40 / 112
34 やってきましたラグナレク・前編
しおりを挟む
♢♦♢
明朝――。
まだ朝の静けさが残る中、都市フィンスターから数キロ離れた荒野に大勢の人が集まっていた。騎士魔法団の甲冑やローブを纏う者達とそれぞれの装備を纏う冒険者達。辺り一帯は無数の大砲や重兵器も設置され、団員達が慌ただしく動き回っている。
「兎に角、全員無茶はしない様に。最優先目的はあくまで時間稼ぎだからな」
「うん」
「ラグナレクとやらがどれ程の強者か楽しみだな」
これから俺達が相手をするのは、恐らく現時点で最強であろう第5形態のラグナレク。当然どれ程の強さなのかは実際に対峙してみないとわからないが、容易でない事は間違いない。最前線では既にこの討伐で手柄を上げようとしている冒険者達が息を巻いている。
結局リリアンやイリウム様の本当の思惑を知らない連中に、俺達が今更真実を打ち明けても聞く筈がないだろう。別に偉そうに人助けするつもりなんて全くないが、最低限同じ戦場にいれば守れる命もあるかもしれない。
勿論、最強の第5形態を相手にして俺にも余裕があればの話だけど……。
「俺達は攻撃回数が限られている。だから作戦通り俺とフーリンは極力無意味な攻撃は避け、エミリアは自分の身の安全を優先しながら万が一の時に俺とフーリンを防御壁で守ってくれ。そして最悪怪我を負った場合は、直ぐにこの場から離れてハクに治癒してもらう。いいな?」
「分かった。任せて!」
「ラグナレクを倒したらあのリリアンという者とも手合わせ願いたいな。彼女も強者の気配がする。それにグリム、お前とも再度手合わせ願おう」
「え、まだそんな事言ってるのかよお前は」
「当然だ。我の目的は常に強者との手合わせだからな」
ブレないというか面倒くさいというか……。フーリンは本当に強い奴と戦う事しか考えてない。それを除けばいい奴なのになぁ。一応呪われた世代とやらの関係でもあるし、正直戦える奴は仲間にいてくれると助かる。無論フーリンにはそんな考えないだろうから、せめて今起きているこの一連の事態が解決するまで一緒に行動してくれないかな……?
王都に行けばもっと強い奴と戦えるとか言えば簡単にイケそうだけど――。
「まぁ今は目の前のラグナレクに集中しよう。後の事はその時考えるしかない」
「――ちゃんといるわね」
「リリアン……」
俺達が話していると、昨日と同じ様にリリアンは突如目の前に姿を現した。
「直前になって逃げ出すんじゃないかとも思っていたけど、どうやら大丈夫だったみたいね」
「当たり前だろ。これ終わったら絶対ハクの事教えろよ」
「フフフ。余程信用されていないのね私。何度も言わなくてもちゃんと教えるわよ。その代わり絶対に“アレ”を発動させて頂戴ね」
リリアンはそう言いながら徐に向こう側を指差す。その先には、遠くからでも分かる程に巨大な真四角の石が聳え立っていた。日の光により虹色に輝くその石が、何やら特殊な存在である事は一目瞭然。
そう。
アレこそが、知る人ぞ知るリューティス王国最強の武器……『滅神器・ドミナトル』だ。
「アレがドミナトル……」
「あんな物が最強の武器なのか? ただの四角い石にしか見えんが」
「安心しなさい。アレはドミナトルを発動する為のタンクの様な物。装填が完了し、ドミナトルを発動させれば本来の姿が現れるのよ」
リリアンの言葉に嘘は感じない。だが、やはり信用し切れない事も事実だ。そもそもこのドミナトルとやらが本当にラグナレクを一撃で仕留められる物であるかさえも定かじゃない。まぁ今更そんな事言ってもどうしようもないし、こればかりは直に試す他ないだろう。
――カァンカァンカァンカァンッ!
「あら、始まるみたいよ」
リリアンと話していると、少し離れた所にいた団員の1人が鉄の鐘を鳴らした。どうやらこれは討伐開始の鐘の音らしい。未だに慌ただしく動き回っている団員達を他所に、今の鐘の音を合図に数人の団員が何やら魔力を練り上げ始めた。
「何やってるんだ?」
「何って……今からラグナレクを誘き出すのよ」
そう言いながらリリアンは不敵な笑みを浮かべて空を仰いだ。するとその直後、魔力を練り上げていた団員達が何やら空に向け魔法を放ち、輝きを纏ったままぐんぐんと上昇していったその光の玉はそのまま空高く昇ると、たちまち弾ける様に消え去った。そして次の瞬間、空から角笛の如き低く響く音が辺り一帯に鳴り響いた。
――ブオオォォォォ!
音が鳴り響くと同時、その場にいた全員が空を見ていた。今の音で皆が自然と武器を構え戦闘態勢に入っており、場は一気に緊張感に包まれた。
「こんなので奴が来るのか……?」
「まぁ見てなさい」
俺がそんな疑心を抱いたのも束の間、皆が見上げる雲1つ無い晴天の空に、突如“黒い点”が現れた。
そして、その黒い点はみるみるうちに大きくなり、一瞬にして俺達のいる大地へと降り注いできたのだった。
――ズドォォォォン!
「「……⁉⁉」」
「ほら、来たわよ」
「アレがラグナレク――」
戦場の最前線に降り注いだ最強の第5形態ラグナレク。
触手のノーバディのあの独特で気持ち悪い質感をそのままに、視界に映った奴の姿はまさしく人そのものだった――。
明朝――。
まだ朝の静けさが残る中、都市フィンスターから数キロ離れた荒野に大勢の人が集まっていた。騎士魔法団の甲冑やローブを纏う者達とそれぞれの装備を纏う冒険者達。辺り一帯は無数の大砲や重兵器も設置され、団員達が慌ただしく動き回っている。
「兎に角、全員無茶はしない様に。最優先目的はあくまで時間稼ぎだからな」
「うん」
「ラグナレクとやらがどれ程の強者か楽しみだな」
これから俺達が相手をするのは、恐らく現時点で最強であろう第5形態のラグナレク。当然どれ程の強さなのかは実際に対峙してみないとわからないが、容易でない事は間違いない。最前線では既にこの討伐で手柄を上げようとしている冒険者達が息を巻いている。
結局リリアンやイリウム様の本当の思惑を知らない連中に、俺達が今更真実を打ち明けても聞く筈がないだろう。別に偉そうに人助けするつもりなんて全くないが、最低限同じ戦場にいれば守れる命もあるかもしれない。
勿論、最強の第5形態を相手にして俺にも余裕があればの話だけど……。
「俺達は攻撃回数が限られている。だから作戦通り俺とフーリンは極力無意味な攻撃は避け、エミリアは自分の身の安全を優先しながら万が一の時に俺とフーリンを防御壁で守ってくれ。そして最悪怪我を負った場合は、直ぐにこの場から離れてハクに治癒してもらう。いいな?」
「分かった。任せて!」
「ラグナレクを倒したらあのリリアンという者とも手合わせ願いたいな。彼女も強者の気配がする。それにグリム、お前とも再度手合わせ願おう」
「え、まだそんな事言ってるのかよお前は」
「当然だ。我の目的は常に強者との手合わせだからな」
ブレないというか面倒くさいというか……。フーリンは本当に強い奴と戦う事しか考えてない。それを除けばいい奴なのになぁ。一応呪われた世代とやらの関係でもあるし、正直戦える奴は仲間にいてくれると助かる。無論フーリンにはそんな考えないだろうから、せめて今起きているこの一連の事態が解決するまで一緒に行動してくれないかな……?
王都に行けばもっと強い奴と戦えるとか言えば簡単にイケそうだけど――。
「まぁ今は目の前のラグナレクに集中しよう。後の事はその時考えるしかない」
「――ちゃんといるわね」
「リリアン……」
俺達が話していると、昨日と同じ様にリリアンは突如目の前に姿を現した。
「直前になって逃げ出すんじゃないかとも思っていたけど、どうやら大丈夫だったみたいね」
「当たり前だろ。これ終わったら絶対ハクの事教えろよ」
「フフフ。余程信用されていないのね私。何度も言わなくてもちゃんと教えるわよ。その代わり絶対に“アレ”を発動させて頂戴ね」
リリアンはそう言いながら徐に向こう側を指差す。その先には、遠くからでも分かる程に巨大な真四角の石が聳え立っていた。日の光により虹色に輝くその石が、何やら特殊な存在である事は一目瞭然。
そう。
アレこそが、知る人ぞ知るリューティス王国最強の武器……『滅神器・ドミナトル』だ。
「アレがドミナトル……」
「あんな物が最強の武器なのか? ただの四角い石にしか見えんが」
「安心しなさい。アレはドミナトルを発動する為のタンクの様な物。装填が完了し、ドミナトルを発動させれば本来の姿が現れるのよ」
リリアンの言葉に嘘は感じない。だが、やはり信用し切れない事も事実だ。そもそもこのドミナトルとやらが本当にラグナレクを一撃で仕留められる物であるかさえも定かじゃない。まぁ今更そんな事言ってもどうしようもないし、こればかりは直に試す他ないだろう。
――カァンカァンカァンカァンッ!
「あら、始まるみたいよ」
リリアンと話していると、少し離れた所にいた団員の1人が鉄の鐘を鳴らした。どうやらこれは討伐開始の鐘の音らしい。未だに慌ただしく動き回っている団員達を他所に、今の鐘の音を合図に数人の団員が何やら魔力を練り上げ始めた。
「何やってるんだ?」
「何って……今からラグナレクを誘き出すのよ」
そう言いながらリリアンは不敵な笑みを浮かべて空を仰いだ。するとその直後、魔力を練り上げていた団員達が何やら空に向け魔法を放ち、輝きを纏ったままぐんぐんと上昇していったその光の玉はそのまま空高く昇ると、たちまち弾ける様に消え去った。そして次の瞬間、空から角笛の如き低く響く音が辺り一帯に鳴り響いた。
――ブオオォォォォ!
音が鳴り響くと同時、その場にいた全員が空を見ていた。今の音で皆が自然と武器を構え戦闘態勢に入っており、場は一気に緊張感に包まれた。
「こんなので奴が来るのか……?」
「まぁ見てなさい」
俺がそんな疑心を抱いたのも束の間、皆が見上げる雲1つ無い晴天の空に、突如“黒い点”が現れた。
そして、その黒い点はみるみるうちに大きくなり、一瞬にして俺達のいる大地へと降り注いできたのだった。
――ズドォォォォン!
「「……⁉⁉」」
「ほら、来たわよ」
「アレがラグナレク――」
戦場の最前線に降り注いだ最強の第5形態ラグナレク。
触手のノーバディのあの独特で気持ち悪い質感をそのままに、視界に映った奴の姿はまさしく人そのものだった――。
32
お気に入りに追加
1,934
あなたにおすすめの小説
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる