上 下
7 / 112

07 不穏な動き

しおりを挟む
「おう、どうしたハク」
「さっきから気になっておったが、これまた綺麗な毛並みの狼じゃなぁ。森におったのかい?」
「そうだよ。今日会ったばかりの俺の仲間だ」

 おばちゃんは優しい顔でハクを撫でた。ハクもおばちゃんが良い人だと分かったのか手をペロペロ舐めている。

「これは何の種類のモンスターだね?」
「俺も分からない。本にもハクの事載ってなかったんだよね。あんまり見かけない種類なのかも」
「そうかい。この村じゃなく王都にでも行けば何か分かるかもしれないが……。アンタの事だから行く気はないじゃろ」
「そうだね。2度とあそこに行くつもりはないよ」

 あんな場所に誰が戻りたいと思う。俺を王国から追放した国王のいる城もレオハート家も王都にある。そして王都はおろかそれ以上にまで俺の事は広まっている。由緒あるレオハート家、更にはリューティス王国の面汚しとして。

 王都などに行けば笑われ罵声を浴びさせられるのがオチだ。8年も経つが皆の記憶には確かに存在する出来事だろうからな。

「そう言うと思ったよ。それにしても落ち着かない日じゃの今日は。朝昼間からずっと慌ただしいのぉ」
「昼間から? 村で忙しい仕事でもあったの?」
「いやいや、そうじゃなくてな。今日は昼間に騎士団が大勢訪れたんじゃよ。このはずれの村に来るなんて誠に珍しい。しかも大勢でな」

 それは確かに珍しいな。王都の騎士団がわざわざこんな所まで……。

「それ王都の騎士団だったの? 何が目的で」
「甲冑に王都の紋章が入っていたからそうじゃよ。何やら恐ろしいモンスターの討伐任務とやらで辺境の森に向かって行ったわい。森で見かけなかったかいグリム」
「いや、1人も見ていない」
「そうだったか。騎士団の皆は無事じゃろうか……。まさかこんな大火事が起こるとはのぉ。騎士団員も犠牲になってるかもしれぬ」

 そんな大勢の騎士団がいたのに足音も気配も感じなかったぞ。俺が感知出来る範囲外だったか。

「お恐ろしいモンスターの討伐って、おばちゃん。誰か村の人が騎士団に依頼を出したのか?」
「誰もそんな事はしておらぬ様じゃ。そもそもアンタが森で暮らす様になってから、ここがモンスターに襲われる事は無くなったからのぉ」

 そうだよな。また襲われた危ないと思って、俺がこの村にはモンスターが近づかない様にしたんだから。それに前に聞いたおばちゃんの話じゃ、騎士団にモンスター討伐の依頼を出しても、王都の騎士団どころか最寄りに派遣されている騎士団員ですら来てくれた事が無いと言っていたよな。

 それが今になって何故急に……。しかも大人数で辺境の森まで討伐なんて、どんなモンスター狙っているんだ? 

「じゃあ何でそんな騎士団が大勢来たんだろう。しかも王都の奴らがこんな所まで」
「それは分からぬ。今までまともに取り繕う事がなかった癖にのぉ。突如大勢で現れた挙句に森の大火事……。さっきは心配じゃったが、もしかすると騎士団が何か絡んでいるのかしれぬのぉ」

 おばちゃんの言う通り――。
 俺もまさに“それ”を感じていたところ。今まで見向きもしなかった辺境の森に偶然王都の騎士団が現れ、偶然火事が起こるとは考えにくい。

 偶然だって時には重なり得る事。だけどそれが重なり過ぎるならば、それは偶然ではなく誰かの手による必然に違いない。

「おばちゃん、もしかしてこの村とか周辺に待機している団員達はいる?」
「ああ、おるぞ。不思議に思っておったが、団員達はこんな事態にも関わらず何も慌てておらぬ様なのじゃ。可笑しくないかい?」

 やっぱりそうか。

「分かったよおばちゃん。ありがとう。何か分からないけどやっぱ違和感だらけだ。ちょっと様子を見に行ってくる」
「待つんじゃグリムよ。今は真夜中じゃ。確かに騎士団の動きが少々気になるが、一先ず休んでおいき。そっちの子も怪我しているみたいじゃないか。別に急ぐ必要もないじゃろう」
「うん。確かに急いでる訳じゃないけどね、何か引っかかるんだ。それに俺はこの大火事の原因も知りたい。誰が何の目的でこんな事をしたのかを。だから悪いけど行ってくるよおばちゃん」

 俺がそう言うと、おばちゃんは無理に引き留めようとはしなかった。それどころか俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、「気を付けて行っておいで」といつもの様に優しく言葉を掛けてくれた。
 
 ――ドンドンドンドンッ。
「「……!」」

 おばちゃんの家を出ようとしたその時、突如家の扉が叩かれた。一瞬俺と目を合わせた後、おばちゃんが扉に向かった。 

「誰だい、こんな夜遅くに」
「私達は王都の騎士団員である。直ぐにこの扉を開けて頂きたい」
「騎士団様が何の用じゃ。今起こってるあの火事についての事かのぉ?」
「生憎、森の火事は“過程”に過ぎない。それよりも他の団員から今しがた目撃情報が入った。白銀のモンスターを抱えた者がこの家に入っていくのを見たとな」
「白銀のモンスター?」

 おばちゃんは俺の方を確認する様に振り返った。

 それってハクの事かひょっとして。これまた理由が定かではないが嫌な予感がするぞ。何故騎士団がハクなんかを探しているんだ。

 俺のそんな思いと同じだったのだろうか、騎士団の行動を怪しく感じたおばちゃんは俺とハクを庇ってくれた。

「そんなのいないよ。モンスターどころか、私は爺さんが死んでから長年独り身じゃ」
「だが確かに目撃情報は入っている。扉を開けて1度確認させてもらおう。
もし本当に白銀のモンスターならば非常に危険だ! 我々騎士団はそのモンスターを討伐する為に来ているのだッ!」
 
 騎士団員はそう言うと更に強く扉を叩いた。早く開けろと言わんばかりに。それにしても、ハクを討伐ってどういう事だ。

「人ん家の扉を馬鹿みたいに叩くんじゃないよ! 壊れたら弁償してくれるんだろうね当然!」
「早く開ければそうはならん。だが開ける気がないのならこちらも力強くで開けさせてもらう」

 騎士団員の発言も気になるが、それ以上に一般人にここまで威圧的な態度なのもまた異常だ。普通なら有り得ない。

「マズいな。おばちゃん、ありがとう。何か俺が面倒事を持ってきちゃったみたいだ。直ぐにここを出るよ」
「バウ」

 ハクも状況を察してかは分からないが、どことなく申し訳なさそうに静かに鳴いていた。

「気にするでないグリム。それにハクもじゃ。どうやらやはり何か良からぬ事が起こっているのぉ。裏口から見つからない様に早く逃げな。気をつけるんじゃぞ」
「うん。行くぞハク。また遊びに来るよ。おばちゃんも無理しないで」

 俺はハクを抱え家の裏口から一気に走り去った。

「裏から男が逃げました! 白銀のモンスターらしきものを抱えています!」
「何ッ⁉ やはり目撃情報は正しかったか。直ぐに後を追え!」
「他の団員にも知らせるんだ。 絶対に逃がすな!」

 相も変わらず謎だらけ。
 だがどんな正当な理由があろうと、俺の家である辺境の森を焼き仲間のハクまで狙うなど見過ごせない。俺はもう、お前達を絶対に許さないからな――。

「振り落ちない様に気を付けろよハク」
「バウ!」

 ハクを抱えたまま走る俺の後を騎士団員達が追って来ている。数もさることながら皆物々しい空気を纏っている。思った以上に周囲に騎士団員が配置されているな。横にも前方にも団員の影がチラチラ見える。
 
 一体何が目的なんだ。何故森を焼きハクを狙っているんだ。

 ――ボォンッ! 
「……⁉」
「バウッ⁉」
 
 逃げる俺とハク目掛けて何かが勢いよく飛んできた。衝突音が響き、若干の熱さと硝煙が残っている。見た足元の地面には抉られた様な跡があった。
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...