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第六章 戦乱の京
第23話 失意の裏に
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「けっ! デタラメ言うなら勝手にやってろってんだ!! 僕は行ってるからな!!」
そう言って雀長は一人で大蛇に向かって行ってしまう。
「おおい一人じゃ危ねえぞ!! ちっ!! ごめん俺も先行ってるわ!!」
「あ、あたしも行くわ!」
それを追い興亀と虎虎も走り出し、この場には虎鉄と龍々家の二人だけになる。
「……話を続けようか。雀長は見ての通りとても素直ではない。それゆえお主には伝わっておらぬとは思うがあやつはお主をりすぺくとしておったのだよ」
「リスペクト……?」
虎鉄は驚き首をかしげる。
今の今まで雀長から怒りの言葉を受けたことはあっても褒められたことなど一回もなかったので全くピンと来ていなかった。
「奴も小さい頃こそ誰にでも突っかかりよくトラブルに巻き込まれておったが流石に成人し家督を継いでからはそれも無くなった。しかしお主にだけは懲りずに何回も突っかかった……そうだな?」
「ああ……」
思えば雀長と虎鉄の関係は幼少の頃より全く変わっていなかった。
だいたい何かにつけて雀長が勝負を挑み、虎鉄がそれを打ち負かして雀長が泣いて帰る。いったい何度繰り返したかわからない光景だ。
「ここまで言えばわかるだろう。あやつは誰よりもお主を認めていたがゆえにお主に構い続けたのだ。事実朱凰院家の者はお主に接触しないよう注意していたと聞く。それでも奴はお主に突っかかりお主の強さを周りに示し続けたのだ」
「……!!」
虎鉄をまるで雷が落ちたかのような衝撃が襲う。
嫌われ蔑まれることに慣れていたせいでそんな風に思われていたなどとは考えたことも無かったのだ。
「無論そんな回りくどいやり方をしていた奴も悪い。しかし考えてやってくれないか。やつもまた己の好敵手が迫害され不当な評価を受けているのが歯がゆかったのだ」
「……そうか」
虎鉄はそれ以上何も言わなかった。
頭にめぐるは古き記憶。
虎鉄はこの世に生れ落ちたその瞬間から望まれない子供だった。
より強き血を作るため礼堂院家は白王院家の血筋を持つものを妻にめとった。そうすればより強い血が出来ると信じて。
期待通り生まれた子は五行の血を持って生まれた。
しかし運悪く白王院家の血が悪く作用してしまったのだ。
虎鉄の生まれ持った贈呈物は『五行相剣』。
五行の力を剣にのみ発動させることのできる力だ。
その威力は絶大で虎鉄は幼少のころから大人の陰陽師と渡り合える力を持っていた。
しかし陰陽師の家元に求められるのは戦闘力ではない。真に求められるのは陰陽道の深みに辿り着くための術式の練度。普通の魔法すら使えない虎鉄ははっきり言って落ちこぼれだったのだ。
その事に気づいた礼堂院家は虎鉄の母親を追放。新たに分家より妻を見繕い子を為し虎鉄の妹が生まれた。
一時期は家名のため処分すら検討された虎鉄だったが無事礼堂院家を継ぐ人物が生まれたことによりその危機は脱した。しかし一度ついた出来損ないのレッテルは剥がれることは無く今に至るまでずっと虎鉄の事を縛る呪いになっていた。
「無論雀長だけでない。興亀はお主が何とか玄流院家に入ってこれないか奔走していたようだ。お主が帰れる場所を作るために。まああのじゃじゃ馬も同じことをしていたようだがな」
虎鉄は自分自身の心を縛り付けていた鎖がだんだん緩んでいくのを感じる。
なんと自分は愚かだったのだろうか。まるで悲劇のヒロインにでもなったつもりで他者を遠ざけ身近な者の好意に気づくことが出来なかった。
気づかぬうちに苦しみから逃れるため目を逸らし続けてきた。もし立ち向かっていれば妹とも良い関係を築けていたかもしれない。
そうすればあの事件の日共にいることも出来たかもしれない。
しかしもう遅い。
時計の針は戻らない。
だったら……
そう言って雀長は一人で大蛇に向かって行ってしまう。
「おおい一人じゃ危ねえぞ!! ちっ!! ごめん俺も先行ってるわ!!」
「あ、あたしも行くわ!」
それを追い興亀と虎虎も走り出し、この場には虎鉄と龍々家の二人だけになる。
「……話を続けようか。雀長は見ての通りとても素直ではない。それゆえお主には伝わっておらぬとは思うがあやつはお主をりすぺくとしておったのだよ」
「リスペクト……?」
虎鉄は驚き首をかしげる。
今の今まで雀長から怒りの言葉を受けたことはあっても褒められたことなど一回もなかったので全くピンと来ていなかった。
「奴も小さい頃こそ誰にでも突っかかりよくトラブルに巻き込まれておったが流石に成人し家督を継いでからはそれも無くなった。しかしお主にだけは懲りずに何回も突っかかった……そうだな?」
「ああ……」
思えば雀長と虎鉄の関係は幼少の頃より全く変わっていなかった。
だいたい何かにつけて雀長が勝負を挑み、虎鉄がそれを打ち負かして雀長が泣いて帰る。いったい何度繰り返したかわからない光景だ。
「ここまで言えばわかるだろう。あやつは誰よりもお主を認めていたがゆえにお主に構い続けたのだ。事実朱凰院家の者はお主に接触しないよう注意していたと聞く。それでも奴はお主に突っかかりお主の強さを周りに示し続けたのだ」
「……!!」
虎鉄をまるで雷が落ちたかのような衝撃が襲う。
嫌われ蔑まれることに慣れていたせいでそんな風に思われていたなどとは考えたことも無かったのだ。
「無論そんな回りくどいやり方をしていた奴も悪い。しかし考えてやってくれないか。やつもまた己の好敵手が迫害され不当な評価を受けているのが歯がゆかったのだ」
「……そうか」
虎鉄はそれ以上何も言わなかった。
頭にめぐるは古き記憶。
虎鉄はこの世に生れ落ちたその瞬間から望まれない子供だった。
より強き血を作るため礼堂院家は白王院家の血筋を持つものを妻にめとった。そうすればより強い血が出来ると信じて。
期待通り生まれた子は五行の血を持って生まれた。
しかし運悪く白王院家の血が悪く作用してしまったのだ。
虎鉄の生まれ持った贈呈物は『五行相剣』。
五行の力を剣にのみ発動させることのできる力だ。
その威力は絶大で虎鉄は幼少のころから大人の陰陽師と渡り合える力を持っていた。
しかし陰陽師の家元に求められるのは戦闘力ではない。真に求められるのは陰陽道の深みに辿り着くための術式の練度。普通の魔法すら使えない虎鉄ははっきり言って落ちこぼれだったのだ。
その事に気づいた礼堂院家は虎鉄の母親を追放。新たに分家より妻を見繕い子を為し虎鉄の妹が生まれた。
一時期は家名のため処分すら検討された虎鉄だったが無事礼堂院家を継ぐ人物が生まれたことによりその危機は脱した。しかし一度ついた出来損ないのレッテルは剥がれることは無く今に至るまでずっと虎鉄の事を縛る呪いになっていた。
「無論雀長だけでない。興亀はお主が何とか玄流院家に入ってこれないか奔走していたようだ。お主が帰れる場所を作るために。まああのじゃじゃ馬も同じことをしていたようだがな」
虎鉄は自分自身の心を縛り付けていた鎖がだんだん緩んでいくのを感じる。
なんと自分は愚かだったのだろうか。まるで悲劇のヒロインにでもなったつもりで他者を遠ざけ身近な者の好意に気づくことが出来なかった。
気づかぬうちに苦しみから逃れるため目を逸らし続けてきた。もし立ち向かっていれば妹とも良い関係を築けていたかもしれない。
そうすればあの事件の日共にいることも出来たかもしれない。
しかしもう遅い。
時計の針は戻らない。
だったら……
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