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第六章【獣人の国】

第九十一話 ハルームへ

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「ユリアーノさん、本当に俺と結婚したいんですか?」

「はい」

「聖者だからですか?」

「それは、あります」

 正直者。でも、俺、聖者だからって結婚申し込む人嫌だよ。

「聖者じゃなかったら、エリオネル居るのに申し込んでないですよね?」

「申し込んでましたよ」

 風がザァッと吹いて、ユリアーノさんの顔が見えない。

「今みたいに、婚約する前だったなら」

 え、俺、ユリアーノさんに細かい事情説明したっけ?
 あ、当てずっぽうかな?

「マリヤさん、本当に少しだけでもいいから、考えてみてください」

「エリオネル以外と結婚する気はないです」

「恋人でもいいです」

 ユリアーノさんが寂しそうに微笑む。

「何でそこまで……」

「最初は、綺麗な人だなと思ったんです。聖者だって知らなかったし……。触れたら、戻れなくなった……」

 ユリアーノさんの指が、頬に触れる。

 それが何だか悲しくて、何も言えなくなった。



ーーーーーー



 1か月過ぎて、ハルームの国境を越えた時、事件は起こった。

 黒装束の獣人たちが襲ってきたのだ。

「マリヤ、こっちへ!」

 エリオネルとユリアーノさんが即座に庇ってくれる。
 剣戟の音が響いて、背筋が震えた。盗賊が襲ってきた時と全然違う。エリオネルの緊張が背中からでもわかった。

 ドッと男達が押し寄せてくる。インテリ系だと思ったユリアーノさんも応戦するが、いかんせん人数が多い。

 武力で制圧されるのは、あっという間だった。

 エリオネルが引き倒されて、それに抵抗している。

「エリオネル、やめて!危ないことしないで!」

「お前がマリヤだな」

 黒装束の一人に問い掛けられて、自分が目当てだとわかった。

「嫌だ!マリヤ!」

 エリオネルが俺に向けて手を伸ばす。

 その後ろ姿を、黒装束の一人が切りつけた。俺はただ、スローモーションのように、それを見ていることしかできない。


「エリオネル!」


 エリオネルの背中が真っ赤になり、地面に横たわった。

「やだ!やだ!エリオネル!」

 エリオネルの側に寄ろうとするが、離してもらえない。視界が涙で何も見えなくなった。

 口を布で塞がれる。嗅いだことのない匂いがして、俺の意識はそこで途切れた。





 次に目が覚めると、手錠をされていた。

 拐われたのだとわかるのに、時間は掛からなかった。どうやら、馬車の中で、その馬車は移動をしているらしい。

「お目覚めになりましたか」

 優しく声を掛けられて当惑する。

「誰ですか?」

「手荒な真似をしましたこと、お許しください聖者様」

「許せるわけない!エリオネルを……、エリオネルを……」

 エリオネルが斬られたのを思い出して、心臓がドクドクし始めた。

「同行者に枢機卿が居たはずですので、無事だと思います」

 ユリアーノさんが?そう言えば、神父さまは治療ができた。

「エリオネルは無事ってことですか?」

「そうです」

 信用できないけど、信じるしかない。エリオネルが死ぬなんて嫌だ。

 地球になんて帰れなくてもいい。

 エリオネルが無事で居てくれたら、何でもいい。


 こんなに愛してるのに、気づかなかったなんて……


 エリオネルが死にかけて、離れ離れになってから気づくなんて遅すぎる。
 俺がこれからどうなるかわからなかったが、エリオネルと居た時より良くなるとは思えなかった。
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