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48 感覚の違い
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~祖の王国~
歴史を語れば、人間と獣人族の良好関係は何百年も前に破綻している。
リューティス王国の民が禁忌に触れ深淵神アビスを召喚させる以前、人間と獣人族は共に暮らし互いに助け合って共存していた。いや、正確には共存以上――。
人間も獣人族も同じ生ける者として、互いに当たり前の存在として生きていた。人間の生活に獣人族が、獣人族の生活に人間が。街を歩けば人も獣人も関係なく交流し言葉を交わす。人と獣人と隔てる事無く、寧ろ同類の存在として誰もが疑わなかった。
しかし、当たり前のその素晴らしい自然の摂理が破壊された。
人間と獣人族の関係が破綻して早数百年。
元々獣人族の寿命は人間の10倍近いらしく、仮に人が100歳で長寿だとするならば、獣人族は人間でいう1000歳ぐらいの感覚らしい。
つまり、歴史も然ることながら、人間と獣人族によるこの種族の“寿命の感覚の違い”というものが、図らずして更に人間と獣人族の溝を深めてしまっていた――。
「凄ぇ殺気だな……」
「モロウがいなければ入った瞬間攻撃されていたわね」
俺達は祖の王国の獣王、モロウに案内されながら遂に祖の王国へと足を踏み入れていた。だが祖の王国に入るなり、俺達は一瞬にして王国に住む獣人族達の注目の的となっていた。
この注目が何か良い理由だったり快く迎え入れられているならば全く問題ないだろう。しかし、現実はそんな思いとは真逆。
王である獣王モロウが皆の視線を集めるのは言うまでもないが、祖の王国の獣人族達が注ぐ視線の先は、間違いなくモロウの後ろを歩いている俺達。それも注がれる視線の約7割以上が鋭く冷たい。中には明らかに憎悪や殺気を放ってくる者達がいた。
それと同時、彼らも一応自らの王がいる事を尊重してか初めは鋭い殺気を放つまでに留まっていたのだが、何処からともなく痺れを切らしたであろう1人の獣人族が野次を飛ばした事により、まるで火に油を注いだかの如く一気に他の者達にまで飛び火した。
「何で人間がこの地に足を踏み入れているんだ!」
「殺すぞ人間ッ!」
「ここはお前達が来る場所ではない! 出て行け!」
祖の王国に入ってものの数十分での出来事。
「わぁ……。や、やっぱり、私達来るべきじゃなかったかな、ハクちゃん」
「もう今更だぞエミリア」
「フハハハ。思った以上の歓迎ぶりだ。そこかしこから強者の気配を感じ取れる。順番に手合わせ願いたい」
「大丈夫よエミリア。心配ないわ」
余りに重い空気と緊張感でエミリアが動けなくなってしまったが、ハクが優しく背中を摩った。
矢継ぎ早に飛んでくる殺気と野次。
これはまるで収まる気配がないと思った瞬間、獣王モロウが自ら仲間達を一喝した。
「静まれ皆の者! 此処にいるのは確かに人間であるが、彼らは他ならぬ獣天シシガミ様のお供である! それ以上の無礼を働く者は直ちに処罰する!」
獣人族の王の一喝。
モロウの一言によって、辺りは今までの事態が嘘であったかの如く静まり返った。
「ありがとうモロウ。私からもここにいる皆に話してもいいかな? そうすればきっと理解してくれるわ」
「勿論です。きっと皆もシシガミ様の言葉を聞きたいでしょう」
場が一旦リセットされたタイミングでハクがそうモロウに告げ、多くの獣人族の視線を浴びる中ハクが事の経緯を話し始めた。
ハクこと……獣天シシガミは他ならぬ獣人族全ての神の存在でもある。獣王モロウでさえもハクを崇拝する程に。突如自分達の国に敵となる人間が来た事にも驚いていたが、彼ら獣人族はそれ以上に、自分達の神となる存在である獣天シシガミが姿を表している事に驚いていた。
ハクの言葉と存在、獣王モロウのフォローもありようやく多くの獣人族達が事態を飲み込み理解してくれた様だ。とは言っても、当然俺達人間を許した訳ではないからまだ少しだけ殺気が飛んできているが仕方ない。
兎にも角にも一先ず状況が落ち着き、再び歩み始めた俺達はそのままモロウの後に続いて彼らの城まで案内された。
**
~祖の王国・玉座の間~
「獣天シシガミ様、そして世界の未来を託された人間達よ。其方達は既に人間と我の過去を知っているな?」
「ああ」
「ならば先程の彼らの態度も分かるであろう。我らの多くはまだ其方達人間を憎んでいる。深淵神アビスという終焉を招いた人間達にな」
「獣王モロウ……貴方の言う事も確かに分かる。俺達人間が犯してしまった過去は変えられない。だけど、今はもう誰も争いなんて望んでいないだろ? 当時のリューティス王国の民の奴らは既にいない」
今思えば俺のこの一言は軽はずみだったのかもしれない。自分達人間が犯してしまった歴史を知ったが、それと同時に何処かで少なからず他人事という感覚もあったから。だけどそれは勿論悪意などがあった訳じゃない。ただ本当に無意識で口から出てしまっただけだ。
だが、俺がコレに気付いたのはモロウの言葉を聞いた後だった。
「やはり数百年経とうが人間は人間だな――」
次の瞬間、一瞬にして空気がピリついたのが分かった。
「其方達がそう考えるのも頷ける。だがしかし、それはたかが人間の勝手な思い込みであろう。人間は我らと比べて寿命が短い。そんな事も当然分かっている。
でもだからと言って、当時の人間達が犯した歴は変わらぬのだ。例え死んで新しい世代に変わったとしてもな。
人間にとってはどんどん薄れゆく過去の産物であったとしても、我ら獣人族にとってはついこの間の様な出来事……。
仲間、同志、同胞を其方達人間に多く殺され傷付けられた。この歴史は何度時代が移り変わっても無くなる事はないのだ――」
モロウの言葉が俺達に重く響いた。怒りの感情を堪えているのが良く分かる。そのモロウの言葉と態度が全てを物語っていた。
俺達なんかが本当に人間と獣人族の架け橋になんてなれるのか
……。
「獣王モロウよ。彼らは人間と獣人族の歴史を知った上でここまでやって来た。確かにグリム達は少し軽率だったのかもしれない。けれどそれは彼らには関係の無い事よ。
人間と貴方達では、時が経てば経つ程この思いへの温度差はどんどん広がってしまう。貴方達獣人族が人間を恨むのも私は理解している。そして人間達が犯してしまった過ちもまたしっかりと私は理解している。でもこのままでは一生人間と獣人族の関係は戻らないわ。
モロウ。
私が数百年前、この世界に留まる事を決め祖の王国に魔力を置いた際に貴方に言ったわよね。何時の日か人間と獣人はまた共に仲良く暮らせる時が来ると。
歴史は変えられないけど、まだこれから起こる未来は貴方達の手で変えていけるのよ。そして今が変化の時――。
貴方は誰よりも強く気高く優しい獣王。過去に囚われていてばかりではダメ。貴方は獣人族の皆を正しい未来へと導く存在よ。私達と一緒に力を合わせて前に歩み出そう」
これが3神柱、獣天シシガミの偉大さなのだろうか。
ハクは全てを包み込む様な暖かい優しさでモロウに言った。
共に変わろうと。
共に歩み出そうと。
全ては人間と獣人族、それに世界の未来の為に。
歴史を語れば、人間と獣人族の良好関係は何百年も前に破綻している。
リューティス王国の民が禁忌に触れ深淵神アビスを召喚させる以前、人間と獣人族は共に暮らし互いに助け合って共存していた。いや、正確には共存以上――。
人間も獣人族も同じ生ける者として、互いに当たり前の存在として生きていた。人間の生活に獣人族が、獣人族の生活に人間が。街を歩けば人も獣人も関係なく交流し言葉を交わす。人と獣人と隔てる事無く、寧ろ同類の存在として誰もが疑わなかった。
しかし、当たり前のその素晴らしい自然の摂理が破壊された。
人間と獣人族の関係が破綻して早数百年。
元々獣人族の寿命は人間の10倍近いらしく、仮に人が100歳で長寿だとするならば、獣人族は人間でいう1000歳ぐらいの感覚らしい。
つまり、歴史も然ることながら、人間と獣人族によるこの種族の“寿命の感覚の違い”というものが、図らずして更に人間と獣人族の溝を深めてしまっていた――。
「凄ぇ殺気だな……」
「モロウがいなければ入った瞬間攻撃されていたわね」
俺達は祖の王国の獣王、モロウに案内されながら遂に祖の王国へと足を踏み入れていた。だが祖の王国に入るなり、俺達は一瞬にして王国に住む獣人族達の注目の的となっていた。
この注目が何か良い理由だったり快く迎え入れられているならば全く問題ないだろう。しかし、現実はそんな思いとは真逆。
王である獣王モロウが皆の視線を集めるのは言うまでもないが、祖の王国の獣人族達が注ぐ視線の先は、間違いなくモロウの後ろを歩いている俺達。それも注がれる視線の約7割以上が鋭く冷たい。中には明らかに憎悪や殺気を放ってくる者達がいた。
それと同時、彼らも一応自らの王がいる事を尊重してか初めは鋭い殺気を放つまでに留まっていたのだが、何処からともなく痺れを切らしたであろう1人の獣人族が野次を飛ばした事により、まるで火に油を注いだかの如く一気に他の者達にまで飛び火した。
「何で人間がこの地に足を踏み入れているんだ!」
「殺すぞ人間ッ!」
「ここはお前達が来る場所ではない! 出て行け!」
祖の王国に入ってものの数十分での出来事。
「わぁ……。や、やっぱり、私達来るべきじゃなかったかな、ハクちゃん」
「もう今更だぞエミリア」
「フハハハ。思った以上の歓迎ぶりだ。そこかしこから強者の気配を感じ取れる。順番に手合わせ願いたい」
「大丈夫よエミリア。心配ないわ」
余りに重い空気と緊張感でエミリアが動けなくなってしまったが、ハクが優しく背中を摩った。
矢継ぎ早に飛んでくる殺気と野次。
これはまるで収まる気配がないと思った瞬間、獣王モロウが自ら仲間達を一喝した。
「静まれ皆の者! 此処にいるのは確かに人間であるが、彼らは他ならぬ獣天シシガミ様のお供である! それ以上の無礼を働く者は直ちに処罰する!」
獣人族の王の一喝。
モロウの一言によって、辺りは今までの事態が嘘であったかの如く静まり返った。
「ありがとうモロウ。私からもここにいる皆に話してもいいかな? そうすればきっと理解してくれるわ」
「勿論です。きっと皆もシシガミ様の言葉を聞きたいでしょう」
場が一旦リセットされたタイミングでハクがそうモロウに告げ、多くの獣人族の視線を浴びる中ハクが事の経緯を話し始めた。
ハクこと……獣天シシガミは他ならぬ獣人族全ての神の存在でもある。獣王モロウでさえもハクを崇拝する程に。突如自分達の国に敵となる人間が来た事にも驚いていたが、彼ら獣人族はそれ以上に、自分達の神となる存在である獣天シシガミが姿を表している事に驚いていた。
ハクの言葉と存在、獣王モロウのフォローもありようやく多くの獣人族達が事態を飲み込み理解してくれた様だ。とは言っても、当然俺達人間を許した訳ではないからまだ少しだけ殺気が飛んできているが仕方ない。
兎にも角にも一先ず状況が落ち着き、再び歩み始めた俺達はそのままモロウの後に続いて彼らの城まで案内された。
**
~祖の王国・玉座の間~
「獣天シシガミ様、そして世界の未来を託された人間達よ。其方達は既に人間と我の過去を知っているな?」
「ああ」
「ならば先程の彼らの態度も分かるであろう。我らの多くはまだ其方達人間を憎んでいる。深淵神アビスという終焉を招いた人間達にな」
「獣王モロウ……貴方の言う事も確かに分かる。俺達人間が犯してしまった過去は変えられない。だけど、今はもう誰も争いなんて望んでいないだろ? 当時のリューティス王国の民の奴らは既にいない」
今思えば俺のこの一言は軽はずみだったのかもしれない。自分達人間が犯してしまった歴史を知ったが、それと同時に何処かで少なからず他人事という感覚もあったから。だけどそれは勿論悪意などがあった訳じゃない。ただ本当に無意識で口から出てしまっただけだ。
だが、俺がコレに気付いたのはモロウの言葉を聞いた後だった。
「やはり数百年経とうが人間は人間だな――」
次の瞬間、一瞬にして空気がピリついたのが分かった。
「其方達がそう考えるのも頷ける。だがしかし、それはたかが人間の勝手な思い込みであろう。人間は我らと比べて寿命が短い。そんな事も当然分かっている。
でもだからと言って、当時の人間達が犯した歴は変わらぬのだ。例え死んで新しい世代に変わったとしてもな。
人間にとってはどんどん薄れゆく過去の産物であったとしても、我ら獣人族にとってはついこの間の様な出来事……。
仲間、同志、同胞を其方達人間に多く殺され傷付けられた。この歴史は何度時代が移り変わっても無くなる事はないのだ――」
モロウの言葉が俺達に重く響いた。怒りの感情を堪えているのが良く分かる。そのモロウの言葉と態度が全てを物語っていた。
俺達なんかが本当に人間と獣人族の架け橋になんてなれるのか
……。
「獣王モロウよ。彼らは人間と獣人族の歴史を知った上でここまでやって来た。確かにグリム達は少し軽率だったのかもしれない。けれどそれは彼らには関係の無い事よ。
人間と貴方達では、時が経てば経つ程この思いへの温度差はどんどん広がってしまう。貴方達獣人族が人間を恨むのも私は理解している。そして人間達が犯してしまった過ちもまたしっかりと私は理解している。でもこのままでは一生人間と獣人族の関係は戻らないわ。
モロウ。
私が数百年前、この世界に留まる事を決め祖の王国に魔力を置いた際に貴方に言ったわよね。何時の日か人間と獣人はまた共に仲良く暮らせる時が来ると。
歴史は変えられないけど、まだこれから起こる未来は貴方達の手で変えていけるのよ。そして今が変化の時――。
貴方は誰よりも強く気高く優しい獣王。過去に囚われていてばかりではダメ。貴方は獣人族の皆を正しい未来へと導く存在よ。私達と一緒に力を合わせて前に歩み出そう」
これが3神柱、獣天シシガミの偉大さなのだろうか。
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