきるのは難しい。だから私達は深淵神アビスの力でさえも彼女を倒す為の力として利用したの。
波動の力は元々人間が持っている力でもあり、深淵神アビスによって施された力でもある。

いい、フーリン? 波動の力は一般的に使用者の身体能力を強化するもの。だけど、波動は人間だけでなく“武器”にも存在するのよ――」
「……波動が……武器に……」
「うん。人間の波動は武器に伝える事が出来るし、その逆もまた然り。説明すると長くなるから簡単に言うわ……つまり、フーリンはまだまだ強くなれるって事。

自分自身が強くなれば、貴方はこの先ラウアーよりももっともっと強い強者と手合わせする事が出来るわよ。
難しい話は苦手よね? だったら考えずに感じてみて。武器の波動を。
貴方とその槍が“共鳴”すれば、必ずラウアーを倒せるから――」

 フーリンにそう告げると、ハクは最後に残された魔力を振り絞り、雀の涙程の魔力でフーリンの傷を癒した。ハクが治癒出来たのは本当にごく僅か。見た感じでは全く分からない。

 しかし、ついさっきまで朦朧としていたフーリンの瞳は、確実に生気を取り戻していた――。

しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...